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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
始動
101/155

−天才じゃなかったら②−



歓声の渦巻く会場内。決勝戦ではないが、限り無くそれに匹敵する盛り上がりがまだ試合すら始まっていないのに湧いている。その理由は今大会の組み合わせの豪華さだ。九大貴族の選りすぐりの面々は勿論その中での一試合一試合を魅せる戦い方をしている選手達を認めざるを得ないだろう。


現在残っている中で特に圧倒的な強さを見せているへカテリーナ・フローリア。初戦から格の違いを見せ付け、苦戦する事なく準決勝にまで上がってきた実力に観客は決勝まで上がると予想すら出来る。その対戦相手もシードブロックの選手ではあるが、現状不戦勝も重なって準決勝が初試合となる分不利な印象が強いが、逆に対策を出来ないのは不気味でもあるから何が起こるか分からない。


そしてもう一方の本命である神門 光華対シルビア・ルルーシア。


彼女達の戦い振りは誰がどう見ても世界屈指の魔導師かまたは戦士とも言えそうなもの。もはや生まれる時代を間違えたに等しい才能の塊である二人の試合は何方が勝つかなんて予想出来ない。誇張した物言いかもしれないが、これまでの勝ちあがった試合を観てもやはり並の学生の質と比べると幾つもの段階を飛ばしているのは否定しようがない。


勝ち上がる選手にも期待だが、この天才同士のぶつかり合いは果たしてどんな展開を巻き起こすのだろうかと言う純粋な期待もある。試合が終わる時には"歴代屈指の魔導師達"と言われそうな勢いだ。


と、観客席の端っこから立ち見で一望する細身の男性はそんな風に想像する。


実際軽くの気分で観戦していたが少しばかり過小評価の部分があったのを理解せざるを得ない程には選手達には才能と研鑽した努力が感じれた。


魔法は勿論、何よりもその戦闘能力だ。学生がくぐり抜ける域の戦い方ではない。正に死線を超えて一段階上に立つ軍人に近いものが彼等にはある。そしてまだまだ発展途上の状況。当然若さもあるのだから伸び代しかないのは判るが、他者と決定的に違うのは自身の限界を引き出しながら更にその上を行こうとする貪欲な精神力だ。そんな稀にしかないような急激な成長を彼等は毎試合で見せる。まるで限界を知らないか、若しくはまだ限界とすら思っていないのだろう。


一体彼等の見る頂きであり、高みはどこなのだろうか?


まあそんなのは聞くまでもなくわかりきっているユリスだが。


問題はーー。


「(………今日もあいつは観に来ていないのか)」


その選手の誰もがとある天才の知人か友人である。そしてその天才魔導師はここ連日試合会場に足を運んでおらず、消息不明なのだ。休憩がてら先々日は試合を観戦していたくらいだし、何か不穏な動きがあったら何かしら感じ取れるくらいには鈍くはない筈なのに全く展開が読めない。


わざわざ探すのは気持ち悪いと考え気に留めもしなかったが、違和感が継続すれば話は別だ。そもそもセントラルに赴いた初日から病院に担ぎ込まれていたわ、その直後に予想外の戦いに巻き込まれたりもしたのだから音沙汰無しが正直一番不気味なのは言うまでもない。


若しくは既に何かあった後で命を落としているなんて笑えない冗談すら有り得る。それくらいの無茶は平然としそうだから尚更だ。


が、全く手掛かりもない。彼女の友人に尋ねても良いのだが、出来たとしても試合が終わってからだろう。余計な不安を煽って試合に集中出来なくなるのは流石に申し訳なく思う彼は現状待つと言う手段しかない。


もしかしたら後からやって来る楽観的な考えも無くはない。


ともあれ何でこんなに生意気な後輩に悩まされないといけないのだと彼は浅く息を吐いて再び周囲を見回す。


やはり、居ない。



が、違う人物は見つけた。


ヴァナルカンド・ユリスの知り合いって訳ではなあが、行方知らずなカナリア・シェリーの友人には少なからずあたる人物。


つい少し前に対面し、ふざけ合うくらいには仲が良さそうな印象と同時に彼の視点から見ても少し変わってる印象を抱いた少女。


彼はそちらへと歩く。


この間聞いた話では他の友人と遊びに来ていると言う話もあって少し声を掛けるのには抵抗があったがそれは杞憂に終わる。どうやら遠目からでも単独で観戦に来ているのを見て取れたからだ。友人と来た筈なのに肝心な友人が居ないのは違和感でしかないが、もしかしたらアズールに参加している選手の可能性もあるのであまり詮索はしない。


