−天才でも欺かれる②−
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上空が暗天し、周囲がざわつき始めた。当然普通の状況じゃないのを感じ取る一般人達は衛兵の屯所に詰め寄ったり状況をいち早く知っていそうな街の代表や貴族達、特に九大貴族の邸に動きを進行させていた。当然そのどこへ行こうと得られる情報は少ないだろうし、ある程度の現状を把握する人物も数えるくらいしかないから徒労に終わるだろう。
そんな把握している人物達である九大貴族のアースグレイ・リアンと神門 光華は先を急いで視界から消えて行ったカナリア・シェリーを追いかける形で駆ける。
が、通りは大衆が流れ込んでいる為に彼等は建物を屋根伝いに進行するのを余儀なくされた。幸いにも統一性がある建築が続くのでそこまで速さが落ちる事はない。
「リアンさん。私なら大丈夫なので先を急いで下さい」
「いや、僕が急いだ所で大した活躍は見込めない。なら盤面を変える力を持つ君をしっかり会場まで連れていく方が良い」
二人の足並みは決して最速ではなかった。特に激戦を繰り広げた神門 光華は著しく体力を消耗している影響か、進度が鈍い。まだまだ余力があるアースグレイ・リアンが先に行くのは可能だ。しかし、何があるか分からない状況で必要な能力が何かを彼は理解していた。
今は絶望的な展開を覆せる奇跡を持つような存在だ。残念ながら彼にはそんな物語の中枢を担う特別な力はない。それだけを考えれば悔しい気持ちが湧くが、リアンが望むのは誰もから認められる英雄になる事ではない。
周りを含めてカナリア・シェリーを手助けして無事皆で平和を掴む事だ。
その為なら裏方でも縁の下の力持ちにでもなろう。
そうした結果の最善が今に至る訳である。
「ですが、私を特別とさせる絶対剣はもうーー」
評価された分がそのまま重責となる。彼女にとって奇跡へ導く条件に必要な自身の一部に等しい力は先の戦いで捨ててしまった。それが無ければ共倒れになってしまった可能性が高いが、残すべき温存を使う選択肢をしたのだ。
更に疲労困憊な状態でもう一つの奇跡がどこまで役立つかも怪しい。寧ろ危うい。だから彼が期待する以上の結果を残せる自信はないのだ。
悔やまれるし、申し訳なく思う。
ーーが、碧髪の少年は首を横に振る。
「君は期待を裏切らないさ。いや、君の今日までの努力の軌跡が君を裏切りはしないかな? 僕は一度自身を見限って裏切ってしまった。そんな奴に委ねるよりもずっと切開いて来た神門さんだからこそ僕は信じられるんだ」
「リアンさん………」
そんな事はないーーと返したいが、気休めにしかならない言葉を伝えた程度で何の救いにも現状の打開にもならない。
彼には彼の役割があり、彼女には彼女の役割がある。今はそれだけを考えるしかないのだ。
それにーー。
「シェリーなら大丈夫さ。もしかしたら追いつくまでに局面が大きく変わっているかもしれないけどね」
「だと良いのですが」
消耗具合で言えばあの異端の天才も相当な筈である。ただでさえ前線を退くような身体的な損傷をしている状態だ。それなのに何故ああも底無しの体力なのか? 以前の万全な時よりもずっと成長している理由が分からない。
分からないからこそ不安を抱く灰の少女。
まるでーー。
まるでそうなるように決められているみたいに。
「(一体彼女が戦っているのは誰なのでしょうか?)」
運命や因果的な事には敏感な彼女も感覚でこの舞台の真相に近づいていく。
そしてもし明確な敵を前にした時には神門 光華の力はきっと役に立つだろう。だから難しく考える必要はないと今は不安になる気持ちを胸の中に仕舞う。
「僕は逆に残りの皆の方が心配だよ」
「確かに私達よりも何も知らない状況ですからね」
