表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
収束へ向けて
114/155

−天才達の舞台−


昨日あれやこれやと打ち合わせをして一息付いた辺りでどうやら私は疲れて休んでしまった。まあ悩ませる事も沢山あり、今日への周辺の準備や心構えをしていれば気の休まる暇は少なかった。おかげでしっかり休めたのだろうとは思う。まだ日は登ってから少ししか経過していないが、生憎にも天気が良くない。と言うか曇りであり、もしかしたら雨すら降って来る可能性も考えられた。そこで数日前も雨が降っていた事からどうにも今の時期は天候が不安定になりやすいのか、雨期に差し掛かったのかと予想する。こうなってしまえば多少皆既日食の始まりを正確に捉えられない可能性もあって出遅れないか心配にもなる。


とりあえずアズールが中止にならないかなーなんて希望的観測を抱きながら宿から外に出る。湿気を感じる空気だ。これはどこか遠い場所で降っている雨によるものが風に流されて来たのだろう。つまり一番微妙な頃合いにここら辺が雨に見舞われるのが約束された訳だ。


最悪。だがそれでも為すべきことはしなければならない。


まだまだ試合が始まるまでの時間には余裕はある。しかし早めに出向く事は間違いではない。まさか当日に術式を施す準備をする可能性だって有り得るのだ。まあそこら辺はエイデス機関の警備態勢を信じているけど、この大魔聖祭最終日の前夜は驚く程に静かになるらしい。多分私がしっかり休めたのもそんな静まり返った状態だからってのもあるのだろう。


そんな部分を奴が狙っていても全くおかしくはない。


奴よりかは奴等か。当然他に手引きしているらしき人物達の姿を人がまだ集まらない内に探せるなら探しておきたいのも本音だ。後何時間か時間が経てば会場は満員になる。そんな中で各々には配置については貰っても見落としは存在する。


色々な要素を考慮しての早出。残りは早めに目が覚めてじっとしていられないだけ。


落ち着きたいけど難しい話だ。いきなりばったりと事件や問題が発生すれば考える暇もなく対処に入るだけだが逆に待たなければならないと言う重圧はあまり慣れない。それこそ規模が規模故にだ。


早い話失敗は許されない。これまでもそうだが、ミスをすれば挽回は出来ない。それこそ前以上に遥かな奇跡が起きない限りは待つのは世界滅亡だ。


何でそんな大舞台に立ってしまったのだろうか?


いや、今更嘆いても仕方ない。後の祭りである。


ならいっそ気合いを入れようじゃないか。昨日の話し合いでもそんな感じだった。寧ろ高らかに任せなさいと宣言したくらいだ。


大舞台なら晴れやかに活躍してやろうじゃない。


と、意気込んでいるとまだ人通りが少ない時間の大通りから外れた裏道で私を待つ人物達が視界に入った。それは昨日に自身がこの時間帯に呼び掛けた者達。


「おはようシェリー」


「おはよう御座いますシェリーさん」


アースグレイ・リアンと神門 光華。


頼れる仲間達だ。


まあこれまでの過程を全く説明していないので今から大まかに言うのだけれど。


「明け方から早速だけどしっかり聞いて頂戴。実はーー」


私は二人の知らない部分を簡潔に伝えながら現在の状況についてを語り、彼等にどのような役割を果たしてもらいたいかを告げる。


先ずはセントラルに初めて赴いた時の出来事。そして悪魔の目的の部分とそれに対する策。つまりこの世界を脅かす大魔王の復活の阻止を限られた戦力と大舞台のど真ん中での立ち回り。エイデス機関の強力があるとは言え、未だ向こうの出方すら完璧に把握出来ていない後手の現実を把握してもらう。


流石に無理難題を押し付けている自覚はある。


端的に何処かで誰かが失敗をしてしまえば世界がひっくり返るような役割を背負うのが当日に発生するのだから困惑するだろう。


「いきなり過ぎて正直収集が付かないね」


「確かに荷が重い要請ではあります」


天才二人がそう語るのだ。私がどれだけ身勝手に我儘なお願いをしているかが分かる。が、それでも自身の知り合いで頼りに出来る人は現状限られている。


へカテリーナ・フローリアとシルビア・ルルーシアはアズール戦があり、ノーライズ・フィアナはそもそも戦力としては厳しい。今私の話を理解して迅速で身軽に動ける仲間はこの二人以外に居ない。


