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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第ニ章 ただそうしたかったから
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−唯一の天才⑤−

そしてついに事件の発端が起こる。

アースグレイ家では子供達が魔法を身に付けていく学生になる前に一種の通過儀礼として子供達で模擬戦をさせるのだ。そうして今後の教育方針を見直し、成長を促す。とは言え、必ずしも子供達は格差をつけさせる訳ではなく互いを高め合うべくを重視としたものであり、代々の名残りを余興がてらの儀式としてする風習だ。

そうなれば自ずと何が、誰が正しいのかも見定められて子供のみならず親も考えを改め直させる事が出来る。

当主のアースグレイ・クリフが揉めている母親達を仲裁しなかったのはそれがあるからだ。詰まる所、彼女達が納得をしなければ解決しない問題なので、変に肩を持った行動をするよりかは、現実を直視した方が良いのである。

百聞は一見に如かず。

ついに儀式当日を迎えたリアンと姉のアースグレイ・ディアナは対峙する。

それでもやはり実力差が圧倒だったのは明らかだ。戦うまでもなく、結果の見えている勝負。それが公になるかならないかの違いだけ。

皆は完璧にリアンの勝ちを疑わなかった。

正々堂々の勝負ならーー。

二人の姉弟の勝負を裏からベルモート・セシルが邪魔をする。しかもそれは碧髪の少年の命すら奪い兼ねない危険な展開を招いたのだ。

禁忌なる魔法。最も悪質で対処療法が困難な最低最悪の技の名は呪術魔法。効果は魔力の流れを乱すものと大層な脅威を抱かないように思われがちだが、幼い子供が喰らえば忽ち衰弱して危険な状態になってしまう。まだ自制仕切れない力だからそうなってしまうのだ。

だが呪いが彼を襲う事はなかった。

何故なら姉のディアナがリアンを守る為に盾になったのだからーー。

どちらにせよ呪術魔法の効果に耐えられはしなく、寧ろ未熟さで言えば彼女の方だ。もはやどうしようもないくらいに。

そして呆気なく希望もないままに静かにその生の灯火を消した。

本末転倒してしまった悲劇にベルモート・セシルは狂乱する。矛先は生き残ってしまった碧髪の少年だ。我が子がこんな最後になったのはお前のせいだと襲う。

それを母のマライア・エミリアが止めに入るが、どちらもが死んでしまう最悪の形で終幕となる悲惨な結果であった。

瞬く間に事件の情報は残りの九大貴族へと広まり、アースグレイ家の評判は地の底まで落ちた。

残されたリアンはーー。

一連の騒ぎから笑顔を見せることはなくなってしまった。



「ーーと私の知っているのはそこまでさ。まあ、何処までが正しいのかは当人しか知らないから何とも言えないけどね」

「………」


陽の沈んだ夜の学園で月明かりに照らされるオルヴェス・ガルムは浅く息を吐く。気分の良いものではない。まるで関与していたようなやるせない態度だ。

聞いているカナリア・シェリーからしたら更にどんよりした気持ちを抱く。まさか肉親を失う過去があったなんて考えもしていなかった。しかも当日なら周りからの当たりも厳しかったと思われる。辛過ぎる道程を歩んでの今だ。

これは正直大人達のエゴが生み出したが為の事件であり、子供達には何の罪もありはしない。

なのに彼は全てを自身が原因として罪を背負っている。まだ少年と呼ばれる年齢で抱え込むには強大なものであろう。その結果が最近では虐めの標的だ。

幾ら何でもーー。


「同情かい?」

「!」

「それは大人として言わせてもらえばあまり良いものではない。君は彼と同じ境遇の存在と違うのだから」


返す言葉がなかった。あまりにも過酷な人生を体験なんてしていないのだから同じ目線で話せやしない。軽々しく「判るよ」とか言える立場ではない。

入り込む余地すらないかもしれない。

しかしそうなると。


「本人の意思次第さ。どれだけ間違っていようがアースグレイ・リアンはその生き方を望んでいる。生きようとしているだけでも立派なものさ」

「………」


そんなものなのだろうか? 今一釈然としない言葉に沈黙する自身。確かに言い分は正しい。彼は罪を背負って生きていくのを決めたのだから納得がいくまでずっとあのままであろう。孤独に一人で過去を引き摺りながら傷付く。

良いのか? 本人が良くても良いのか?

このカナリア・シェリーは仕方ないで済ませられるのか?

姉の亡霊を追い掛ける姿を放置しているのが最良であると思えない。現在の彼は生きてはいるが、その生き様は死んでいると同じだ。

なら放って置くのは見殺しと同意。


「それでも私は横槍を入れたいわね」

「おすすめはしないけど?」

「人は簡単には変わらない。だったら変えれば元には戻らないでしょ?」


もう一度。昔でも今でもない全く違う新しいアースグレイ・リアンに変えれば万事解決。そこまでする義理があるかと聞かれたら、無いとしか答えられないけどーー。


「正直拘る必要なんてどこにもない。ただ虐められている姿を見た後に事情を聞いて黙ってられる程、中途半端な人間ではないのよ」


天才なら完璧主義を目指す。

常識や理性を主にする自分の口から出たものとは考えられない発言である。

単なる気まぐれ、いや勝手な我儘だ。此方の価値観で行動しようとしているだけの無粋な真似。

だってそれこそ仕方ないじゃない。

私が私のしたいようにして何が悪い? この異端の天才である私が。


「止めはしないし、もしかしたらに期待して話したが………きっと難しいよ?」

「上等ね。あの捻くれた性根を叩き直してあげるわ」

「怖い怖い。でも君のそんな一面を見れただけでも私やエイデス機関からしたら収穫だったかもしれないな」

「失礼するわね。そんなに冷たい人間に見えるかしら?」

「有名人だからね。それなりに賛否両論な噂が広まっているのさ」

「………困ったものね」


溜め息を吐きながら立ち上がる。もう粗方の要件は済んだであろうから長居する理由もない。特に今日も今日とて色々なことがあり、先日の件も含めて自分でも疲れていると自覚している。

とにかく早く休みたくなってきたのだ。

そういうことで私は御暇すると彼に告げる。特に彼方も引き止めたりはせずに配慮してくれる。

さて、収穫は十分だ。これ以上の面倒はごめんだわ。

ーーとそこへ。


「あ、最後に1つ忘れてた」

「まだ何かあるの?」

「結構大事かもしれないね」


それを忘れていたのかと呆れ気味になるが、暫くはこの純白の青年とも接触することはないだろうから聞いておかなければならない。

一体どんな内容なのか? 長くならない話であれば良いくらいな呑気な気持ちで構えていると。


「実はここらの近辺で新たな悪魔の情報が流れているようなんだ」


最後より最初に言うべき情報だと私は腹を立てるのであった。




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