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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
収束へ向けて
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−天才じゃ何も変わらない②−

「そんな怖い顔されてもこっちが困るよ。凌ぐのでやっとだと言うのに」


「それが本当なのかは判断出来ませんね」


「本当さ。一体今の僕の何処に真っ向から戦う余裕があるのだい?」


「だったら何故貴方は戦えているのですか? 貴方は私と違います。悪魔から力を借りているかもしれませんし才能はありますが、ただの人間。魔剣の所持者とは言え、大きく秀でているようには見えない」


しかし実力は本物だ。


だから正直魔剣を取り上げたら相手にならないのではないか? とは考えるが、逆に魔剣に依存した戦い方だけでは説明が付かない何かを感じる。あくまで魔剣は持ち主を様々な角度から強くするような便利な力ではない。確かに魔法が通用せず、最短で吸収した魔法を解放出来る点では強力な力を有している。


要はその持ち主の使い方と立ち回り方だ。


この鬼神の圧倒的な破壊力を前に憶さない。


逆に神門 光華は冥天のディアナードを、その後ろにいたアルターデーモンを前にして同じように戦えただろうか?


明らかに魔剣の要素以外で彼女の知る天才達のような特筆する点はない。ほんの僅かに間合いを掴み、ほんの僅かに剣技が上手い程度の魔導師だ。後は勘が良いくらいの圧倒的な代名詞が存在しない。


なのにどうやってこの互角の戦いが出来る?


時間を稼ぐのを念頭にやっていたとしても何処かでボロを出したりしてしまうのだ。それすら見当たらない程に冷静なのか余裕を崩さない姿ははっきり言って異常である。


剣を交えた最初から感じる説明の付かない底知れない何かの正体を測れない以上は彼女が最大限の警戒を持ってして挑むしかない。


「確かに僕は九大貴族ではあるけど他の天才達とは毛並みが全く違うし、どちらかと言えば凡才よりの魔導師だね」


「だったらーー」


「言ったじゃないか、所詮君の扱う力も神が持つべき代物であるのだから鬼でしかない君には過ぎた玩具同然なんだよ。幾ら僕より天才が居て特別な力を授かっているからって人間は人間以上にはなれない」


不敵に笑いながら語る言葉は確かに尤もで弁えてさえいる。だがそれで優劣が付かないなんて事はない。故に彼は力を持ってして世界を混沌に変えようとしているのではなかったか?


「兄の受け売りだけどね。だからーー」


「ーー!」


魔剣がこれまでにない輝きを見せる。黒曜石のような光が刀身から柄まで伸び、まるで生きた光がやがてはレイニー・エリックをも覆う。


これまでの使い方とは明らかに違う異質な仕様。それが魔剣の本来の性質じゃないのかと思わせるくらいに不気味で禍々しい波動。


光が彼の魔力と混ざり合い、黒い稲妻を撒き散らす。あの現象を一言で表すなら禁術に似たものだろう。


どんな奥の手か、と探るまでもなく今の状態を見た瞬間に彼女は直感した。


あれはーー。


「これが本来の魔剣ギルザイヤだよ。持ち主の生命を食べる事で真価を発揮する」


「災厄と言われる由縁………」


答えは最初から出ていた。言い伝え通り、触れるだけで命を削る諸刃の剣。代償として支払う事で得られる絶大な力。魔法を取り込んだりする効果なんてあくまでおまけに過ぎないくらいだろう。寧ろそうして使わなければ持ち主の手から直ぐ様離れてしまう。魔武器の原点とは聞こえが良いが、その実態は呪われた武器にすら等しい。


そして歪な力の余波を肌に浴びた光華は感じる。


これで彼も鬼神と同様の力を有したと。


「僕の切り札さ。まあ制限付きだから使いたくはなかったけどね」


「ーーッ」


ただ持つだけのレイニー・エリックの身体から血が飛ぶ。そんな血すらも吸収して黒曜石の光に赤の閃光が迸る。あんな状態で戦い続けるものならば彼の命はあとどれくらいの時間保つのかは想像も出来ない。


