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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第ニ章 ただそうしたかったから
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−悲劇の天才②−


化物とはまたご挨拶なものだ。比喩として使われるのは判ってはいてもこんな真面目な場面で言われて笑って済ませられる程に私は辛抱強い人柄ではない。まあ、冷静さを掻いたりはしないが、威圧はする。


「果たして怒っているのか? 僕には手本通りの対応をしているだけにしか見えないね」

「………」

「ほら、図星だから返せない顔だ。あんたは常識や理性を重んじているだけの行動をして中身はスカスカの何も考えていない人間なんだよ」

「根拠があるの?」

「それは私の何が判るの? と前に僕が言っていた台詞と同じさ。正直全く判らないよ。あんたの思惑なんて」

「別に思惑とか関係ないわよ。私はうじうじ立ち止まっていたって好転しないのにそうしているのが気に食わないだけ」

「僕だって気に食わない。どうしてあんたの指示を受けなければならないんだ? 人の人生をとやかく言われる筋合いはない」


それにーー。と付け加えて一泊の間を置きながら彼は一番返事をし辛い言葉を自身に投げるのだった。


「姉さんが望んでいない? もう姉さんは居ないんだよ。居ない人物の思っていることが判るのかい?」

「ーーッ」


ずるい。アースグレイ・リアンがよく理解しているじゃないか。なのに居ないからって理由でその答えを否定するのか?

命を賭して守ってくれた姉のことを。

流石に私は変わらない相手の強情さを通り越した捻くれた性格に呆れすら覚える。


「悲劇のヒロインならぬ悲劇の天才ね」

「なんとでも言ってくれ。僕はもう行くから」


これ以上は話の無駄だと思ってか、彼は止めていた歩を進める。まあ、始めに奇遇ねからの絡みなのだから大分話し込んだ方だろう。此方としてもあれだけ頑なならもはや話し合いの余地はない。

ただ最後に今一度問う。


「考えを改める気はないのね?」

「諄いね。何も変わらないさ」


そうして私達は別々へと解散するのだった。



学園から少し離れた校外の一角。そこさ大きな時計台が有名な小さな村。時計台から見渡せる景色には綺麗に学園と満月が合わせて拝める見晴らしが良い秘密隠れ家みたいな場所。

月夜だけの灯りの中に一人の少女がいた。

何かを口にしようとしている。

だがそれは叶わない。

何故なら彼女は口に縄で縛られて喋ろうにも喋れないからだ。否、助ける為の悲鳴を上げれないのである。


「あははー! すごーく怯えた表情だね。私は好きだよそーんな絶望的で恐怖に包まれた姿。向こうの世界ではお目にかかれないからね」


少女を金色の瞳で見下ろす不気味なこれまた幼い黒衣に包まれた少女が楽しそうに言う。

ただその姿は明らかに人間ではない。人型ではあるが、弧を作る口の隙間からは鋭い犬歯が覗く。或いは犬歯よりも尖っているそれはまるで食べ物以外を摂取する役目を持ったかのようだ。

が、特徴としては他の方がもっともっと衝撃がある。

まずは金色の頭から伸びる細い二本の角。まだまだ成長段階なのか、時節優しく撫でる不気味な彼女。

それとは別に黒衣の内から突き破るように生えながらも角に合わせた控えめな翼。容姿からしても子供ではあるが、十分過ぎる恐怖を与える。

そう。彼女は正に悪魔だ。


「んんんッーー!!!」

「なになに? 全然判らないや。いやぁ、これでも人語は覚えたつもりだったんだけどなあ」


姿は違えどあどけなさがある見た目なのに話していることは理不尽な意地悪でしかない。

彼女は人差し指で喋れない少女の顎を持ち上げてその涙で潤む目を見つめる。


「君はとても美味そうだ。新鮮な汚れのない肌、適度な脂肪や栄養が循環している綺麗な血。更には唆る怯えた仕草。さあ、もっと私の食事を楽しませてくれないか?」

「ぃぃい………ぁぁああぁッ………」

「だから判らないんだって」


飽きたかのように素っ気なく吐き捨ててーー。


「んんんんんんッッ!!!?」


少女は幼いながらにしてあっさりと灯火を消してしまった。

身体をびくんびくんと痙攣させてあらゆる場所から液体を垂れ流しながら力なく倒れる。その首筋は二つの点型の傷を作り、微弱な血を流す。

生気を失い、血の気が無い真っ白な肉体だけが残った。

悪魔は口から滴る赤を舌舐めずりしながらまるでお菓子を堪能した感覚の高揚した笑みを浮かべる。


「美味しかったけど、まだ物足りないなー。人間が美味なのは判ったけど上質さで言えば今ひとつだね」


一変して不満気な台詞を述べながら彼女は遠くに映るレミア学園を見据える。新鮮な光景に金色を光らせ、1人不気味に呟く。


「次は………あそこだね。ここら辺とは全く比にならない魔力を感じる。かなりのご馳走になりそう」


次の目的地を定めた黒衣の少女はバサッと小さな翼を広げる。


「あはは! 本当に人間の世界は美味しい餌でいっぱいだよ。精々この"魔天のエルドキアナ"を満たして貰おうか」


そして空へと飛翔して笑い声を響かせながら闇に消えていくのである。



学生合同演習試合。

午後からの授業はそんな大層な名称のものであった。恐らく残りの学業はそれだけで終わるだろう。当学園とはまた別で外部からある程度の人数の学生がやって来て一緒に実技練習をするのだ。

何やら近々年に一度ある学園祭と同時に魔武闘会ーーアズールが開催されるとかでその一環で他校との交流も兼ねた授業らしい。

魔武闘会って古くないかしら?

