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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第一章 始まる物語
3/155

–孤独な天才③–



「凄い不完全燃焼だわ………」


これから詳しく聞けるものだと思った落ちこぼれさんの話は予鈴の合図により中断されてお開きとなってしまった。すっかりと忘れていた次の授業に私は遅刻はしなくとも何とか間に合った具合である。

1回や2回くらい学業を休んだ所で特に響くものはないのだが、世間体やら周りから目を付けられてまた絡まれる可能性もあるので極力は真面目に受けようとは心掛けている。

さてさて、 校外から来る特別講師の授業だったかしら? 先程の黒髪の青年は付き添いだとは言っていたが、それであの底を見せていない実力を持っているのだ。多少なりとも期待は出来よう。

すると学園側の教員が整列させようと生徒達に呼び掛ける。そこで今回担当する特別講師をざっくりと紹介して後はその人物に任せた。

促されて少し前に出るのは女性である。

腰まで伸びる朱色の髪が明るそうな人柄に感じさせ、凛とした振る舞いは高貴さだけに留まらず、余裕と自信に溢れた実力者たる雰囲気を纏っていた。

大人の女性と言えば聞こえの良いものだが、唯一気になるのは僅かに無理をしたような柔和な表情だ。気付かない人からしたら好感が持てるかもしれないが、あれは明らかに内に溜めている我慢がある。よく私自身もしてしまう作り顔だ。特に口うるさい教頭の前とかでーー。

とにかく絶対に性格が悪いだろう。似ているから判る。経験者は語るだ。

そんな彼女は生徒達に挨拶をする。


「初めまして。今日此方のレミア学園から呼ばれて特別講師を担われたボルファ・ルナです。皆さんの魔法能力向上の為に、少ない時間ですが御指導させていただきたいと思いますのでよろしくお願いします」


礼儀正しいそれに男子は頬を染めて、女子は将来ああなりたいような憧れの視線を向けながら拍手喝采する。

皆単純である。私からしたら内心面倒くさいと吐露しているのが見え見えだ。

こんな平面じゃなくて底を看破する癖があるからか周囲から距離を取られてしまうのだろう。だけどこれも元々の性分だからどうしようもない。

と、溜め息が出そうなのを堪えていると朱の女性は今回の授業内容を発言する。


「まずは2人1組になって互いに得意な魔法を見せ合いましょう。片方が魔法を使っている間はしっかりと観察して、何か気付きがあればそれを教えてあげて下さい」


成る程。理に適ったやり方だ。要は自分の魔法を客観的に見て貰うのと見る側の観察眼を養う一石二鳥方式。特にまだまだ未熟な学生からしたら重要なものである。加えて交流の目的もしっかりと折り込んでいるし、何より重要なのは一人一人が助け合うような意味で取り組む形だ。しかもそれを学生水準に合わせた柔らかい言い方にしている。

あの簡単な説明の裏に様々な効率を含ませているとは流石は特別講師と言った所か。

ただ気になるのは少しやり方が実戦向きな姿勢に見えるくらいである。これをそう仮定すれば魔法を使う人物が誰かに見られてどう分析されているかの状況把握と、見てる側の観察眼は相手の弱点や欠点を見抜く為の洗練。ついでに助け合うような意味でとは即ち連携を磨く事だ。

深く考え過ぎかもしれないが、私ならそこまで念頭に置いた指示と読み取る。

まあ、どちらにせよ自分からしたらあまり必要のないものだけど。


「(と言うか、私にはこの内容は向いていないのよね)」


苦手とかではなく、単に初歩的な授業で適正ではないのだ。若しくはこれにある落とし穴みたいな問題が生じてしまう。

前提として彼女の課題にはある程度実力に差がないもの同士でなければ駄目な訳だ。多少なりとも資質の有無を考慮しても想定外な差になる生徒がこの場に居ないと思ってのそれだろうが。

否、実は存在してしまうのよ。生徒はおろか、学園側の教員が相手でもこの方式では条件が整わない圧倒的な能力差を持つ者がね。

そうなると相手の魔法を見た所で私からは何の吸収すらなく、見せても理解が及ばないから相手にも利点はない。

仮に出来る事があるとすれば、此方からの一方的な指導くらいのものだ。寧ろその方が効率が良いくらいだ。

とまあ色々と述べてみたが、何より一番の問題点はーー。


「(そもそも私と組みたがる人が居ないのがあれよね)」


周りを見渡せばすぐ様2人組が結成されていくのが判る。そんな中近くで相手に困っている人も居なく、まず私から距離を取る方が目立っていた。ふと1人の男子と目が合ったが、当然目線を外されて他で相手を探し始める。

さり気無く傷付く事をしてくれたわね。

そんな風に根本的な壁がこの課題の前に立ち塞がるのであった。課題を成功する前に課せられたのはどうやって2人組を作るかと言う議題だ。

これでは天才の苦悩では無くただのひとりぼっち。

孤独な自分。いや、孤独な天才とはこう言うものだろう。


「結局は陽の目を見ない不便な才能って訳ね」


はあ。と溜め息を吐くしかない悲しい現状。もはや諦めて見学に移ろうかと教員を探し始めるカナリア・シェリー。

諦めが肝心と、まるで落ちこぼれみたいな考え方をしながら見つけて声を掛けようと歩き出す。

その時だった。


「あ、あの………」

「ーーえ?」


声を掛けられたのは自分で背後から服の裾を掴まれる感覚を覚える。

まさか、と思いながら私は恐る恐ると振り返った。


「よ………良かったら私とぺ、ペアを組んでくれませんか?」

「え………えっと………」


自身よりも下から上目遣いで頼んでくる小柄な同級生の姿に色々な感情を抱きながら最終的に困ってしまう。まさかの予想外だ。

その声を掛けて来た人物に見覚えは無い。真っ新で艶のある菖蒲色を肩くらいに伸ばしたちょっと短めの髪。その分け目から覗くのはあどけなさを持つ弱々しい髪と同色の瞳。平たく言えば童顔でまだ中等部くらいにしか見えない可愛らしい少女であり、割と印象に残ってもおかしくないのだけれど初めて見る顔には間違いなかった。

