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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
始動
108/155

−天才の道−


大いなる戦いの功労者。

聖王ーーヒルト・グリューエン。

巫女ーー土御門 蓮。


大戦の終止符者。

剣王ーーブリュンヒルデ・スピカ。

賢者ーーレオンハルト・バベル。


その他多数の歴史に名を連ねた偉人から今世までを支えて来た上流貴族達の慰霊碑があちこちに立てられた場所で私は何かしら記憶にある人物が居ないかを見て回ると言うよく分からない活動をしていた。


お墓参りではない。そこまで深く知りもしなく、憧れも抱いてはいない人達に何か拝んでお願いじみた事をする程、私は人間が出来ていない。


考えるとすれば彼等の活躍した当時の最後の瞬間だろう。何を思い、何を語って死んで行ったのか?


戦時の最中で悔やみながら平和な未来を願って逝ったのか、平和が叶った犠牲の末に満足して最後を迎えたのか、または愛する者にその先を託したのか。


彼等は胸を張れたのだろうか?


悔いはなかったのだろうか?


どちらにせよ、こうして後世まで語り継げられているのだ。当人がどうであれ立派な生き様を示したとは言えよう。


前にこんな混沌とした場所に自身が身を委ねていたら輝けたのではないかと思いもしたが、それはきっと単なる自己満足をぶつける場所が欲しかっただけだろう。


結局昨日の話を聞いたら今と昔で何が変わったのかと言う訳だ。多分変わらない。


考え方の問題なのだろう。そんなのは分かりきっている筈だ。今更戻せない過去であり、今なのだから私の抱える問題に間違いも正解も全て私が判断するものだ。


そう分かってはいるのにーー。


「割り切れる程にこの才能に甘えなかった訳ないじゃない………」


全部が異端の天才から始まったのならば全部が異端の天才に返って来る。


だから私から異端の天才を無くせばつまり全てが失われるに等しい。


この便利な魔法も、直ぐに身に付けられる力も、そのおかげで積み上げて来た結果もだ。


成績、評判、地位、名誉、財。


寧ろそんなのは些細な事に過ぎない。


それらよりもーー。


「この才能がなかったら私には何も守れなかった………そして歩み寄ってなんてもらえなかった」


友達と仲間。


それすら自身が押し付けられただけのもので得たのだとしたらなんて滑稽だろうか?


割り切れる訳がない。


「私の仲間は、友達は………割り切った才能の上に立つなんて認めたくない………」


ノーライズ・フィアナも、へカテリーナ・フローリアも、シルビア・ルルーシアも、アースグレイ・リアンも、神門 光華も、織宮 レイも、如月 愛璃蘇も、ヴァナルカンド・ユリスも。


そして彼等と笑い合ったりした思い出も。


私は悩む。いや、苦悩する。


この考え過ぎのような複雑な気持ちに。


考え続けて苦しむしかない。



「シェリーか?」


そこへーー。



手を差し伸べてもらえたような呼び掛けがした。


振り返る。


今にも泣きそうな表情を何とか押し潰しながら。


「………リアン?」


「ああ、僕だ」


予想外な人物の登場。そもそも誰もがこんな場所に来ないからわざわざ一人になれるここを選んだつもりなのに。


しかも今は試合の最中ではないのか?


そんな時間に何故敗戦したとは言え、出場選手であった彼が?


「もう今頃終わってるよ。別に負けた僕がずっとアズールを観戦する義務がある訳でもないしね」


語る言葉は間違いはない。が、逆に何か別な理由がない限りは普通なら観戦しているだろう。


理由はきっと私なんだけど。硝子に触れるような慎重さで様子を伺ってくるのだから多少は此方に何かがあったのだと把握している。


そこが分からない。


居場所も、この抱えた悩みさえ誰にも知らせていないのにどうして?


「会場にいなかったから探していたらこっちの方角に歩いていたって聞いたんだ。随分と見付けるのに時間が掛かったけどね」


「そ、そう………」


昨日から観戦はしていないのだ。まあ他に用があればどのみち会場には足を運んで居なかったが、アズール初日の手前だ。所在が不明なら探されても変ではないだろう。そこへ見かけた話が舞い込んで来ればこうなるのは必然なのかもしれない。


問題はーー。


「さっきの………あれはどう言う事だい?」


来た。


やはりひとりでに漏らしていた言葉ははっきりと彼に聞かれていたのである。どこまでを聞かれてかは分からない。いや、声を掛けられるまで全く気付いていない私が悪いのだ。今のカナリア・シェリーはそこまでに余裕がない表れ。自分の事だけに必死になり過ぎている。


さて、どうしたものか。


何をどう説明したら良い?