ここに来て長期戦の姿勢から一気に刹那的な猶予の戦いに強行する。


恐らくは次の一瞬が勝敗を決するだろう。


どちらかの命が潰える事によってーー。


やはり相手がカナリア・シェリーじゃなくて良かった。


「貴方はここで必ず倒さなければいけません。貴方は悪魔より凶悪で………恐ろしい………」


「酷い言いようだね」


或いは魔剣がそうさせているのかもしれない。意思を持ったような力が持ち主を飲み込んで変質させる可能性もあっておかしくないのだ。


何せ剣が人を選ぶのだから。


正にそれは魔性だ。


灰の少女は背後に鬼神を、手には宝剣を携えて渾身の一撃を狙うべく構える。後に控える脅威も考えなければいけないが、目先の脅威を軽んじる訳にはいかない。彼は悪魔の手を借りずともいずれは似た舞台にやって来るだけの術を理解している悪だ。


敗北は出来やしないのだ。


「これで終わらせます………レイニー・エリック!」


宣言を聞く相手もまたその携える魔剣を揺らめかせる。遅れて発生する黒に赤の混ざった稲妻はまるで生命の灯だ。その灯火は花火のように僅かな間だけ輝き咲き誇り、そして華麗に散っていく刹那の閃光。後にも先にもない彼の最大限の戦いだ。


構えには一切の隙がないーー筈が、あった。


否、隙が見えだした。それが何を意味するのかは対峙している彼女からしたら一目瞭然である。これまでの彼が隙を見せなかったのはその戦闘姿勢に起因する部分が多く、必然的に受身な姿勢でありながらも常に最適な動き方をして光華の剣筋や及ばない潜在的な能力の差を埋めていた。つまり反撃される戦い方を極力避けて安全な勝ち負けが定まらない時間稼ぎに徹したやり方が隙を生まない戦いとなっていた。


単に灰の少女が未熟だからとかそんな理由だけではない。確かに慣れない戦い方をさせられているのはあるが、それ以上に彼女は同じ絶対剣を持つ存在に対しての警戒が強過ぎたのが要因だろう。そして直様に感じ取った彼は迂闊に攻め入る状況を作り出さないように立ち回る。最初こそ勢いに押し負けそうにはなっていたが、上手く誤魔化した事により実力以上の脅威を植え付けた。


そうやった細かな伏線を敷き詰めた上での隙を見せない体勢を他の誰でもない本人が意図的に崩した。敢えてそうする必要は本来なかった筈である。


当初の予定では。


「僕も同じだよ神門 光華。君を生かして置けば必ず障害として阻むからね。君の持つ力とその底知れない才能は正に時代が時代なら救世主になっている程に」


例えこの度の計画が上手く行ったとしても彼女を放置していれば何処かで全てを切り伏せられるだろうと感じたのだ。それだけ言葉に表したように変革を齎すくらいの可能性を見せる姿がまだ開花しきらない内に芽を詰む結論に至る。


終わらせるつもりでいるのは寧ろ相手の方が強い。


今、この瞬間、何としてもでもと言ったような強い思念がーー。


魔剣の本領とレイニー・エリックの自らの犠牲を厭わない実力が発揮される。


「………」


「………」


集中力が極限までに研ぎ澄まされた二人の立つその場は別世界だ。真っ暗で音一つすら出ないような中でただただ互いの姿だけが映る。この瞬間だけは敵同士なのにも関わらず口を開かずとも彼等の意思だけで語り合えるのではないかと思わせる。


目的は目の前の障害を超えるのみ。


魔剣ーーギルザイヤと宝剣ーー天地冥道。


九大貴族と九大貴族。


運命と宿命。


天才と天才。


善と悪。或いは善ともう一つの善。


何方もが退くのを許さない事情を抱えている。


これ以上の勝負の命運を分けるのは果たして何があるのだろうか?


