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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第ニ章 ただそうしたかったから
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−悲劇の天才−


「やっぱり最初に手紙で屋上に来てもらうのが定石だと思うんだよね」


何故か自分のことでない話題を頬を染めてニヤつきながら偉そうな口を叩いている菖蒲の少女を見てカナリア・シェリーは心中で様々な文句を抱いていた。

一応貴女まだ恋人を作ってもいないし、何処で覚えたかも知らない知識をあたかも経験談のように語りながら此方が違うと否定しているのに全く話を聞かない態度をどうにかしてくれないかしら?

まずは話を聞いてから話をしてくれ。

とりあえず現状はオルヴェス・ガルムからの情報を念頭に置きながら様子を見る停滞状態を数日程している。何せまたあの厄介な化物が付近に居るかもしれないなんて聞いたら下手に動けやしない。どれだけ信憑性があるかは不明だけど、無視は出来やしない訳だ。

だが、可能な限りの行動はしている。まあ、結局はやっている事に変わりはしないが。

いつエイデス機関からの要請もあるかは判らないのでやはり大した動きは控えてこうして他愛もない会話で落ち着いている。


「思春期の男の子なら絶対手紙を貰うだけで意識するから心を掴む機会じゃないかな?」


学園の屋上で青春的な内容を並べているのは普通なのだろうけど、中々どうして噛み合わないのか。かれこれそんな好意を持っていないと二桁の回数は言っているのに通じないので私は諦めて現在はそういう事にして話を進めている。まるでこう言う選択肢をしないと進行しない遊戯をしている気分だわ。


「そんなものかしら?」

「男の子は少しの甘い誘惑で揺れるチョロい生き物なんだよ」

「なにそれ。怖い」


いや怖いのは純真無垢な笑顔を振りまきながらさらりと述べるノーライズ・フィアナであろう。もしかしてそれは作り笑いではないかと思えるような発言だ。一体どこでそんな誑かして来たのだろうか?

因みに多分リアンはチョロくいける人物ではない。

ただ、もしそんな簡単な風に相手を操作出来るならまるでーー。


「まるで魔法よね」


ふと漏れた言葉。実際精神操作系の魔法なんてのは存在するのだが、少しまた意味合いが違う。

自分の思い通りになる所業の時点で既に魔法の域として解釈してしまうものだ。例えば科学だって一瞬の魔法とさえ表現しえ得る。物は言いようだけど正直魔法とそうではない境目が判らなくなる。皆が信じれば浸透してしまう常識としてなっているのだ。

こんなの他愛もないはおろか会話として成り立たない阿呆らしい中身のない内容である。話から脱線していて、それこそ戯言だ。


「へー、深いねシェリーちゃん」

「!」


そんな意味不明なボヤきを彼女は真剣に返答していた。表情は相変わらず楽し気な雰囲気を醸し出してはいるが、いつものお茶らけた態度とは違って興味を抱いてくれているような感じだ。

意外も意外。普段は全然噛み合わないのに変な場面では妙に通じる。だからこうして友達として機能出来ているのだろうか?

よく判らない。


「ところで魔法で思ったんだけどさ………。この世で一番強い魔法って何だと思う?」

「………唐突ね」


あまり意識した事のない議題だ。魔法は千差万別。一概にどれが凄いかも使役者の技量で大きく変わるし、公式、非公式を一緒にするなら尚更だ。特に強いなんて定義で言われても万人からしたら全部強いのではないか?

漠然とした問いへの返しをカナリア・シェリーはこう答えた。


「決め付けは出来ないけど蒼の魔法じゃないかしら?」

「あー、大戦や【黒の略奪者】で振るわれたとされるやつだね」


正式な公表がされた訳じゃなく、単なる噂に尾ひれがついたような情報だけど、歴史の節目に当たる場面で活躍された魔法がやはり強いのではないか?

千なる兵士を薙ぎはらっただとか、城級の巨人すら討ったとか最上級を遥かに上回る出力の力であったとかされるくらいだ。既存しているどの魔法よりも1つ飛び抜けたものなのは確かである。

この目で見てみなければ測れないが、恐らく自身の原初魔法では及ばない域だとすら考えている。

諸々の見解だ。


「特殊な異種魔法や、禁忌なる破邪魔法だって十分な強さを秘めているけど単純な破壊力は所詮人が生み出したものだからしれているのよね。そもそも人間に使えるのがこの世を覆す魔法では有り得ない。それこそ正に神の所業になるわ」

「成る程。天才ならではの基準がそうなんだね」

「何か正解には遠いみたいな言い方するわね?」

「だってシェリーちゃん知っていることでしか話さないんだもん」

「現実を追求しなければ比べられない答えよ」

「夢がないんだよ。自分で魔法を創り出すのだからもう少し斜め上の発想があるかなって思うんだけど」

「そんなに言うならフィアナは何が一番強い魔法だと考えるのよ?」


事実上まだまだ一介の学生で、しかも優秀な天才ではない駆け出し魔導師からダメ出しされているのだ。まあ、突っ込んでいる点は間違いじゃないけど私が納得出来る解答を持ち出せるのか? 普段の彼女の振る舞いからはあまり想像出来ないが、聞いてみようと耳を傾ける。


「私ならそうだね………」


風が吹き、菖蒲色が視界にチラつく。その隙間から覗く同じ色の瞳は此方を映し、何故か底を見透かされたような気分にさせた。

そんな口元は相変わらず弧を作り愉快そうな雰囲気を見せる。不敵な笑みはカナリア・シェリーを真剣な趣きにした。

ややあってノーライズ・フィアナはこう述べる。


「魔法を無くす魔法とか?」

「ーーはい?」


えーと、と首を傾げる自分。疑問形の言葉の中身がいまいち理解するのに時間を取らせる。

魔法を無効化するという意味だろうか? その類なら普通に現存する魔法だ。相手の魔法を封じ込めたりや、何なら私が持つ原初魔法にだって【強制中断】なんて芸当を可能とする技もある。別に夢も何も有りはしない。