気になる事はあるがこれで配慮には気にせずに話しかけられるのだ。


そんなつもりで近付いたのだが。


「ーーん? あれ?」


「ーー!」


特に気配を消して近付いたつもりもなかったがこの歓声の中、静かに後ろから歩んだのに一定の距離まで来た瞬間に気付かれた。


これには表情を変えはしないが驚かずにはいられない。きっとたまたまな具合に片付けるのが一番腑に落ちるのだろうが、彼はあまり偶然性を信じたりする人種ではない。


その証拠にーー。


「(この間合い感。襲撃されるかされないかの絶妙な位置だな。まるで後ろに目があるか、どんな瞬間にも気を配っているような感じだ)」


考え過ぎかもしれない。が、この眼前の少女も曲がりなりにもカナリア・シェリーの友人だ。それくらいの芸当が出来ても不思議ではない。


「貴方はこの間………えーと、シェリーちゃんとデートしてた人!!」


「いや、デートではない。あいつの代わりに俺がはっきりと断言しておく」


一気に彼は毒気を抜かれた。それよりもまた別な意味で焦燥を覚えそうな発言をする彼女に間髪入れずに返す。確か先輩って紹介された筈なのだが、何故か一緒に居た殿方って印象が先行されている。失礼を通り越して凄まじい先入観だ。出だしで話し掛けるんじゃなかったとこんなに後悔した事はないだろう。


確かに変わってはいるが、これは頭が色々な意味でっての方かもしれない。


よく相手をしていると彼も異端の天才に感心した。


「フィアナと言ったか? 今日は一人なのか?」


「よく覚えてるね! 私は忘れちゃった!」


「………ヴァナルカンド・ユリスだ」


「私はノーライズ・フィアナ! よろしくね!」


「あ、ああ。よろしく」


天真爛漫って言えば聞こえは良いが、どうにもそんな褒め言葉が似合わない人物像をしている。良くも悪くも振り切って尖った性格だと思う。


正直苦手意識が出そうだ。


と、変に主導権を握られたが仕切り直しに咳払いを挟んでユリスは本題に早速入る。


「カナリア・シェリーを見かけていないか? このニ日間全く見かけていなくてな」


「え? どうしたの? 痴話喧嘩しちゃった!?」


「そうか、見かけていないのか」


話の飛躍振りでは正に天性の才能を感じ、彼女が疲れる理由が手に取るように分かる。成る程、確かに不思議な少女だ。まあ話が噛み合わずとも言葉の中身からある程度の答えは示されるので一番かしこい選択はこのノーライズ・フィアナの話を流して進めること。主導権を握られたらもはや会話の進行は壊滅的だろう。結果疲れを覚える状況になる。


さて、要件は済んでしまった以上長話をするのも無意味。寧ろこの菖蒲色の少女との会話を続行する行いがどれだけ無謀かは僅かなやり取りから痛感する。


なので彼はすぐその場から立ち去ろうとするとーー。


「あ、イリスちゃん」


「?」


不意に違う呼称の名前を発するフィアナの視線へと振り向く。


「………」


最初からずっとそこで佇んでいたかのように透き通った女性が居た。


腰まで伸ばした長い白銀の髪。肌色、と言うには色素が抜け過ぎていて血の気がない綺麗な白い肌とそれより更に真っ白な装束。腰に巻く青い布地が身体の筋を綺麗に見せている為か細く華奢な印象を受け、更に表情に遠ぼしさを感じ、その前髪から覗く覇気の弱い水色の瞳も積み重なって存在感の薄さを覚え、透明な硝子がしっくりと来た。


今にも割れて消えそうな儚く弱々しい姿。菖蒲色の少女に呼ばれたにも関わらず無言で此方側を注視したままの彼女は大多数からは絶世の美女と呼ばれてもおかしくはないが、ユリスからしたらこの上なく不気味でしかない。別に敵対をする訳でもないのだが、思わず警戒をするくらいにはその異質さを感じさせた。


そしてーー。


「(最近何処かで………見たような………)」


何故か見覚えがある事実にも違和感が募る。こんな周囲で浮いてしまいそうな存在を忘れてしまうだろうか? いや、実際に記憶があるのだから忘れてはいないだろうが果たして何処で見たのか?


思い出せない。


もしかするとこの儚げで存在感の透明さがそうさせているのだろうか?


