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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第ニ章 ただそうしたかったから
37/155

−天才所以に②−


私とリアンの視線が一箇所に集中する。

流石にこれには此方側も間の抜けた顔をするしかない。まさか心配していた相手がこんなにもあっさりと時間を経てぬ内に合流しようとは思いもしない。

彼女ーーノーライズ・フィアナと。


「ど、どうして?」

「えっと………何か暗い階段を降りていたら転げ落ちて少し気を失ってたみたいで」


何とまあ間抜けな話だ。なら私は道中気絶していた人物に気付かずにここまで呑気に歩いていた馬鹿と言う訳か?

心配して損し、心配甲斐のない友人で呆れるしかなかった。一体どうなればそのような展開になるのやら。ただ、それも有り得るのが彼女であろう。

頭を掻きながら溜め息を吐くが、無事で何よりと安寧も同時にしてとりあえずは懸念事項が一つ潰れた事を自覚する。

どうやら楽観的な予想は当たり。恐らくここは悪魔の隠れ蓑である可能性は低いだろう。本当の偶然にたまたま私達の知らない学園の空間があっただけだった。不気味だが、特にこの場にいる全員が同じ経路で辿り着いている訳だし状況が状況なだけに早とちりしたのだ。


「ごめんね?」


コツン、と靴を鳴らしながら苦笑いで歩いて来る菖蒲の少女。それにやれやれ感を抱きながら自身も足を其方に進めようとする。




「ーー?」


不意に何かが身体を硬直させた。

この場面でまたもや言いようの知れない違和感が先程のそれよりも遥かに大きく襲い掛かって来る。しかもこれまでの経験からして必ずと言って良い程に同一した拍子で発生する。

何で? 何がそうまでして?

もう答えは出ているのかもしれない。無いのは確固たる証拠と根拠だ。そこが決定されれば揃った欠片による完成図の全体像を覗ける。

現時点では違和感が繋がっているのに一部分ずつしか見れないようなもの。更にはちょっとした間違いで、すぐ様に代替出来てしまうくらいなグラグラな状態。

おかしいのだ。

おかしい。

何れが? 何処が?


誰が?


「ーーッ!」

「あれ? どうしたの?」


思考している間に間近まで接近していたノーライズ・フィアナに私は足を後ろに下げてしまう。端から見れば酷い図だ。

そんな行為を見て彼女は首を傾げる。傷付いた様子ではないのが幸いだった。

ーーなんて思えもしない。

ただどうしたの? かと聞きたいのは此方の台詞だ。

何で私はーー。


「探していた彼女ではないのかい?」

「………そ、それはそうなんだけど」


不意に後ろから菖蒲の少女と同様に理解が出来ないと言いたげに尋ねてくる彼にしもどろな返答をなんとか返す。

そこでようやく彼と彼女の視線が交差した。


「あ、やっほー」

「………ああ」


不穏な空気になりつつある中での危機感が欠如した挨拶。

その筈だった。

寧ろ願わくば私の抱く疑念が徒労に終わってくれと思いたかったが、残念ながら叶わずに現実は牙を剥く。

どうやら楽観視すれば後に待つのは裏切りのようなものではないのか? と教訓を与えられた感じにノーライズ・フィアナの言葉を聞く。


「まさかリアン君も一緒だったなんてーー」


これだ。


完成図が、全体像が見えた。

気付いたが早く、直ぐ様に私は碧髪の少年の首根っこを引っ張って大きく後退する。いきなりの挙動に文句に一つでも発せられるかと考えたが彼も異変を察知したのか、あっさりとカナリア・シェリーの背中に隠れる風に下がる。

色々と展開が逆だとも思うが今はそれどころではない。

と、警戒されている当人である彼女は予想外な私達の動きに目を丸くするばかり。まあいきなりこうまで拒絶するみたいにされたらそんな反応しか出来ないだろう。

にしても落ち着き過ぎた様子だけど。


「シェリーちゃん? 何で私から離れたりするの? 幾ら私でも傷ついちゃうなあ」

「黙りなさい。彼女の容姿と身なりで彼女みたいな真似をこれ以上しないで貰おうかしら?」

「待って待って、一体何をーー」

「惚けても無駄よ。もう正体は見抜いたわ」


最大の警戒。殺意や威圧を込めて眼前にいるフィアナに見える何者かに指を突き出して言い放つ。

いや、何者かなんてもはや判っている。

彼女はーー。


「観念しなさい。エルド・ジュリアーーいえ、悪魔」


私の友人に成りすました化物だ。



色々と昨日の時点から、そもそも対戦した時から既におかしかった。あれだけ強いのに周りからの認知がなかった存在だけでも十分に疑って動向に注意を向けるべきだっただろう。ただ今日になるまで脅威の実態についてあまり視野に入れなかったのは結局は事件は起きてからでないと対応しないのが世の末だ。仕方ないで割り切る。