そんな初対面なのに、おどおどした声でもしっかりと彼女は自身とペアを組んで欲しいとお願いして来る。


「他に誰か組んでくれる人はいないの?」

「はい………。私あまり魔法の才がなくてそれで周りから浮いてしまって今回も中々相手が見つからなくて………」


それでよりにもよって私か。言い方はあれだが、この菖蒲の少女は落ちこぼれと言う訳だ。実際は烙印が付いたくらいだろうが、一度やってしまった失態を取り戻すには学園に入ってからの月日が浅すぎる。

天才と落ちこぼれ。全くの正反対だけど孤独な意味ではお互いに等しい。違うのは自分より諦めが悪いくらいであろう。

どうしたら良いのだろうか?

正直相性は最悪だ。だから余り物になってしまった2人ではあるが。


「私が誰か知ってて組もうとしてる?」

「カナリア・シェリーさんです………よね? あの有名な………」

「そう。そのカナリア・シェリーよ。近年稀に見る異例の天才学生」


自分で語るのはちょっと恥ずかしいが、ちゃんと確認する上で言わないといちいち忠告しないといけない。

でなければ組んだ事を後悔するだろうから。


「どれだけ才がないかは関係ない。私と組めば誰であろうと惨めな思いをするかもしれないし、嫌気が指すかもしれない」


中等部の頃、教員を魔法知識で論破した事もあるし、校内で優秀な生徒に力量の差を見せて威厳を地に落とさせて結果高等部進路を別に変えた人だっている。

深く関わればそれだけ痛感して挫折してしまうのだ。自分は自分と言う意志を見失なってカナリア・シェリーとの天と地の差に未来の可能性を閉ざす。

だったら最初から有無を問わなければならないのだ。

私と辛い思いをするか、私から逃げるか。


「それでも良いの?」


真剣に射抜くよう言い放つ。周りが楽しそうに騒ぐ中、この2人の空間だけが別世界と呼べる場へとなっていた。

まるで人生の分岐点みたいに。

ややあって口を閉じて考え抜いた彼女は意を決して答える。


「はい。寧ろ組んでくれる条件がそれなら全然問題ありません」


そんな訳でもなく、あっさりと笑みすら浮かべて言い切るのであった。


「あれ? な、何で?」


予想外な答え方に驚き、らしくない反応をしながら問う。流石に重苦しく脅すように聞いたのにどうしたらそんな嬉しそうな対応でいるのだ? 普通少しは神妙な雰囲気で解答が遅れたりするものじゃないか?

何か場の流れを掌握されて調子が崩されたような感覚に陥り、天才のカナリア・シェリーが影を潜めて年頃のただの私だけが表立つ。

本当に何でなの?

相手の思考も自分の中にあるこの言い様のない感情も全く解が出なかった。

そんな心中を尻目に無垢な彼女はあっさりと答えを述べる。


「だって全然駄目なわたしがシェリーさんに教えて貰えるなんてこんなに恵まれた事ないですよ」

「そ、そんなものなの?」

「そうですよ。逆に迷惑じゃないかの方が心配なくらいです」

「いや別に迷惑だなんて………」


事実組む相手がいないのが困ってたくらいだし、ご指名される方が有難いくらいだ。

意外に結論はあっさりとした簡単なものである。簡単過ぎて思いつかない程。だってこれまでになかった理由で近付いて来てるのだから想像出来なかった。正確には打算的な思惑を持って接触して来る場合があったが、彼女は割と真っ直ぐ馬鹿正直に伝えて来るので私と組めるのは本当に幸運だと思っているだけだろう。

平面だけで捉えない癖がある私は意外にも真っ直ぐで単純で純粋な彼女みたいな相手に一番弱いのかもしれない。

天才と言えど一つ勉強になった気がした。


「本当ですか? こんな私とじゃ不満じゃないですか?」

「不満じゃないけど私も逆にこんな私で………良いの?」

「全然問題ありません。凄く幸せです!」


うっ。と眩し過ぎる直球な言葉に罪悪感すら覚えそうになる。こんな人種は真面目に初めて過ぎてどう接したら良いか困る。

困るけど素直に嫌とはならない。

絶対に今自分の口元が緩もうとしていると自覚しながら何とかいつもの天才少女を装い、咳払いをしながら此方も腹を括る。

こうなれば私も応えるしかない。


「貴女名前は?」

「ノー………ぁ………ノーライズ・フィアナです」

「じゃあフィアナ。改めてカナリア・シェリーよ。同級生なんだから敬語は止めましょう」


結局僅かに緩んだ表情で名乗る。菖蒲の彼女も同じような柔和な笑みで元気良く頷いた。

ひょんな事から巡り合って孤独な天才は孤独さを解消した。まだ馴れない挨拶をしたまでに過ぎないけど、確かな事は学園生活も捨てたものじゃないかもしれない希望があるって思える可能性だ。これはそんなきっかけの1ページ。

ここで先程の黒髪の青年の落ちこぼれさんの話を思い出した。もしかするとその人物も小さなきっかけがあったから今の時代を作れたのかもしれないと根拠も無いイメージを抱くカナリア・シェリーだった。


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