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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第ニ章 ただそうしたかったから
34/155

−天才だからこそ④−


2人の話を整理するとこうだ。

昨日は全員共通でミネア学園の生徒にエルド・ジュリアが戦っているのを観戦している。だが昨日も今日も彼女を知る者はいない代わりに今日は本来の遠征に加わっていた名前の人物がカナリア・シェリーと対戦した結末になっている。要するに名前だけがすり変わっているみたいなものだ。

しかし一部の深紅の少女などにはすり変わりは反映されていない。

だから気付けた謎。

昨日からへカテリーナ・フローリアが見ていないミネア学園の生徒。しかし、点呼の時点では姿は確認していないが、居たらしい。周りからしたらその人物がカナリア・シェリーと対戦したようになっている。

矛盾の発生。だって戦っていない者が戦った扱いになってるのだ。実際は戦っていない。

ここで重要なのは点呼だ。

昨日の時点ではミネア学園の生徒は1人多い計算になる。単純に深紅の少女側の学生にエルド・ジュリアが追加されただけなのだから。だけど違和感なく進行されたのを見る限りで人数に問題はなかった。

取り敢えずは名前のすり変わりは起きていた。この時点で炙れた本来の学生は彼女の証言も含めて昨日は居なかったのが証明される。

多分その人物は既に悪魔の手に落ちたと考えるのが妥当だろう。

なら今日は?

点呼では人数が欠けている話はなかった。何ら問題はなかったのである。しかし昨日居たエルド・ジュリアの存在は消えて点呼では居なかった筈の人物の確認が教員から取れた。

そうなれば単純に元通りに戻っていると考えがちだが、疑問にしている人物達からすればおかしい展開だ。そもそもが身を隠す為に紛れている筈なのにわざわざ元通りにするのか?

考えるならばもし仮に例の点呼で確認の取れた生徒が悪魔だったとすればーー。


「次に名前を偽って隠れているとしたら多分その誰かさんだと思う」

「姿を消したんじゃなくあたし達の焦点をズラしたって訳か………」


ただどうにも府に落ちない点が幾つかある。まずはエルド・ジュリアの名前を使って昨日からミネア学園側の学生に入り込んでいたこと。最初から入れ替わってたら良いのにどうして手間の掛かるようなやり方をしたのか?

そしてどうやって皆の情報を操作したのか?


「多分特殊な魔法を使っている」

「………」


魔法じゃないと無理だと思う反面、魔法でも不可能だと思う深紅の少女は押し黙る。何故なら規模がでかすぎるし、そんな特殊な技術の有無すら知らないからだ。

だけどアリスは知っている。知っていて聞いていてその目で見ている。

あの黒髪の青年が過去に使った本領である力をーー。


「私の知り合いに似たような類の魔法を操れる人がいて当時の全開でも建物の一つ以上の規模を包んで全員に効果を作用させれていた。相手が本当に悪魔なら出来てもおかしくはない」

「………有り得るんだろうが、やっぱ変じゃないか? 昨日と今日で内容が改変される魔法を大人数に施すのもそうだが、する理由が判らねえ。と言うか無駄だ」

「………」


議論は終結せずに謎が一周回って再び壁になる。1つが解決しても次の疑問が解決した謎の答えを否定して振り出しに戻す。

推理の仕方が、自分達の見ている視点が違うのか? もっと覗く角度を変えて考えるのが良いのだろうか?

