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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
収束へ向けて
119/155

−天才の真髄−


「はぁぁぁぁぁッ!!」


仕掛けたのは神門 光華。まさかの居合術を主な戦闘をする彼女が自ら先攻を取るのは意外過ぎた。しかも振るうは折れない魔刀ーー天地衝動と斬れないもの斬る事が出来る宝剣ーー天地冥道。これらを始まりから扱う姿は碧髪の少年も見逃した場面であり驚きを見せる表情だ。


二太刀。ただし傍らの宝剣は軌跡を描かなければその脆さ故に砕け散ってしまう剣。なのにも関わらず灰の少女は恐れを持たずに振り抜く。


何らかの違和感を覚えたレイニー・エリックは軌跡の範囲から下がってかわす。が、その後に続く魔刀の一振りまでは逃げ切れずに魔剣で受け止める。


鈍い音の振動と共にまさかの彼の方が衝撃に身体を泳がす。


まさか幾ら剣豪の域にいる者の一撃とは言え、振るうのは同じくらいの少女だ。何処にそんな力があると思うだろうか?


受けたレイニー・エリックは柄を握る手が痺れているのを感じる。受けただけでこの有様なら実際に斬られたらひと溜まりもないのが確信出来た。正確には殴打ではあるが、どちらにせよ一撃一撃が致命打になるのは間違いない。


まだまだ仕掛ける光華。確かに手数が増えはするがあれ程の全力の剣戟を息を吐かせる間もなく続けて来る姿は鬼気迫るものがある。攻めに転じる少女にはあの居合の守りの姿勢は一切感じられない。


右からの袈裟斬りを避け、同じく左からもがむしゃらとすら捉えられる袈裟斬りを受けて火花を散らせ、外からの横一閃を皮一枚で避け、内から抉るような斬り上げも身体を半身にさせて逃れるが、その後に続く魔刀の一閃に再び魔剣で受け止め、間髪入れずに回転斬りで放つ宝剣を身を低くして際どい回避を強いられる。そこへ天地衝動による刺突が繰り出され剣の腹で防ぎはするが、後ろに後退せざるを得ない。


「ーー!」


僅かに宙に浮いた足が地に着いたと同時に既に懐に踏み入る彼女の姿があった。


射抜かれる視線を感じた直後、斬られてはならない天地冥道の斬撃が髪先を削る。空振りはしただろう。しかしその後に残される退路はない。そこへ荒げながら迫る魔刀の脅威を避ける事は不可能だ。


それでも、何とか間に合わせた魔剣による防御。


斬るではなく叩き殴るような一撃と衝突したレイニー・エリックは一合目と同じく鈍く振動する嫌なら音が鼓膜を刺激しながら身体が弾かれる。


そこで猛攻は一旦止まった。距離が空いたからなのか、あの連撃に向こうも一息付きたかったのかを知る由はないが彼は命拾いしただろう。仮に片方が絶対剣じゃなかったとしても今の攻撃に差はあまり変わりないだろう。


「………」


火花が散った匂い、僅かの間の戦闘による砂埃、そして衰えのしない闘気の熱により歪むような空間。そこに佇む姿はリアンの知る灰の少女には程遠く感じた。まるで一騎当千の面構えだ。


これが神門 光華の本気。彼が同じ状況下ならば既にもう終わっていただろう。


つまり恐ろしいのはその一合一合を凌げている相手だ。幾ら押された展開だったとは言え、魔刀と宝剣の特性を見極めた上での対応をした。二刀の連撃を前にそんな動きが出来るか?


おかしくはない。何故なら悪魔とすら手を結ぶ者だ。しかも向こう側でカナリア・シェリーと相対するヴァナルカンド・ユリスも堕天のルーファスから力を与えられている。ならばレイニー・エリックも同様に何かしらの力を得ている可能性は高いだろう。それでも果敢に攻め入る彼女の強気な姿勢は流石だが、もしかしたら今ので倒せなかったのは不味かったかもしれない。


「………もっと静かな印象があったけれど、まるで修羅ーーいや君の場合は鬼か」


打ち合う前と何ら変わらない様子で感想を漏らす。防戦一方の姿が嘘かのような素振りは余裕の表れだろうか?


