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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
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−天才の定義③−


この絶対的に遵守されなければ規則みたいな効力を何らかの法則として考えるならカラクリがある筈だ。


「そもそも軌跡って何を持って軌跡になるのかよね? 刀身を代償にするならほんの僅かな誤差すら許されない筈よ。寸分違わず毎回それは可能なのかしら?」


「天才だからって片付けるのは簡単だ。が、天才だっていつも成功だけしかしない訳じゃない。特別な何かが軌跡に繋がる………そう言う事か?」


「考えてなかった。だけど絶対剣の性質なら合点がいく」


持ち手本人の技術の高さ故に全く見ていなかった部分。ただ、これを見破るのは恐らく一筋縄ではいかない。アリスからすれば一番身近で見ていたカナリア・シェリーでさえ把握していないと踏むくらいだ。最悪神門自身も無意識のうちに振るってる節もある。


そうなるとーー。


「(唯一絶対剣が通用しない場面があった相手………)」


冥天のディアナード。あの戦いの時に鞘から抜かせようとしなかったのはまだ記憶に新しい。つまりあの絶対剣の弱点を見極めたのは忌々しいが悪魔だけであった訳だ。


それが単なる強大な殺気に当てられて萎縮したからだとしても十分に末恐ろしいがーー。


「(もし軌跡の剣筋を見出す方法、或いは対抗策を取っていたのだとしたら?)」


あのほんの僅かの場面の記憶から推理していかなければならない。


と、ここである日の事の天才との会話のやり取りを東洋人の女性は思い出す。


ーー


え? あの時光華がディアナードに宝剣ーー天地冥道を振るいづらそうにしてたかって?


そうね。単純に相手の威圧感に押されて最悪の想定を意識させてしまった萎縮が主な原因なのだろうけど。


ディアナードは挑発しながらも確実に刀を壊そうとする意思を伝えていたわよね? つまり軌跡を描いて斬らせないーーまたは軌跡の軌道を狂わせる手法を可能にしていたってのが私の見解かしら?


どうやって? 実際の当人達にしか分からない答えだからあくまで憶測でしか言えないわよ?


そもそも剣や刀が物理的になんでも斬るなんてのは不可能の域に近い。しかも軌跡を描かなければ崩れる刀身が物理的な軌道で振るってしまえば尚更でしょ?


じゃあ見方を変えるしかないわ。まず彼女が得物を抜いた時の刀身って貴女は視認出来た?


出来てない? ならば可能性は大きく分けて二つに絞られる。


何故かって? 当初私には視認出来なかったから相当太刀筋が速いのは言うまでもないんだけれど、それでも貴女程の域なら辛うじて視認出来るんじゃないかな?って思ったわ。多分視認出来たなら全く別の結論が出そうだったってだけの話。


話を戻すけど、私が推理する一つの条件。


軌跡ーーあらゆる抵抗が無い太刀筋で音速すら超える速度で斬り伏せる。刀身があれだけ薄い理由も頷けるし、物理的な方法でなんでも斬るなら音速を超えた光の速度に達するくらいの芸当をしなきゃ次元を斬ったりも出来ないだろうしね? 実際音以上の速さに到達するなんて芸当自体実証した試しもないからどんな結果になるかも知らないけど。


もし出来た結果なのだとしたら正に絶対剣に選ばれるに相応しいわね。と言うより選ばれたてからその域に到達するまでに途方もない努力が必要だから真似すら叶わない。正に神業よ。


でもそう結論付けたら貴女が速さで冥天のディアナードに劣った理由も頷ける。あの悪魔が音を超える速度を知っていたならその軌跡を潰すのだって難しくないのだから。


その方法は単純よ。軌跡を描いたって何も振るっただけにあらず、その軌道の中で一番速度が乗った瞬間に対象を斬るのも含まれているわ。さっきも話したけど刀身が硝子細工みたいな仕組みなのはしなりもとかそんな部分も含めてあらゆる条件を満たしたら音速を超える速度に到達するのかもしれない。


だから最高速に乗る前に軌道上に手を添えただけで全てが解決する。風の抵抗とかが変わっただけで下手したら刀身は崩れる可能性もあるわ。ただし相手の軌跡を描く剣技がしっかり見切れているからこそ為せる芸当だから誰でも対策出来る訳じゃない。


あの悪魔にはそれが出来た。道理で怖くないわよね? 弱点と言えない弱点を真っ向から付け込める訳だし。


化け物? 今更じゃない? 彼女は稀代の天才で鬼の末裔よ。それ言い出したら貴女も十分化け物みたいな人だし。ーーいや、怒るのはちょっと理不尽じゃないかしら?


