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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第ニ章 ただそうしたかったから
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−天才だからこそ②−


幼い頃に親族は亡くなってしまった。正確には産みの親は気付かぬ内に居なく、変わりに子を持たない老夫が私を育ててくれており、寿命と言った形で絶つ事で物覚えが付くのと一緒に自分は天涯孤独な身となってしまった。

それでも今日まで生きていたのは天才の力が幾分か役に立っていると思う。孤児保護団体やらに引き取られるのが普通なのだろうが、この私にはそんな頼る術を使わずとも問題は、大差はなかったのだ。

特に寂しいだとかの感情はない。何せ必要な知識や力を得る代わりに大事なものを学べていないのである。果たして良かったのかは今でも振り返っては考える。

そうして頭角を現しながら知れ渡る一方で仲間は出来なかった。やはり自身は他者とは決定的に違った人種であるのを正確に認識したのは中等部の頃だろう。

孤独を味わった。

誰もが避けるか、或いは気に食わなさに排除をしてくるか。優しく接して来られた試しはない。頼られもしない。

ただ邪魔でしかないようだ。

これは平凡な人生ではない筈。周りとは違う形で生きているのだから普通ではないだろうと思う。たまに似たような人物を見かけても結局は互いが関わりを持たないから孤独なのは変わらない。

変わらないが仲間みたいな存在がいるのを知って少しは気分が楽にはなった。けど天才の私からすれば、理性的な目線で考えたら何て酷い感情なのだと自嘲する。

孤独な自身を嫌いになってしまう。

それでもカナリア・シェリーは生まれたこの世界で、持って生まれた資質を活用しなくてはならないのだ。

天才だからこそ。

他の誰でもない自分がしなくてはならない使命感が中等部を卒業する辺りで芽生えた。きっと期待する大人達の視線を感じたからそうしないといけなくなってしまった。

危ない事に巻き込まれたりもするのも不思議と判っていながらも他にする事が浮かばないのだ。

特別な私に平凡は何時までも許されない。

憧れた。皆と同じ輪に入って溶け込むような世界で生きていたい。一人だけ違う事をするのは嫌だ。光栄なことかもしれないが、それを労ってくれたり褒めたりと分かち合う誰かがいないのにやり甲斐を感じはしないのだ。

そうして生まれてからようやくこれが寂しいのだと知った。もしこれがもう少し早ければ防げた事態だったかもしれない。だけど既に周知された評価を覆せない。

カナリア・シェリーは異端の天才として皆は遠目から覗くだけの有象無象にいつの間にかなっていたのだ。当たり前の贅沢を手に入れられないむず痒しさ。眩しく届かない世界。

諦めるのは簡単。だが、目の前にあるのなら縋りたくなるもの。

私の中での平凡とは近くて遠い。天才であり、それ以外の何者でない。天才でしかなく、天才なだけで、天才にしかなれない。

嫌味なんかじゃない。端的に言うならば他の全てを犠牲にして得たのが異端だ。

それが私ーー。だった。

カナリア・シェリー。

だった。


「冗談言わせないで」


今は違う。天才である事には間違いないが、少しずつ大事なものを見付けている。過去に拾えなかった平凡の欠片を手にしている。例え周りが認めなくても拾った自身は納得している。

何もしなければ普通でいられる?

大人しくしてたら救ってくれる?

そんな事で得られる平凡は本当に私が望んでいたものだろうか?

違うわ。過程がまるっきり違う。楽して良い筈がない。私は満足なんてしやしない。誰かに使命を押し付けてまで欲したりするなんて怠惰この上なく、自堕落だ。何の為に天才として生まれて来たのかを曇らす。

