−天才でも欺かれる⑥−
さあ、何から話したら良いか語り部さえ悩むような長いようで短い物語の裏を話すね。きっとシェリーちゃんの預かり知らぬ場所で巡らされていた伏線の回収みたいなものだからちゃんとしっかり最後までご清聴をお願いするよ。
じゃあ幕を上げるね。
始まり、始まり。昔々あるところにーーって流石に出だしふざけちゃったね。
あ、その前に少しだけ私の正体から話す方が話を進める上で目的が分かりやすいかな? だって元を辿れば何で私がこんな事をしているかの理由を伝えなければ意味が分からないんじゃないかな?
だから先ずは自己紹介からするね。
私はねノーマライズ・フィアナ。
最初から驚いたかな?
ノーライズ・フィアナの名になった理由は急遽な編入により一部の名前が抜けたままとなったのが真相だよ。別にどちらでも良かったのだからあまり関係はないのだけれどね?
そうだよ。実は私は編入して来た。言ってはないよ? でも貴女は見覚えが無かった筈だよね? あの時の表情が物語っていたよ。まあ新入生ではない程度の間を置いた時期に編入したからどの道知らない可能性は十分にあったと思うけど授業で組む相方が居なかったのは単に関係性を築く同級生がまだ見つけられていないだけだよ。流石の私でも人見知りはするからね? 当然皆と一緒の出発地点じゃなかった。だけどシェリーちゃんに近付くには良い状況だったかもしれない。
結論、滞りなく貴女に接触出来た。
全然私を怪しまなかったね? あの時の私がそんなに哀れに見えちゃったかな? だとすれば私からしたら滑稽だよ。ちょっと落ちぶれた人格を形成して演ずるだけだから欺くのが苦労しなくて一番身近で観察しやすかったよ。
そうだ。どうして貴女に接触したかったのかの目的が明確じゃなかったね? 寧ろそこが一番大事な部分な筈なのに私とした事がこれじゃあただの自己紹介して煽っているだけだね?
大丈夫。ちゃんとした理由はあるから。
ちゃんとした理由も無しにこの舞台まで貴女は本来上がって来なかっただろうし、わざわざ私がこの頃合いで正体を明かさなければいけない状況にもならなかった。予定が急展開になったのは流石シェリーちゃんだと言えるよ。目をちょっと離したら別人みたいに変わっていくんだから。だけどそれでも計画は変わらない。
だからシェリーちゃんが何度も騒動に巻き込まれて何度も死戦を彷徨ったのは全てちゃんとした理由があるからね。
でも魔女から聞いているなら分かるのかな? 分からない? ああ、だろうね? 自分の存在を理解していたならもしかしたら見つけ出すにはもう少し時間が掛かっただろうね。じゃなかったらここまで派手に活動するような愚かな真似はしなかったと思うよ。
どう言う事って? 貴女が異端の天才だから? 一体誰が呼び出したのかは知らないけれど良い名称を付けたと思うよ。その真の意味も捉えないで表面上の印象だけである種の核心を突く答えを出しているのだから。
シェリーちゃんがどうして異端なのかの本質を考えた事はあるかな? え? それは知っているんだね? なんかチグハグに教えているようだけどそれも生い立ちの為かな? 一度に全てを伝えるのがシェリーちゃんにとって負担になる。そうだね、記憶喪失の人に無理矢理全部思い出させるようなものかな?
話を戻すけど、貴女は知識の転生と魔女の力を受け継いだ特別な人間なんだよ。でもね? 本来はその知識は貴女に渡る計画じゃなかった。
元を辿ればエイデス教、今はエイデス機関だけど当時は魔女狩りを目的とした集団で結成されていたのは把握しているかな? ただ魔女狩りなんてあくまで周囲に否定されない為の建前に過ぎないの。本当の目的は魔女の持つ力ーー未来予知をエイデス教の魔法研究者は求めてその一族の血が、遺伝子が欲しかったんだ。だけど魔女達は協力姿勢を見せなくてね? まあこればかりは仕方ないよ。だから魔女狩りをして炙り出して捕らえていたんだ。ただ元来一族とは言っても多くはないし、しかも女性特有の魔法だったから中々上手くいかずに数を減らすばかりで研究が捗らない。
数が減れば見つけ出すのも至難の業。中には別の世界に渡って居ないだなんて事例も出だして計画は中途半端な状態で凍結する状況だった。
そこに居るバーミリオン・ルシエラはそんな中で最後の魔女として捕獲された。当然初めは協力をする気はなかったのだけど、流石に計画をこのまま凍結させる訳にはいかないと判断した研究者は様々な条件を提示して観察対象として一部の研究者と伝統を学ぶ名目で生活する事になった。穏健派の意見がその時ばかりは過激派の意見を抑えて上手く共存共栄する道を選べたんだよ。感動するよね?