不気味で、不吉な気配が神門 光華の表情を険しくさせた。確かに全力で斬り込んで手傷を負わせはしなかったが手ごたえは感じた。しかし全くの焦りも看破出来ない。


「ーーふっ!」


相手の流れに乗るつもりのない彼女は再び踏み込む。


理由はあった。向こうから攻めてもらう為に費やす時間が恐らくはあまりないと考え、変に魔剣を所持する敵に隙を見せるような誘いも危険だと判断したからだ。時間を稼ぐのが目的。それに付き合わされれば待つのは大魔王の復活なんて堪らない。


修羅だろうが、鬼だろうが構わない。立ちはだかる者は斬り捨てるのみだ。


魔刀を振りかぶって兜割の勢いで振り下ろす。もはや剣で防ごうものならそのまま砕く豪快さ。派手で大技に見えるが、彼女がすれば一流の剣士を超えた剣速での攻撃になる。


「それは確か魔刀ーーだったかな? ちょっと呼び名が魔剣と被ってしまうね」


「ッ!?」


それを綺麗に受け流された。技自体に対しての対処としては正解ではあるが生半可な剣筋を捌かれた訳じゃなく神門 光華の渾身の斬撃だ。軽い口振りで語る余裕を持たれながら片手間で受け流せる技術ではない。


まだまだーーと驚きを抑え込み、流された勢いすらも次に転じさせる。二刀の利点、まだ灰の少女には本命の絶対剣がある。更なる加速に任せ、踏み締める地から砂埃を舞わせる程の回転斬りは閃光の軌跡だ。正にこの剣戟の舞の前には斬れないものは存在しないだろう。


ただまたしも紙一重の距離を取られ、天地冥道は空を斬る。これだ。この絶妙な位置取りで避ける動きは明らかに見切られてしまっているとしか考えられない。攻めてはいるものの何も直接的な優位に立てる一撃が全く入らないのは彼女からしたら焦りに繋がる。つまりきっかけにならない状態で単に振り回しているのは全ての調子を崩される。


そして二刀を前に選んで防ぎ、躱すが意味するはーー。


「ーーッ!?」


刀と刀の隙間に捩じ込まれてくる歪み。まるで剣とは思えない異質なナニカが牙を剥く。それは死に最も迫る脅威に他ならない。


ここで見せた初めての魔剣の一閃。振り切った態勢の隙を突かれながらも神門 光華は太刀筋に合わせて逃げるようにその場で側宙による体捌きで受け流し、そのまま後退を余儀なくされる。これには相手からも口笛を鳴らす賞賛がされたが、必死の回避をする側からしたら一瞬の攻防で体力をごっそり持っていかれた気分だ。否、実際に精神的な疲労は相当だった筈である。


「器用に動くね? 躱せない頃合いを見計らったのだけれどやはり稀代の天才なだけある」


「そう言う貴方こそ………測り難い底をお持ちみたいですね。掴むのは簡単には………いきません!」


再三に渡る軌跡。描かれた太刀筋はあらゆる物理に関わらない現象を斬り伏せる事が出来る反則的な力。軌跡ならず奇跡とも言える絶対的な剣による絶対的な剣技。正確には剣ではなく刀だが、もはやさしたる差はない。


斬られたらそこで勝負が決する。一太刀で良いのだ。一太刀届けば勝つのは灰の少女なのだ。


しかしーー。


「種は大体割れているよ。そしてどう対処したら良いのかもね」


上体だけ反らして僅かな軌跡の外に逃げる。決して判るようなものではないのにも関わらず彼にはそれがはっきりと把握されてしまっていた。


何故? どうして?


いや、既に冥天のディアナードやシルビア・ルルーシアも特性を看破していたのだから絶対性は必ずしも発揮されないのは当然だ。


つまりレイニー・エリックもまた同じ絶対剣を持つ人物としてだけではなく、これまでに相対した怪物や天才と同等かそれ以上の実力を持っているのだ。残念な事に毎度毎度と神門 光華の相手として現れてしまうのが厄介ではあるが。


なら彼女の次の一手をどうしたら良いか?


