表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
収束へ向けて
117/155

−天才達の舞台④−


「なら続きを始めるぞーー」


「ッ!!」


様々な戸惑いに翻弄される状態を読んだのか彼から仕掛ける動きがあった。


速い。気付けばもう目の前で相手と自分の瞳が覗き合えるくらいに距離を詰められる。不意をついた攻撃ではあるが、心眼を発揮しなければこうも容易く接近を許してしまうくらいにはユリス先輩は俊敏だ。


たまらずに後ろに大きく下がる。しかし、次の瞬間には背後に回り込まれる。


「別のものが視えるとは言ったが対象がその眼に入らない場所に居れば意味はないだろ?」


「ーーッ」


言葉にならない声を漏らしながら後ろから抉るように伸ばされる手を上手くいなす。そうして手首を押さえ、前にも使った東洋流の投げ技に繋げる。殆ど反射に頼った形ではあったが意外にも通用し、そのまま宙へと投げ飛ばす事に成功した。


隙の出来る状況を作り出した私は魔法を放つ態勢に入る。このまま最上級の魔法で押し切る判断に行き着いた訳だ。


「もう一つ、視えていようが避けたり動けなければ意味がない」


「なっーー!?」


矢先に魔法の行使を抑える。不意な衝撃が身体に走り、集中力が分散された影響のまま放つ魔法の暴発に配慮して無理矢理中止した。


自身の肉体の要所要所には衣服すら切断して傷を負っていた。もし魔法を放つまでに至れば四肢は切断されていたかもしれない。


視認が出来ない魔力によって張り巡らされた極薄の鋭い糸。


これはダリアス・ミレーユが使用した魔法である。


「真似したって言うの!?」


「真似って程の難しい技術はない。動きを制限させるには効果的だから利用したまでだ」


「見ただけで使えるのがおかしいって言ってるのよ!」


まあ人の事は言えない。が、再現性を一度目でこうまで上手く出来ているのは異常だ。私ですらすんなり再現は難しい。実際にアリスさんの技を完璧に使えてないのがそうだ。簡単な魔法ならいざ知らず、他人の魔法と技術を複合させた特殊な技はある程度再現に時間が掛かる。


それを即席で同じ域にーーいや、彼女のは糸に魔力を帯びさせた視認が難しい糸だ。元々あるものを改良して武器にしたに過ぎない。


彼のは魔力のみで作った武器だ。道理で違和感がある訳である。もし心眼を使ってなければ捉えられなかった。


「ああ、奴は張るだけで動きの牽制にしか使ってなかったようだが」


まだ終わらない。


眼に映る魔力の糸の包囲網が弛む。


つまりーー。


「魔力だけならもう少し上手く使えてこんな芸当も可能だ」


不規則に絡んでくる。これを潜り抜ける隙間があるとすれば透明人間になるしか方法がないくらいに細かく、何重にも蜘蛛の巣のように纏わりつく。


駄目だ。このまま再び糸を張られたら私の身体は細切りにされてしまう。


そんな未来視的な映像が脳裏を過ぎる。


だがそれなら。


「はぁッ!!」


「ほう、魔力の障壁で振り払ったか」


魔法には魔法。逆に魔力だけで精製したのが弱点となったのだ。彼も気付いていない事からきっと本家であるダリアス・ミレーユが何故わざわざ物質に魔力を帯びさせて使用したかが理解出来る。正直直感的な行動に従ったが、どうやら運良く対処としては正解であった。


待てよ。


この方法を常に維持し続けていれば多少の魔法は跳ね返すのは容易だ。その状態の戦い方をするのは身体強化魔法を使うよりも遥かに燃費は悪いが私には空間に満ち溢れる自然魔力を利用すれば解決する。


「これで貴方の小手先の魔法は通用しないわ」


「必死の形相を浮かべていただろう」


バレバレである。しかし小手先と一蹴出来る条件を整えた。ここからは純粋なぶつかり合いに向かっていくのではないだろうか?