彼等は考えて、考えて、考えて。



ーー考え尽くして。



「はぁッ!!」


「ふッ!!」


同時に動いた。


否、僅かに速く打って出たのはレイニー・エリックであった。


周囲すら巻き込む力を稲妻のように解き放ちながらこれまでとは比にならない瞬発力を見せる。地を削りながら破壊を象徴してお互いの距離を無くした。


強化された速さなのは間違いない。が、単なる魔法による向上とは訳が違う。これは生命力を代償にした限界の解除だ。生き急いだ分の見返りを得たみたいに成功法では届かない領域に踏み入れている。当然生命力を使っただけでは済まない筈の反動すら魔剣から流れる治癒の力によって破壊と再生を常に繰り返していた。


これがギルザイヤの災厄であり、真の能力。


ある意味彼はその絶対剣を扱いこなしていると言っても良いだろう。


力を引き出せば引き出す程に死に近付くのだからーー。


「抜刀ーー【円弧】」


しかし、反則的な速さなら既に灰の少女は何度も見ては経験をしている。幾ら生命力を代償にとは言え、音速を超えたりは決してしない。増してやぶっつけ本番のような付け焼き刃の速さなんて彼女には恰好の的にしか見えないだろう。


そして振り抜く居合の剣速ならば負けてはいない。


後は速さを超えた最初の呼吸の間さえ読めていたら勝手に向こうから斬られに来る。


ただし慢心や油断をしていたらの話だ。


この敵に限ってそれは絶対に有り得ない。最初から最後まで一番徹底して立ち回って、その時点での最適解を導いて戦っていた彼なら。


「ーー!」


レイニー・エリックの姿が消失する。確かにあった筈の姿に向かって振り抜いた軌跡から返ってくる手応えがないのだ。直接斬りはしないにしても物理的なもの以外を斬るのだからそれはそれで普通なら感じない独特な感覚、言葉に表せないような何かだ。


が、単に空を斬ったと自覚する光華には今の現象がどうして発生したのかは分かる。


その常人ならざる域に入った速度が動きを変える時に置いていく残像だ。故に捉えていると思わせた時には彼はとっくに別の場所にいる。


更にそのまま彼を見失ったのだから文字通り消失したように見えてしまう。


つまり非常に不味いのである。


先手で動かれた相手に誘われた形で攻撃をしてしまったのだ。空振りに終わった今の光華は正に隙だらけな状態に陥ってしまうのである。


策略と言うには短絡的かもしれないが、引っかかってしまった。


「こっちだよ」


そう聞こえた時には右舷から彼の声を拾う。やはりこの絶妙な刹那を狙ってきた。まるで此方が本命だと言わんばかりだ。隙だらけだと感じた理由も恐らくはこれを意識しての立ち回りだったのだろう。最初から最後までしっかりと策を弄している姿勢は敵ながら賞賛に値する。


ただしだ。


神門 光華が居合術を使っていなければの話だ。


残念ながら彼は彼女の技を全て網羅している訳ではない。


「【返刀・顎門】」


「ーーッ」


同じ抜刀ならば予備動作無しで瞬時に斬り返せる唯一無二の編み出した技術。居合なんて動作は抜いた後に技が存在しないと誰もが見落としてしまう部分。そんなのは当然使用する本人が一番弱点を見抜いているのだからこの型にたどり着くのはある意味必然的であろう。


円を描いた軌跡が一度振り抜かれ、更にそこから溜めを作って逆回転斬りをする。威力の違いなんてもはあってないような切れ味だが、剣速に関しては更に数段跳ね上がっている。意表を突かれた遅れすら取り戻す程にだ。