【紫電】は眉間に皺を寄せて考える。感情の起伏が少ない彼女でも流石に焦りが出て来ているのだ。いや、年月を経て人間らしさを獲得した影響によるものであろう。

今この瞬間だけは忌々しいと意識してしまう感情。

それを何とか押さえてちょっとした引っ掛かりを見つけた。

まさかなんて言葉が過るが、当事者ではない彼女からしたら周囲の記憶を改変された学生と条件は近い。故に隣の深紅の少女が見落としている落とし穴的な問題を確認したのだ。

大前提をひっくり返す盲点を。


「ねえ。もう一回聞くけど本当に昨日の皆はエルド・ジュリアを認識していたの?」

「おいおい。どれだけあたしが勘違いな馬鹿にならなけりゃいけねえんだ?」

「どうなの?」

「先公もしっかりとエルド・ジュリアの名前を出したんだ。全員認識しているだろ」

「果たしてそうなのかな?」

「間違いねえよ。何を懸念してやがる」

「貴女の証言では誰かに例の少女がエルド・ジュリア本人か? と確認はしてない」

「ーーッ。そうだがあの場では明らかに奴以外の何者でも………」

「単純に昨日から既に悪魔が本来の生徒とすり変わっていて魔法で周りから気付かれないように扮したのだったら難しい技術じゃない」

「クソが!! 忘れているんじゃなくて最初からそうだっただけかよッ!!」

「貴女が昨日どう周りに聞いたかは知らないけど、少なくとも戦ったのが本来の生徒としてだったら曖昧な答えしか聞けなかったんじゃない?」

「そうだよ。あたしも話が噛み合わない気はしていたんだ。こっちは完全にエルド・ジュリアのつもりで聞いているんだからな」


一番簡単な解答だ。難しく考え過ぎて裏の裏を読もうとしたのが失敗。これならフローリアが昨日本来の生徒の姿を見ていないのも頷けるし、教務側の方でも点呼の人数も間違いなくて、昨日と今日での周りの記憶にも辻褄が合う。

昨日と今日で彼等の話が違うんじゃなく、昨日と今日で質問する内容が変わっていたから返事も変わる訳で違和感に気付いている此方側からしたら情報が改変されてると誤解してしまったのだ。


昨日はエルド・ジュリアって誰か?

今日はカナリア・シェリーと戦った人物は誰だったか?