だけどそれから数年。大戦が始まって戦いの真っ只中に貴族の中に紛れていた魔女の残党が明るみになり、良く思わない団体の魔女狩りが再び進行を始めた事が問題になった。
過激派は魔女の力を軍事用に研究に転用を目論んでいたけど大半は失敗に終わった為に今度はその研究そのものを全て魔女に責任を押し付ける形にしてエイデス教の穏健派とバーミリオン・ルシエラは世界から追われる事になる。悲劇と言うか強欲と言うか呆れた人間達だよ。結局何がしたかったのか分からないままに莫大な損失をしても自分の身が可愛いが為に自分で始めた物語を自分で終わらせなかった。穏健派が哀れでならないね?
だけどそんな悲劇の最中に穏健派の研究者はある決断をした。ここからは聞いた話をそのまま話すから真実は彼女から聞いてね?
バーミリオン・ルシエラは魔女の血と秘術を、研究者は知識の転生と自らの命を持ってして人口生命体をこの世に産み落とす事に成功した。
最後に魔女はその産まれたばかりのおなごを研究者の知人へと預けて彼女も大戦の終結と同時に極大魔法を使って魔女自体の存在を世界から消した。認識阻害みたいなものかな? この世界丸ごと影響下に置くその魔法はまるで神の力だよ。ただしこれも並外れた魔力と研究で造られた拡張装置と魔女事態の命を対価にしなければいけないんだけど。
本当は大戦が終わった時期が魔女の歴史の終結でもあるんだけどね? 実際世界の殆どの人々の記憶から存在を消したのだから。
だけどおかしいな? 話がそこでお終いなら色々と不自然な点が存在するね? めでたしめでたしとはならない。まあ完璧に終わりは最悪だったからめでたくもないけど。
さて、ではバーミリオン・ルシエラはどうしてそこに居るのかな? 世界から忘れられた存在をどうして私が魔女を知っているのかな?
謎だらけ。でも大丈夫だよ。名探偵は必要ないから。
エイデス教の過激派はある装置を開発していた。それは【マザー】と呼ばれる演算装置。マザーはこの世界で計測された魔法の痕跡を全て記録出来て魔導師の追跡を可能にしたもの。だから魔女が魔法を使えば例え当人が死んで魂だけになっていようが計測、探知する。そして外部からの魔法の影響を受けない特別な施設でずっと計測していた。
そしてようやく彼女の足掛かりを見つけたんだ。だからバーミリオン・ルシエラの所在も分かったし、本来誰も知る由もなかった知識の転生と魔女の血を分け与えられて産み落とされた人工生命体。
おなごが成長し、いつしか天才と呼ばれ、後に異端の天才と名付けられた魔導師。
カナリア・シェリーを観測する事が出来たんだよ。
話に追い付けている? そこまでが私達が、私が貴女達を狙う道程だよ。さっきも言ったけど本来魔女の力を手に入れるのはシェリーちゃんじゃなかった。エイデス教は魔女の力を軍事用に利用も考えていたし、その遠い先の未来すら見据える能力は魔法の技術を終着点に導く可能性すらあった。マザーだって魔女の持つ魔法に近付ける為に研究して編み出された副産物。その先の存在を創り出すべく先駆けた未完成品なんだよ。
まだまだ続きはあるよ。根深い続きが。
次に創り出されたのがオートマトンーーレギオン。魔女の力に近付けた自動人形。マザーとは違って自立活動をするただの戦闘兵器。これが軍事用の先駆けの試作品になった。でも軍事的には優秀だけどエイデス教が目指す完成品には程遠かったし、残念ながらレギオンは大戦が終結して利用価値が無くなって保管されていたけどそれもとある英雄が破壊しちゃった。試作品とは言っても並の魔導師じゃ歯が立たないし、当時存在していたギルドマスターすら敵わなかったのに流石は真の英雄と呼ばれるだけはあるかな? 私も対面してみたいものだよ。人が人を超えた存在に自らの力で成り上がって魔女すら超えようとしている彼にーー。
おっと、話が逸れたね? 閑話休題。
で、次に出来上がったのはイリス。これは大戦が終わってからの話かな? 黒の使者と呼ばれた人物達が暗躍していた時代に密かに創られた人工生命体。その頃は魔女狩りの記憶すら無くなっていた世界だから数人の生きていた研究者が開発したの。