深紅と栗毛の少女達ならこんな時でも臨機応変には動いてくれそうだが、何もかもが突然襲い掛かる理不尽を必ず振り切れるとは限らない。天才なら無事でいてくれるなんて淡い期待が出来たらそもそもこんな事態にもならないのである。
異端の天才だって無事じゃ済まなかった戦いを得ているからいつ誰が欠けるか不安になる気持ちが強くなる。
そこに自分達が居れば助けられたなんて結果論にならないように、そしてその逆もないようにしなければいけない。
だからこそーー。
「皆でこの戦いに絶対に勝ちましょう」
「ああ、皆で皆を守ろう」
決意を固めて二人は可能な限りの速度で目的地へと迷わずに進んでいく。
それが天才の答えだ。
ーーその矢先であった。
「お二人さん。やる気に満ちているようで申し訳ないけど」
「若さって良いわねぇ? 止まるって事を知らないんだからさぁ?」
遮るのは変わった服装に包まれた男女。唐突な登場をする彼等はまるで此方の行き先を把握して待ち構えるように現れた。そしてその格好は何となくではあるが、二人の素性が予想出来るものであった。
否、実際に知ってもいた。
「囚人服を着ているが………間違いない。昔に侍女の姿で暗殺業をしていて有名だった第一級犯罪者」
「隣の男性も確か旧軍の残党を率いて西の都市リフヴェーレを占領しようとした頭領ッ」
国内で過去に騒動を起こし、捕まった筈の厄介者は当時大きく取り上げられており嫌でも耳にするし、指名手配された経歴もあるから九大貴族であるリアンと光華は面識があるくらいに頭に焼き付いているのも仕方がない。当然囚人服に包まれていたからすぐに推察出来たが、第一級犯罪者扱いされるだけの気配を漂わせていたからこそ気付けたのもある。
問題はそんな知っている知っていないの範囲ではないのだ。
そしてこの上なく現状を最大の危機にさせるかもしれない。
「この機に乗じて脱走ーーって感じではありませんね………」
「こうして立ち塞がっているのを見れば一目瞭然って訳さ」
「正直逃げたいんだけどねぇ。取引に応じて外に出れてるから流石に反故には出来ないのよ」
「取引として僕達を邪魔するのかい?」
あっ、と間抜けな反応をする女性はとても侍女としての印象が見受けられない。牢獄で面影が無くなったのか素の姿なのかは不明だが、今の素振りからして碧の少年は図星を付いたと確信した。隣の旧軍の男性も顔を顰めて協力関係にある人物を睨むのだから余計な事を話しているのは明白。
ただ、わざわざ捕まっていた彼等が取引に応じるのは理解するが、どうして狙いがリアンと光華なのか?
もしかしたら大雑把に敵対勢力として見られている可能性もあるけど、それにしては狙いが的確だ。
果たして向こうが二人を九大貴族として分かっているかの成否次第では想像よりも事態は悪い方向になるかもしれない。
「ごめん、ごめん。まー、そんな訳でこれ以上は話せないわぁ」
「僕達なんて相手にしている暇があるなら他にも邪魔な奴はいっぱい居る筈だ。違うかい?」
「ガキだと舐めていたけど狡賢いね? ボロが出ない内に死んでもらおうーーかしら!」
「ーーッ!?」
不意に飛んで来るのは一体何処で拾って来たのかと問いたくなる鉄串。計三本、当たれば致命になる部位を狙って放たれる凶器を避けたリアンはその鉄串が刺さった場所を見る。
僅かに煙を上げているが、その理由にいち早く気付いたのは仲間の光華であった。
「毒です。それも即効性がある種類の………」
「あら? もうバレちゃった? 今時の学生って知識が豊満過ぎじゃない?」
「甘く見るな。子供にしては場馴れしている。この時代で相当な修羅場を潜り抜けているようだ」
「貴族ってもう少しぬるま湯に浸ってると思ったから楽な取引だと思ったんだけどねぇ」
