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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第一章 始まる物語
15/155

–天才と天災③–

どうやら直撃にはならなかったが、それでも回避が間に合わない彼の横腹に裂傷を与える事に成功はした。

大した被害はなさそうだが。

後ろに下がる悪魔は傷口を撫でながら僅かに表情を引き締めて言葉を述べる。


「驚きました。まだ戦闘経験が浅く感じられた先程から僅かの合間にこのルーファスに傷を与えるまでになるとは………」

「人間を甘く見ているから寝首を掻かれるのよ」

「そんな問題ではありません。私は貴女を相手に油断も慢心もしてはいないのにどうして戦いの素人である動きを見せていた貴女から不覚を取るか………それは簡単。貴女の立ち回りが恐るべき速さで昇華したからです」

「流石に過大評価よ」

「いいえ。この結果が現実。貴女は一手一手から吸収する量があまりにも多い。だから結界の解除も本来貴女がすれば確実で早いのを時間の掛かる2人に任せて私の選択肢を狭めた。浅はかな思考では出来ない答えです」

「まあ褒められるのは嫌な気分じゃないけど。もしかして益々私を引き入れたくなった訳じゃないでしょうね?」

「残念ですが、逆に今の内に息の根を止めた方が正しいと判断しました。これ以上成長される前に………」

「穏やかじゃないわね」


あまり実感はないけどどうやら自身はもう戦闘技術を身につけつつあるようだ。しかも対悪魔に。単に効率的な動きを追求していたらそうなっただけに過ぎない結果である。正直紛れ当たりくらいにしか思っていないし、それを好機と調子に乗って倒しに掛かるつもりもない。

そんな雰囲気を出しているから余計に悪魔は生かす気がないのであろう。本当の殺意とやらには天才と言えど嫌な汗を覚える。

恐らく次の交差くらいで全てが決まるとカナリア・シェリーは予測する。相手の言い分では長引かせた戦いは不利になると考えるだろうし、そろそろ此方の結界解除も終わりに差し掛かるに頃合いだ。

戦局は終わりへと着実に進んでいた。

自然と互いの身体が力む。射抜く視線がぶつかり合い、魔力が弾けて重圧を掛け合う。

決戦。そんな呼び名が相応しいだろう。

天才と天災。大層な物言いだけど思い付くのはそれしかなかった。


「忘れていました。名は何と?」

「………カナリア・シェリーよ」


聞けば誰しもが判る名前も隔離された彼にはあっさりとした記憶付けにしかならない。しかし、人間じゃない相手が名前を聞いて覚えるのは少しばかり珍しい行いなのかもしれない。


「では終わりにしましょう。カナリア・シェリーさん」

「ええ。堕天のルーファス」


暴風雨のように渦巻く魔力の目の中で私達は最後の言葉を交わす。

そして。


「ーー」

「ーー」


決着を付ける。


ーー筈がそれは中断されてしまう。

その2人の間に紫電の雷が降り注ぐ事によって。


「!」

「?」


予想外な事象に見舞われてしまった。激突直前に割って入ってきた不気味な雷。あれは一体何なのだ? とも思うが更に気になる現象が起こる。


「結界が………解かれた?」


言ったのは悪魔だった。張った本人ですら俄かに信じ難い事態が発生しているのは私ですら理解するのは簡単だった。

まず解かれたのは内側からではなく外部からだ。次にこの結界は基本的に外部には干渉されないようにした仕組みが施されている。そもそも空間が別の場所に送られているので入り口は確かに向こう側にあってもそこから此方に来るのは不可能に近い。そしてその入り口も彼の反応からするに完璧に見付からないようにしていたのだろう。

にも関わらず何者かが無理矢理にこじ開けて浸入してきた。

間違いなくそんな無茶な規格の領域にいる魔導師は限られてくる化物の類でしかない。

そしてーー。


「ようやく見つけた」

「ーーッ!」


気配も音も、いや重さも魔力も生さえも消したのかと疑るくらいにフワッと私と彼の間にその者は降り立った。

そこを中心に地が大きく陥没をした。前述の動きからでは有り得ない事象を見せながらゆらりと立つ頭巾を被った小柄な人物。

だが放つか、或いは纏うような気配は降り立つと同時に解放され、瞬時に場を呑み込む程に高まる。

カナリア・シェリーと堕天のルーファスすら迂闊に動けなくする存在は被る頭巾を取って容姿を露わにした。


「………ッ」


少女だった。若しくは少女の仮面を貼り付けた化物だったかもしれない。しかも正確には見た目はそう見えるが彼女は歴とした成人した大人の女性だった。

何故そう断言出来るかと言えば私はそんな人物の正体を見てこそいなくとも噂や情報から知っていたからだ。

東洋系によくある特徴である艶のある綺麗な漆黒の髪。前髪を切り揃えた風貌は作られた人形のようで、そんな素顔から覗くは左右で色の違う瞳。右眼は紅、左眼は紫とどちらもが不気味で畏怖を覚える夥しい魔力を集約させる。