試作品のレギオンと違い、シェリーちゃんと同じやり方に近付けた創造物。やはり人間に近付けた方が目立ちにくいし、生命体を造る事は神に並ぶ偉業とすら言えた。が、やはり人間が持つ独特な感情と呼ばれるものが気薄で機械的な印象が拭えなかった。つまり考えて行動する程の自立性が欠如していたんだよ。正確にはそんな肉体的な部分以外の成長速度が極端に遅過ぎた。失敗ではないけど成功とも言えなくて未完成。
だけどやはり軍事用の一面だけで言えば想像通りの作品だった。絶対剣? 剣聖? そんな特別な存在すら超えた生物の中では最高峰の出来だったんだ。もしかしたら真の英雄にすら勝り、やがてこの世界の外側にすら干渉出来る価値を見出せるかもしれない。問題は当時どこからか嗅ぎつけた英雄さんが暴れちゃってレギオンを失いながら研究者は逃げる選択をした。まあもう一つ研究していた人工生命を守る為には仕方なくだったんだよね。
そろそろ良いかな?
その研究で造られ、最後の人工生命体として産まれて来たのは被験体シエルーー後にレミア学園へと密かに編入してシェリーちゃんに接触した魔導師。
そう、それが私。
ノーマライズ・フィアナだよ。あ、シエルはあんま呼ばれ方好きじゃないから変わらずフィアナって呼んでね?
実は私は産まれてからそんなに年月を経ていない。成人するまでの成長速度をマザーの力で促進させたんだ。人工生命体だからね? イリスを参考に更なる人間性を確立させる為に産み出された訳なんだけどこれも失敗かな?
だってーー。
制御出来ない私を創ったが為に研究者達は死んじゃったのだから。
あはは、好き勝手に窮屈な世界に閉じ込められたら人間って普通に嫌じゃん? 慎重に経過観察していたんだろうけど自らが計画予定を打破して裏切るなんて頭でっかちな研究者達は想像もしていなかっただろうね。
ってな訳でエイデス教の事実上の頭は私になっちゃったの。まあ折角だから彼等の思惑には従ってあげようと思ってね。こうして今日まで魔女の力を探していたんだ。
とは言っても私も魔女の力、遺伝子を持って産まれたんだけどね? どこからか見つけ出したバーミリオン・ルシエラの遺体からだけど。
だからかな? 私には潜在的な未来を予知する能力は持てなかった。いや、それによってその力は遺伝子的な要素が生む能力じゃないと分かったんだ。あくまで授かる為の資格が魔女の血族の遺伝子だったって訳。まさかのまさかだよ。ここまでどうして気付けなかったのか間抜けな研究者達は。でもおかげで未来を予知する力は譲渡出来る可能性が判明した。だから神の力ーー未来を予知出来る貴女はこの世界で神に匹敵するんだよシェリーちゃん。まあその力が私に渡れば今度は私が神になるんだけど。
不思議だよね? 唯一無二である筈の神様って交代制が出来るなんて。
バーミリオン・ルシエラ。貴女は覚えがないし、私だって育てられた覚えはないけど事実上は貴女の遺伝子から創られたから私にとっては貴女は産みの親なんだ。初めましてお母さん。
ま、そんな事はどうでも良いんだけど時系列と伏線はしっかり回収しないと物語は進められないからね?
改めて私の正体はエイデス教がエイデス機関に変わる前に創られた人口生命体ーーシエルことノーマライズ・フィアナ。シェリーちゃんは計画に加わっていた穏健派の死産した娘の肉体を使って産まれ直したような存在であり、娘として名前を妻の性と合わせて半人口生命体カナリア・シェリーとして誕生した。魔女の力を持ち合わせてしまった為にいずれエイデス機関から追われる可能性を懸念して別の場所に預けられ静かに育てられた。傍では死後魂と成り果て貴女を還るべき場所に還らずに見守って来たバーミリオン・ルシエラと共にね。
いやぁ、既にここまでが長い物語だよ。だってようやくここから異端の天才の物語が始まるんだからそこまでの起源がこんなに歴史があるだなんてきっと無知で何も知らないシェリーちゃんは考えなかったんじゃない? 寧ろ中途半端に聞いて訳が分からずに混乱してバーミリオン・ルシエラに激昂でもしたんじゃないかな? 駄々を捏ねる娘みたいに?
