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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第ニ章 ただそうしたかったから
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−唯一の天才④−

そう。直に見学しに赴いた中にあったもの。

天才ことカナリア・シェリー。生まれてから天才だったような自分は人の下に付いた記憶はない。何故なら自分より上と認めるに足らなかったからだ。

だが、有能な人材が集うエイデス機関ならそんな垣根もなくなる居場所になると思っていた。故に見学を計画する以前から下調べがてらに情報を仕入れていたのである。

純白の青年の言葉を借りると、少数精鋭や政府認定の天才組織。魔導師なら誰しもが憧れる安泰の企業と聞こえが良い。

ただ逆にこんな事も耳に入る。

実態があまり判らないや何人所属しているのか、または活動内容がいまいちと不明な点も多くあり、中でも一番重要なのがーー。


「肝心な組織の首脳が未だに公開されていないのよね? 何でなの?」

「………」


幾ら自身でも従う為の相手が判らないのに彼等の指示に従うのは何か抵抗がある。本当にオルヴェス・ガルムが言ったことが首脳が出した方針なのか? 独断で彼が判断したのか?

その返答次第ではかなり影響を受けるだろう。一枚岩でないとも考えるし、単純に組織全体が何らかの企みを抱えているかもしれない。

桜髪の女性の忠告が試される良い機会だ。


「信頼って言うなら此方も信頼が必要よ。まだ応じていな今の内に聞くのは当然の権利なのは貴方なら理解出来るわね?」


押し黙る九大貴族相手に物怖じせずに問う。命に関わる協力を求められるのだから主導権を握られている立場にはいたくない。しっかりと納得する理由があってようやく従うのが道理。こればかりは譲れはしないのだ。

先程の件があれば尚更。

多少上から物申してはいるけど。


「仮にも私はエイデス機関の肩書きを抜いたって九大貴族の人間だ。立場を弁え、言葉は選ばないといけないとは思わないかい?」


純粋な権力の圧力を感じた。学園の有象無象とは違い、本気で理不尽すらまかり通してしまえそうだ。まるで断れない話を提示をされた気分にすらなれる。

カナリア・シェリーは天才ではある。が、偉い身分とは全く離れているのだ。生まれは平民出だし、相手は名高い存在。ここは前述しているように馬鹿でも天才でも2つ返事だ。そこで駄目でも今の脅しに近い言い方をされたら断れはしても何も聞かずに応じるのが賢明。

それでも喰い下がらない私はやはり誰かの下に付くのは向いていない性分なのだろう。

彼の言葉を全く意に介さずに返す。


「だったら願い下げね。嫌々協力する必要はないのだから」

「君は自分が力ある存在だと自覚しなければいけない。それを私情で発揮しないのはどうかと思う。その気になれば一声で君の立場は今後大きく変えられる」


事実だろう。相手は九大貴族の中でもかなり大きな人物。嘘すら真実になれる権力を持っている。ただ、彼方も借りれる力は借りたいのが本音だから喰い下っているのは判った。そして犠牲を極力避ける為に必要な戦力として機能する自覚はある。だから我儘みたいなものだ。

しかし彼は聖剣に選ばれた人間だ。これまでの言葉が何処まで本気だなんてカナリア・シェリーには看破出来る。


「貴方がそんなセコい手を使う三流じゃない事は判るから意地悪しないで素直に教えたらどう?」

「………やり辛い性格だよ。信頼がどうとか言っていたのはどっちだい?」

「先に持ち出したのはそっちでしょ?」

「敵わないな。………判ったよ。と言うか私から話せる情報はあまりないんだけどね」


ようやく観念した純白の青年だが、芳しくない雰囲気を見せる。

どういう事なのか尋ねてみると。


「実はエイデス機関の首脳が誰なのかは一人を除いて皆知らない。知らされていないんだ」

「嘘………じゃないみたいね」

「残念ながら。私が代理でまとめているけど、首脳を知るその人はあくまで指示をそのまま伝えて私がそれを判断して命令しているだけ」


それは本当に居ると言えるのか? 外部からはおろか内部からも全貌の見えないのは些か不気味ですらある。まるで幽霊かのような透明に透けてしまう秘密結社みたいな存在。確かにこれなら先程の自分の出した条件は当然飲めやしないので多少強引な手法で誤魔化そうとしたのだろう。