とりあえずは最初に初めて感じた違和感から解いていこうとカナリア・シェリーは思う。

しかしこれも恥ずかしいが、怪しく見る必要はあった。

あの3人での会話。つまり私と深紅の少女と東洋人の女性が問題について指摘しあっていた正にその瞬間だ。

幾ら何でも流れが良すぎた。絶妙に話の詰まった所で現れた友人がまるで場の流れを変えて否が応でも輪に入れるしかなかった。寧ろ無理矢理割り込んで来ただ。偶然よりかはドア越しに聞き耳を立てて混ざる瞬間を狙っていたと考える方がしっくり来るくらいに望まぬ助け船として現れたのが不自然だった。

偶然を装おった登場。先ずは一つ。

次に少ない時間制限を想定したが為の状況と、すっかり輪に入れた事で仲間意識を突かれたのが違和感を詰まらせたが、冷静に振り返れば今更だが突っ込みたい。とは言えこればかりには残りの皆の誰かが気付けていないのも問題かもしれないが。

フィアナ。貴女が何で近隣の被害者の名前を知っているの?

これで彼女が近隣出身の学生なら納得もいくが、実際は離れた場所から在中する生徒。加えて事件事態は多かれ少なかれエイデス機関が騒ぎを防ぐ為に秘密裏な活動で情報漏洩しないようにしている。それでもあの場で勘づけなかったのは上手い具合に被害にあったとは言わなかったからだろう。行方不明ならばそこの住人の口から聞けた可能性も否定は出来ず、容疑を掛けづらい。

だけどその後の状況を生み出した菖蒲の少女の言葉こそもっと怪しむ必要が存在した。

頭の回る面子だと見てか、話を整理された時に浮上する疑惑を恐れてかまでは不明だが、兎に角私達天才集団を手分けの名目を使った分断を狙った。もしかしたらそんな発言がなければ謎の解決は案外直ぐに済んだかもしれない。

中々の大きな引っ掛かりを覚えたのはきっといつの間にか割って入った彼女が仕切ったのが原因だろう。

この時点までをしっかりと洗えていれば二人になってからのやり取りで私は気付けたと思う。

何せ明らさまだった。完璧な誘導をしようとしていたし、何よりついこの間の悪魔との記憶を欠如していた。

どれだけ頭がお花畑であってもあの堕天のルーファスとの対峙を忘れるか? 異端の天才である自身でも人生で一番に躍り出た衝撃だ。こんな浅い期間で忘れはしない。

もしかしたらフィアナなら有り得る。なんて思ったのは普段の本人の行いから来るもので、疑って掛かっていなければ無理な疑念なのが目を曇らせたのだ。

見落としとはその時点で悪魔が一般人に装える能力を有していたのを判っていたのに隣を歩いていた偽物の友人を容疑から除外してしまった事だ。

後の流れも違和感はある。やはり先導していたのは彼女で、またもや都合の良いように姿を眩ましながらカナリア・シェリーを誘き出した事。

ここまで来て楽観的な考えで狙いが自分達でないと意識させたのは変に早く襲って来なかったのと、彼と二人きりにさせたのが問題だった。もしかしたらアースグレイ・リアンは想定外だった為に様子を窺っていたのも考えられる。

しかしだ。

痺れを切らしたか、或いはこのままだと誘い込んだ意味が無くなると感じたのか、気を窺って現れたフィアナ。そこに僅かな焦燥が表れたのだろう。直感的に違和感を極度に覚えさせた。あれだけ見落としをさせたが、ボロはやがて来るのだ。

結果、彼女の最大の過ちが露呈した。

その時になってみてようやく彼女が手分けしようと提案した理由も頷けた。

だって装おっても互いの関係性までは完璧に真似なんて無理なのだから。

故にあの3人の中に入って来た時も可能な限りカナリア・シェリーとしか会話をしなかった。そりゃあ私以外と会話をするのは勘付かれる可能性があるから必然とも言えよう。

つまり、最初から狙いは私だったのだ。潜伏した時点でなのか模擬戦で戦っている時なのかまでは推し量れないが。

そうして自身を標的にした為に短い時間で調べられる関係性が私と菖蒲の少女の仲くらいだったのだろう。一番欺ける誰かになる為にーー。

さて前述した最大の過ちとやらだけど、こればかりは誰でも気付く。もし気付けなければもう自分は天才よりかは馬鹿だろう。

正直ここだけを切り取っても良いくらいの疑問だ。何故なら幾ら偽りが巧妙であろうと教えていない情報を知る事はないのだから。


私はノーライズ・フィアナの前でアースグレイ・リアンの名前を一度足りとも発言した記憶がない。


疑惑は確信になる。

これで彼女が私、アリスさん、フローリアで議論していた時に聞き耳を立てて様子を窺っていた裏付けにもなる。あの場のあの面子でしか彼の名前は使われなかったのだから。ただよくリアンが碧髪の少年だと分かったのかだけが解明出来ないが、この際は狙う対象の候補に挙げられていたから把握していたくらいに推理をしておこう。どの道本来のフィアナは知っていない情報なのは間違いないのだ。

であれば全ての謎は解決に導かれる。

と、真理に辿り着いた瞬間に非常に最悪な結論が浮上してしまう。

冷や汗では収まらない悪寒を覚えた。

もしもだと思いたい仮にを話そう。

まずは彼女が悪魔なのは確定で、一連の流れが全て当てはまっているのを前提で話を進めよう。

間違いを犯してしまう自身以外も交えた場での会話。自身以外とは会話を避けた彼女が何故正体がバレてしまうかもしれないのに碧髪の少年に話し掛けたのか?