有り得るのか? 人の記憶からまるで意図的に忘却させようと補正みたいなのが掛かる事が?


「あ、ユリス君! ナンパは駄目だからね!? 幾らイリスちゃんが可愛いからって!」


「………あのな………いや、何でもない」


一気に間の抜ける発言。思わず否定の為に文句を言おうとする彼だが、危うく主導権を持っていかれそうになるのを覚えて黙る。


まあでも今度こそ潮時だろう。彼女には些か不釣り合いそうには見えるが友人は友人だろう。これ以上外野が絡むとそれこそ文字通りナンパ扱いの烙印を押され兼ねないので速やかに撤退に努める。もう用はないのだから関わり合うのも蛇足であろう。


一言「邪魔したな」と彼らしい言い方で締めくくりーー。


その返しにノーライズ・フィアナは。


「あ、そうそう。シェリーちゃん確か南側の慰霊碑方面に歩いていくのを見かけたよ?」


「………助かる。探しでみるよ」


冷静さこそ失わなかったが、表情を引き攣らせ気味に返事をしたのは言うまでもない。


食えない女だ。やはりそんな意味では天才なのだろう。カナリア・シェリーの友人なだけはあると納得したのだった。





『さあ、始まりました。大魔聖祭アズール準決勝戦! 本日も司会は引き続き私、マーガレット・サラと解説者のボルファ・ルナ、アルケ・フェイルのお二人で送りいたします』


この盛大な行事も折り返しは過ぎたが、変わらずよりも益々力の入った声で進行をしていく彼女。


試合数自体は日が経つに連れて少なくはなっていくがそれに反して試合時間は長くなり、更に濃くなる内容に僅かばかりに疲れの表情が見え隠れするが、それでもこの歴代最高峰の試合を担われた自身を誇りに持つかのように気合いが入っている。


一時は辞退者もあり、本来ならば今回一番の目玉となる予定だった噂の天才魔導師も棄権となって雲行きが怪しかったが、それでも役者達である選手達は期待以上の試合を見せつけてくれた。


もし、ここに辞退した人達もいたらどれだけ良かったかと悔やまれるくらいだ。しかし、今はそんな憂いすら惜しいくらいに会場は盛り上がりを見せる。


ここで司会が盛り下げる訳にはいかないだろう。


『では! 本日の試合の注目すべき所などあればお願いします!』


先ずはその道の専門家とも言える英雄の魔道士と英雄の騎士に彼女は尋ねる。


口火を切ったのはボルファ・ルナ。


『そうね。既に勝ち上がって来た選手達はそれまでの戦いを見られている。どんな魔法が得意なのか、どんな展開を嫌うのか』


その言葉を繋げてアルケ・フェイル。


『これまでの試合にも言えたが、これからの戦いは更に互いの情報を把握した上で勝ち筋を掴む為に詰めていく作業にも近い立ち回りから始まる。が、果たして奥の手がもう無いのかは未知数だ』


『と、言いますと!?』


『つまり、長期戦は必須。その疲れが現れる終盤に予想も付かない展開で試合の流れを変えた選手が有利な訳。ただでさえこのアズールは日を跨いではいるけど連戦を強いられる。軍人ならともかく彼等は学生』


『ここからは体力以上に精神力も鍵となる。ただ、圧勝している選手もいればシード権があった選手もいるから現状一番大変なのは神門選手だろう』


『大変さで言えば、ね。だけど着目すべき選手はまだまだ未知数なフェシリア・ジルとシルビア・ルルーシアよ。先日の試合を鑑みると個人的にはシルビア・ルルーシアって選手だけれどね』


『そうだな。正直昨日の試合だけでは推し量れはしなかった………いや、まるっきり分からなかった選手だ』


二人が、正確には織宮 レイも含めての英雄達が注目せざるを得ない成績を披露した少女。先日の試合から彼等は一体何を感じ取ったのか?