もはやワザと滑らしているかのように次から次へと有益な情報を開示してくる辺り、割と嘘は付けないのだろう。男性は頭を抱えているのだから即席の相方としてはハズレである。
とは言え、この事実をそのまま鵜呑みにしたら恐らくは想定している中で一番最悪かもしれない。
何故なら彼等を知っているからこそ仕向けた刺客なのだからこの舞台の裏で暗躍している存在は確実にリアンと光華の面識がある人物か或いはその付近の人物でしかない。
つまりほぼほぼカナリア・シェリーが関わっているのは確定した。まだ誰かは分からない。が、身近な人物でさえ疑いを持つ必要が出て来る状況に変わりつつある。
ただ思考をしている余裕なんて有りはしない。
間違いなくこの二人を相手にするには手間がかかる。先程まで碧の少年が相手にしていたような有象無象な魔導師達とはまるで違う。かと言って灰の少女と戦っていた魔剣使いに比べたら見劣りするが、旧軍と暗殺者なんて組み合わせだ。既に一戦終えた直後にしては相手があまり宜しくない。確実に余力を残す余裕なんてないだろう。
「やるしか………ありませんか」
「仕方がない。拘束しなければ今逃れたとしても何れ障害になる」
魔刀を構える少女と巨剣を抱える少年。
この構図を見ていちはやく動き出したのは暗殺者の女性であった。再び懐から取り出した鉄串を投擲。狙いはリアンだ。
それと同時に光華に仕掛けるのは旧軍の男性。背に抱えていた機関銃を構えて彼女目掛けて発砲する。魔法と比べても目おとりせず、殺傷能力が高いその速射式の銃の弾丸をまるで見えているかのように避けていく姿には男性も口笛を吹く。しかし、分断されるようにリアンと光華は別れざるを得ずになり、個人戦を強いられる事になった。
やはりキレるーーと碧の少年は舌打ちする。
個々の戦闘力で劣るつもりはないが、戦いにおいての経験値であり、場馴れは向こう側に軍配が上がるのは必然だ。唯一連携をするならば互いの能力を知っている側の方が有利なのだが、当然目論見は看破されているからこそこうなる。結局は先程の戦闘と同じ展開を強いられるのだ。
しかも疲弊した状態でーー。
「貴女は僕を所望かな?」
「そうよ、あっちの東洋人はどうにも私の癖が読まれそうな国柄の育ちだし? ああいう手合いは下手な搦手をする私よりかは真っ向から荒っぽい仕掛け方をする野蛮な奴の方が効果的よ」
「ふ、考え方は間違ってないけど力技でも彼女は突破するから残念ながらあちらの男は負け戦になるさ」
「勘違いしないでよ。搦手は貴方の方が弱いし、貴方を倒せば私達の勝ちを意味する盤面なのよ?」
「それまでにあっちの戦いが終わる可能性は考慮しないのかい?」
「その時は私は尻尾を巻いて逃げるだけ、お判り?」
「随分と姑息な計画過ぎて呆れてしまうよ」
「生意気………ね!」
それを皮切りに彼女は仕掛ける。両手の指全てに鉄串を挟み、手数に物を言わす。一体幾つ持っているのだと思いながらもリアンは最初の光華に説明された毒の懸念に一段階警戒心を上げる。即効性のある毒と言う事はやはり相手は片方の戦力を削ぐのが先ずは狙いなのが確定はした。元々暗殺をする為に常備している類の線もあるからたまたまでもあるかもしれない。ただ、相手を選んで戦う訳ならつまりそう言う事なのだろう。
身軽な攻め手が豊富にあると見た彼は巨剣を振り回すのは得策ではないと判断。一先ずは天器の型を変え相手の動きに合わせた守りの【鉄壁】を選ぶ。
自らが隠れるくらいに大きな盾となり、真正面からの攻撃は全て封殺された。もし向こうが距離感を間違えれば直様盾の内側に潜めた仕込み銃による迎撃が待ち受ける構えである。相手も当然何かがあると警戒を抱く中で上手く立ち回る為の戦略をリアンは考える。
そこへ彼女は言った。
「篭るのは良いけど貴方達は急いでるんじゃなくて?」
