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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第ニ章 ただそうしたかったから
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−悲劇の天才③−


今更だが何故そんな所が合同演習先を此方に? まあ、秀才な学生はいっぱいいるがそれは他にも言えることだし、わざわざ離れたこの場所まで来る程のものであろうか?

と、不意な疑問を抱きながら遠目に映るミネア学園の生徒を眺めていると。


「あ、………あれは………」


細めて凝視する先の集団の中に1人目立つ髪の色をしている者がいた。

向こうも私の存在に気付いたのか獰猛な肉食獣みたいな目と笑みを浮かべて此方へと威風堂々と近づいて来る。

深紅の髪の少女がーー。


「よお? 暫くぶりじゃねーか。カナリア・シェリー?」

「そんなにまだ日は経ってなくない?」

「おいおい、冷てーこと言うなよ。折角遠路はるばるやって来たんだからよ」

「悪かったわね。へカテリーナ・フローリア」


口調も相変わらずで、女子力よりも男勝りな彼女であった。

まさかの再会である。


「ミネア学園の生徒だったなんてね」

「ああ、あたしもお前がレミア学園の生徒ってのはつい数日前に知って驚いたさ。ま、おかげで学園側に合同演習先を此処に決めさせて貰ったけどな」


成る程。へカテリーナ家の公女が意見を出せば学園も無下には出来ない訳だ。若しくは学生の意見を尊重しての結果だったのかだ。それなら此処を選んだ理由もすんなり頷ける。

てか疑問した元凶はあんたかい。私は悪い意味のおかげ様で面倒臭い羽目になってるのに。

ヘラヘラしている如何にもアホそうな貴族様を見て自身は溜め息を吐くしかなかった。


「御機嫌よう。へカテリーナさん」

「んあ、シルビアか」


間に入って挨拶する栗毛の少女に彼女は見知った相手のように対応した。

面識あるのだろうか? 九大貴族の面々であるしおかしくもない話だけど思ってるよりも親密性が感じられた。片や丁寧な言葉遣いで片や小悪党みたいな口調だから違和感でしかない。それがどうすれば仲良く出来るのか?

率直な疑問を投げ掛けると案外普通の解答が返ってきた。


「私と彼女は生徒会の仕事で度々一緒になることが有りまして」

「そろそろ学園祭並びにアズールもあるからな。ぼちぼちは知り合いだぜ?」

「へー、って貴女生徒会なの?」

「おう。ミネア学園の風紀員長してるぞ」

「失礼だけど全然似合わないわね………」

「テメェ、直球に言い過ぎだ」


ガルル、と威嚇しそうな表情で睨まれて苦笑いをする。いやでも本当に似合わないと思ったのだから仕方ない。柄じゃないとも言えるし、何より性格と口調が既に風紀を乱しているのだから想像出来ないのだ。先の列車での件も振り返れば襲撃者相手に黙って死ぬか、足掻いて死ぬかの二択を突き付けていたし。

誰か推薦した人でもいるのだろうか? 誰よ酔狂な事をする人。


「それはそうとシェンリンも面識あったのですね?」

「………ええ、ちょっと前にね」

「………」


流石に悪魔を倒すべく共闘したなんては言えない。一応まだ伏せられたエイデス機関の極秘裏なものだから口止めはされているのだ。

勿論へカテリーナ・フローリアも同じような処置をされているだろう。九大貴族でその件についてはオルヴェス・ガルムと彼女くらいしか情報は知らない筈だ。故に下手に深紅の少女も口出しはしない。

ただここはアホらしい名称を人に付けているが強かな【絶対攻略】。一瞬の空気の変わり様に目を光らせて怪しんだ。

恐らくその気になれば私よりも情報収集に長けているであろうからボロは直ぐ出そうだ。まあ、知れても彼女くらいの存在なら問題はないかもしれないが変に首を突っ込まれて悪魔と相対させるのはよろしくない。