アリスは更に続ける。


「多分貴女側の狙われた生徒って目立つ方ではないと思うけどどう?」

「ああ。優等生を人選しただけだからな。皆が集団としては機能はしてねえよ」

「相手は強かね」

「ただよ。何でじゃああの時、先公はエルド・ジュリアの名前を呼んだんだ? 始めから仕組んでいたならそんな名前は出て来ねえ。出て来るのは本来の生徒の名前だろ?」

「それだけど。私も貴女達が優秀だから違和感に気付いたものだと考えていた。でも恐らく違うの」

「ーーッ待て待て。その先はあたしでも判ってしまったぞ」


冗談じゃない。と慌てながら冷や汗を流す深紅の少女。この時点でもはや余裕の欠片すら無くなってしまう彼女に【紫電】は現実を突き付ける。


「一部にはエルド・ジュリアだと認識させるように仕組んだ罠。貴女達は気付いたんじゃない。気付かされたのよ」

「ちぃ………」


きっと事実なのだと確信してしまうからこそ悪態しか吐けない。先ず解決するべき箇所は何で彼女達だけなのかと言う所だった。

天才だからこそ犯してしまう罪にすら近い。こればかりは恐らくアリスが居なければ自覚するのがもっと遅くなっていただろう。当事者ではない天才の視点に助けられた。

どうしてそんな事をしたのか? の動機だ。

が、しっくり来る理由を当て嵌めればこんな事態を招いた答えを探すのも難しくない。


「狙いはーーッ! 不味いッ!!」


結論に至った言葉を口にしようとした瞬間に彼女は深刻な問題にまで辿り着いてしまう。

そう。狙いはカナリア・シェリー達なのは確定してしまった。何を基準に絞っているのかまでは直接聞かなければ判らないが推理は正解であろう。

ならいつ牙を剥いてもおかしくない。

ただこうまでして東洋人の女性が焦る理由は他にあった。


「不味いってそりゃあ不味いだろうが、何で………」

「よく考えてみて! 私達がこうなる頃には手遅れになっているのが相手のやり方よ!!」

「こうなるってーー」

「私達は手分けして捜索をしているんじゃない! これは分断されたと見るのが正しいわ!」

「嘘だろ!? あたし達の行動が悪魔の掌の上なのか!?」


全てが思惑に沿った罠。

現状に至った今の2人の考えはこうだ。

悪魔は相当な手練れで、他者からの認識を誤魔化すーー謂わば偽装が出来る。しかも天才達ですら騙す程の強者だ。こうやって分断されて獲物が単独になるように操作すらする。何処から騙されていたのか判らないくらいにだ。

さあここで少し前の記憶を遡ってみよう。


手分けして探そうと言ったのは誰か?

そして手分けした中で唯一二人組だったのは?


「何で疑問に思わなかったの!? エイデス機関の私ですら知らない被害者の名前を知っているのをッ!?」


次の標的はカナリア・シェリー。

当然彼女達のように推理の解答を導き出すのは幾ら異端の天才とは言え難しい。

今も尚一緒に行動を共にする存在が友人に偽装した犯人であり悪魔だなんてーー。



西陽が差す夕暮れの校舎。静まりつつある直線の廊下をコツコツと2つの足音が響き、それがやけに耳を刺激していた。


「………」

「………」


無言で校舎の廊下を歩く私とフィアナ。事態が事態なだけに緊張感が募って口数が減ってしまうのは仕方ない。探しているのは人ではなく悪魔なのだから。

あの金髪の少女。ちょっとした才女にしては出来すぎた魔導師で、しかも学生にしては実践慣れし過ぎている感があった。あれで試合の規則上制限された中での実力なのだから本気だったら想像もつかない。

事実自身ですら負けてしまっているので個人的には人間の枠から抜けた存在だと思う。先程の会話からも不審な点が多く、現状彼女が悪魔である確率が相当高い。

エルド・ジュリアと偽る彼女がーー。

だけど、仮にそう断定したのなら目的は一体何なのか? 被害者が出てる時点で人間を狙っているのは判る。以前にも別の悪魔が人間を狙っていたし、封印して隔離されていたのだから動機も十分にある。

ただやり方がよく理解出来ない。堕天のルーファスと呼ばれた彼も悪魔にしてはコソコソ隠れながら動いていた節はある。今回の状況も似たようなものだ。周囲の目を気にしながら犯行をしている。

とは言え、疑問なのが昨日の無駄に一目についてまで現れたのだろうか? 行動に一貫性がない風に感じてしまい、思惑が読めない。

今度狙われる人間は誰だ? 何を基準に狙いを定めている?

まるで狩人を相手に戦う動物のような気分を抱く中、唐突に無言の空間が終わりを告げた。


「何を考えているの?」

「あー、うん。ちょっと………ね」


聞いて来る菖蒲の少女にそんな素っ気無い対応をしてしまう。まあ、構う余裕がないのが一番だけどあまり巻き込みたくないのが本音。犯人が本当に金髪の少女なのならもし遭遇してしまった場合、守りながら戦える自信が正直ない。悪魔だからもだが、何せ色々な事情があったにせよ負けた相手なのだから今の私には余裕を持つことは難しいし、こんな返答が精一杯なのだ。

ではフィアナを避難させれば良いとは理屈では考える。実際戦闘では何も出来ない部類の見習い魔導師だから足手纏いですらあるだろう。それでもそうしないのはカナリア・シェリーの心の弱さ故かもしれない。余裕がない中で一人での静かな校舎の散策は神経を削るもの。悪魔であり、敗北した相手なら尚更だ。

だから私がしっかりしなくちゃいけないように追い込む為にも彼女は側に居てくれた方が良かった。

まあ、どれにせよ何かしらを浪費しているのは否めないけど。


「大丈夫? ちょっと休んだ方が………」


意外にもフィアナに心配されてしまった。今日は普段よりも空気が読めているのに僅かに驚く私。多分気を使ってくれているのだ。そう言えば彼女も悪魔とは相対してるからふざけないでそれなりに考えてくれているのだろう。

