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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第ニ章 ただそうしたかったから
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−悲劇の天才④−


「あはッ!」


無邪気な笑いを上げながら金髪の少女は一直線に駆け出す。助走の為の距離も十分あって加速力は並を凌駕していた。

素直に速い。学生ではそうそう成しえない速度。

気を抜いていた訳ではないが力量を測り間違えた遅れが先制を奪われる。立ち上がりは完璧な後手に回ってしまう。

殺傷能力のない制限である木刀を片手に斬りかかって来る状況。私は切磋に魔法を発動して勢いを押さえ込む。詠唱抜き速度重視の中級魔法は幾ら彼方が最短距離で進んでこようと先に届くのは私の方。

防がれるのは判り切ってはいるから体勢を立て直す為の牽制である。

さあ、動きを止めた瞬間反撃よ。

と、安易な計画を考えたのが間違いであった。


「はあっ!!」

「ーーなッ!?」


計六連の閃光の矢。返しの要領で放ったのに相手は加速したままにその右手に握る木刀で全てを斬り伏せた。

さっき説明した中で魔力さえ込めて振るえば防ぐのは可能だとは説明したが、この速さで止まらずに拍子良く魔法をいなすのはもはや技術云々を超えている。何て反応速度だ。

虚を突かれる芸当をする彼女の接近を許してしまう。嫌な汗を覚えながら魔法の間合いよりも深く切り込む相手から真後ろに下がって距離を離そうと試みるが、僅かに剣先が私の前髪をカスって気持ち悪い剣圧を身に抱く。

それでも追撃がなかったのが幸いに何とか試合開始時と同じ分の距離を空けた。

彼女は楽し気に笑みを見せる。しかし、私は甘く見た結果の仕打ちに苦笑いでしか返すことが出来ない。

ドッと歓喜を学生達が上げる中、カナリア・シェリーは心の内で思う。

強いーーと。

とても無名とは考えられない実力の一端と相応の余裕を伺える立ち回り。雰囲気的に私を知っていそうではないからか、気後れをしたりはしないのは判る。にしてもあの弾幕を真っ向から顔色を変えずに薙ぎ払うだけの精神力は異常だ。ひょっとするとまだ【無暴】と戦う方が良かったのではないかもしれない。

だが弱音を吐くのはまだ早い。

それでは異端の天才の名が廃る。


「………」


私は構える。静かに自身の間合いを立体化した景色を抱きながら最速最短の動きをする為の受け身形の姿勢。

基本構えなんてしない主義。と言うよりかは全てに対応する前提が何も見せない無の構えだとしている。極力情報を与えない事で警戒させたり、詠唱抜き魔法を主とするから意表を突く意味合いでもそうしていた。

だけどこの相手には通用は叶わない。判らないものは判らないと割り切ってその場に合わせた臨機応変な動きをする。何故なら先程披露した反応速度が示しているのだ。下手な小細工は逆に調子付かせる一方だろう。

なら判らせるしかない。

カナリア・シェリーの真価を。

例え制限化の中、最も相性が悪い部類の相手だとしてもそれを打ち負かすのが天才なのだから。


「何処からでも来なさい」

「………」


挑発をしてみるが乗っかっては来ない。

まあ、無理もないのは承知している。だって私は形式の裏側を利用したとすら言える姿勢で彼女に挑んでいる。

何をしているかって?

簡単な事だ。目には見えないが本能が感じ取り、度合によるがどんな相手でも判ってしまうような単純なもの。

殺気を散りばめているのである。

つい先日自分が気付かされた新たな手方。まさかこんな風に使うとは本人でさえ思わなかっただろう。

これは相手に明確な恐怖を与える力。

こんな命を賭す戦いでもない練習試合ではどうしても考え方が甘くなりがちだ。だって負けても死にはしないとそんな緩い空間では緊張感なんて持てない。だからこそ金髪の少女は何食わね顔で仕掛けてくる。

なら失敗したら死ぬとすれば?

