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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
収束へ向けて
120/155

−天才の真髄②−


「(有り得ない………)」


アースグレイ・リアンは驚愕を覚える。その理由は根本的に魔法と言う概念の常識に吸収されると言う表現はないからだ。魔法とは元来発生すればその後は消えるが正しい認識。つまり使った魔法が衝突等をして分離や散開して再び自然界の魔力に戻る流れが普通なのだ。


それを魔力もろとも吸収してしまうなんて聞いた事がない。もはやアンチマジックの部類に入る極めて貴重で強大な力と言えよう。


端的に述べるなら魔法を吸収する魔剣。


絶対剣として絶対性を見せるような力。


後はどこまでを魔法の許容として認識するかで恐ろしさは変わる。魔法が魔力を媒体とした技なのだから魔力が通ったものは全てギルザイヤの前には無力となるのではないか? だとすれば既に詰みである。下手したらカナリア・シェリーですら太刀打ち出来ない程の相手だ。魔法が一切通用しないのに攻め手がそれしかない相手にはこの上ない反則的な力。


「その様子だと気付いたかな? この剣が魔法を無力化するのを」


見透かした風に語る彼には早くも落ち着きを取り戻した佇まいを見せられ、苦しい表情を浮かべる事で肯定するしかなかった。


「魔剣ーーギルザイヤ。魔武器の原点にして本物の魔武器と呼ばれると同時に諸刃の剣として触れるだけで持ち主の命すら奪う災厄とされる絶対剣。まあその実態の片鱗は今しがた見た通りだよ。魔法を取り込む特性を有している。言わば魔法に対しての対抗策だよ。元々魔武器が主流となる理由は魔法だけでの戦いに限界を感じる者達が編み出した手段。最近では魔武器を更に強化する天器が魔法を極めた魔導師と同等に並ぶように時代は変わってきているけどね」


教科書を読んでくれているような優秀な説明だったが、多少なり学院の教鞭を執る人物達以上の知識を付け加えた内容だ。しかし実際に魔法も魔武器も両方を高次元に扱う人は少ない。何故ならわざわざ起用貧乏になるくらいなら自身に合った道を進む方が合理的であり、魔武器は使える事がそのまま強さや偉大さの証明にはならず、それを扱えなければならない。剣ならば剣技、槍ならば槍術と模った形か若しくは型を身に付けなければ宝の持ち腐れだからだ。


他にも才能の有無じゃ身に付けれない事もあり、その代表を挙げるならばカナリア・シェリーだろう。


異端の天才と称された彼女ですら使えないなんて事例もあるのだからわざわざ最初から好んで魔武器に頼る人は少ない。まあ、カナリア・シェリーの場合はそもそもが魔法の才に極振りしているのが天器の習得を邪魔したと推理するのが確信に近い。魔法が才能の良し悪しなら天器は努力の良し悪しなんて話もあるくらいだ。それだと極一部の人間に関しては天器を習得しながらも魔法の才も持つ秀才な魔導師もいる。


そう考えると光華は改めて織宮 レイや如月 愛璃蘇、そしてへカテリーナ・フローリア辺りの凄さを痛感せざるを得ない。


因みに異端の天才が何故天器を習得出来ない理由は知識の転生による応用魔法を学院や書物で得た知識から編み出しているので理論や理屈の塊の魔導師では長年魔武器を扱い続けてその先にある感覚で掴む力を手に入れるのは土台無理があるからである。これをもっと早い段階で把握していれば彼女に苦手な技術は無いに等しいだろうが、もう魔法の力に極振りしてある以上本人も必要が無くなってしまった今その機会が訪れるのは先だ。


そんな魔武器や天器をも上回るのがレイニー・エリックの持つ魔剣。つまり魔法に対抗する為に広まった技術はギルザイヤがあってこそのもの。


「取り込むと、言いましたね?」


「うん。魔法を打ち消さずに取り込む事と魔法に対抗する為の理由を合わせたらもはや説明するまでもないよね?」


魔剣が黒曜石のように輝きを放ち、魔力の気配を強くする。


構えも、剣を振るいもしないままに、まるでその取り込んだ力を外界に放出する事が目的のようにーー。


風の斬撃が少年へと帰って行った。



「ーーッ!?」


不意を突かれはしたものの持ち前の反射神経により間一髪で回避する。


その姿を眺めながらレイニー・エリックは冷ややかな視線を向ける。


「あんまり横槍を入れるのはお勧めしないよ、アースグレイ・リアン。それだけ彼女を不利にさせる」


驚愕を覚える彼。同時にその状況を目の当たりにした灰の少女も予想が的中したとは言え、戸惑わずには入られなかった。


結論。


魔剣ギルザイヤの特性は他者の魔法を吸収し、それを自由自在に放つ事にある。単に魔法が通用しないだけではなく、その力が利用されてしまうのだ。魔法を行使する魔導師にはとんでもなく相性が悪く、ある意味絶対剣の中で一番人間に相性が良いかもしれない。