「良いさ。そんな簡単にお前を止められるとは思ってはいないからな」


「貴方………ッ」


ユリス先輩も此方と同じように自然魔力を利用した障壁を展開し、突貫して来た。魔力と魔力が衝突する影響の余波が周囲に吹き荒れる。踏ん張って均衡の状態に持ち込むがこれはこれで苦しい。少し気を抜けば忽ち飲み込まれそうな互角に見せかけた盤面。既に過去に教えはしたが、まさかここに来て彼に試しにコツを掴ませたのが失敗になるとはね。


「過小評価するには天才過ぎるのは承知だ。純粋な魔法の質だけで勝負するなら天秤はそっちに傾く。ただし詰めるべき部分が詰まっていない中途半端に才能だけで構成した地盤は脆い」


的確な指摘であるのは間違いないと納得するには少しばかり厳し過ぎないだろうか? これでも元軍人であるダリアス・ミレーユにも戦い抜いた実績がある。それでまだまだ未熟だと言うなら一体彼はどれだけの修羅場を超えて来たのか?


「だから才能だけで構成出来てるお前は異常なんだよ。これまで勝てて来たのは相手がカナリア・シェリーの成長速度を見誤っているからだ。相手の戦法、技術を見て吸収し、真似や対策を直ぐ様こなしていく内に相手の想定していない動きをする。これがお前が勝利している理由だ」


「だったら何が問題って言うの?」


「初見に弱いって誰かに言われなかったか?」


問いを交わすと同時に障壁を解除したユリス先輩は一切の魔法関係に頼らない体術で仕掛けて来た。ただの物理なら障壁は関与しない。


両腕を掴まれ、組みあいに持ち込まれる。恐らくその先に待ち受けるのは身動きを封じられる術縛りの技だ。そうなれば私でなくとも誰しもがどうしようもない状況に陥入る。


咄嗟に浮かんだのは力めばそれを利用した投げ技に繋げると考え、敢えて脱力を意識。相手の動きに身を任せ、抜け出せる隙のある瞬間に相手の勢いも利用して吹き飛ぶ形で逃れる。


が、間髪入れずに細身の男性を中心に展開される魔法陣と魔力の砲弾のような塊。宙で視える先の動きはどうあっても回避では補えない連撃の嵐だ。先程語った言葉の通り避けられなければ意味がない。


「初見の動きで隙を作れば後は何でも良い。そうするだけでお前の心眼と才能の差は埋められる」


そんな声が耳を掠める。


しかし流石に対魔法だけの攻撃ならば私が対処出来ない理由にはならない。


【強制中断】。


本日はまだ初の回数制限付き原初魔法だが、起死回生に流れを変えるある意味最強のアンチマジック。


全てを振り出しに戻して着地する私に冷ややかな視線を送りながら舌打ちする姿はどうやら今ので有利にしようとする魂胆だったのだろう。残念ながらそうはいかない。


「………これだ。才能で構成されてるから読めない展開を作り出す」


そう漏らすが、早速奥の手を潰された事実には変わらない。まだ回数制限の上限ではないけど反撃すら敵わないのに防戦一方で使わざるを得ない状況はまるでへカテリーナ・フローリアの天器を想起させる。


言うなれば一方的で打開策が浮かんでない訳だ。


自身の記憶ではこのは正直負けてしまう経歴しかないので宜しくはないけどとりあえず不利に見られないように笑みで返すしかない。


結局心理戦も必要になる土俵にまで力を知でねじ伏せて来た感が否めない。それでも相手に苦手意識を持たせたのは好都合ではあるのか? いや、此方も似たような感覚なのでこれは痛み分けか。寧ろ弱点とも言えない弱点を既に見抜かれ何回もピンチに追い込まれているのは不味いと取るべきか?


「まあこれで地盤が脆い理由は分かっただろう? 崩し方はお前が知らない未知な部分だけあると言う訳だ」


「私が対処しきれなくなるか、貴方の手札が無くなるかが勝敗を決するって言いたいの?」


「察しが良い。そうだ」


何がそうだ、だ。つまり長期戦は必須な風に誘導しているじゃないか。ただでさえ短期で決着を付けたいのに長引く戦いは勘弁して欲しい。


確かにユリス先輩は私達を倒すとか明確な答えは提示していない。目的の為に立ちはだかる意思表明しか見せていないのだ?


