表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
収束へ向けて
154/155

天才達の反撃②


完全に戦況は私達へと有利に運び出した。


なんて都合良くはなく、未だ苦しい展開は続く。何故なら肝心なこの騒動の首謀者達を追い詰めてはいないし、まだまだ出し抜いたなんで気持ちはこれっぽっちもなかったのだ。


その最大の理由としては向こうの切り札を封じれてないからである。そりゃあ奥の手が残されているのに優位に立てる訳がない。逆に此方は常に最善手の全力を持って挑んでるのだから余裕すら残されていないのだ。全ては彼女と悪魔による策略。そもそもの登場人物達が予想不可能だったのに加えてしっかりと各々が巨悪の志を共にした協力関係を上手く機能させている事だ。そして何処を、誰を抑えれば良いのかもさえ理解しているのだから厄介この上ない。


やはり流れは変わっていても安心は出来ないし、しない。最後の最後まで何が起きるか分からないのを覚悟して挑め。


まあそれに関しては私達にも同様の事が言える。


最後の最後まで諦めない希望がーー。


私達は一直線にアズール会場に走る。今頃壮絶な死闘が繰り広げられているだろうから何としても駆けつけなければいけない。


と、定石な使命感があるだろう。


しかしそんな見え見えな展開を抑えない向こう陣営ではない。最初からずっと裏をかかれているのだ。ここに来て愚直な戦法をするにはまだあと一歩詰めが足りない。それよりかは他を全部踏破した所で大魔王が顕現したら全て終わりなのだ。最初からずっと言っているがそこに尽きる訳である。


ならどうする? と英雄達が視線を投げ掛けてくる。


裏をかかれる以上は同じ場所に総力を集めても仕方がない。それこそ万が一に大魔王が召喚された時に考えれば良い事だ。いや、そんなもしもはごめん被りたいので合理的な対応を考える。


考える。考える。考える。考える。


どんどん記憶から抜け落ちていく未来予知。もうその力がバーミリオン・ルシエラの消失によって薄れてしまって来たからやり直しは効かない。散々失敗して来た未来を歩まない為にこれまでにない無限に広がる希望の未来を選択しなければ駄目だ。


ノーマライズ・フィアナすら予想しない盤面を広げる行動。否、それじゃあ足りない。寧ろ盤面を裏返すか若しくはそれすら超えるようなーー。


考えろ。考えろ。考えろ。考えろ。


幾多の未来、結末を想像する。予知ではない。これはこうなったらこうなるの私の脳内の世界だ。それが思い通りになるかならないかは全ての私と皆の働きに掛かっている。きっと似たような事を菖蒲の少女もこれまでの私より高次元の領域で描き、実現していただろう。だからカナリア・シェリーはそれを超えていかなければならない。


考えなさい。考えなさい。考えなさい。考えなさい。


アズール会場では他の皆が剣聖と戦っている。そしていつまで持つか分からないがフィアナを抑えてくれている人物がいて残すは堕天のルーファスの居場所を最短で探して止める。


もはや舞台に全員上がっているのだ。この劇場をどうやって私達の大団円で終わらせるかはそこに賭かっている。


悲劇で終わらせない。喜劇で終わらせるのが私の願いだ。


だからーー。



舞台ーーか。


誰が言ったかもはや記憶の彼方に追いやられてしまっているが、この形容のおかげで何かが引っかかった。


果たして私の考えは正しいのか? このまま計画の角度を上げていって成功するのか?


既に流れは変わっている。しかし何かが変だ。散々組み立てて来た自分の考えが一気に瓦解してしまうような何かがまだ残されていると思い止まってしまう。


果たしてこれは迷いなのか? 散々失敗して来たから不安から襲い掛かる故のもの?


どうしてこの引っ掛かりが見えてこない? 時間がないこの場面で私は一体何を見落としているの?