それは本来反則の扱いを受けるが、実際に命を奪いやしないし、何も臆する必要はない。だが片隅でそんな未来の結末を意識すれば動きを狭める事が出来る。

試合の本質としては実行さえしなければ問題なく反映される作戦の一つの高度な駆け引き。

現に相手の顔から余裕は抜ける。殺気をどんな風に捉えるかまでは知らないが、下手を打てない状況に陥らせることで無闇に攻撃が出来なくなるのだ。

静かな圧力。いつでも放てる魔力の揺らめき、構えから予測出来る様々な技に狩人のように狙いを定めた眼光。現在抱くのは演習ではなく、実戦の心構え。対峙する相手が本当の実力者であるならば感じ取れる筈だ。

そうして動きは止まる。

一体見ている学生達のどれだけがこの状況を理解出来ているであろうか? と思いながら私は仕掛けて来ない相手の代わりにーー。

此方が攻めに転じる。


「はあッ!」

「!」


威力としては乏しい中級の炎弾を飛ばす。真っ直ぐにだけ進むそれは当然避けられるのは想定済みだ。

故に先ずは逃げ道に誘導させる為に退路の一部に向かおうとする金髪の少女に殺気を送った。すると今度は反対側へと目配りして動こうとする意志を読み取った。

しかしそこが狙い。殺気は囮としてだけの役割で上手く操作して行った先をドンだ。読めないのではなく、読ませて読む。主導権を握る王道だ。

彼女は予測通りの道先に足を置いた。

カナリア・シェリーは間髪入れずに予め準備していた設置型魔法陣を発動。

次の瞬間そこに1本の柱の如く落雷が降り注ぐ。上級の中でも弱めな威力で再起不能までとはいかないが、雷系統特有の肉体を麻痺させたりもするので当たれば流れは大分変わる。

避けられはしないだろう。設置型の仕組みを利用して下に意識を持っていかせながらの頭上から不意を突いているのだ。と、やはり気を張っていようが心の何処かで天才である自身に酔いしれた油断を持っていたのだろう。

砂塵が舞ってしまった影響で視界が悪い中、猛烈な突進をしてくる存在に遅れを取ってしまう。


「(あれを避けたのッ!?)」


読まれている節はなかった。あの瞬間の彼女の表情は正に予想外だと言いたげな今陥っている私の気持ちと同じだった筈だ。

ならそこから反応したとしか考えられない。だけどそれもそれで有り得ない領域だ。人間には出来ない限界である。

だったら人間ではないのか?

いや、思考している場合じゃない。兎に角この展開から逃れるのが先決だ。

刹那の世界で判断した私は迫り来る木刀を紙一重でかわした。鼓膜を破るような風圧が髪を揺らしながらも追撃を塞ぐ為に相打ち覚悟でゼロ距離から爆破魔法を行使する。

互いの身体を挟んでの爆風で吹き飛ぶ。予めの堪える準備が出来ていた自身は何とか地に膝を付くことなく後退だけで留まった。彼方は流石にこんな滅茶苦茶な不意には追いつけずに転がりながら下がる。

勢いを止めて仕切り直しだ。ダメージ覚悟の行為でもしなければあの時点からの追撃は確実にカナリア・シェリーを後手に回さずを得ない。

願わくば少しでも相打ちの効果を貰ってほしいものだけれどーー。


「ははっ」

「やはり駄目か」


全くの空撃ち状態にーー否、火に油を注ぐようになってしまっていた。精々学生服に汚れをつけたくらいの歯が立ってないのが現状となる。

どれだけ見えているのよ?

判るのはこれまでの隙を突いたり、強引にでも流れを変えるべく身を削る攻撃をしたのに全てが効果的にならない。

周りから見れば互角な戦いを繰り広げるているとも思えるが実際は私が不利な立場だ。幾ら天才でも限界がある。近接に関しての知識も経験も低い自分はこれだけ高次元な動きに合わせるだけでやっと。

向こうも悟ってか、結局調子付かせるように再び牙を剥いてくる。

あの様子では次は殺気も意味を成さないだろう。現に接近をする金髪の少女の表情は笑みを宿していた。明らかに楽しんでいるそんな相手に2度も同じ手は使えないであろう。

それならば他のやり方で対処するしか方法はない。

天才の引き出しを舐めないでよ?