まあ、オルヴェス・ガルムのそんな事情による言動はさておき、いよいよエイデス機関に気をつけろとの忠告を信じるべきなのかもしれないわね。

幾ら何でも一枚岩じゃなさ過ぎるのだ。見ていれば各々がバラけて活動する個人行動な印象だ。取り纏めがいるとは言っても全権を握っている訳ではないから独断の行動をする者だっている。統率力に不足したひと癖ふた癖ある連中の集まりで、肝心な頭は常に消息不明。人材不足な影響も受けているかもしれないが、それにしてもなのだ。

では私はどうするべきか? 加担するには少しばかり抵抗を感じさせる。魔女の言葉を信じるならば暫くは距離を置いて静観するのが賢いとは思う。ただ逆に敢えて飛び込んで探ってみるのも面白いのではないかと考える挑戦的な自分もいた。

これでは一体何と戦っているのやらと若干思うのは否めないけど。


「本音は助力してほしいが、拒否権はある。気に食わないなら無理強いはしない」

「あら? やけに弱腰になっているわね」

「主導権を握られてしまったようなものだから仕方ないさ。それに今回は相手が相手だ。遊びじゃないのは君も十分に理解しているのは伝わる」

「そうね」

「私もそこまで踏まえて改めて聞く。力を貸してくれないかい? 可能な範囲なら報酬も用意させてもらうよ」


話が振り出しに戻る。この選択肢が後にどんな変化を与えるかは判らない。悪い方向に傾くのか良い方向に傾くかも現時点では天才の私ですら考えが及ばない。恐らくは分岐点にだけはなるだろう。

難しく入り組んだ分岐点だ。

だがどうするべきかの答えはある。

魔女は何も必ずそうしろだなんて事は言ってないのだから。


「良いわ。判らないのが判っただけでも十分よ。力を貸すわ」


私はそちらの道を選んだ。


「ただし、お願いがあるの」

「条件の間違いじゃないのかい?」

「エイデス機関としてになら条件でも良いけど私は貴方個人に頼みたいのよ」

「ほう。君から直々にとはね。ただそれも期待に応えられるかだけど」

「アースグレイ・リアンを知っているわよね?」

「ーーとと………意外な人物の名前が出て来たね」

「この学園の生徒よ。知らなかった?」


丁度良かった。何せ彼も九大貴族の一人で、エイデス機関所属なのだから恐らく此方の知りたい情報は持っている可能性が高いのである。手間が省けるだろう。

まあ、あまり期待し過ぎるのもどうかとは思うから儲け物程度にしておくけど。

とりあえずあの碧髪の少年についての一連の流れについてざっくりと事情を説明する。大体が個人的な興味本意ではあるが。


「成る程。確かに私も彼には大いに期待を寄せていたからね」


話題への食い付きは悪くなさそうだ。これならまだ悪くない話が聞けそうな気がする。


「そうでしょ? だからーー」

「彼には期待しない方が良い」


その浅はかな考えは一転した。まるで周りも完璧に諦め、見限ったような喋り方に少しばかり憤慨しそうになる。


「何でよ? このままにして置くのは絶対に宜しくないのは判るでしょ?」

「こればかりは本人が自力で乗り越えなければ解決しないんだ。そうしなければ現状も変わりはしないだろう」

「そんなに人を変えてしまう出来事だった訳? だって人ってのはーー」

「簡単には変わらないかい? そうだね。根本的に変わることなんてまずないと思うよ」


故に今の彼が出来上がったんだ。と重々しげに純白の青年は答えた。

どうやら一筋縄ではいかない領域のきっかけが底に潜んでいるようだ。


「昔のリアン君は………って言わないでも判るかな?」

「明るく正義感に溢れた子供だったとか?」

「ありふれてそうな人物ではあったかな?」

「教えてもらおうかしら」

「あまり気が進まない話だけど、もしそれを機に彼が再び変わるなら此方としても有難い」

「それは九大貴族として? それともエイデス機関として?」

「両方だよ。リアン君は間違いなく学生の枠で一番飛び抜けた魔導師と断言出来るからね」


過大評価とまでは言わないが、オルヴェス・ガルムにすらこう言わせるのだからやはり碧髪の少年は類い稀なる天才なのだろう。

先日のへカテリーナ・フローリアも実力派魔導師で【無暴】の2つ名持ちではあったが、それにすら勝るものを持っている。

所謂化物ではないが、染みた力を秘めている。

だけど少しばかり自身を差し置いての物言いには抗議をする。学生の中でなら私よりも優れている訳だ。異端の天才と謳われている名が嘘になってしまう。必要ない才の割には意識する小者みたいに思えるが、こればかりは同じ立場相手では納得がいかない。