シルビア・ルルーシアの考えていることは読めない分、出来る限り誤魔化してやり過ごしとくべきであろう。

一先ずはセントラル行きの列車での事件を説明すれば納得するだろうと思って自身は言おうとする。


「こいつとはセントラル行きの列車で因縁があるんだよ」

「え?」

「はあ?」


黙っていたかと思えばいきなり何を言い出すのよ。因縁てまるで喧嘩を吹っ掛けたみたいな意味だし、貴女が述べたら本当に真実味を帯びそうじゃない。

凄く心外な気分を抱いてしまう言い様の詳細を彼女は続けて説明する。

列車襲撃犯の件の一連を悪い風に盛ってだがーー。


「ーーて訳だ。だが確かな実力を垣間見て、聞けば噂の異端の天才とか言うじゃねーか? だからあたしは決めたのさ」

「何をですか?」

「何をよ?」


当人であるが全く先が判らない言葉に栗毛の少女と同じ反応をしてしまう。

そしてへカテリーナ・フローリアはカナリア・シェリーに指差して高らかに宣言するのだ。


「テメェをあたしの宿敵として認めることをなっ!!」

「あらまあ」

「し、宿敵?」


呆気に取られてキョトンとする。今時ってか、女の子同士で宿敵と言うのも変な具合じゃないかしら? いやいやそれよりも貴女が認めても私は了承したりはしないのだけれど?

ともかく誤魔化す為に乗ったりなんてすれば非常に後々厄介な未来にもなりそうである。


「カナリア・シェリー。今日こそ決着を付けようじゃねえか? わざわざ遠路はるばるなんだからよ?」

「何回も同じ言葉を使ったら恩着せがましいんだけど………しかも完璧に私情で自発的に来てるだけじゃん」


そもそも決着も何も始まってすらいない。対峙すらした記憶がない。

共闘はしたが。


「へえ………【無暴】対異端の天才。中々面白い組み合わせですわね」

「貴女も真に受けないでくれる?」


とは言いながらも興味が逸れた感があるので良しとはしとくべきだろう。

本当に良しなのか?

頭を抱えたくなるやり取りをしている内に周りには学生達が殆ど集まってきており、本鈴が午後からの授業の合図をする。

弁解もままならない間に合同演習は始まり出すのだ。


「楽しませてくれよ? カナリア・シェリー」


最初の獰猛さを放ちながら深紅の少女は持ち場の方へ戻っていく。多分やる気満々な戦闘状態に気持ちが入ってしまっているのだろう。知り合って日が浅いがああなってしまってはどうしようもない。一回ガチンコで相手をしなければ収まらないと思う。

全く面倒な自称宿敵である。


「はあ………」

「ふふふ」

「何を笑っているのよ?」


溜め息を吐いている傍ら彼女は微笑む。だけどその雰囲気が人の不幸を喜んでいるような悪質さではなく、逆に人の幸せを喜んでいるみたいな笑い方だ。

どういうこと?


「あら? お気付きでなくて?」

「………?」

「とても楽しそうに見えますわよ」

「私が?」


何処がだ。呆れたり、困ったりとげんなりするやり取りをしていて楽しいとはならないわよ。一体何を言い出すのだ?

違うわよと否定をする自身に彼女はそれを更に否定する。


「シェンリンは知っている筈ですわ」

「知っている?」


深く掘り下げようとしたが、残念ながら担当の教員陣が集合を掛け出していて答えを聞くことは叶わずで終わった。

そして合同演習が始まるのだ。

やれやれ。全く持って面倒な事この上ない授業である。

だが、まさか今から約寸刻先の未来で予想外にも程がある重大な展開が待ち構えていようとは現時点の私には想像すら出来ていなかったのだった。


ーー。


「そこまで。次はーー」


簡単な説明が終了してから数十分。レミア学園実技上位人とミネア学園生徒の交流と魔武闘会ーーアズールへの練習を兼ねた対戦試合が始まっていた。

説明されていた内容は実際の本番と同じで、殺傷能力のある武器と上級魔法以上が禁止な以外は何でも有りの時間制戦闘方式

過剰な追撃や審判の命令を無視すれば反則負け。加えて万能な障壁を使って防げばその都度減点方式。時間終了では審判による優勢な方を判断して勝敗を決める。正直かなりの制限を掛けられたもので単純な力任せよりも技術をやその他を求められた高度な戦い方を要求される。

