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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第ニ章 ただそうしたかったから
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−唯一の天才②−



あれやこれやの内に気付けば放課後になっていた。相変わらず教師の話に聞き耳を立てないで授業を聞き流す不良っぷり。だが仕方がない。今は別件の思考で頭の中がいっぱいなのだ。

前の悪魔の件について古い文献や歴史を漁ったりして多少なりに情報を集めたり、エイデス機関の動きを辿ったり、アースグレイ・リアンの事件について調べたりとしているのである。大変忙しいのだ。

悪魔については対峙している分、事の深刻が大きいので気になって可能な範囲で調べた結果、どうやら目立つ動きは現時点ではなさそうだ。実際極秘事項として扱われているから情報漏洩していないだけかもしれないが、それを踏まえての各地の騒ぎに気になる節はなかった。

逆に静観されているような気がして余計に不気味である。

たまたま堕天のルーファス相手の戦いは犠牲なく追い返せたが、別の場所ではあの織宮 レイでさえ歯が立たない悪魔すら潜んでいるのだ。

とにかくその辺は警戒するしかない。

そして碧髪の少年のとある事件。これまた多少の片手間では難しい機密のようだ。携帯端末ではどれだけ調べても入り込んだめぼしい内容はない。こんな調子ではクラスメートに聞き込んでもあまり進展はないだろう。

恐らく知っているとするなら彼と同じ九大貴族くらいだと思う。だからこそ孤立された立場に追いやられているのだ。事情がそこまでの問題なら最悪何も得られないかもしれない。揉み消すのは得意な階級の世界だ。公表したら関係する面々が悪くなくとも悪者にもなるやもしれない。

しかし、仮にそうだとしたら中々難しい調査である。何せ九大貴族は誰も彼もが各地に散らばっていて、このレミア学園に居るのもアースグレイ・リアンだけ。他は列車を使わなければならない程に離れた場所にいる。

例えばセントラルとかね。つい先日行ったばかりで、しかも二人の九大貴族にすら出会しているのに何とまあ噛み合わないことか。

せめてへカテリーナ・フローリアの連絡先くらい聞いとけばと後悔してしまうが、もうその件も少しの間は保留にするしかない。


「後は………何だったかな?」


また別で引っかかるような事があったのだけど全然それが思い出せずにいた。自分にしてはど忘れするのは珍しい。本当に何だったのだろうか?

浮かばないのなら大した事案でもないと思いたいが、どうしても拭えない不安みたいなモヤモヤが奥にある。それなのに何故記憶の引き出しに潜んでないのか? だけど確かにこれまでの流れの中に噛み合わない何かがあるのだ。

霞がかかって見えるとはこんな事を言うのかと悪魔や、アースグレイ・リアンの問題よりも悩んでいるとーー。


『お知らせです。カナリア・シェリーさん。校内に在留していましたら至急来賓室までお出でください。繰り返しますーー』


これもこれで珍しい呼び出しの放送。正直まともな知り合いなんて居ないし、来賓室とは外部からの誰かである。尚更正体が見えはしない。

よく判らない呼び出しに変に違和感を覚えながら既に通り過ぎていたその場所へと踵を返す。


「………」


放課後ともあり、人気が外に集中して校舎内は私の足音だけが支配していた。

ーーカツン。

いや、もう1つあった。自身の歩く先の廊下を此方側に進む学生のものだ。まあ、流石に1人だけの廊下なんてのも時間帯的におかしな話だ。どんな理由かまでは知らないが、何かしらの用か居残りの学生だろう。私だって帰ろうと通ってたからかち合うのも普通にある。