私は縦に振り下ろされてくる攻撃を半身にして避けてからの反撃をする。

腰に携えた同一の木刀でーー。


「!」


目を見開いた反応をしながら彼女は後ろ宙返りをして何とか免れる。咄嗟の反撃が思ったより良い具合に運んだので一息つけた。まあ、あれだけ魔法に頼った戦いの合間で使わなかった武器が振るわれたのだから僅かなズレが生じた結果なのだろう。

正直あまり慣れない物なのでまぐれ感は否めないが助かったとしか言えない。

これで果たして引き出しを開けたとなるのかは些か疑問ではあるけど。


「………」


数回素振りをして馴染ませる。それだけで扱いこなせたとは言わないが、ある程度の感覚だけは身に付ける。

そんな私を見て相手は一言放つ。


「もう扱えるの?」

「見様見真似よ」

「へー、でも今の君はまるで長い年月を鍛練に費やして生まれた剣客と遜色ない振る舞いに見えるよ」

「どうかしらね?」


自分でそこまでの解析はしない。結果を出していない内から正しいと思うのもかなり烏滸がましいだろう。

だから挑戦してみよう。

剣技ってやつをーー。


「味わって頂戴!」


地を蹴って軽やかに跳ねながら剣舞する。

ひらりと一回転しながら胴目掛けて横一線。彼方は木刀を縦に防ぐ。簡単な構図の一合ではあるが、それだけで終わらせはしない。

甲高い音を散らした後、私は更にもう一回転して下段に切り裂く。元々縦に翳したものへ切る形になるが、あくまで次なる手への布石。


「あーー」


丁度勢いの止まる制止の時に風が渦巻く。

誰も剣技1本の戦いをするなんては言っていないと今度は自分が狙った笑みを放ちながら魔法を発動した。

無数の風の刃。防御に回っている最中でこの技を防ぐ手段はなく、旋風が一斉に彼女へと襲い掛かる。

だがーー。


「くっ………」

「嘘でしょっ!?」


またもや驚愕する私。あの絶妙な隙間に混ぜた魔法すらも直撃だけはしていなかった。

やはり凄い。相見えた中で飛び抜けた強さの存在である。が、いや待てとは言いたい。これは仮にも学生の世界の戦いだ。なのに大人顔負けでは済まない攻防を繰り広げている現実に違和感を拭えない。

若しくは私が弱くなってしまっているのだろうか?

一向に差の付かない流れのジリ貧が余計な思考をさせる。

そして僅かに息を吐きながら相対する金髪の少女に尋ねた。


「貴女………何者?」

「え? どういうこと?」

「無名の学生にしては少し強すぎるのよ。その実力は到底隠し切れるものとは思えないわ」


ただもしかしたら本当に黙っていたのかもしれない。だけどそれなら何故この場面で発揮する必要があったのか?

それも全て答え次第ではあろう。


「んー、そうだねー。教えても良いけど………」

「けど?」


勿体振る態度をする彼女。益々謎めいていく不気味さに自然と表情が険しくなってしまう。どうしてこうも感情が不安定になるのか判らない。

少し前からの一連の事件が噛んでいるからか? 魔女なんて者が忠告して来たからか? アースグレイ・リアン1人すら変えることが出来ない惨めさからか?

挙げたらキリがないが、何れにせよだ。

現状の蟠りが解消されない限りはこんな高次元の戦いでは動きが鈍ってしまいーー。

負けるかもしれない。

そんな中、不敵な笑みでこう言ったのだ。


「私に勝てたら教えてあげる!」

「なっーー」


答えは何となく予想は出来ていた。

しかし私は別で懸念し忘れていたのだ。

向こうが近接だけの戦い以外も熟せてしまう才能を持ち得る人物だと言うことに。


「勝てるかなっ!?」


無邪気な台詞とは裏腹に複数の氷柱がカナリア・シェリーに迫ってくる。最初に魔法では追随を許さないだとか何とかだったけど意表を突かれた攻撃に同じく魔法で対抗は無理そうであった。彼方も速度重視の詠唱破棄で仕掛けて来ているのだから返し刀をする間もない。

自然と脳裏に浮かぶ。

不味いーーと。








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