どうでも良い行事なのだが、生憎天才魔導師として有名な私はこの合同演習は勿論、アズールにも参加せざるを得ないのだ。一応来期に向けての生徒の増員を狙って知名度を上げる為に強制的な参加。まあ、学費やある程度の自由も優遇されている代わりの天才の責務だから仕方はない。多分それだけ学園経営にも関わってくるからだろう。大人の世界は大変なのである。

そんな内事情を考えてしまう辺り、変に気が進まない。

唯一気が進むとしたら他校の学生に私が興味を抱く人材がいるかどうか。とは言っても既に学生魔導師で首位になれる天才がレミア学園に在学しているし、何処の学園かまでは記憶していないがへカテリーナ・フローリアなどの上位人を見ている。多少の優秀さでは霞んでしまうのだ。

それに悪魔と接触して戦闘した経験値も加わり、見る目が厳しくなってしまっていると思うから余計である。

果たしてこのカナリア・シェリーを驚かせれるのか?


「ーーって何か凄い上から目線だわ私」


盛り上がる感情の情緒が下降して憂鬱な気分になる。

何故か? うん、正直に言わせて貰おうとかなり昨日の件で不安定になっている。

だって化物だとか色々言われたし、あんなに拒絶するようなーー否、拒絶されるのも滅多にないし、強がってはいたもののやはり傷付く所はある。

普通女の子に向かってああも酷い対応するかしら? 思い出すだけで心がモヤモヤした気分になってしまう。故に自分の人格がブレブレになるのだ。

こんな事で午後の授業まともに受けられるのかすら不安を覚えてしまう。人が変わるのは簡単ではないと言っていた自身が簡単に変わってしまっている感じだ。ここ最近は色々と自身が変である。


「でもそれもカナリア・シェリーって訳になるのかしら?」


はあ、と嘆息を漏らしているとーー。


「あらあら? 珍しい姿を見せていますわね?」

「げっ………貴女は………」


露骨に嫌そうな態度で返すその相手は、栗色の蒔いた髪と水面のような透き通る白藍の瞳が特徴的で華奢な同学年少女。

何処ぞの私を束になって報復して来るテレス・ミレイユとは違い、誠なる上級貴族の振る舞いと口調で誰からも憧れられるレミア学園の花形。

すっかり忘れていた。

実力派魔導師【無暴】や、学生首位のリアンよりももっと質の悪い輩がここにいた。どれくらいかと言えば私より酷いだ。自覚している自身が認めるやり辛い相手。

彼女はシルビア・ルルーシア。

またの名を【絶対戦略】。

エイデス機関の連中すら才覚を認める天才策士であり、九大貴族のシルビア家次女。そしてレミア学園の生徒会長なのだ。

とにかくカナリア・シェリーの大の苦手な人物である。


「品がない言葉を使いますねシェンリン?」

「その呼び方は止めて」


東南大陸のとある中華民の名前みたいなあだ名を付けないでほしい。悪びれもなさそうな素の雰囲気で言うから尚更だ。

だから貴女が苦手なのよ。こんないつの間にか親密な関係に見えそうな運びでさり気無くからかってくる。

害する敵ではない、とは現時点では思ってはいるけど単独で襲撃組織と相対して撃破している経歴もある。それも殆ど魔法を使わずにだ。

魔導師としての才能は当然此方の方が持ってはいるが、この私でも彼女の頭脳には敵いはしないと考えている。

そんな先入観もあり、苦手意識が付き纏っているのだ。確か入学当初の対面時に直ぐさまカナリア・シェリーの本性を曝け出されて周りが近寄らなくなったのもシルビア・ルルーシアが噛んでいた。

本人は事故だと弁解しているし、私も仕方なかったと割り切ってはいるつもりだったけどーー。


「機嫌が悪いですわね?」

「………色々あるのよ」


憂鬱な気分の今ではそんな余裕はないのだ。

軽い人間不信ですらあろう。


「………ところで、そろそろ午後の授業に急がなければ遅刻してしまいますわよ」


深く入り込まない配慮をして話題を変えてきて助かりはするのだがーー。


「嘘ッ、もうそんな時間?」

「合同演習でのシェンリンは学園の代表なのですから遅刻は許しませんよ!」

「代表ってそう言えば貴女も一緒でしょ!? それとシェンリン呼ぶなッ!!」


駆け足になる自身の後ろをついて来る栗毛の少女は実に愉快そうであり、楽しんでいる。

因みに身体強化魔法による速力向上をしての進行に難なく距離を空けないのに驚かされた。一応結構な速さで、並大抵の魔導師なら置き去りにされる筈なのだ。あまり魔法の才には疎いとかくっちゃらべてるが十分な技量である。

やっぱり読めないわこの策士は。


「そんなに急がなくてもこの速さなら余裕過ぎますわよ?」

「じゃあ貴女は普通にすれば?」

「冷たいですわね。それでは殿方からモテはしませんわ」

「ーーッ余計なお世話よッ!!」


あまりにの唐突な言葉に力んだ返事をしてしまう。これではまるで図星みたいだ。実際フラれたようなものかもしれない所が根本にあるのだろうけど。

そうこう馬鹿なやり取りをしている内に合同演習場所である1学年専用の広大な地表が視界に入る。

案外本当に余裕過ぎた到着だ。

予鈴も鳴る前であり、まだ同学年生徒達がちらほら伺える程度の数。そしてその辺りから少し外れた場所のいる集団が目に入る。見慣れない麹色の制服は他校である証明だ。確か大都市セントラルに2校ある片割れが今回の合同演習相手。

学園名はセントラル第1ミネア学園。

中央大陸ど真ん中で、エイデス機関からのご教授もある完全な精鋭しかいない有名魔導学園。



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