このまま行くとやがてすれ違う形になるが、特にそれ以上の疑問は持たずに歩を進める。


ーーだがそんな普通の出来事で終わりはしなかった。


「………!」


空間が乱れた。感覚的なものだが最初に抱いたのはそれだ。いつも通りにしか見えない光景に異物が混じったような気持ちの悪いのに変わったとしか考えられなかった。

が、本当は乱れた訳ではない。特にこの場がぐちゃぐちゃに歪んだり、変貌はしていなくどちらかと言えば何ら変わりない景色である。

それでも違和感に満ちているのは明白なのだ。

だってーー。


「こんな外と中を隔てるように魔法を使ってまで一体何が目的なのかしら?」

「あっさりと看破されるなんて流石はーーと言おう」


交差するだけの眼前の学生から肌を刺激するくらいの魔力を当てられているのだから。寧ろ敢えて分かるように接触してきた節すらあった。


「最近色々巻き込まれて敏感になっているのよ」

「敏感か。それくらいが丁度良いだろう」

「と言うか何者? 明らかに学生じゃないわね?」


学生服は着ているが流石に雰囲気がそうは見えなかった。ただ女子生徒の制服を着ているだけの成人にしか見えない。淡い桜髪を腰まで伸ばし、大人挽いた綺麗な顔立ちに似合う左眼の下に泣き袋がある。落ち着き過ぎた様子が学園の生徒としては似つかわしくないのは明らかだ。

突如の緊迫する展開に警戒心を跳ね上げていると彼女は手を伸ばして首を横に振る。


「待て、敵対する気はない」

「なら早く質問に答えなさい。私は敏感になっているって言ったでしょ?」

「話すにもそんなに殺気を放たれたら私も困る」

「………殺気ね」

「何だ? 自分でも自覚がないのか?」

「………言われて判ったわ」


あの数段階上の環境を経た為か、そんな技術を無意識に習得して思わず使っていた自分に僅かに呆れながら少しばかり平常心を保とうとする。

そりゃあ私だって多少なりとも分別を弁えた秩序ある行動を遂行したい。変に殺気を出していた為に後々の未来を台無しにする愚かな結末はごめんだ。殺気は無自覚かもしれなかったが、どんな時でも天才な自覚はある。なら現状のカナリア・シェリーは合理的な判断をしていないだろう。

それは意に反する。


「多分大丈夫………感じ的にこれで問題ないわね?」

「そうだな。大分此方も気を抜ける」

「じゃあ、話してくれるかしら?」

「ああ、説明しよう」


やれやれ会話するだけでも一苦労だと溜め息を吐きながら壁に背を預けて聞き入れる体勢に入る。

そうして本題は始まった。


「だが最初に私は世間一般的にはあまり表立つ活動はしたくない。故にこうして貴女に密会をしている訳だ」

「要は他言無用ってことかしら?」

「話が早い。一先ずその条件を呑んでくれるか?」

「そっちから絡んどいて随分勝手なのね?」

「色々とあるのさ」


中々に窮地の立場に居る風に語る。そこまでの重要人物であるのか? 或いは危険人物なのか?

これだけ聞けば自ずと何者かが見えてきても良いのだが、全貌は全く持って掴めない。知りたければ素直に首を縦に振れば良いのだろうけど、聞いてしまえば最後なんて言葉も存在する。トントン拍子で従うのはあまり宜しくないのではないだろうか?


「仕方ない。必要最低限の情報の開示が欲しいのは普通の考えだ」


難しい決断に悩む私を見てか、彼女はやむを得まいと手の内を晒すようだ。何か此方が我儘みたいな風になってしまったが、これでしっかりと黙秘はすると約束をする。

桜髪の女性は一息だけつく。

そして自身の正体を明かした。


「カナリア・シェリー。貴女はこんな噂を聞いたことはないだろうか?」

「?」

「”元は大貴族の末裔。現在の九大貴族にすら引けを取らない素質を秘めて彼等だけにしか扱えない特殊な魔法を有していた。やがては東西の二手に分かれてその血を受け継がせていくのだが、西洋に離れた貴族の一部が過去の大戦で騒ぎを起こしたが為にその一族は第一級の危険人物として汚名を受けて陽の目を見ることが叶わなくなった”。………これを聞けば大体は察するのではないか?」