あれ? 図星かな?
と言う訳でシェリーちゃんを見つけたのは高等部上がる前の全国的な魔法才能診断で異例の記録を叩き出した情報から始まった。それまでは誰かさんによって上手く隠された為に観測は困難だったけど、動きがあれば目立たない存在じゃない。此方にはマザーもあるのだから数値化された診断情報なんて簡単に手に入る。
そして私は編入と言う形でレミア学園に潜入をし、その時からずっと貴女を見ていた。気付いたら思わず声を掛けてしまうくらいにシェリーちゃんと言う異端に触れてみたくなり、同時に私からすれば貴女はお姉ちゃんみたいな存在だから見ているだけで満足出来なくなった。
そして貴女の持つ特別がどうにか確認出来ないか? そう考えたら直ぐに私は悪魔を差し向ける事を考えついたよ。
気づかない? セントラルに初めて行く時だって私が同行していたのは必然で、堕天のルーファスと遭遇したのも必然だよ。
何ならエイデス機関から遠ざける為にわざわざ駄々を捏ね出したりもした。可愛げあったでしょ?
当時はまだ底を測れなかったし、悪魔の隠れ蓑にする計画もあったから色々都合が悪かったの。シェリーちゃんみたいな刺激をエイデス機関に与える事が。もし私と同等以上の潜在能力があるならイリスですら押さえ付けられるか分からなかったし、今のエイデス機関はエイデス教の時とは違って表舞台に上がった組織だから剣聖やら英雄が集っているし真実に気付かれたら面倒だった。まあ不思議と貴女がエイデス機関に所属しなかったけど多分貴女の告げ口だよね? バーミリオン・ルシエラ? おかげで私の思惑通りには運んだからそこは感謝かな?
結果論だからあの時点では困ったよ。やはり説明すら叶わない因果がシェリーちゃんに邂逅をさせたのかな? まあレミア学園でもそうだったけどまさか一つの選択で私の動きが大きく分岐するくらいには貴女の軌跡は無意識ながらにも未来に影響させようとしていたんだよ。結局堕天のルーファスの時も剣聖や英雄達がやって来たが為にシェリーちゃんの底を測れなかっただけでなく、貴女の人格すら大きく変化した。
まあ逆に言えば上手く利用は出来たけどね?
ただエイデス機関の中でも己の意志を持ち、何れは間違っているなら私にすら叛逆をしようとする可能性と力がある彼等とシェリーちゃんの出会いはもはや避けられないと考え、計画を練る中で間引きたくなってしまった。私だって全知全能じゃないから綻びから一気に崩れてしまうよ。個の力だけで世界を敵に回そうなんて愚かな真似はしない。
だから魔天のエルドキアナはその差し金の一部だよ。色々と不思議に思わなかった? 私に擬態していた理由や、どうしてレミア学園に悪魔が現れて貴女を狙ったのかを?