ごもっともな言葉だ。そもそもが仕掛けられている側なので不利なのには変わらない。向こうもわざわざ負け戦をするつもりだとしてもしっかりと目的を持って動いている。状況はよろしくない。
「どうにも女性って人は男性が困る所を突いてくるね」
悟られないつもりで誤魔化すのを諦めた彼はそれでも焦りはしない。しかし足掻きは見せる。それはもう立ち上がれないと思っていた場所から引っ張り出してくれた天才の力になる為にだ。彼女が諦めないで今も頑張っているのに先に自分が根を上げる訳にはいかない。
「あら? 偏見は嫌われるわよ?」
「口では勝てそうにもないからせめて力関係は上でいたいね。まあ、生憎力関係ですら暫く負け続けているんだけど」
負けず嫌いではないが、負け続けるのばかりにはどうにかして払拭は必要だろう。
◆
「さて、しょうもないトロい連中達はあらかた避難しやがったな。ったくめんどくせぇ」
癖っ毛が強い真紅の髪を触りながら口調荒くぼやいたへカテリーナ・フローリアは辺りを見回して残された有象無象が居ないか確認した。
とにかく本格的に事態を収拾させる為に必要な労力ではあるが、彼女も彼女であまり落ち着いてはいない。何故なら自分一人で確実にこの状況を好転させる程の力が無いのを自覚しているからだ。おまけに何がどうなってるかを明確に理解はしていない。自身に指示を出した栗毛の少女は想定はしていたような素振りは見せていたから一先ずは合流するのが先決だろう。
後はもう一つ。
こんな時に何故あの異端の天才は姿を現さないのか?
肝心な時に役に立たねえーー。
と急いで会場に雪崩れ込んだ瞬間だった。
眼前にシルビア・ルルーシアの姿が飛び込んで来たのは。
「どわぁぁぁぁッ!!? どうしたってんだおい!? いきなりぶっ飛んできやがって!!」
「耳元で叫ばないで下さい………見ての通り吹き飛ばされて丁度良く貴女に受け止めてもらったのですわ」
言葉通りである。勢いはあったが幸い彼女は羽とまではいかない軽い体躯と吹き飛ばされる際に自身に掛けた魔法の補助で衝撃を緩和させているのである。魔法を利用して受け身みたいなやり方が出来る辺り余裕は感じられる。
ただ、あれだけ神門 光華に攻撃を許さなかった【絶対攻略】が後手に回っているのは一大事ではないだろうか? 万能型な戦闘法の彼女だからこそ尚更である。
つまり相手はこれ以上にない想定外な相手なのを示唆している訳だ。
「吹き飛ばされたってあんたがそんな遅れを取るヘマをするだと?」
「あまり過大評価をされても困りますが実際著しい状況ではありませんね」
苦笑いをするシルビアは立ち上がって吹き飛んで来た方向へ視線を向ける。
それに合わせてフローリアも向く先から姿を現した人物は戦いを避けられない敵であり、またこれ以上にない難敵を示した相手。
真紅の少女は驚愕の表情を露わにした。
彼ーーオルヴェス・ガルム。最強の剣聖に。
「おい、何でそうなるんだよ!?」
「理由は分かりませんが、どうやら洗脳されているみたいですわ。幸いその為か聖剣は扱えないようですが」
「だろうな。それが成り立つなら誰でも聖剣を使って良い事になる………しかしよ」
「ええ、本人は聖剣が無いとからっきしと仰ってますがそんな事はありません。彼は聖剣が無くとも立派な剣聖であり、最高峰の魔導師なのですわ」
「それはそれで嬉しくねえな………」
シルビアの言葉に嘘偽りがないのをへカテリーナは知っている。過去に彼女もまた彼から手解きを受けた記憶を思い返してみても疑いようがない。
天才が誰かと言われたら思い浮かぶ人は沢山いる。
しかし誰が頂点なのか? と問われたら真っ先に名前が上がるのはーー。
「剣聖の扇動者ーーオルヴェス・ガルム」
「持って生まれた才能で片付けられない全てが出鱈目な存在」
「何か似たような奴居たな………」