もう一度言おう。

まるで人の皮を被った化物。限りなく人外の枠に入る人間。この私ですら背比べするにはまだ早い段階と肌で感じる異質。

彼女の名は如月きさらぎ 愛璃蘓ありす

現魔導師の中で頂上候補に入り、かつ7年前の強大な事件で大きな活躍を見せたーー


「エイデス機関最高戦力である三人の一人。【紫電】のアリス」


同じ空間に身を置くことで判る。彼女が現れただけで全ての流れが変わってしまう影響力を持つ強者であるのを。

そして天才の私だから感じる得体の知れない静かなる重圧と全てを見透かされたような感覚。

恐らく悪魔ですら同じ意見であろう。

と、そこへーー。


「やれやれ。相変わらず追いつくので精一杯なお方だ」

「ーー! 貴方は………」


背後から軽やかな足取りで現れる一人の男性。

其方も正に飛び級の有名人であった。

純白に輝く甲冑を装備、まるで色落ちを見せない同様の外套を羽織り、腰に携えるはこの世界が生み出した聖なる鉱物から創りし永久に錆びない魔力の込められた最高級の白金の剣。

聖剣ーーゼレスメイア。

一振りで遥か沖から地平線まで真っ二つにしたと言われ、神の加護を受けたまう力で悪しき存在を滅せれる世界に一本のみの贋作すら再現出来ない伝説の武器。

遥か昔から眠っていたそれは誰にも持てない選ばれし者だけの絶対剣とも呼ばれる代物。

が、そんな聖剣をようやく扱える人物が現れた。

彼も同じくエイデス機関の最強の一人。

更にはセントラルに住まう九大貴族で最も大きな地位を持つオルヴェス家の長男。


「オルヴェス・ガルム」

「そんな貴女は歴代魔導師を超える可能性の異端な天才。カナリア・シェリーさんだね」

「どうしてここが?」

「悪しき気と魔力に反応するのがこの聖剣でね。どれだけ隠蔽しようとも微かにでも残留していれば探せるのさ」

「結界を破壊したのも?」

「それは彼女の力さ」

「彼女の?」


言われて私は東洋人の少女の方へと再び向き直る。

すると対峙する形になっている堕天のルーファスはこれまでよりも一層険しい表情で口を開く。


「まさか人の身で魔眼と邪眼を宿すとは………」

「魔眼と邪眼?」


何だその物騒な名称は? そればかりは知り得る情報の中にはないものであった。眼と言っているからにはあの目立つ左右で異なる瞳の事を指すのだろうけど、一体どちらが魔眼でどちらが邪眼なのかすら判らない。

不意に溢れた疑問の言葉を拾った悪魔は続けて説明に入る。


「魔眼とは魔族の一部が宿す魔なる瞳。それは映るものの全てを見通すことが出来る性質を持った強力な力」

「恐ろしい性能って訳ね」

「仰る通り。それだけでも十分に人間には手に余る代物ですが、このお嬢さんは更に邪龍の力が込められた邪眼すら身に付けています。悪魔ですら真っ青になる異形ですよ彼女は。人として機能しているのが不思議なくらいです」

「偉く高い評価だこと」


でも嘘偽りない裁定だと納得出来る。自身の立ち位置からだとアリスは殆ど背中を見せている形であり魔眼と邪眼の視界外だ。しかし、丁度良かったとすら思う。もし直視されてしまえば私はどうかなってしまうのではないかと考えてしまうくらいに意識が拒絶体勢に、身体が拒否反応を起こしている。

対面してる彼は平常に見えるけど実際相当な重圧を身に受けているのではないか? 多分私の時よりも3割増しの警戒感を見せている。

寧ろ怯えてすらいるようだった。


「畏怖なる瞳を持つ者。………そして其方にいるは我等が嫌う神の力を帯びし聖剣を扱う青年。更に天才魔導師のカナリア・シェリーさん。流石に分が悪過ぎますね」

「あら? 今度は逆に貴方が逃げると?」

「そうさせてもらいましょうか。まだ我は死ねませんので」


あっさりとした言い方だった。手のひら返しまでが素早く先程までとは打って変わったとも言えるけど、妥当な判断なのは間違いない。自分が彼なら同じ解答を出しているだろう。

だけどーー。


「逃がさない」


一言。静か発するは【紫電】だ。

その瞬間猛烈な悪寒が襲う。彼女の一挙一動だけで色々な障害が伴う。きっとそれだけの力を振るおうとしているのだ。

人のーー悪魔の領域すら超えた巨大な異質。


「!」


突如、アリスの周囲の空間が歪んで揺らめく。目で見える程度よりも上の次元に達している高密度の魔力による影響だ。余波に当てられるだけで意識を刈り取れそうである。

そして具現化するのは先程も見た紫電。凶悪の一言が代名詞になりそうな邪なる力を感じさせ、彼女の周りを意思を持っているかのように蠢く。

異種魔法の分類に近く見えて全く違う性質を漂わせていて知識を総動員させても理解が及ばない。属性としては雷ではあるけど、ただの雷ではないのは明白だ。

恐ろしく、凄さまじく、驚愕ではある。

しかし扱えるのが重要だと何故か思えなかった。

どちらかと言えばーー。


「………どんな環境で生きればあんな化物になってしまうのよ」

「面白い人だね。彼女の原点に着眼点を置くなんて貴女が初めてだよ」

「私から言わせればああさせてしまった周りの考えこそ常識が吹っ飛んでるわ」


一人の力では不可能な領域。あれは天才だから出来るとかの問題ではなく、もっと別の産物である集合体。

そう例えば実験で生み出された奇跡か、或いは代々受け継がれる禁忌の秘術を宿した血統か。

いずれにせよ本人からしたらたまったものではないありがた迷惑くらいの施しだ。

化物として生誕した東洋人の少女に一体何の得がある。望まずになってしまった天才が故に苦悩する者だってここにいるのに。




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