が、あくまで本日の試合に対する印象。そして手を抜けない実力者同士の試合になるのが必須だからこそどこまでその才が見れるかの期待がある訳だ。


解説を聞いた観客達も改めてこれから始まる戦いがどれだけの名勝負になるのか楽しみにしている。



勿論1番楽しみにしているのは選手達であろうが。


『ありがとうございます! ではあとは我々一同、この目で確かめさせてもらいましょう!!』


その言葉で締め括り、いよいよ準決勝戦の開幕となる。



準決勝第一ブロック対シードブロック。


へカテリーナ・フローリア対フェリシア・ジル。


「で、君はアースグレイ・リアン君だったかしら? 良ければ主観でフローリア選手のお話をしてもらえると助かるのだけれど?」


ルナ達の観客席。そこに前日の試合で敗退した碧髪の少年が訪客な枠で席についていた。解説が入る時は流石に観戦しか許されていないが、それ以外なら個人的な知人として彼女達からの質問に答えても良いと言う理由で呼ばれた彼はその英雄と呼ばれた朱髪の女性に敬意を払いながら述べる。


「はい。その前に貴女は以前にカナリア・シェリーとお戯れになったとお話を伺っておりますが、その時の感想を聞かせてもらってもよろしいですか?」


「あー、講師で行った時のやつね。正直あの時点での感想ならちょっと骨のある奴程度だったわよ?」


そう遠くない過去の話。確かにその頃から彼女は異端の天才だった。だがそれは魔法に関する才能だけの話だ。他の魔法以外の面に置いては全く拝見していないのもあるが、そもそも経験の浅さは見てるだけで分かるくらいには未熟な様子だった。故に当時以降のカナリア・シェリーを知らないルナからしたら実力の底は推し量れたものじゃない。ただ、経歴に関しての情報から考えれば今の彼女の実力はきっと出会った時とは比べ物にならないくらい変わってはいるのだろう。


「フローリアはそんな骨のある奴につい少し前、予想外な出来事がありながらも勝負して勝ち星を上げています」


「なるほどね。同世代で飛び抜けているだけのことはあると」


「シェリーが病院に運ばれた件ってもしかして………」


「ってアリス? あんたいつの間に?」


気配も無く背後から現れる東洋人の女性は別の考察をする。しかも大正解であった。


リアンは失言してしまったと僅かに引き攣った表情で苦笑いして誤魔化すが、意味は成さないだろう。鋭い目付きで睨まれて萎縮する羽目になる。


はぁ、と溜息をして突如現れた如月 愛璃蘇が彼の代わりに無暴の二つ名を持つ魔導師に関しての実力を補足する。


「なら随分と成長しているみたいね。事故があったとは言え今のシェリーと善戦するのは並大抵の実力じゃ叶わない」


「でも流石に手加減はするでしょ?」


「手加減した上での評価。本当の万全な状態である彼女ならきっと近い内には彼の領域に手が届く程の飛躍を見せてすらいる」


「は? それ本気で言ってるの?」


「勿論。贔屓無しでってより贔屓目に見てもそんな評価にしかならない」


「化け物かしら………?」


化け物だろう。と内心で東洋人の女性は思う。実際騒ぎがあった同日には彼女と同じ位置の存在であるエイデス機関の一人と悪魔をシェリーは単独で相手して生きているのだ。しかもそれが万全な状態ではないのは言うまでもないが彼女の場合、その万全な状態ではないでは済まない負債を背負っているのである。寧ろ生き残っているのが奇跡だとも言えるくらいには芳しくない状況下。正直今悩まされている悪魔の件さえ解決したらもう手を借りるのも申し訳ないくらいだ。


「………少し話の要領を得ないですが、フローリアの実力について分かってもらえたかと」


「そうね。まあ初日から通して相当な実力者であるのは分かってはいる訳だし」


「俺は益々カナリア・シェリーと言う人物が興味深くなってきたな」


「フェイルなら一目見たらきっと分かるよ。少なくとも彼の姿と重ねる程度には」


「何かそこだけは納得いかないわね………」


そこで彼等の話は終わり、選手達の入場となった。


正直リアンからしたらこの英雄達と肩を並べる事は名誉極まりないのではあるが、何故か先程から妙な圧力を周りからかけられている。敵意を感じる訳ではないが、お陰で気が休まらず常に嫌な汗をかいている。


彼等もまた英雄と言われるだけの存在だからか刺激されてピリピリしているのか?


と、様々な思考をしているのだが実際は検討外れ。


「(たまたま名前が同じなのはわかるんだけれどーー)」


「(………ついつい名前だけでも思い出してしまうな。特にアリスからしたら………)」


「(………)」


リアンは当然知らない。


自身の名が世界を手玉に取ろうとしたあの黒の略奪者の首領と一緒だなんて事はーー。



『ではへカテリーナ・フローリアVSフェシリア・ジルーー試合開始!!』


そんな不憫な状況下は他所に戦いが始まったのであった。


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