気持ちは嬉しいが、提案には首を横に振って断る。


「悠長にはしていられないわ。でもありがとう」

「………そう」


いつまでも情けない姿を見せれはしない。

菖蒲の少女にもだが、これでは啖呵を切ったあの魔女にも示しがつかないからね。


「ねえフィアナ。貴女ならこの学園の何処に隠れる?」


静か過ぎる空間で黙っているからこそ余計に気分が滅入ってしまうのだと考えて、自身は表情が窺われないように彼女の少し前を歩きなかまらちょっとでも紛れるように会話を繋ぐ。


「そうだねー、何気にここは広いから隠れられそうな場所は多いから難しいなー」


真面目な返答はある意味無難なものだ。一応彼女も敵側の立場を意識したからそんな当たり障りない結論になったと見る。

しかし、ややあってある言葉を発した。


「でもやっぱり未知の空間に侵入した場合って明らさまで大っぴらな場所を避けると思うんだ」

「………と言うと?」

「一目に付かない場所。或いは人通りが少ない場所とか?」


まあ当然ではある。隠れる発想から辿り着く結論として非常に定石だ。長年まではいかずともそれなりに在籍しているレミア学園の生徒ならまだ意外な場所を隠れみのにするが、多分相手はこの周域の隅々までは流石に把握は無理だろう。

なら単純に人間狙いな悪魔からしたら人が普段出入りをしない場に隠れるのが心理である。活動しない場合は生物ならどれもが行う本能とでも言うべきか?

しかしだ。


「うーん、結界を作ってしまえばそれも関係ないのよね。この前巻き込まれた時もそうだったし」

「この前?」


ん? と意見が噛み合わなってない応答に私は疑問符を浮かべる。その巻き込まれた中には貴女も入っていたのだからここは同意の言葉が出て来なければ困るのだけれど。


「………あ、そう言えばそんな事あったね」


結構素で忘れていたようだ。いや、思い出した今でも惚けているのかそんな抜けた質問をする。ちょっとは見直しそうになったが、やはり彼女らしさは健在だ。呆れながらも大して必要ではない情報の返事をして脱線しそうになる話を戻す。

兎に角。相手は悪魔なのだから隠れる方法なんて幾らでもあると想定するべきであろう。結界もしかり、普通に一目を避けた場所に潜むのも否定出来ない。探すのは些か骨が折れる作業だと思われる。

果たして自身以外の残りの二人は成果があったのだろうか? 単純に三手に別れはしたが、もしこれでフローリアが悪魔と遭遇するのが一番危惧されるべきだと考える。まだアリスなら実力が折り紙付きだから心配まではしないが、彼女の場合は荷が重い。弱い訳ではないけどそれも相手が相手なので次元が違う。学生枠の力量では立ち向かわせるのは本来気が進みはしないから不安だ。

それは私も似たようなものかもしれない。


「キリがないんじゃないかな? 学園内に潜伏しているのは確実だろうし、狙われる前に先手を打てるよう動く他ないのはさっきも話した通りだよ?」

「………そうなんだけどね」


正論を述べる菖蒲の少女。

ただ、やはりこのやり方は何故か違和感を拭えない。向こうの動きを予測して対策が打てない末の手詰まりから実行している作戦がどうにも最善とは言えないし、引っ掛かりを覚える。

エイデス機関が動いて易々と見付けられないくらいには悪魔も頭がキレるのならこんな闇雲で安易な探し方で見付けられるとは到底思えないのだ。

昨日のエルド・ジュリアとの戦いを思い出してみる。あの表裏のありそうな底が知れない雰囲気。並々ならぬ戦闘力。そして含みのある意味深な発言。




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