持つ相手は最悪かもしれないが。


「(カナリア・シェリーと戦わせないで正解だったかもしれませんね)」


魔法の類が一切通用しないはおろか天敵とも言える存在。ただ、彼女からしたらそんな状況すらどうにかしてしまいそうな気がしないでもないから一概に正解なのかは分からない。


「(私もどうにかしないといけない訳ですね)」


予想だにしていなかった展開は起きたが、意外と冷静さは取り戻しつつある光華は魔刀を握り締める。要は魔法の絡め手が封じられただけだ。元より魔法に頼る機会は多くない彼女にはそこまでの不利には働かない。


依然天地冥道が通用しない状況には変わらないが、突破口はどこかに潜んでいる筈だ。


それまでは魔刀で上手く凌いでいくしかない。


或いはーー。


「(あれは………制御しきれない可能性がある)」


微かに内を流れる魔力が脈動するのを感じる。まるで目覚めを待つ化け物を飼っているような気分だ。


鬼神ーーアルターデーモン。その力が宿っているのを自覚したのはついこの間だ。凄まじい力が身体から溢れ出るあの異常な感覚は解放してしまえば抑えきれない闘争心に変わり、暴走してしまう程に止めどないもの。強大な力とは持つだけで人すら変えてしまうのを肌で実感出来る。当時あの悪魔がどうしてあそこまで戦いを求めていたのかも今なら分かるだろう。冥天のディアナードを持ってしても鬼神の力は手に余ってしまう程に強力であった。


シルビア・ルルーシアとの戦いで初めて出し惜しみをしないと決めて最後に使ったが、彼女が上手な魔導師で助かったと光華は今では思う。あの時に解き放たれた力は決して抑えきれる代物ではなく、あのまま暴走する寸前までいっていた。一撃が最上級を想起させる威力を制御出来ないとあっては諸刃の剣以上に危険な爆弾であろう。


まだそれでレイニー・エリックを倒せるなら良い。が、それが新たな脅威になってしまう状況を作ってしまうなら話は別だ。一難去ってまた一難なんて笑えない。


試す価値はあるのだろうが、どうしようもない土壇場に陥ってはいやしない。


「(頼り切りになるような力ではない)」


言い出したらキリがない。しかし、現時点では切り札には成り得ない。未だに鬼札のままだ。


「さあ、邪魔者の居ない戦いの続きを始めようじゃないか?」


「私としては早く終わらせたいのです」


「なら終わらせてみなよ?」


魔剣ギルザイヤを向けられながら挑発される灰色の少女。苦しい展開が続く中で突破口を探さなければいけない。


各々が敵の思惑通りの時間稼ぎをされる中、果たして誰が切り崩すのか?





魔力循環障害症候群。


生まれながらにして魔力を循環させる機能に異常をきたした際に身体に後遺症が残った時のごく一部にそんな症例が確認されるらしい。基本的には後遺症は成長していくに連れて回復する例が大半を示すのだが、稀に後遺症が改善されずに尾を引く事も存在される。つまり魔力の循環が出来ないと言う事は魔法が使えない訳だ。生まれた瞬間から決まった運命は呪いとすら言えよう。


俺が生まれた家庭は母はごく普通の人、父が現役の軍人として働くものだった。恵まれていたのは間違いないだろう。その病気さえなければ。


魔法が使えない弊害を補うべく父からの教育を幼い頃から受けていた。現役の軍人の手解きは些か厳しいものがあったが、魔法が使えない分の足枷としては当然ではある。


魔法に関しての勉学にも励んだ。今では魔法学が存在しない学園は小規模で一般知識として覚える必要もあり、いつしかこの症候群に治療方が実現した時の為にもの意味を込めて恐らくは人一倍以上には勉強しただろう。