「それってーー」

「東洋へ動いた貴族は後に様々な部族に分かれていき、そして西洋へ行った私達は女性だけが開花する特殊な魔法を持つ一族ーー」


唐突に纏う制服を自ら剥いだ。一瞬驚きそうになるが、その内にはまた別の衣を着ていた。

あまり良い印象を受けない黒の被服。修道士や聖職の法衣の種類だが、黒は負なる連想をさせるが為に白を基調としているそれとは正反対だ。

何処かで聞いた事があるような気もすれば聞いた気もしない朧げな記憶の中には確かそれを着る者は現在の世界では反逆者を意味しており、一族全体で統一しているのはただ1つしか居ないーーだった。

禁忌なる魔法を得し忌むべき邪の魔導師。本当に実在するかも定かではないような空想の類。

彼女は吐露する。


「私は反逆の一族………魔女だ」

「次から次に厄介事が集まるわね」


もはや大した虚は突かれない。此方とら悪魔と戦っているんだ。今更魔女程度では怖くも何ともない。

問題はどんな用件がこの私にあるのだ? と言う事である。面識すらなく世界的に最悪な立場にある筈の桜髪の女性は前述した表立つ行動は命にまでは関わらないだろうが、危険な橋を渡っているのは間違いない。

それでもこうして現れているのは恐らく一族の危機が近付いているからではないかと推測はする。でなければ動く理由の動機として弱い。

有り得て現実的なのはそこではあるが、もし一族の危機よりも大きな事態に直面しているのならば非常に厄介だ。

まだ正体を聞いただけなので一概には何とも言えないから話を進めるしかないだろう。


「判ったわ。誰にも話さないから用件を教えてくれるかしら?」

「フッ。普通なら異質な私を排除か通報しようとするんだがな」

「お生憎様。カナリア・シェリーは周りの有象無象とは違うから」

「そうだな。まあ、その方が貴女の身の為にもなるかもしれないからな」

「え?」

「これから話す内容は広げる程に世界の流れを変える可能性がある。例え身近な人物だろうとそこから枝分かれして全てがズレていくかもしれない」

「あの、ちょっと………何を言って………」


もしかしたら予想の斜めをいくのではないか? と率直に感じた。桜髪の女性の語り方はまるで先を見据えたような言い草で、一度語ればこの先どうなるかは私次第と委ねられたと言っても過言ではなく、ある種悪魔何かよりも厄介さを帯びた脅しみたいな前置きである。

戸惑う自身に魔女は時すでに遅く勢いに乗って続けて説明し出す。

観念するしかない。


「魔女の一族は主に従来の魔法とは違う特殊な魔法を扱う。流行り風に言えば異種魔法とでも言おうか」

「そんなに違うのかしら?」

「いや、異種魔法で良いだろう。あれを使える者も基本的には貴族の一部の受け継がれる力が派生しただけなのだから。若しくは破邪魔法と呼んだ方が良いか?」

「………」


それなら今の世代を生きる自分でも納得する。国家政府によって禁忌魔法として特別認可が降りない限りは使用を禁じられており、悪用するものならば国家反逆罪になるのだ。

その具体的な破邪魔法とはこれと言って引っ張り出せるのは実際に行使されたものだけで、しかも法則性のない不可思議な力としか把握されていない。

要するに謎の多い魔法なのである。ただそれでも万人共通な知識として持っているのが極めて危険な力を秘めていると言う事だ。

遥か昔からのとある言い伝えが存在する。

”大いなる災いの破なる邪法により世界に裂け目が生まれた”と。恐らく破邪魔法の話で間違いなく、後継にもとりあえずは触れるべきならずな意味を込めたかったのだろう。

加えて他の魔法とは違い使えば使用者に災いを呼び起こすとも言われている。だから禁忌なる魔法として定められてるのだ。

さて、話が脱線し過ぎない内にいい加減教えて貰おうじゃないか。


「その破邪魔法は一体………」

「ふむ。まあ破邪魔法の中でも私が使えるのは危険性の種類がまた違うが、結局周りからすりれば大した差ではないのかもしれない」

「結局何なのよ?」

「そろそろ勿体振る必要もないか」


校舎の外。茜に染まる夕焼けの世界の果てを眺めながら溜め込んでいたものを吐き出す。

まるで覚悟を決めて全てを委ねるようにーー。







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