自分で整理も出来ていないのに説明も何もないのではないか?


心配そうに此方を恐る恐る覗いて来る碧髪の少年。それ程までに今の自身はよろしくない状態なのかとそっぽを向いて顔を隠す。


こんな姿自体見られたくなかったのだ。


こんな弱々しい天才の、カナリア・シェリーの姿なんてーー。


「ズルしてたのよ………」


もはや誤魔化しなんて出来る気配もない。


だから絞り出して、絞り出して、何とか自分でも変に感じない言葉を小さく漏らす。


が、何がどうズルなのか? 聞いた側からしたらそう思われても仕方がないのに私は浮かんだ言葉を垂れ流していくしか出来ない。


「才能があったから今の私がある………それならまだ良いわ。だけどこの才能すら私には勿体ない与えられたものだったのよ」


全てに補足を入れる余裕も今はない。


「偉そうに、私のおかげで救えたものがあると、大層なことをして誇っていたのよ」


この身を酷使して、物足りなさを抱いていた自分の才能を遠慮なく発揮出来る場所で少なからずやり甲斐を感じていた。一度は他人の死を目の当たりにして何も感じなかったのに色々な経験を得る事で成長をして何かを救った時の満足感に浸っていた。


私は自分の力で頑張って来たと思っていた。疑いすら持たなかった。


自負して肯定していた。


「でもそれは私の努力ではなかった。誰かの努力の結晶を自分のものだと、才能って便利な言葉に置き換えて好き勝手に振り回していただけ」


いつ失ってもおかしくないくらいに他人の全てを上書きしている。


まるで人の功績を横取りするように。


それがズルじゃなくてなんだろうか?


「私はご立派な奴じゃなかった………ってのを知ってしまった」


そう。


それだけだ。


それだけが私の個性で取り柄でだった。


それが異端の天才だ。


だけどーー。


「知ってしまった今、私はもう分からなくなった。ただただ夢を見ていて目を覚まされてしまった」


これが知識の転生だけなんて根拠もない。下手をしたら私の意志そのものすら誰かも分からない人のものか、或いはそれを基準に創り上げられたのかもしれない。違うと言われても知識によって自分の人間性が周りより秀でるのは充分に有り得る。


この知識によって人より見えてる景色が変わるのは間違いないのだから。


だとしたら今この場で疼くまろうとしている人間は誰か?


多分これがカナリア・シェリーなのだ。


臆病になって逃げていく姿が本当の姿なのだ。


「砂みたいに私の中から溢れていく………」


偽りで積み上げられた私の中身だ。


こんな奴を心配する必要なんてない。心配される価値すらない。


だからこれ以上惨めな醜態を晒す前に私の前からーー。




「何を言っているんだい君は?」


怪訝な表情で、呆れたような態度で眼前の少年は此方の中身に土足で入って来た。


「………え?」


最初何を言われたのか分からず、何かが分かった次はその言葉がどう言う意味かが分からなかった。ただただ不思議そうに覗き込んでくる彼の眼差しは真っ直ぐで、真っ直ぐ過ぎて迷いがなかった。おかげで唖然とする私はその目線を外す事が叶わない。


恐らく真剣に、そのままの思った事を言っているのだ。


そして当たり前のような流れのまま彼は語る。


「正直話の中身はよく分からない部分もあるけど要は君に力があるかないかの話なだけだろ?」


極論だ。全てがそこから始まってるのだから、有ると無いじゃ他の全てにすら影響する程に。


が、リアンは見透かしたように前提で更に続ける。


「力があったから君は今日までを選んで来たんじゃないか? 他の誰かだったら今こうして僕が君に声を掛けている未来になったかい?」


「………ッ」


沈黙。いや、これは碧髪の少年の言葉を否定出来ないから押し黙るしかなかったのだ。もし自分がそもそも助けるつもりすらなかったらこうして此処に彼がいる訳もない。友達として一緒に居ない。確かに変えようのない事実だ。


確かにこれは私が望んだ結果。


私が選んだ道かもしれない。


「君が選んだ。そこに何にも否定の余地はない」


「そう、だけど………」


あれだけ絶望感を味わったのだ。多少の言葉で切り替えられるならこんなに苦しみはしない。才能がなかったら出来なかった光景を見ているのだ。


たまたま私に才能を与えられたから選んだだけに過ぎないじゃないか。きっと何も持って無ければ学園で虐められていたのは私だっただけの世界線しか考えられない。


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