天地冥道の特性が通用しないならば正に諸刃の剣。下手に使えば刀身は砕けて暫く扱えなくなる危険性を背負ってしまう状況で振るえるか?


答えは振るえない。ここぞと言う場面でこそその絶対性を持ってして切り開く切り札なのだから通用しない可能性の高い相手には自殺行為だろう。


ならば天地冥道抜きで倒すしかない。


倒す? 魔剣使いを前にして?


汗が頬を伝い顎から滴る。肉体的よりかは精神的な疲労による焦りが少しずつ表面化していくようであった。実際にここ最近既に全力を持ってして挑んだ結果、大敗を喫してもいる。あくまで本人が意識しているのであって実際は相手にも紙一重な部分は多々あり、一概に大敗したとは言えない。仕方ないがそう感じ取ってしまっている彼女には現状にその気持ちを引きずってしまった。つまり弱腰になり出しているのだ。もしかすると最初の猛攻もそうならない為の手段だったのかもしれない。しかし悪手みたいな状況になってしまった以上はここで別の手を考えるしか方法はない。


が、悠長に待ってくれる筈もなく。


「仕掛けて来ないならこっちからいくよ。生憎天才に時間を与える程懐は広くないんでね」


「ーーッ!」


前傾姿勢になりながら魔剣の先端を向ける動きに彼女はジリっと左回りに摺り足でゆっくりと動く。


時間稼ぎしたいのではなかったのか? と神門 光華は内心で苦言するが普通に考えたらそれが最善だ。自身が優位に立ちながら稼ぐ時間と相手に猶予を与える可能性も稼ぐ時間ならば迷わず前者だ。何なら攻めずとも圧力を掛けるだけでも全然違うのだから彼は人の嫌がる状況を作るのが得意と見る。そしてやはり一番の難題はあの絶対剣の存在だろう。未だに謎に満ちた魔剣を持つ相手から意識を逸らすなんて余裕はない。


不敵に笑うレイニー・エリック。その素顔が悪魔が浮かべるものに近く見えてしまった灰の少女は向こうの一挙一動を見守る形になってしまう。


そこへーー。


「駆け引きだそれは! ちょっと攻め手が崩されたくらいで怖気付くな!」


「ーーッ! アースグレイ・リアン!」


横槍の魔法が放たれ、苛立ちの言葉を見せた魔剣使い。ハッとなる彼女は相手に術中にハマっていた事に気付き、冷静さを取り戻す。


彼の言う通りだ。自身がそうであるように絶対剣を持っていようが本来の役目以外で扱う時なんてあくまで駆け引きの手段の一つに過ぎない。きっとそれでも弱腰になったのはそこに絶対剣があるって事実やこれまでの結果に捕われ過ぎているからであろう。見ての通り横槍を入れられたレイニー・エリックの予定が崩されて舌打ちをする姿が何よりの証拠だ。相手に呑まれてあげる必要なんてない。いつだって敵は未知なのだ。同じ相手じゃない限りはそれ以前の戦った人物を重ねる必要ないのである。


彼は冥天のディアナードじゃない。


彼はシルビア・ルルーシアじゃない。


彼はレイニー・エリックだ。


強敵には間違いないがそれで敗北に繋がる訳じゃない。


「(ありがとうございます。リアン君)」


思わぬ場面からの助言により弱気な気持ちを解消させる光華は魔法を防ごうとするレイニー・エリックを見据えてそこの攻防が終わったら仕切り直しにしようとした。


彼に迫る風の斬撃。威力よりも伴うのは速さの魔法は注意が向いてない角度からだと効果的面であろう。直撃はしなくともここから起点に繋がる可能性はある。


と思えたがーー。


「不意打ちだなんて随分と卑怯な真似をしてくれるじゃないか?」


「なっ………」


その風は霧散する。


防がれたと説明するのは正しいが問題は防ぎ方と防いだ時に起きた現象だ。


霧散はリアンと光華が最初に感じた率直な感想であり、そうじゃないと後から理解した二人は揃ってこう抱く。


魔法が吸収されたとーー。


あの魔剣に。


魔剣ギルザイヤに魔法が吸い込まれて消失したとーー。








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