でも簡単な話だよ。ノーライズ・フィアナに擬態していた理由は単純に私が指示して協力したからに過ぎない。ここまで来たら繋がるでしょ? あの時に感じた本当の違和感に。そもそもなんだけど、エルド・ジュリアに扮していたのは私だよ。どうしても悪魔にちょっかい掛けてもらう前に少し悪戯したくなっちゃったから丁度良い機会だと思ってね。なのに全く気付かなかった? あんなに堂々と悪魔が大衆の前で遊ぶ訳ないじゃない? 因みにレミア学園で手分けして貴女を隔離した時も普通に私だったよ? 貴女は私の提案に疑問を感じて違和感を覚えたかもしれないけどあの時点ではちゃんと正真正銘ノーライズ・フィアナだった。
私とエルドキアナが入れ替わったのはあの隔離した場所に入る時だよ。いきなり私だけ消えたあの時点から。だからシェリーちゃんが確信出来なかったのは仕方ない事なんだ。あんな無理矢理誘導した芝居がバレずに済んだのは悪魔じゃない私が実行したからに他ならない。それでも私を悪魔と疑ってはいただろうけどその時に隣に居たのは間違いなく私なんだからバレるなんて事は万が一もなかった。証明だって出来るから確認されたって偽りはない。
どれだけ考えを巡らせてもあの場面は回避なんて出来なかっただろうね。だって私が悪魔と結託しているなんて想定はなかったんだから。
ただ残念ながらエルドキアナは負けたけど。貴女からアースグレイ・リアンの話をされた時に嫌な予感だけはしていたからね。色々と茶化しながらも心の奥底ではついでにエルドキアナに始末してもらおうと算段を企ていた。だからあそこで彼と合流したのも偶然ではなく必然。ただ、分の悪い計画にならないようにシェリーちゃんを抑える仕掛けを施した。最悪アースグレイ・リアンだけでも始末しようとね? ねぇ、あの呪術どうだった? 私のお手製封印術式? かなり苦しんだと思う。
それだけに二人とも生還した時はちょっと舌打ちしちゃった。マザーからバーミリオン・ルシエラの魔法も察知されたからやはりすぐ傍で助力があったのだと痛感したよ。
でも次なる布石として冥天のディアナードをぶつける事が出来たのだけれどね。呪術を治せる専門分野の人材なんて大和国しかないと踏んでいたから。
で、きっとそれを解呪しに大和国に赴くだろうからディアナードに一掃してもらうつもりだった。私も可能なら見に行きたかったから結構駄々捏ねてとの覚えてるかな? でもエルドキアナの一件の手前、あまり怪しい動きをすると勘が冴えてる人達に疑われそうだからね。
と言う訳で結果報告を楽しみに待ち望んでいたんだよ。私の見立てではシェリーちゃんだけが帰ってくるつもりでね?
しかし残念な事にそこでまたしても貴女は新たな邂逅によって動きを大きく変えた。いや、既に言いだせばたまたまでしかないへカテリーナ・フローリアも然り、いつから親睦を深めていたかも分からないシルビア・ルルーシアも然り、まるでそこに欠片を合わせるように誘われたアースグレイ・リアンもまた予期せぬ邪魔者でしかない。
神門 光華に関してはまさか転入してくる始末だ。ディアナードが殺す筈だったんだけどね? まあ、私が介入出来ない場所での出来事だし代わりにシェリーちゃんが代償を支払ったんだから仕方ないけど。全員が無事に生還なんて大団円を迎える未来は予期していなかった。
おかげで貴女の背後に潜むバーミリオン・ルシエラを引き摺り出せないままに終わって戦力を間引きする事も叶わなかったけど代わりにこの日までの下準備には専念出来た。流石に魔王を現界させる件の方が優先的だからね。きっと黒幕を探す猶予があれば私に辿り着く可能性もあったけど残念。すっかり動かされたね?
まあ黙ってても良かったんだけど、いい加減無知なままにでもその異端の力が全てを解決に向かわせるだろうし、ここまで暴れるならようやく出番が来たってだけの話。それに例の英雄と貴女が揃うのは私としても分が悪いからね。魔王と言う巨悪は世界に与える影響が凄いから失う訳にはいかないんだ。
無駄だよ。シェリーちゃん。既に駒は揃いつつある。後は貴女とバーミリオン・ルシエラの障害さえ取り除けば全ては終わりに向かうから。
あら? 簡単にはいかないって言いたいのかな?
そうだね。これまでの私を知っていたらこんな落ちぶれた魔導師であるノーライズ・フィアナなんて何も怖くないよね?
まだそう見えたままかな? だとしたらそれは愚かだよシェリーちゃん。いつまで都合の良い私を描いているの? ルシエラ・バーミリオンはもう現実を見ているよ?
それに私は説明したよね? 人工生命体だって?
シェリーちゃんが身を守る為に与えられた力なら私は逆に全てを壊す力を与えられた存在だよ。
もう一度説明しようか?
私は貴女の力とバーミリオン・ルシエラが目的でその為に悪魔を解き放ち、差し向けながらこの最高の舞台を用意した。
短いようで長い歴史を経てようやく私が私自身を完成させ、やがて世界を闇に包んで全く別の世界を創り出す為に魔王を召喚する。
"私の"壮大な物語はまだ始まってすらいないんだよ。言うなればこれは前日譚なんだ。だからシェリーちゃんの物語はここまで、貴女はここで物語の幕を閉じるんだよ。
魔女と一緒にね?