考える。考えろ。考えなさい。


そして思い出しなさい。


絶対に無駄にさせない自身が視て来た未来をーー。


そこで何が足りてなかったのかをーー。


私はこの一瞬に果てしない時間の膨大なあったかもしれない未来を脳内で思い出す。


頭が痛い。目眩を覚えそうで脳が故障して自我が崩壊しそうな苦しさに冷えた汗と嫌な脂汗が出て来る。それでも何とか立ち止まって時間を消費してでも幾百、幾千の中からただ一つだけの解を私は求める。


こうじゃない。ああじゃない。これは違う。これも違う。もしかして? そうじゃない。あれは? それは? あれかも? 絶対違う。無理。有り得ない。ひょっとして? 気の所為。ならばーー。それは何回も失敗している。だとすれば残すはーー。いやいやだったらきっとこうはなっていない。何で? これですらない? つまりその先はーー。あ、そうじゃないわ。寧ろこれこそーー。いや悪手。もっと根本的に違う答えを選べ。でももはや選択肢は少ない。本当にこの中にあるのか? 間違い? もう考えられるのってーー。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。これ? 違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。これか? 違う。違う。違う。違う。違う。あれは? 違う。違う。違う。これも? 違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。違う。無理。違う。違う。違う。違う。駄目。違う。違う。違う。


違うーー。


一瞬足元がおぼつく。


吐き気を覚えながら思考する傍らで東洋人の青年が心配をしてくれる。


それすら振り払って私はひたすら答えを追い求める。


違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うーー。



希望ーー。


絶望ーー。


多くの中からーー。


信用ーー。


信頼ーー。


未来ーー。


過去ーー。


友達ーー。


仲間ーー。


世界ーー。


魔王ーー。


悪魔ーー。


失敗ーー。


成功ーー。


英雄ーー。


天才ーー。


反撃ーー。


召喚ーー。


魔法ーー。


舞台ーー。


全員ーー。


そしてーー。



「ーーあった」


辿り着いた。探せど探せど見つからない一縷の望み。一筋の光。僅かな希望。


広がる。広がるッ。広がる! 広がるッ!!


狭過ぎて多すぎる多大で膨大な扉の中から選び抜いたそれを開いた先にはしっかりと景色が広がっていた。


そうだ。これこそが足りなかった最後の【断片のカケラ】。


たった一つ。たった一要素。なのにそれがハマるだけで全てが解決してしまった。まるで意図的に隠してしまっていたか或いは除外してしまっていたものにすら感じる辿り着いた解。


全てが想像通りの未来を形作る。白黒に映っていた未来に綺麗な色が帯びる。立体化して固まり、はっきりと鮮明になる。音が、声が、希望が、光が追加されて文字だけの台本がしっかりと舞台を構成して披露させる。


今一度私は言う。


声を大にして、盛大にーー。


「あった………あったのよ!! 未来がッ!!」


「どわぁあわぁ!? うっせぇ!? いきなり何だってんだッ!!?」


様子がおかしい私のボソッと喋った所へ距離を近付けていた彼の存在を無視して喜びの感動を口にした為に耳元で大声を上げる形になる。


多分鼓膜が破れる思いになっているだろう。


不憫な彼の事なんて全く気にならないくらいに私は興奮冷めないままに無邪気な少女になる。


今の瞬間だけでもーー。


「一体どうしたのよ?」


「何か妙案でもあった?」


「落ち着け………って言っても難しそうだな」


「何でいつも俺がこんな目に………」


四人の英雄がそんな私を怪訝な目で見る。


ややあってその気配を感じた私は照れ隠すように苦笑いで誤魔化しながら一旦落ち着いた。


そして次に何をするべきか。どんな未来を私が描いているかを口にした。


多分誰もが納得するだろう。何故そんな考えに及んだかはともかく、それが本当の話ならば実現させる以外選択肢がないくらいにはこの話は未来を背負い過ぎているのだ。


ただし、実現させるにはーー実現させてからも覚悟と死闘が待ち構えている。


「あんた………分かっているの?」


朱髪は正気を疑いながらも本音ではその可能性は無下に出来ない探るような問いを。


分かっている。それでもこのまま無難な行動で何とかなるのを祈り、縋るくらいならいっそ清々しいくらいに開き直って戦う方が良いと思う。


きっと後悔はない。


「シェリー。貴女のそれは視た未来? それともーー」


似た能力を持つ東洋人の女性は私を案じる気持ちとその答えが本心なのかを問い掛ける。やはり薄々感じながら敢えて聞いて来なかった彼女もここ一番の踏ん張り所と思ったのだろう。