更に言えば誘き出した場所において不意打ちが狙えるとしたらわざわざ友人を装おっていたとしてもこの場に姿を現すよりかはじっくりと息を潜めた方が良かった事実。現に息を潜めていたのに全く判らなかったのだからそうした方が確実だっただろう。結果だけで言えばしっかりと計画に沿って動かされているのだ。そこへ幾らリアンが予定外だとしてもやけくそになって出向くくらいなら一旦計画を打ち切っても良かっただろう。寧ろそうするべきだ。だったら私や他が結論を導き出す前に雲隠れでもなんでも選択肢は残されるのだ。

なら何故現れた?

何で?

天才が至る思考の答えとしてはそれはもう最悪の事態の流れしか予感出来ない。

簡単な話だ。


今なら確実に私達を完封出来る条件下だから。

要は種明かしをして良いと思ったから。


もう十分に手品と言う罠に私達がーー。

私が引っ掛かってしまったからーー。



「あは? バレちゃった?」


悪魔のような笑みを見せられた。



「因みに君のお友達には何もしていないから安心してね?」

「ーーッ!? ぐうぅぅぅッ!!?」


相手の言葉が合図のように唐突な頭痛と反射的ではなく、本物の寒気が自身を包んで肉体が重力を増したように言う事を聞かなく膝を曲げさせる。

力が入らない。底から湧き出ようとする魔力すら栓を閉められて排出されずに漲りを失う。これではただの人間以下の病人状態だ。

何とか地面に落ちる視線を上へと向けると映ったのは複雑な術式の魔法陣が私を囲んでいた。正確にはこの空間全体をだ。しかもよく見るそれより圧倒的に禍々しく、不気味で気持ち悪い。

不快感を増長させる正体を生み出した元凶は平伏す形になるカナリア・シェリーを恍惚な表情で見下ろしていた。

それが胃を締め付けるように険悪感を増させる。

無抵抗のままに。


「ああ、凄いね。これだけの力に見舞われながら尚殺意は衰えず、堰き止めれた魔力すら微量に溢れているなんて。君みたいな上物を前にしては疼く身体を抑えるのも精一杯だよ」

「く………ぅぅッ。呪術………ね?」

「当たり。封印みたいなものだよ。人間様お得意の、ね?」


皮肉染みた言い方をするが、当事者ではない此方からすればたまったものではない。

この不気味な陣の内部にいる存在に働き掛ける重度な足枷。症状からして何らかの肉体の器官に負荷を与えて来る反動。恐らくは蓋されたように抑えられた事で魔力の循環を悪くした作用によるものだと予想する。もし私でなければ口を開く余裕すらもないだろう。本来なら完全に循環を止めてしまう筈の力に抵抗出来ているのは常人以上の器を持つ自身だからだ。

それでも立ち上がる気力も出ない。相当な規模での展開した魔法だと言うのを如実に語らせていた。


「どうやっ………て? こ、これだけのものを………?」

「気になる? あはは。簡単だよ」


友人の素顔で歪めた笑み。正に悪魔と連想させ睨むが、あまり効果なんてなく、逆に彼女を喜ばせるだけの影響しか与えない。

どうしようもなく苛立ち、殺意が芽生える。自身に対しても相手に対してもーー。


「全ては私がエルド・ジュリアとして君と戦った時から準備はしていたんだよ?」

「準備………?」

「そう。正確には君の意識が飛んだ瞬間にだけどね」

「だとしても気付かない訳が………」

「だから準備だよ。ちょっとした術式を仕込むだけなら発動しなければ判らない。まあ、毎日自分の肉体を精密検査するなら話は別だけど」


成る程。確かに影を潜めた魔法に対してまで気を配りはしなかった。いや、これも仕込まれた瞬間に意識があれば何かしら勘付けただろう。残念ながら油断から不覚を取ってしまったのがこうまで響くとはーー。


「で、ここにはその術式を増幅させる力が仕込まれているの。君が感じたと思うこの空間の違和感はそれだよ」

「う………ッ」

「後は私が引き金を引くだけの単純な運び。あー、何かいっぱい喋ったけど意味伝わってるかな? まだ人語は慣れないんだよね」


知るか。と荒げたかったが、大病みたいな症状の辛さに歯を噛み締めるだけが限界。まさかこんな仕打ちを受けるなんて考えもしなかった。

と言うより悪魔にしては、昨日見せた実力を持ってして行う事が狡猾過ぎるのだ。幾ら何でも私の知っている悪魔でもある程度は正面から力付くで牙を剥いていた。

しかし彼女は用意周到で、奇策紛いなやり方で狙いを定めている。

そこが更に想定させなくてまんまと策を成功させているのだから一枚も二枚も上手であるのは認めるしかないが、文句の幾つかはある。





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