それが誰かは言うまでもないが、もしかしたらその人物が彼に苦手意識を持つ理由が分かったかもしれない。同族嫌悪と言えば正にその通りだろう。
ただ厄介な点が幾つかある。
一つは彼女と違い年齢を重ねている分、強かさがある事。
一つは絶対剣の中でも一番特殊である聖剣に選ばれし者。
一つはその生まれながらの地位、名誉、積み重ねて来た実績の全てが彼を補正し、国土のみならず他方面からも民衆が支持する程の扇動者として才覚。
何処にも欠点がない。つまり弱点がないのだ。
「だがよ、洗脳されているなら潜在能力は全てが発揮はされないだろ? 聖剣が使えない時点で分かっちゃいたがそれならーー」
「ところがそう都合良くはいかないみたいだよ。へカテリーナ・フローリア」
本能がその声に耳を傾けなければいけないと思わせるように言葉に反応して彼女は驚愕した。
洗脳されているのに普通に話してやがるーーと。
「一応私は洗脳されているから君達の前に立ちはだかるけど、精神すら操られているからこうやってオルヴェス・ガルムの思考は健在になってしまうんだ」
「待て待て、冗談なら洒落にならねえぞ?」
「真面目だよ真面目。洗脳は確かに間違ってないんだけど、これは自覚している認識を捻じ曲げているに近いものだ。だから単純に私が君達を敵として見て動いてしまう。ただ、こちら側に不利益な事じゃなければ対話は出来るみたいなんだ」
「つまり、洗脳している相手が誰とかは?」
「話せないようになっているね」
「聖剣が使用出来ないのは事実ですか?」
「ああ、そもそも剣を抜く資格が私にあるだけでそれを使う使わないを決めるのは聖剣なんだ。どれだけ抜きたくても抜けない時は抜けないし、逆もしかりだよ」
「と言う事はもしかしたらーー」
「戦いの最中、聖剣が抜くに値して振るってしまえるかもしれない」
「………冗談キツいぜ」
悪くにしか傾かない状況に心なしか洗脳されている剣聖も表情を硬くする。無理もないのはそもそもが意識が残せたまま戦うのだからいっそ全て操られていればどれだけ楽かな訳だ。お互いに短い付き合いじゃないのだから心中穏やかに仲間割れするなんて笑えない。
術者の性格の悪さが窺える。
そして問題はーー。
「洗脳を解くにはどうすれば?」
「………答えられない」
そうですかーーと浅く吐くシルビアは思考を巡らせる。
有りがちな解除法は恐らく術者本人を抑える事だろう。が、術者らしき存在がこの場に姿を見せていない以上現実的ではない。探してみるのも手ではあるが、正直誰が操っているかも分からない状態で見つけ出すまでにどれくらい時間を消費するかも分からないのだ。そこへこの剣聖を野放しにさせるのも傍らの無暴に任せるのも得策ではない。
ならば洗脳魔法そのものを無効化するのはどうか?
いや、オルヴェス・ガルムともあろう者が自力で打ち破れない時点で魔法は強固な力を持っているのは明白だ。そもそも聖剣の加護が働く筈である。当人が語るには並の魔法ならば剣を抜かずとも聖なる力によって守られるらしい。だから聖剣の加護すら突破した洗脳魔法を成功法で解除するのは不可能だろう。専門分野の魔導師であれば可能かもしれないが、その専門にしている魔導師なんて極めて稀であろう。洗脳と言う分野に精通する術者側が特殊なのだ。こんなのをどうにか出来る即席の魔導師なんて一人くらいしか浮かばない。しかしそれも一個目の難題と似たようなものしか抱えないのである。寧ろ下手に探すくらいならこの騒ぎの中心であろう場所で時間を稼いでる方が向こうから来てくれるくらいだ。
だったら今するべき手段は一つしか残らない。
洗脳された彼の意識を力技で奪う事だ。
ただし前述したように相手は聖剣を抜きにしても剣聖である。天才程度じゃ手に余る強大な敵。
それでもーー。