「基本的には私やエイデス機関の連中でどうにかなる手筈だけど逆に言えば予定が狂えば立て直す余裕はないのよ。ただ、貴方達がそこを抑えてくれさえすれば目の前の仕事に専念出来るわ」


交渉みたいな口振りで伺うが、良い返事はない。やはり唐突な要求にも近い話は二人には責任を持った解答を阻むのだろう。当たり前な事だ。


私は頭を下げる。


「しぇ、シェリーさん!?」


「光華。貴女の話はアリスさんから聞いているわ」


彼女が驚きを見せるが、私は構わずに話を続ける。


昨日に聞いた事。詳細を聞いた際には自身も今の灰の少女以上に驚愕をした。ある程度は考えれば有り得る話ではあったかもしれないが、それでも俄には信じ難い事だ。


しかし今の光華を一目見れば分かる。


「貴女は強い。天才だけじゃ足りないくらいに運命を変えるような力を秘めているわ。そんな貴女だからこそ頼ざるを得ないくらいに私は光華が居れば心強い」


下げた頭を上げ、真っ直ぐと見つめて言う。


百人力の表現くらいじゃ弱い。私の目が届かない部分で強大な敵が現れようが、安心して任せられる程の天才だ。


もはや一騎当千の剣聖である。


「リアン。貴方は人を奮い立たせる言葉を持っているわ」


そのまま視線を碧髪の少年に向ける。彼に戸惑いの色はなかった。それだけ此方のお願いが本気だと受け取ったのだ。


「その芯に響く言葉。それは貴方がそれだけの苦難を乗り越えたからこそ説得力がある。私は助けられたから言える。貴方みたいな人が絶望を希望に変える力を持っていると。だからそんな貴方に私は頼りたい」


どんな時だって損得抜きに信じられる人格の彼。背中を任せたいのは誰かと問われたら間違いなくリアンと答えられる。普通なら当然実力が高い光華とかなのだろうが、私は彼の心の強さを頼りたい。もしまた挫けそうな時でも彼の言葉があれば立ち上がれる。


そんな二人の仲間が協力してくれたら何があろうとーー。


「つまり。貴方達と私が揃ったらどんな壁が立ち塞がっても怖くないのよ」


これから上がる大舞台に必要な役者達。が、必ずしも安全が保証出来る訳はない。危険は表裏一体だし、どんな展開になるかを予見するのも簡単じゃない。


それでもーー。


「無茶は承知。だけど例え何かが出来なかったとしても貴方達が居るのと居ないじゃ何もかもが違う」


足掻けるだけ足掻きたい。そう背中を押してくれたから私も二人の力を借りたいのだ。一人じゃ変えられない未来を皆でなら変えられると信じて。


「お願い。私に足りないちょっと以上のものを手伝って下さい。私の背中を貴方達に任せて戦わせて下さい」


今一度頭を下げる。


今だからこそ真剣にお願いする事に、仲間を頼る事に抵抗はない。


掛け値なしの誠意を示しているつもりだ。


まだ何かが足りないかもしれないけど現在のカナリア・シェリーに出来る事はこれしか浮かばない。都合の良い言葉を与えてお立ててると見えるかもと少し不安を覚える。ただ、彼等を見て浮かんだ文字を並べたらそうなったのだ。