貴女と一緒にしないでって? まあ、良いわ。確かに今の推理だと絶対剣以上に神門 光華がヤバいってのしか伝わらないから正直この説は実は殆ど無いに等しいの。


無い説の割に真実味があった? 当然でしょ? 前提にある神門 光華の評価が高すぎるからちょっとした可能性を肉付けするだけでも頷けるし、魔法を作ったりする私も先ずは大まかな既存の理論に新たな法則を肉付けして空白の事象を考えるから真実味ある提唱は当たり前な事よ。え? 貴女はしない? それでよくエイデス機関の業務が務まるわね?


論点を戻すわよ。何故今の説が御蔵入りになったのかにははっきりとした理由があるのよ。物理的にだけじゃ説明出来ない人知を超えるような現象が。


私の呪いを解くって名目の茶番であの時は神門家に押し掛けたじゃない?


え? 記憶にない? そんなそっぽ向いて言われても完全に織宮さんとグルになって私を嵌めたって答えしか出ないのだけれど? 地味に根に持ってるわよ?


とにかく光華が私の呪いを解いてくれた訳よ。それもとても大体な方法でね。貴女も一応居合せていたのなら把握してないかしら?


そう。彼女は私の呪いだけを切り分けて斬り分けた。本来の物理現象なら普通に真っ二つになる方法で。おかしいわよね? 剣速が音を越えようがそんな器用な効果が発生するとは考えられないわよね?

まあ、絶対剣の性質とか言いだしたらキリがないしそれこそ御蔵入りの案も頷けない? だってそんな限定条件下でしか発揮されないのなら天器でも恐らく為せる技だわ。とは言ってももう一つの説も天器で可能な域に及ぶかもしれないけどね?


絶対剣が絶対剣なる由縁は選ばれた人が振るって初めて効果が現れると同時に明確な理由があってその人知を超えた力を発揮されると私は考えているわ。


ほら? 例の自称剣聖さんが何故自称なのかを説明するのもそこに焦点を当てたら解決する。


聖剣ーーゼレスメイアは悪魔や世界を歪める可能性のある存在に対してその効果を発揮するってのが個人的な見解。それ以外はただの剣以下ーー。だから彼は頑なに謙遜した態度を取る。正解かは知らないけど。


そして宝剣ーー天地冥道は軌跡を描いて何でも斬る事を可能にする。代わりに軌跡を描いて斬らなければ刀身が砕ける。今更な意見だけど彼女がこれまでに物理的な物をあの刀で斬った所を見た事ないのよね。つまりあれは物理的に斬れない物を斬る絶対剣じゃないかしら?


私の時は私の呪いだけ、悪魔の時は悪魔の魂だけ。この情報から照らし合わせたらやはりそう納得するのがしっくりくるわ。


だからアレが砕ける条件は軌跡を描けなかったら、よりかは物理的な切断を試みたら失敗する。要はそれが軌跡外の軌道って訳。


軌跡とそうじゃない切り分けの基準ってのは、もう説明するまでもないんじゃないかしら?


ーー


「………確かに相手を選ばなきゃ損害の方が大きいけど」


もうある程度カラクリに答えが出てしまった彼女はこれからどんな戦いを見せるかが気になってしまう。


とある天才の言葉を信じるならば物理的には攻撃出来ない。逆にこれまでの戦い方より不利にならないか? と。若しくは魂を斬るつもりなのか。


「ーー! 動いたぞ」


「ッ!」


フェイルの言葉にハッとする東洋人の女性は目付きを険しくする。


神門 光華が刀を抜いた。


その目で捉えられない振り抜きに合わせたのかシルビア・ルルーシアは半歩程後退する事で避ける。


「あれは先日のアースグレイ・リアンの………」


「距離別の技を理解して避けるか。簡単な技じゃない筈なんだが………」


と、彼等は見切って避けたような反応を示す所に異変が発生する。


栗毛の少女の様子が変わった。まさか斬られていたのか? しかし外傷らしきものは最初の刺突で負った掠り傷以外は見当たらない。それでも彼女はまるで斬られたのか、何かしら軽い攻撃を受けたような不思議な反応を見せて更に後ろに下がる。


一体何があったのか?