おかげで秀才にはなれただろう。


しかし周囲から見れば魔法が使えない印象は悪く、不遇な扱いを受けていた。それでも魔法以外での優秀な成績を残せたおかげで進学には困らなかった。


優しく育ててくれた母に心身を鍛えてくれた父。


順調な人生を歩んでいたであろう。


が、丁度その頃だ。軍とギルドが解体される前に起きた予想しない出来事により俺は変わってしまった。


【黒の略奪者】。


あの事件の日、父は軍人としてセントラルで襲撃者達と戦っていた。当然そこには俺や母も住んでいた訳で避難する筈だった。とは言え急遽の襲撃に俺と母は避難するのに遅れ、戦場と化した場所に取り残されてしまったのである。


正に地獄ではあった。しかし本当の地獄が始まったのはその後だ。


遭遇してしまった。奴等にーー。


いや、奴等以上に先に出会ってしまった人がいた。


それが父だ。


父は集団の中の一人。そんな彼に母や俺が安堵の声で呼び掛けていたのを今は後悔している。後から聞いてみれば黒の略奪者にいた精神魔法を使う特殊な魔導師に父は魔法で操られていたと知る。悔やんだのはもし魔力循環障害症候群じゃなければ、魔法による異変に気付いて助けられたかもしれない事だ。


父も、母も。


何らかの計画の最中だったようで邪魔と感じた集団の中の一人の合図によって俺達は襲われた。


その時に母は死に、俺は両脚の自由を奪われたのである。


今でも当時の記憶は消えたりはしない。指示を出したあの黒の略奪者と横にいたセラと呼ばれていた青髪の少女を。


全てが終わった後には確かに平和は訪れていたのかもしれない。


だが俺に残されていたのは母の墓碑と精神崩壊した父とーー。


新たな脚となった車椅子だけだった。





「後は簡単だ。そんな絶望的な俺の元へ堕天のルーファスは現れ、足はおろか、魔法を扱える状態にしてくれそしてーー」


世界を変える機会を貰った。


と、単純で難しくないある意味なるべくしてなるような悲劇的な過去を私に語るのだ。


その車椅子に座った状態で組んだ手に顎を乗せながらーー。


「どうだ? もうこれ以上にお前と敵対関係にある理由を説明する術を持ってはいないが、納得したか?」


促される私。


が、当然理解し難い内容は残っている。


先ずは今の流れで悪魔に手を貸して一体何がユリス先輩はしたいのだ?


加えて雄弁に語った過去の話に出て来た人物。彼は確かにその名前をはっきりと言った。もしそれが私が知る人と同一人なのだとーー否、同一人の可能性は濃厚だろう。


だからこそ理解し難い。


だって彼女はあの時ーー。


「貴方が世界に牙を剥く感情は一体………」


普通ならば憎しみだ。推測するとすれば力不足の自身を憎み、守ってくれなかった善の者達ならず母や父を奪った悪すら憎む。


いや、今の推測で完成してしまった。


そうだ。ユリス先輩からしたら善悪に対して絶望を与えられた訳なのだから両方を憎むのは当たり前で、その為に世界を変えるなんて至極当然の考え方だ。


ただそれにしても。


「………あの日、病院で目覚めた私の側に居た一人の女性………彼女を知らない筈がないわよね?」


「セラ・ゲルビン。魔法医学の権威であり、黒の略奪者の時に世界を救った英雄の一人だろう?」


「そう言う事じゃない!!」


「ああ、知っているさ。彼女は俺があの事件で見た黒の略奪者と共に居た人物だ。忘れはしない」


「彼女にお世話になっている私が言うのは変だけれど、貴方からしたら親の仇のようなのがすぐ隣に居たのよ? よく平然としていたわね………」


詳しい内情は知らない。そんな話を私は彼等から聞かされていないのだから。しかし、アリスさんみたいな経緯を考えれば何かしら当時に問題があったかもしれないし、なかったかもしれない。でも事実の焦点はそこではないだろう。


どう見繕おうが、その時の彼からしてみればセラ・ゲルビンと言う存在は明らかな親殺しの一員であり、確実な悪だったのだ。


今数々の人の命を救っているし、私だって助けられて生きているとしてもユリス先輩からすれば人殺しとして映る事実は変わらないと思う。


だからこそどうしてあの場で何もなかったのか?


私が彼の立場ならば感情を抑えられずに復讐心を駆り立てて襲い掛かるかもしれない。






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