そんなあまりらしくない思考も混ぜ、地面に視線を刺し続けながら返事を待つ。



ややあって二人の笑い声が聞こえた。


「数日前あれだけ忙しなかった次もいきなり過ぎてびっくりしたよ」


「もっと早く教えてくれても良かったですのに」


「まあそうだね。心の準備もする間もない」


も、申し訳ありません。


だって色々不確定な部分とか慎重に動く場面とかいきなりの出来事が多過ぎて落ち着いて話す時間もなかったのよ。


あとは貴方達一応アズール戦もあったし。


「とりあえず顔を上げてくれよ。君が頭を下げてお願いしてくれるのは嬉しいけど下げっぱなしの姿はあまり似合わないから」


「そうですね。わざわざ畏まって言われる程の事ではありませんし」


「そう………かしら? 変かな?」


顔を上げて私は二人を見る。


すると二人は笑みを浮かべながら同時に「変」と答えてくれた。


慣れない事をするもんじゃないのかもしれないけど流石に頬を膨らますくらいには何故か恥ずかしい怒り方をしてしまった。


「で、どう? 手伝ってくれるわよね?」


「うわっ、いつも通りの雰囲気に戻ったと思えば脅し気味じゃないか………まあ手伝うけど」


「そうですね。試合も敗退しましたし、断る理由もありません」


「当たり前よ。じゃ、ないと、世界が終わるかもしれないんだからっ」


「さっきまでのシェリーはどこいったんだ………」


「良いじゃないですか? それでこそ異端の天才なのですから。ちょっとさっきの可愛さも名残惜しいのはありますが」


溜め息を吐きながらやれやれ気味な少年と微笑ましそうな表情で平常運転の少女。それを一瞥する。とりあえずは強力な戦力であり、信用が出来る二人を作戦に組み込めるのに満足する。


本当なら残りの二人もどうにか状況を伝えて備えてもらいながら試合をして欲しいが。


「いや、下手に振り回して試合を乱すまでもないだろう」


「ですね。逆に咄嗟でも柔軟に対応出来る実力をお持ちなのでそこに委ねましょう」


ふむ、一理ある彼等の意見を今は尊重するべきか。


ただ、どの道試合を中断する事態になる可能性は非常に高いのであの二人には悪い気もする。特にシルビアの方は事情を知っているだけに余計に思うべき所ではある。


仕方ないか。目先の危機に比べればーー。


「分かったわ。じゃあこのままさっき話した通りにいくわよ?」


「ああ、任せてくれ」


「はい、貴女の力になりましょう」


良い返事をもらい、静かに頷く私。


一先ずは試合会場に足を運ぼう。配置に付くまでの間の調査だ。恐らく織宮さんの監視映像から考えるに手引きしていた連中は事前に何かしらの確認や準備をしてはいるだろう。私達も後手に回らない為に最低限の向こうの動きを想定出来るように分析しなければいけない。死角を極力作らない配置もだが、逆に紛れて見失なうのも避けたい。


後は例の人物の案件もーー。


「少し気になる事があるのですが?」


礼儀のある様を見せる挙手で思考は遮られる。珍しく光華が意見を挟むのは珍しい。普段はあまりこの手の話には口出しと言えば悪いが、発言はしない方だ。とは言え彼女は気になる事がある程度だ。正直気掛かりになるものは多数にあるので僅かにでも頭の中に入ってなかった考えなら考慮しなければならない。


私はそれを促す。



「根本的にこれまでに悪魔の介入が少ないのは分かるのですが、このまま敵は悠長に時間まで静かにするのですか?」


「………」


その途端、私は嫌な予感がした。


例えば流転のヴァリスに関してはあれは差し金ではあったかもしれないが、同胞の仇と言う大義名分みたいなのを掲げた登場だった。きっと堕天のルーファスから居場所だけ聞かされただけの協力関係としてはあまり深くない素振り。


つまりそれ以外にこれまで奴からの妨害工作はあっただろうか? いいや、ない。


無いのだ。


準備が出来ている上で大人しくする為に目立つ動きはしていないのは分かる。手引きしてもらっているくらいなのだからわざわざ捨て駒みたいな刺客を送る必要はないだろう。


が、あくまでその理屈が通るのは前日までじゃないのか?


既に舞台は決まっている。それなら向こうが時間をきっちり守っての動きをするのか?


全く懸念していなかった。多分エイデス機関が捜査網をしていると言うのが根底に深く有りすぎて水面下で息を潜めるしかないと考えてしまっている。


当日も同じ対応で何とかなるなんて浅はか過ぎだ。


前にアリスさんからも聞いていたのに。こっちが勘付く頃には相手は既に手を打ってくるような状況下を作り出すと。


そしてだ。


手引きしている連中達に容疑に掛かった。それが黒であり、彼方側の陣営に居るのだとしたらもう気付かれていると把握していればコソコソ動く必要なんてもはや何処にもない。


更に例の人物が敵に回っているのならばーー。


私達がーー否、私が一番困ると立ち回りを狙って来る。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