しかし彼は溜め息を吐いて答えるのだった。


「いやいや、学生の中でって話たじゃないか?」

「え?」

「君は学生の枠を超えて魔導師全体の中の最高峰だよ既に。最早学生枠では比べられないさ」

「あ、あらそうだったのね」

「悪魔と渡り合える学生なんて君しかいない。化物だよ」

「そこまで言われると嫌なんだけど………」

「………どの答えが良いんだい?」


所謂化物は私だった。

変な方向に話が脱線してしまい、コホンと咳払いをする呆れた純白の青年は気を取りなおしてアースグレイ・リアンの過去について語り始めた。


「少し………長くなるよ」

「承知してるわ。人の歴史程時間を労することないから」

「判った。じゃあまずは7年前の事件が終わってからの九大貴族が立ち上がった頃から話すねーー」


そうして私も本腰を入れて話を聞き入れる。

あの少年の壮絶な歴史をーー。



7年前の【黒の略奪者】と呼ばれる世界を震撼させた凶悪犯罪集団による襲撃。被害を被った大都市セントラルは再び再建を目指した。

復興支援をした九大貴族。オルヴェス家、へカテリーナ家、帝家、レイニー家、マラドール家、ヴィクトリア家、アレスター家、シルビア家。

そしてアースグレイ家。これらが再建と同時に国家政府と協力して世界を取り纏めるものとなる。

過程で様々な問題に直面はしたが、ほぼ滞りなく順調に再建は出来たと言えよう。後は政府認可のエイデス機関も含めた体制で安定と平和を維持すること2年。体制自体に不備はないが、良くも悪くも九大貴族の動きは昔よりも目立つのは避けられない現実であり、すぐ様荒は表面化してしまう。

最初で言えばレイニー家の領民からの摂取問題。これは大した事件にはならなかった。否、なる前に解決させたから事なきを得た。もし行動が遅ければまた違う未来になってはいたかもしれない。

それを機に不祥事の対策として色々な取り決めを九大貴族で設けた時点ではアースグレイ家は時すでに遅かった。

当主の多妻制による繁栄。あそこは名家同士だけに拘らず、平民からも人選して貴族と平民の垣根を無くすやり方をしていたが、大きくなり過ぎた弊害を予期しておらず、身内問題で済ませられない事件が起きてしまった。

アースグレイ家系殺害事件。

物騒過ぎる名に相応しい気分を害する事件だ。ややこしい内容で、前当主のアースグレイ・クリフが最初の申し子である長女の誕生から暫くして第二の申し子を平民との間に誕生した子供に決めた。

それがアースグレイ・リアン。幼少から片鱗を見せていた才能により、周りからも高い評価を得ていた。しかし逆に長女が浮いてしまう。良くも悪くもない平凡な才であるが為に、名家の顔が立たなくなる事態になってしまうのを避けて表側の活動を制御させた。

これは長女の母親である旧姓ベルモート・セシルが暗躍していたのは後に判明された。まあ、よくある世間の体裁を良くしようとしての浅はかな判断だ。娘よりも平民との間に生まれた子供が陽の目を見るのが許せなかったのだろう。

ただ、次はリアンの母親であるマライア・エミリアが反感する。無理もないが、そこはベルモート・セシルの権力に物を言わせて圧力を加える。そうなると平民出の彼女からしたら動けなかった。

結局は親が決めるつまらない世界だって話だ。

が、罪のない子供達はまたまた悲しい事に当主の理想形と言える程に仲の良い姉弟であった。例え才能にどれだけ差があっても、大人の汚い所業があっても彼等は正に姉と弟で極一般のそれと変わりなかった。


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