要は時間稼ぎが出来れば良い。成る程、それならば私を煽れる。勝ち負けの定義がそもそもズレているのだから私が時間をかけてこの場を潜り抜けたとしても彼等の目的が達成されれば彼等の勝ちになる。


やはり嫌な性格をしている。


焦るな、判断を誤ればそれこそ向こうの流れに嵌る。失敗を誘って来ているのだ。油断も隙もありゃしない。


が、仕掛けられてばかりも恐らく思うツボ。先程のやり取りの通りで対処し切れない敗北か或いはそれだけの時間を使う戦法も視野に入れている。何より初見の動きに弱いのは事実だ。と言うより誰にでも言えた話ではあるが、手札を沢山持っているからこその発想だ。焦ってはいけないかもしれないけど現状私から仕掛けるしかない。心眼がある中で何処まで通用するかは未知数だがやるべきだろう。


速さなら遅れは取らない。


「具現化武装【竜の脚】」


「ーー!」


両脚を想像したがままに、鋭く力強い人成らざる異形を創り上げる。名は体を表す。この力は未だ知らないが存在する竜のものだ。そこに異端の天才の技術を組み合わせる事で更なる強さを得る。


「【俊電・雷竜】」


脚に雷を纏わせ爆発的な加速と威力を帯びる強靭な脚力を持ってしてーー。


風に乗って完成する最速の技。



「複合魔法ーー【疾風迅雷】」


荒れ狂う暴風を渦巻かせながら閃光のように駆ける。前回へカテリーナ・フローリアに同じ魔法を使ったが、あれはまだまだ未完成の代物だったのを本格的に実用化した。まあやってる事はアリスさんの瞬電の終着点なだけだが、きっと話に聞く落ちこぼれの英雄さんはそうなんだろう。


音を超えた衝撃に雷撃を添え、嵐を巻き起こす。これだけの力を才能も無しに努力だけで完成させるなんてある意味異端である。私は脚を竜に、雷を纏い、風に乗る複合魔法として発動する事が最適解だと思うが、果たしてかの人はどんなやり方なのだろうか?


そんな事を刹那に抱きながら突貫するつもりだった。


ーーが。


「ーーッ!? 魔力の糸!?」


「膨大な魔力を使うおかげで常に放出しているのが幸いしたな。逆に言えば動きを止める役割に変わったが」


初動に仕掛けられた蜘蛛の巣のように絡み付く魔力で構成された糸がカナリア・シェリーの発射を遮る。彼の語るようにもし衝撃に備えて魔力を解放した強化状態じゃなければ細切れになってしまっただろう。まあ諸刃の剣みたいな技術だから生身で実行すべきものでもないので必然的に細切れにはならないのだけど。


しかし、見切れないと悟った瞬間に初動を止める対処を迷わず実行するのは流石だと言えよう。一応彼からしたら私が使う魔法は初見の筈なんだけど何故こうも予測が出来ているのか?


「(………いや、ある程度の予測はしているけど満点の対策としては少し違う?)」


ついこの間視て身に付けた技が便利なのは間違いないが些か芸がないと言うか、頼り過ぎと言うか。敢えて追い詰めていると思い込ませるくらいにワザとらしい動きだ。まあそれはお互い様な気もするが。


ワザと? にしてはちょっとばかり見え見えかもしれない。


ならば意外に私が考えている程余裕がない? あまり楽観的過ぎるのは宜しくないし、慢心になるのは危険だ。ただ相手の心理戦に嵌まらない為にはそんな部分を見極めるのも必要だ。


果たして今はどんな状況なのだ?


既に不利だがその中で優勢なのか? 全てが不利なのか? またはそう見せかけてるだけで結構向こうは必死なのか?若しくはそんな私を掌握をしているのか?


うーむ、考えれば考える程分からない。これも彼の脚本通りの可能性もあるのか?


「悩んでいるくらいなら考える隙を与えない方が良さそう………ね」


魔力の糸を振り解き、再び戦闘態勢に入る。埒が空かない想像を膨らますにはまだまだ情報が少ないのだ。


もっと戦いの中で探っていくしかない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