−天才と天災⑤−
「羨ましいわね………」
「?」
「いや、そんな人が少なくてもいるのがね」
首を傾げる東洋人の女性。まあ、それもそうだろう。こんな風な気持ちになるのは恐らく自分だけであろう。
私には居ないから。誰かの為にとかよりは常識的にとかその場に居たからとかである。他とは違う部分で動いているだけの大層な理由がない行動。
熱い友情や愛情を翳して頑張りたいとまでは言えないけど背負っているものが比べ物にならないのは判る。
カナリア・シェリーは軽過ぎるのだ。
何も持っていないから。自身の土台が積み上がっていない。
仮にあるとしたらやはり天才だけしか残ってないだろう。
「貴女には仲間が居ないの?」
「仲間………」
聞かれた向こうからの疑問を反復する。悩む返事になるかと思ったが、そう言えば自分には新しく出来たものはあった。
仲間とは違うのかもしれないけど確かに返せる答えは存在している。
と、そんな矢先にーー。
「シェリーちゃーん!」
「!」
振り返った遠くには手を振りながら近付いてくる菖蒲の少女が見えた。ついでに後ろには何やら苛立ちを募らせた表情をする深紅の少女もいる。
何となく理由は察せたけど。
「仲間ではないけど………」
「………なら友達?」
「かな?」
「居るじゃない。貴女にも」
「まだ知り合ってから日が浅いから変な感じなのよね」
「時間が全てじゃない。一緒にいてどれだけ必要な存在になっているかだよ」
「ーー深いわね」
やはり先輩と言う訳か。こればかりは見て来た世界が違うから追い付くのは難しいだろう。
でも追い掛けるくらいは出来るかもしれない。
彼女みたいに誰かの為に応えられる自分を目指してーー。
「勉強になるわ」
「そう」
「因みに貴女の言っていた“諦めないで戦って守り抜いた人と何も言わずに今も尚見守ってくれている人“ってのはどんな人なのかしら?」
ついでの好奇心。折角ここまで教えて貰ったのだから最後まで知りたい。一体アリスさんを支えている人物とは誰なのか?
そこで彼女は予想外にも口元を弛ました。
笑っているのだろうか? そんな表情も出来るのだと思いながら返事を待つ。
「そうね………強いて言えばーー」
だがすぐ様笑みは影を潜めてしまう事になる。
「アリス君大変だ」
オルヴェス・ガルムからの突然の呼び掛け。張り上げて声こそ出してはいないが、事態の深刻さを物語りそうな焦りを見せる様子に嫌でも表情が締まる。
手に持つ通信機すらしまわずに此方に戻って来てるのだから何かしらのが不都合が発生したのだろう。
息を呑む不穏な空間。
彼は一旦深呼吸をして間を開けてから語りだす。
「織宮 レイ君が意識不明の重体で医療機関に担ぎ込まれた」
「ーーレイが!?
「あの人が!?」
「!」
「え?」
私とアリスさんは一緒に驚く。内容に反応してから2人は互いの方へと向いて顔を見合わせるのであった。