嫌いになってしまった自分だが、自分で存在事態まで否定していてはどうしうようもないではないか? それだけは駄目だ。

天才なのを嫌悪はする。だけど否定はしたくない。

矛盾しているだろう。しかし、何と無く判った事がある。

多分私はアースグレイ・リアンの心情と重ねているからああも腹が立つのだ。彼もまた同じように自身を嫌っていて更には否定しようとする。

生まれた理由に対して。

そんなの許さない。全てを投げ出して逃げる人種では互いにないのだから。


「私の平凡は自力で何とかする。貴女の力はいらない」

「………」


一息つく。様々な思考の末にストンと憑き物が落ちたようにスッキリして気分が晴れる。

そして私は高らかに笑う。


「私は異端の天才。カナリア・シェリーよ。出来ない事はないわ」


実際足りてないものは多いのは自覚している。しかしそれは目を背けていたからだ。何もしなければ出来ないのは当然であり、努力を一切せずに得られはしない。仮に得たとしても苦労をしないで手に入れたのが大切なものにはなるものか。

楽は嫌いだ。簡単に手放せてしまいそうで、有り難みがなくて悲しく寂しい。

天才だからこそ頑張るべきだ。足りてないのを掴み取らなければいけないのである。


「今一理解はしていないけど、警告は素直に受け取る。ありがとう」

「………」


しっかりと親切心みたいな誘惑を断る。折角の申し出ではあるが、必要はない。例え辛い道程が予見にあろうが大丈夫だ。

私の平凡は私が決めれば良い。周りから逸脱した価値観を持っていようが、最後に望む形にしてみせる。

今ここで私は私に誓うのだ。

まあ、それに今更カッコ悪いカナリア・シェリーをこんな自分に接する変わり者たちに見せる訳にはいかないしね。


「そんな訳だから」


言いながら立ち上がる。これ以上の会話は不毛で、平行線にしか進まないから語ることはない。

そうして椅子に座る桜髪の女性の真横を通り過ぎようとした時だった。

ふと彼女は呟く。


「ーーているさ。そんな事………」


だが上手く聞き取れなかった言葉に反応を示せずに、流れのままに私はこの場から去る。

少しばかり無下にし過ぎた気持ちを押さえ込みながらーー。



凛とした振る舞いと威風堂々な態度ですれ違って行った天才をちらりと視野に入れる魔女。部屋から出た後も暫く静止していた彼女は沈黙の一人の空間に浅い息を溢す。

表情には悲しみの感情が見え隠れしながらも諦めの付いた風なのが張り付いていた。


「ーー残念だ」


それ以外では表現出来ない失望感の単語。一連のやり取りによる提示を蹴ったのだから感想としては適してはいる。他にももっと発したい文句は多数にあるが、決まってしまった結果にこれ以上の言葉を出しても仕方がないのを自覚してるから一言で済ます。


「無知だから故に割り切れる未来を目指すか」


彼女は未来を見通す力を持つ魔女だ。カナリア・シェリーが選んだ先の道がどんな結果を招くかは大雑把には判る。まあ確実に起きる出来事かを断言は難しいが、大きな分岐点で言えば困難な方を選択したのはバーミリオン・ルシエラの様子を見れば明らかだ。

言葉に表せないような悲痛に満ちた表現を何とかして感情ごと抑え込もうとする。

しかし本能の命令には逆らえない。

不安な気持ちが無意識に口に出る。


「貴女の進む先の結末は果たして裏切られるのだろうか? 裏切ってくれるのだろうか?」


転がる行方は一つではなく無数にある。


「どうして………どうして貴女は………」


それでも進んで欲しくなかった。彼女自身は望んでいなかった。


「私は………私は………」


一人孤独に反逆者は両手を顔に当てて溢れる雫を必死に引き止めようとする。

きっとそうしても何も変わりはしないのを歯嚙みしながらーー。



ミネア学園の生徒との合同演習が終わった次の日。既に彼方は滞在する事もなく帰還をして、翌日のレミア学園はいつも通りの日常を迎えようとするのが、実はちょっとした事件が発生した影響により彼等は未だに滞在を余儀無くされていた。

簡単な説明なのだけど問題はそのちょっとした事件が焦点になる。

いや、そんな生易しい表現にして良いのかも怪しいくらい不穏な空気が一部には漂っていた。

普通の生徒達は変わらずに平穏な物腰でいる。流石に全体に知れ渡ったら収拾が付かなくなるのは目に見えているからだ。何も知らないで呑気にいる幸せ者達である。ただミネア学園の生徒達が帰らない現象に少ならからず違和感を覚えてはいるだろう。教員側からは体裁の良い言い方で誤魔化してはいるのが、時間が経てば何処かで漏れてしまう。そうなれば不味い。