抜群の間合いと呼吸で振られる天地冥道が右舷から攻めて来るレイニー・エリックに襲い掛かる。


しかしその回転斬りの軌道が唯一の抜け道となってしまう。


「ーー避けますか!?」


「それだけの剣技で別の技に派生しない事に賭けたけどね」


前傾姿勢を更に下げ、もはや地と同じくらいの低さで懐に潜り込む。この距離を詰めた状態から返し刀すら使った灰の少女はこれ以上にない隙を見せた状態となる。


いや、否ーー。


まだ返す刀はある。


「オルターデーモン」


背後の鬼神が残っている。意志によって動く鬼の化身は彼女の手となり、足となる。つまり手数、攻め手は光華の絶対剣だけに止まらないのだ。


その上体から繰り出される巨大な拳。が、距離はほぼ無いに等しい場所から行う攻撃はまるで自爆行為だ。


否、巻き込む事すら構わないのだろう。それだけ目先の存在を危険視している。最悪勝てずともせめて深手を負わせるくらいはしなければならないと。


ただーー。


まだ彼は魔剣を振るってはいない。


「なっ!」


一閃。


最上級と同等の破壊力はある鬼神の一撃はギルザイヤの一振りによって相殺されてしまう。やはり絶対剣なだけはあるだろうが流石に軽々と打ち破られるのを目の当たりにするのは精神的な負荷を抱える。


「ーーまだまだッ!」


腕は一本ではない。振り切り、霧散した所から反動を付けて反対の腕の渾身が放たれる。


最悪これで仕切り直しが出来れば良いと彼女は考える。鬼神を完璧に封殺するには顕現させている術者本人を倒すに他ないのは前回の戦いでよく理解している。あの時は四人の天才と言う優位性を持っていたからこそ切り開けたのだ。もしあの場面をやり直すなんて展開は勘弁したい。


だからこそここを退けたら次こそはあの動きに対応して倒せる。


そう考えた。


しかしーー。


「僕にも分かるよ。今が畳み掛ける千載一遇の機会だってね」


「ーーッ」


皮一枚。そんな僅かな隙間を掻い潜って鬼神の一撃すら乗り越えた。


その先には全てを出し尽くした神門 光華。絶対剣の剣技を見抜き、そこに落とされる鬼神の一撃に真っ向から挑み、避けられた先の間合いに踏み込まれる。


まだレイニー・エリックは魔剣の返し刀が残っている。対する灰の少女は先出しをしてしまい、更には鬼神を操作する器用さを見せた状態から残された攻めはもはやない。


ガラ空き、若しくは守りに入るしかない。


手に持つは天地冥道。それを物理的な攻撃の一閃の間に割り込ませる。


当然そうすればーー。


刀は硝子のように砕け散るだろう。


「(この力は確実にこの後の戦いに必要な力………)」


出し惜しみをするつもりじゃない。だがこの戦いに勝てば終わりなんて単純な状況でもないのだ。この後の戦いが例えどんな展開になろうとも不変たる絶対剣の力は平等に役立つのは間違いない。だからこそここで失うなんて選択肢は有り得ない。


正に宝の名を冠するに相応しいだろう。


貴重で大切な尊いもの。そしてそれを手にするから彼女は彼女であるとすら言える代名詞。



ーーいいえ。違うわ。


声がする。


ーー貴女だって同じ。貴女も私の宝そのもの。


優しくて委ねられる言葉。


ーー絶対剣があっての貴女じゃない。貴女があってこその絶対剣。貴女が生きてさえいれば何れまた天地冥道は貴女の元に復活する。


宝は何も物だけに在らず、人だって人からすれば大切な宝物なのだ。


そしてこの声の主は理解している。


神門 光華と言う人物が更なる高みを目指す為に必要な事をーー。


ーー絶対剣とはある意味で呪い。それに頼る術以外を持てなくなる諸刃の剣。だけど貴女は違う。頼らずに限界を超えようとする意志を持っている。


幾度となく研鑽した。幾度となく挑戦した。


灰の少女は出し惜しみをするだけの天才じゃない。


彼女は既に宝を手放して自らの力のみで前に進める資格を獲得しているのだ。それは凡人にも天才にも出来ない特別なもの。


神門 光華を神門 光華と言えんたる力。


即ち努力の天才だ。


ーー行きなさい。貴女の思うがままに。



「ーーッ」


もうそれ以上の声はなかった。


しかし。



「ーー驚いた。まさか決断するなんて」


眼前の少年の吹っ切れたような笑いを混ぜた声が聞こえた。


そして同時に硝子が割れるような甲高い音が響き渡る。


天地冥道の刀身が根元から綺麗に崩れた瞬間だ。きめ細かく散り散りになる光景はある意味で美しい世界を見せ、儚さが感じられる。その一瞬に過ぎない時間は対峙し合う二人にとってはとても長く思えた。