だから私はしっかりと答える。


これは私が視たい未来だと。


迷いはない。


「俺から言う事はない。信じるぞ」


聖騎士は多くを語らない。それだけ私の言葉を疑わずにいてくれる証だ。失敗はない。ただただ背水の陣でしかないこれから先をしっかりと突き進む意志だけを示せと彼の目が語っている。


ええ、任せて。私に寄せる期待を、そして信じて良かった未来に絶対にさせてみせるわ。


もう後はないしね。


「面白いじゃねえか。派手にやろうぜ?」


東洋人さん青年は拳を前に置いて賛同の意を示す。その心は待っていましたと言うどこか悪友に付き合う勢いの笑みを浮かべていた。


まあ悪友は響きが悪いけど目指す道は隣を歩こうと有り体に伝えている。


私も拳を前に出してお互いにぶつける事で決行する意志表明をした。


大丈夫。もうこれで何も怖くないわ。



そうして各々の役割を告げ、会場へ向かう私と散り散りに別れる皆の構図が出来上がる。どちらにせよカナリア・シェリーがする事は最初から決まっていた。彼等を信用して私は背を向かずに真っ直ぐに突き進むだけだ。


喧騒はまだ続く。あちこちで煙が上がり、地獄絵図のような世界の中、私はゆっくりと深呼吸をする。


ここからが背水の陣だ。引き返したり、考えを変えたり、やり直す事は出来ない最後の戦場。負ければ全てが終わる。覚悟を決めなければならない。


既に決めてはいる。だからこれは私だけの個人的な問題へのものだ。


決着を付けるべく。


運命的に、それか宿命的なーー。



私と彼女のーー。



「やっと見つけたよシェリーちゃん」


待っていたわ。


これまでならば向こうが待っていた状態の立場が逆転する。


結局逃げていては駄目なのだ。逃げていては解決しない。逃してなんてくれない。どこまでも私と言う存在に拘り続ける。寧ろ逃げ惑う私を追い掛ける事にすら悦を感じるくらいだ。自分の思い通りになればなる程に喜ばせる。


振り回されるのは前からだ。困らせるのはいつも向こうからだ。嘘は尽くし、無邪気に人の心を揺さぶるし、挙句の果てには友達の概念を勘違いして平気で傷付ける。


そう言えば友達作り上手くなかったわよね。まあ、私も人の事は言えなかったんだけれど。


何故か私と彼女は生まれた時から出会って今日まで近しき存在なのにどうしようもなく対極にいて、遠さがっていた。まるで磁石のように相反して背は合わせているのに視ている場所、目指す終着点は真逆。


正義と悪。


光と闇。


希望と絶望。


そんなの二人が振り返ればどうなるかは決まっている。


ならば後はぶつかり合うのみ。


「ようやく観念した?」


「観念ね。やるべき事が多過ぎて相手をしている暇がなかったのよ」


随分と久しぶりなやり取りの気がする。違うのだけれど不思議と背けていた現実を受け入れ、真っ直ぐに見据えてみると私の知らない姿をしているとは言えど、何故か彼女の素を覗けているようで久しぶりよりかは新鮮なのかもしれない。