意外にも事は深刻だ。

そして深刻な情報を知らされているのは両学園の教員達と生徒会の一部に加えてこのカナリア・シェリーなのは言うまでもない。

と、肝心な案件を説明をしようとしてくれるのはーー。


「悪魔による被害がこの学園周域で発生したみたい」


眼前に座る東洋人の少女のような女性はおっとりと話す。

ただ唐突に話した割には特に驚きを見せない私を見て柄にもなさそうに意外な表情を浮かべる。

一応数日前にオルヴェス・ガルムからも情報は入っていたので想定はしていたから当たり前ではあるのだが、あくまで噂程度の範疇でそれが不幸にも実現してしまった。

被害にあったのは学園近隣の街の幼い少女だったらしい。詳細までは上がってはいないが、エイデス機関の鑑定によれば人為的な損傷としてはおかしいと判明。魔法関係でもない事から犯人は悪魔である可能性を考慮した。不自然で魔法で解明するのが困難を極める手前とうっすらと目撃した情報からの推測だ。

事件事態は数日前で現在はエイデス機関の魔導師達が付近を手当たり次第探ってはいるが、まだ発見には到らない。

となればもう雲隠れしているのも否定は出来ないけど相手が相手であるし、一番危険なのが若く魔導師が集結する学園なのだ。被害者の件もあって調べが終わるまでは学園内の人物を下手に外には出せない。彼女達は隣街の列車を使わなければ帰れないのだから余計だ。

もしかしたら潜んでいるかもしれない。

あんなのが側で徘徊してるなんてゾッとする話である。まあ、これ以上被害を増やさない為にも悪魔と対峙経験のある私にお声がかかっているのだ。

そして同じく戦闘している実績とエイデス機関の中でも実力者たる人物の如月きさらぎ 愛璃蘇ありすが捜索の任を受けている。

正直私は必要ないくらいに申し分ない人選だと思う。何故なら強さは折り紙付きで、異端の天才ですら舌を捲くずば抜けた能力に例の【黒の略奪者】の事件の渦中を超えてきた者だ。

心強い味方である。


「状況は把握したわ。因みに学園に悪魔が潜伏していたらどうやって見つけ出すの?」

「あまりやりたくはないけどこの眼の力を使えば人か悪魔かの違いくらいは見分けられるよ」

「何そのズルい力」


向き合う彼女の左右で色の違う双眼を覗きながらカナリア・シェリーは万能過ぎると呆れる。

百聞は一見にしかずを地でいくような人だ。幾らなんでも真似なんて出来ないわ。ただ不本意そうなのは何となく伝わる。そりゃあ他人を覗くような真似だから進んで実行はしたくないだろう。どんな風に映し出されるのかは判らないが良いものには思えない。

兎に角学園内を徘徊すれば成果の上がることだけは決まっているので雲を掴むみたいな散策にはならないでホッとする。


「逆に貴女は探し出す方法の一つや二つないの?」

「そんなお手軽な技は持ち得ていないわ。相手が相手だしね。成功法の探し方では難しいわよ」


その成功法であれば彼方が殺気やら魔力の波長の具合で見抜けはするけど数日の時間で同じ手段をエイデス機関の連中がしなかった訳があるまい。それで無理ならば結果は大した差にはならないだろう。

とは言っても少しばかり違和感を覚える心当たりは過る。


「ーーてな訳で聞きたいんだけどへカテリーナ・フローリア?」

「今更だがフローリアで良いぜ?」

「なら私もシェリーで構わないわ。………」

「あん?」

「いや、可愛らしくて似合わない」

「一々テメェは喧嘩売ってんのかよ」


しかめ面の返事をする真紅の少女だが、その様子から見るに私の尋ねたい内容と彼女の答えたい内容が合致していそうだ。

ならば話が早い。もしかしたら手間が減り、被害もかなり落とせる筈だ。

代わりにすぐ様悪魔と戦う可能性があるが。


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