ギルザイヤの一閃を凌ぐにはこれしか残されていなかった。もしかしたら天地冥道を壊さずに自らを犠牲にすれば残せたかもしれない切り札。


果たして判断は正しかったのかは分からない。勝つ為の犠牲よりかは生き残る為の犠牲を選んだのかすらも答えは出ない。


ただただ光華にすれば長年を共にした正に身体の一部を捨ててしまったような沈痛な表情に目を細めるばかりだ。


申し訳ありません。と、自身の実力不足の為に仲間を犠牲にしてしまった謝罪が心の中に広がる。


そしてーー。



「終わりです。レイニー・エリック!!」


手放した末にようやく掴み取る相手の最大の隙。ギルザイヤの軌道を逸らし、紙一重で頬を斬る程度で済ました彼女は失った絶対剣の代わりに魔刀を構える。


あらゆる灰の少女の攻撃を躱し、ひたすら前に前にと切り開いた彼の千載一遇の機会が空振りに終わった瞬間は幾ら魔剣の力を借りていると言えど確実に攻撃を与える事が出来る。


「抜刀ーー【剛衝】」


抜かれる魔刀。自らの手で生み出した決して壊れはせず、斬る事が出来ない武器で繰り出す居合術。


ある意味で単純過ぎてこれまでの技と比べたら一番使用頻度の少ない大技とも言える。


「なっ!? 魔剣を狙ったのか!?」


軌跡を描いてもいなければ、流れに乗った加速する剣技でもない。と言うよりかは最速最短での切り替えだけで手一杯な彼女はなりふり構ってなんていられないのだ。


だから光華は全力を込めた。


ただただ全力で抜刀し、振り抜いただけに過ぎない。何千、何万と刀を振ってきた彼女の常人よりはある腕力に任せた力任せの一閃。


今この瞬間には充分だ。


もう一度繰り返す。


何千、何万と積み上げた一振りだ。


それこそが真の意味で神門 光華の最高の剣技でないと誰が言えようか?


狙うは魔剣ギルザイヤ。渾身の一撃を予想外にも本人ではなく武器に目掛けたのだ。当然予期もしていないレイニー・エリックからすればそこに単純な力任せの衝撃が走れば反応が追い付かずに魔剣を手放す他ない。


「はい。それを失った貴方には万が一もありません」


宙を舞う剣。回転しながら放物線を描く光景に彼は言葉に耳を傾けながらもそれに目を奪われるしかなかった。


手は痺れ、身体は硬直する。


その瞬間はまるで走馬灯のようだった。


確かに悪役であり世界を混沌に陥れる為に悪魔とも手を結び、褒められた所業はしていなかった。死んだ兄と同じような行動をしていたかもしれない。


罪悪感はなくとも自覚はあった。


自身は世界から見たら忌むべき側で憎まれてろくな死に方をしない罪人であるとーー。


だが、一つだけ誇りは持てた。


死線を交わした目の前の彼女との勝負はーー。



「………僕の負けだよ。神門 光華」


生涯で正直に、真っ直ぐの戦いをして胸を張れたものだと。


「敵ながら敬意を表したのは貴方が最初で最後になるかもしれないくらいに悪でした。レイニー・エリック」


願わくば来世では好敵手として邂逅出来る様に。


そんな気持ちを抱きながらーー。



「さよならだ」


彼は鬼神の紫炎に包まれていった。


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