ほら、今だって彼女ーー"ノーライズ・フィアナ"は笑っているようで貼り付けた笑みの下では苛立ちと怒りが見えている。


そうか。変わらないんだ。


最初出会った彼女も現在の彼女も。


ノーマライズだろうがノーライズだろうが。


普通だろうがそうじゃなかろうが。


味方だろうが敵だろうが。


私の友達が目の前にいるだけだ。


随分歪んで間違った友達ではあるけれど。


「へぇー、じゃあもうやるべき事は終わったのかな? シェリーちゃんの暇を稼ぐ役目の"コレ"はしっかりと達成出来た訳だ」


言いながら引き摺っていたものを放り投げる。


死んではいないが、無惨な姿に変わり果てた人物が弱々しい呼吸のみをして虚ろな目で私を見上げていた。


私は倒れる人物の前で屈み、優しく顔の汚れを綺麗にしてあげてから労いに近い言葉を与える。


「無茶はしないでって約束したでしょ? 死なないからって死にかけになれば苦痛はあるんだから」


「分かっては………いましたけどね………あれは化け物です。後は任せましたよ………」


「ええ、ありがとう。ダリアス・ミレーユ」


そこで棍尽きた。私は小柄な彼女を【箱庭】の空間に送る。暫くは戦線離脱させて休まる為にはその方が良いと判断したからだ。


そう。私が取引した人物とは正に彼女である。


正確には取引を持ち掛けたら既に了承済みであったのは驚きだが、その時に色々と謎が解けてしっくりした。


知らないところでまた魔女ーーお母さんに助けられていたのである。


取引とは単純にエイデス機関の長を抑える事だ。どのみち世界が破滅するのを止めなければいけないのは常識外れな彼女とて理解するのは容易いし、まさかの上層部が敵であるならば問題を起こしていた彼女が確かな正義として合法的に戦えばそれまでの不祥事も有耶無耶になる。と言うか処置する部署が壊滅状態なのだからエイデス機関は一度再建が必要となるのでどれだけそれまでに貢献したかでダリアス・ミレーユの扱いは大きく変わるのだ。まあ、それはあくまで建前でおまけ程度にしか過ぎない。本命は遠慮なく巨悪と戦う機会を与えられた事だろう。こんな危険物みたいな彼女でもそうなれば正義の行いになる。正義を執行出来る。凄く良い風に言っていて実際はただ暴れたいだけの狂犬なんだけれどね。


余談だけどその巨悪の対象の中に標的となっていたらしいユリス先輩の扱いは私が持ち掛けた取引で上書きさせてもらったけど、もしあのままユリス先輩だけ置いて会場に向かっていたら彼は死んでいたのよね。お母さんちょっとあの人に厳しくないかしら?


ともあれ、二つ返事で安請け合いした彼女の末路がこれである。死なない存在を相手にならば時間を稼げるし、翠の悪魔と呼ばれる彼女なら勝機も全然有り得たから行く末を気に病む事はなかったけどーー。


「ここであっさり負けてたら逆に拍子抜けよね」


今までの失敗した未来は何だったんだと嘆く。まあそうはならなかったが色々と複雑な気分ではある。


「結構冷たい反応だねシェリーちゃん? ちょっと残念だよ」


「思ってた反応と違ったかしら? わざわざトドメを刺さずにありがとうフィアナ。貴女みたいな優しい人ならそうすると信じていたわよ」


気配が強くなった。先程よりも更に不機嫌さを露わにした証拠である。


無理もない。彼女は私が困る姿を見たいが為に挑発をするのだ。そうやって自分の思い通りに染まる姿をしないはおろか、逆に思い通りに動かされた事実が彼女の気に触ったのである。


しかも皮肉な挑発着きでね。


「随分と余裕だけどこの状況でそんな悠長に構えて良いのかな? 世界滅亡の危機だよ?」


「剣聖は皆が抑えている。イリスは倒させてもらったわ。後は貴女と悪魔だけ。流れは私達にある」


「分かってないなー。大魔王が現れたら有利な状況なんていとも簡単にひっくり返るんだよ?」


「そうね。でもそれなら私が貴女を抑えて残す悪魔を英雄達に任せれば解決でしょ?」


「未だに居場所を把握していないのに? 私には分かるよシェリーちゃん。数々の未来予知をして失敗して来てまだこうして局所的に対応しているんでしょ? 堕天のルーファスの所在を把握しているなら全て無視して真っ先に向かう場所がある筈なのに」


「確かに失敗して来たわ。何回も心が挫けて絶望して諦めようとしていた。でもやはり諦めきれない私の我儘があったのよ。今もその我儘を懲りずに実行しているからあちこち奔走している訳よ」


我儘とは勿論皆を犠牲にしないで大団円で向かう未来だ。そうするには奔走して局所的に対応しながらじゃないと不可能だから遠回りせざるを得ない。


ハッ、と鼻で笑うフィアナ。


その姿は側から見れば舐められていると思うだろう。


しかしだ。いつもの彼女の笑い方ではない。いつもならば不気味に不適な深淵を覗かせる深い闇を感じさせる笑いを見せるのに今の菖蒲の少女のソレは何の裏もないものだろう。


浅くただただ剥がれないように取り繕う笑みにしか私は見えなかった。


「じゃあ何? ここまで来たら私から逃げないで後は他に任せてどうにかなるの? 結局一番の要の悪魔を舞台に引き摺り落とせてないのに?」


気付いていないのだろうか?