様子を伺うべく適度な距離感を保つ天才達。再び睨めっこみたいな膠着状態が続くかに思えばーー。


抜刀ーー【音無】。


神速に肉薄する斬撃。それは絶対的な宝剣が抜かれたものによるものではなく、魔刀による抜刀された斬撃であった。


「持ち替えたのね」


「元々居合抜きの技。持ち替えているよりかは使い分けて扱っているわね」


「あのやり方なら邪魔になるどころか戦術幅を上げる要素になる訳だ」


腰に刺す刀は二刀。どちらを抜くかなんてその場の状況に応じて自由だ。更には以前よりも刀の性質上の問題さえ補填し合えるようになった。


一刀で通用がしないとなった瞬間に新たに組み込まれる戦術。元々秘めていた潜在能力とは言え、壁を迎える度に引き出しを無限に増やして強くなっていく。相手からしたら堪ったものじゃないだろう。戦えば戦うだけ目に見えて実力が均衡して来る成長速度を見せるのだから。


これで形勢が逆転する可能性が高くなっていく。寧ろ想定外な状況に崩された戦略を立て直すのは並大抵の事じゃないのだ。しかも飛躍を見せられる度に修正していく繰り返しをしながら戦術を組み直すのがどれだけ困難かは歴戦の強者達には手に取るように分かる。


その筈がーー。


「………笑っているわ」


そんな状況下で尚、表情は険しさとは逆に位置するものであった。


「何の表れなの? 私も今までにあんな笑い方を出来る種類の人を知ってはいるけど………」


戦いの場でどれだけの力を前にしていても不敵な笑みを崩さないのは虚勢から来るものではないのをアリスは知っている。経験談と適合する人物達がどれだけ手を焼かせたか思い出すだけでも嫌になるくらいにシルビア・ルルーシアは数々の化け物すら超えた存在達と僅かに重なって見えてくるのである。まだ幼い学生が何を学び、経験したら戦いの真髄に迫る脅威を備えられるのか?


ただ、神門 光華の強さは更に広がっている。勢い付いたのに加えて付け狙える場所が減った天才をどう攻略するつもりなのか?


英雄達の目から見ても今の彼女を攻略するのは一筋縄ではいかない。とどのつまり、勝敗が全てであるのだ。


再び仕掛けたのはそんな灰の少女であった。


鞘から素早く抜かれる一刀が果たしてどちらなのかをもはや把握は不可能だった。そこまで気にしている内に素首を落とされ兼ねない太刀筋であり、防ごうにも軌跡を描いて斬られたら全てが斬れてしまう絶対剣を前に選択出来るのは避けや逃げの類しか存在しない。


それでも何とか紙一重で太刀筋を見切って避ける絶対攻略は異常ではあるが、何故か避けたのにも関わらず彼女の様子がおかしい。何なら少しばかり表情が歪んですらいた。


観戦側からその理由を把握は出来ない。ただ一つ言えるとすれば彼女が何らかの被弾を受けている事くらいだろう。


「(今のは恐らく天地冥道による損傷。斬れるものに制限がないのなら目に見えない何かを光華は斬っている。だからシルビアは苦しんでいる)」


冥天のディアナードの時も絶対剣が斬ったのは魂そのものに対してだった。流石に今回も同じような行為をしていたら命に関わるが、もし魂以外の別な何かを削っているのだとすればそれは果たして何なのか?


アリスは考える。


いつしかの落ちこぼれが登っていった高みに手を伸ばしだしつつある天才達に食い下がる気持ちで。


そうしてーー。


「………シェリー。貴女の推測はほぼ完璧に当たっていたよ」


高飛車な異端の天才に畏れ入った感想を漏らしながら宝剣ーー天地冥道の秘密に辿り着いたのである。


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