しかし、どうやら彼女の伝えたい事は違うようであった。

だから再び言うのだ。


ーー魔法そのものを無くすのだと。


「世界から魔法の概念を消せば誰もが一定の水準まで弱体する………それが最強の魔法って訳?」

「何が一番強いってなるとそうなると思うんだよね」

「アンチマジック的なものね。この世界においての法則を曲げる性質」


ある物を無くすのは簡単な事ではない。全ては輪廻の如く繰り返していく。何かが消えれば何かが生まれ、何かが消えれば再び何かが生まれる。そんな循環する構成の枠組みを無くすとなれば他のものにも影響が出る。

単純に菖蒲の少女の意見は正しい。根本的な問題を突いた答えだ。

しかし前述した通りである。


「実現は不可能ね。言ったでしょ? 神の所業よ。どれだけ脅威だろうが使えなければ果たして意味はあるのかしら?」

「えー、やっぱりシェリーちゃんは夢がない」


への字に口を曲げながら文句を言う姿はいつも通りのらしい彼女ではある。先程の振る舞いが嘘のようだ。

と思えばまたもやこんな台詞を吐くのだった。


「だったら神になれば良いんだよ」

「………」

「ーーなんてね?」


目を見開く。思ったことを口にしたか、真面目に発したのかを読み取れはしないが当たり前のように言うのだから呆気に取られる他ない。


「………馬鹿ね」


苦し紛れみたいに私はそう答えるしか出来なかった。

結局何を話したかったのかすら判らないままに昼休みの時間は終わりを告げる。



何気無い雑談が脳裏をよぎりながらあっという間に放課後。今回は大人しく帰路につこうと既に学園を後にした私。流石にまたもや変な事態に巻き込まれはしないだろうが、前例があってしまった以上何が起きるか予測は叶わないのでただの下校にすら過敏になりながら歩く。

天才である自身がそんな警戒をしなければならないのかと考えたりもするけど、まあ無難な対応をしておくのは正解だろう。暫く心身共に休まる時間がなかったから本日くらいは何も意識せずに休ませときたいものだ。誰だって休息は必要不可欠。

今日くらいしっかりと休んで頭を冴えさせようと決意した瞬間だ。


「………」

「あ………」


よりにも寄ってこんなタイミングで遭遇してしまう。

遭遇と言っても悪魔ではない。悪魔なら間の抜けた台詞よりも先に魔法が放たれている。そうしないのは敵ではないからと、予想外の人物と校外で出会してしまうからだ。

相変わらず素っ気ない態度をする無礼極まる少年に私は無駄に余裕そうな佇まいで。


「奇遇ね。リアン君?」


凄い悪者感が出ていると自覚しながらも崩さずに接するのだった。

彼はげんなりした様子で無言でやり過ごす。多分関わりたくないから故の行動だろう。


「あら? 折角のお話を無視するの?」


内で善なる私が「止めろ」と警告をしている。柄でもない絡みを本能が恥じているのだ。正直何でこんな入り方から話し掛けたのかすら疑問する。

しかしそれすら無視して碧髪の少年は背を向けて去ろうとしていた。平然とした表情もさることながら中々な冷静さだ。眼中無しとはこの事であろう。

だから諦めるなんて選択肢もないけど。


「ーーいつまでそうしているつもり?」

「………」


足が止まる。今の言葉はそんな彼でもやはり気に掛けるらしい。

家族をーー特に話を聞いた限りは姉の存在を失ったのが相当響いて、傷になっているのは大体予想出来る。もはや爪痕だろう。修復が不可能な深い深い傷。何年もずっと眼前の態度を変えずに維持しているのだろう。

辛くない筈がない。だけど本人は幸せを求める資格なんてないと心に蓋をしてしまっているのだ。救うだけの力を持っていながら救えなかった戒めとしてなのか、またはそれを罪としているのか。

ではこれからもそのままで生きるのか?

いや違う。

生きていけるのか?

どれだけ年月が経っても解決なんてしないのは彼が一番判っている。判っていてもらわないと困るくらいだ。

いつまでも罪悪感に囚われた人生を耐え抜くのは絶対に身を潰す。精神が持たないのだ。

確かにアースグレイ・リアンは特別で優秀な人材だ。だが内面ばかりはどんなに取り繕っても所詮人であり、子供なのである。それはこのカナリア・シェリーだって変わらない。

判っているからこそ尋ねるのだ。


「貴方が背負った所でどうなるの? 結局塞ぎ込んで怯えているだけよ。そんな姿を誰が望んでいると?」

「………」

「お姉さんだって望んでないわよ」

「ーーッ」


ズバリと踏み込んでそう言い放った。何れ誰かが同じ台詞を口にするのだ。なら誰かの代わりに私が引導を渡そうじゃないか。


「もう良いんじゃないかしら? 自分を許しても………そもそも悪いのはーー」

「随分と善人ぶるじゃないか? カナリア・シェリー」


その返事は嫌な含み方をするものであった。

反射的に目付きが鋭くなる。まさか為を思っての言葉をこうも不快感を与える返しでしてくるとは。

彼は此方へ振り向き、崩さない表情と態度のままに続ける。


「あんたみたいな人の皮を被った化物が善人面して何の特がある? 怪し過ぎて逆にワザとらしく聞こえるね」

「アースグレイ・リアン。私を怒らせたいの?」


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