自分がいつも私を揶揄う時や挑発する時の喋り方すら変化している事に?


貴女はいつも饒舌ではあったけれどそんなに早口で捲し立てる喋り方じゃなかったでしょうに。


私は一言、解を示す。


そこまで証明して欲しいのなら仕方なく程度に。


「ーー空よ」


「ーーッ」


「もうそこしかないでしょ? それも雲より上。こっち来てから天気が悪い理由は彼の仕業だったから」


そして皆既日食。空が暗天するから視界で捉える難易度も高い。雲が覆っているのだから当然術式も見つけられないし、高すぎて感知する距離でもない。


加えて何度か視た未来で顕現した大魔王はいつだって頭上からだった。規模がデカ過ぎて迫力のあまりに気にも止めなられなかったけど今さっきの思考の中で辿り着いた時は腑に落ちた。


それに堕天のルーファス翼あったから、それに関しては最初から伏線にすらならない当然の道理だったので寧ろ真っ直ぐ考えたら済んでた話なのよね。


とまあ、これが全てだ。


「気が済んだかしら? 笑いなさいよフィアナ。いつもの威勢が無くなってるわよ?」


「ーー。」


流石に安い挑発。


笑えないからよりかは笑わなくなっただけだ。


ここからがある意味怖い。これまでもそうだったように今からがノーライズ・フィアナの狂気である。


「侮っちゃったね。流石だねシェリーちゃん。恐れ入ったかな」


「………」


「でも一つ分かった」


「何が分かったのかしら?」


「もう貴女に後がない。違う?」


「………どうかしらね?」


私が賞賛したいわね。


この瞬間のやり取りでどれだけ私を覗き込んだのかしら? その観察眼と未来予知と同等とも併用出来る洞察力。これがあるから私は覚悟を持って彼女から逃げるのを止めたのだ。


もう私が抑えなければどうにもならないと。フィアナを避ければ忽ちこの背水の陣は瓦解して全て軌道修正されるのではないかと思わせる程に。


「決めたよシェリーちゃん。貴女の思惑に乗ってあげる」


「良いのかしら? それで貴女の計画が失敗するかもしれないのに?」


「失敗? おかしな事を言うね?」


「ーーッ」


これだ。


私を戦慄させ、恐怖させ、畏怖させ、驚かせ、絶望させ、震えさせ、怯えさせ、困惑させ、怖がらせ、不気味にさせ、目を見張らせ、死を感じさせ、底沼に落とさせる気配。


殺気なのか、執念なのか、或いはそれらよりも恐ろしいナニカなのか?


「だからーー容赦しないよ」


「ーーッ」


「貴女を踏み躙り、貴女の大事なものを全て奪ってあげる」


そうして取り戻した笑みは醜悪な邪心であった。


言葉通り、彼女は全身全霊を持って私を壊しに掛かるであろう。どんな結末が迎えるか想像するだけで身震いするフィアナの決意。そうして貴女は沢山の私を壊しては破壊して砕き続けて来た。


まるで玩具のようにーー。


だけど既に乗り越えて来た。


何度も何度も。


そうした中で確かにあった微かな光景。


それが一番忘れられずに脳内に焼き付いている。


だから私は一歩前に踏み出した。


そして私も挑戦的な笑みを浮かべながらーー。


「だったら、尚更負けられないわね」


奪えるものなら奪ってみなさい。


きっと私が無様に負けたとしても私から全てを奪いやせはしない。


それが有る限り何度でも私は立ち上がるのだからーー。



更に私は一歩前に大きく踏み出して戦いの火蓋を切ったのだった。













評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