例えば武芸。殺傷能力さえ無ければ何を使っても良いので魔法以外の可能性を作り出す。自身みたいに東洋の技を使って倒すのも木刀で押し切るのも良し。何なら魔法を使われても魔力を武器に纏えば防ぐのも難しくない。最悪魔法抜きでも勝てる訳だ。その代わりに鍛錬を積んだ人にしか向かない方法ではあるが。

例えば駆け引きによる知略。まあ言えば相手の特性や弱点を見破ったり、動きを制限させて自身の戦い方に持っていきながら点数を稼ぐ長丁場戦法。こんなやり方が得意なのは恐らくシルビア・ルルーシアだろう。策士とまで称される彼女なら一手二手先を読んだ試合運びで有利に進めて打破だと思う。下手したら三手四手まで見据えているかもしれない。

そして残りは本当に判りやすい戦法。ある意味で一番魔導師らしいとさえ言える捻りも芸もないもの。

それは魔法でゴリ押し。

制限が掛けられているとは前述はしたが、あくまで魔法威力の上下の差を狭めただけ。つまり制限内の魔法ならどれだけ発動しても問題はないのだ。

一気に上級魔法を何十発放とうが何ら反則にはならない。

質より量をこなす訳だけど、これはこれで相当な技術も必要で体力も必要だ。正確さや最低限の魔力で尚且つ水準通りの火力を叩き出すのがどれだけ大変か。多分学生枠なら連発すれば魔力低下の疲労困憊をするか、昏倒してしまう。

当然この分野はカナリア・シェリーに一日の長がある。寧ろ一番得意だ。最上級でも同じ真似が可能なのだから全然軽く振るえる。そして他に追随を許したりはしない。

基本的にその3つが戦局の鍵を握る。全てを高次元で使い分けてしまえばソイツが魔武闘会で優勝候補だ。若しくは尖らした才が狂わすか。或いはとんでもない規格の裏側を突いた狡猾な戦い方をする伏兵の独壇場になってしまうか。

そんな意味では私は私の真価を問われる機会でもあるかもしれないが。


「カナリア・シェリー」

「あ………」


早速機会が訪れた。何故か名前が呼ばれるだけで周囲がざわめく。恥は掛けない変な重圧が襲いながらも呼ばれて前に出るしかない。

一応練習試合だが決まり事だけではなく、試合会場の広さ分も本番同様に意識された範囲の広さを白線でなぞられた中に足を踏み入れた。


「エルド・ジュリア」


次に対戦相手の名が呼ばれて、当人も白線の中に入ってくる。

あれ? そう言えばへカテリーナ・フローリアが決着をどうとかーー。


「おい先公!! 何であたしを呼ばねぇッ!?」

「ど、どうした急に!?」

「アイツと戦うのはこのあたしだっ!!」

「落ち着け! そんな話はこっちには全く耳に入ってないぞッ!!」

「はあ!? あんのクソ理事長がっ!! 良いから早く対戦相手を入れ換えろッ!!」


何やら彼方に不備があったのか結局私と彼女の試合が組まれる事はなかった。これでは何の為に合同演習先を此処に決めたのか判らなくなる落ちである。

面倒事が減ったから良いのだけれど。

とりあえずはパパッと試合を終わらせて間抜けな貴族様の不本意な戦いでも高見の見物といこう。

自身の対戦相手は特に聞かない無名の学生。魔導師として優秀なのは間違いないが、特別評価も二つ名もない人物に遅れは取らないだろう。


「まあよろしく。エルドさん?」

「うん、よろしく!」


挨拶をすると綺麗な金髪に負けないくらいの眩しい笑顔が返ってきた。人次第では毒気すら抜かれそうな純粋に試合を楽しもう精神が伝わる。その小柄な少女の姿はノーライズ・フィアナと被る一面だ。

悪くない傾向を持つ相手ではある。

が、同じように持ち出すなら恨みっこはなしだ。

どんな結果でも後悔しないで貰おうかしら?


「それでは試合開始!」


審判役の教師が宣言して火蓋が切り落とされた。



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