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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第一章 始まる物語
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–孤独な天才–

使い方に慣れるまで時間を要しそうです。

魔法。それは火、水、雷、風、土の5種を主軸要素として構成される自然操作術だ。簡単に自然の力を人間の内にある魔力と練り合わせ、言葉を紡ぐ事で発現する現象である。

あくまで5種を主軸の基本としているが、そこから派生して氷や光、細かく切り分けたら電気や重力、更には属性を付与させたりする強化など様々な魔法の分類が存在するのだ。

中には召喚術とか未だ謎に満ちた不明な分野の魔法もある可能性に満ちた現代に必要不可欠な恩恵である。


と、そんなうんちくを教壇の上で長々とする語り部を私は欠伸を押し殺さないでつまらなく眺め聞いていた。

既に知り尽くしている内容の説明なんて真面目に聞いた所でどうしようもない。まあ、周りは新鮮で興味津々のようだけど。

ここは魔導府立ーーレミア高等学園。魔法の資質がある者が入る事を許され、入学を義務付けられた魔法教育学園の一つだ。中等部の卒業手前に才能の有無が診断されて入るか、元々の生まれてから魔法を一度でも扱う経験があって入るのが定番な入学経路。

間違った使い方をしないように未来への発展を願い国に貢献する為に作られたのである。

昔はそんな魔法教育は初等部からあってやがて軍人かギルドへの所在が決まっていたけど、時代も変わって今では軍隊は無くなり、ギルドも解体されて新しい組織である国家魔導管理機関ーーエイデス機関と政府のお偉いさん達によってこの大陸の国は成り立つ。

その関連に進路を決めるか決めないかは個人の自由ではあるが、魔法犯罪や事件を未然に防ぐ為の法律や扱い方の教養を身に付ける必要がある。知らなかったでは流石に済まされないくらいに厳しく魔法法律が遵守された世界となっているのだ。まだかなり穴だらけで固まってないのは近年から始まった事だから仕方ない部分が多いのも事実だが。

そんな義務教育の学園で席に座る私はもう把握した内容なのでひたすら退屈な時間でしかない。寧ろ上手く情報統制がされていない時期の教育機関の中身なんてかなり薄っぺらいから教員も何とか矛盾がないように誤魔化し誤魔化しの説明に飽き飽きしている。

そんな私は高等部1年生、カナリア・シェリー。校内はおろか全国で魔法才能診断で飛び抜けた結果を叩き出す。筆記、実技試験共に満点合格。初等部に入る頃には魔法自体も扱いこなせていて、中等部では上級魔法も難なく使役を可能した。

異例中の異例で、天才と謳われ、世界から選ばれた逸材しか入れない鬼門のエイデス機関への最有力候補とされている将来有望な魔導師らしい。

おかげでこんな学園すら窮屈にしか感じなかった。

何せ格が違い過ぎるのだ。周りに座るクラスメイトなんて多少はこの学園も有望な人材しか入れないが自分からしたら生まれた赤ん坊みたいな次元だし、それなりに教養を兼ね揃えて魔法技術もある教壇に立つ先生すら論外な領域にいる。

単純に馴染めないのだ。考えている世界も違うし、あちらも割れ物扱いみたいに距離を置いているのだから慣れているとは言え、つまらなくて仕方がない。

もしこれが7年前くらいなら私と同等かそれ以上の人間がいただろうから飽きない生活になっていたかもしれないけど、もはや必要のないような力で寧ろ邪魔でしかない足枷だ。

別にエイデス機関に入らなくても困りはしないし、私は普通に楽しい人生を送りたいのである。

絶対に無理だろうけど。


「早く帰りたいなー」


机に伏せながら気怠げに呟く。今の自身に必要なのは教養よりも自由時間。才能なんて不必要でしかなく、楽しく過ごせる場所や人生が欲しい。となれば学園なんて居ても縛られたような苦痛な場所でしかないから自ら外の世界に探しに行くしかないのである。しかし規則は守らなければならないのが世の常。嫌々でもこうして1日の学業を終えるまでは縛られなければいけない。

と、ここで授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。とりあえずは知り尽くした魔法学のうんちくを語るつまらない話は終わった。

さて、次はグラウンドでの校外から来る魔法講師の特別実技授業だったか? 周りもせっせと移動し始めている。


「ま、身体動かす方がまだ退屈しないで済むかもね」


わざわざ来訪してるのだから少しは魔法講師の実力に期待出来るだろうし、と思いながら私も必要な用具を持って教室から抜ける。

ここは中央大陸にあるイルムガム国の中でも1番有名な魔法学園。その分費用を支給されているのか中々の広さだ。教室から出た廊下だけで長距離走が出来て、それが五階建てになっているのだから外から見れば要塞みたいなものである。

あくまでそれは一部であり、そこが高等部一年生の校舎と言う訳だ。単純に広大なグラウンドと要塞が順々に三角形に展開され、その中央に砦並の高さの建物がある。教師や来賓客が主に許可された場所だ。後は生徒会長や特別に認可の降りた生徒だけしか入れない目立つ割に警備態勢の高い砦みたいなものである。

因みに認可の降りている生徒とは私も含まれてはいるけど大したものでもなかった為、滅多に赴く事はない。周りからすれば卒業までに踏み入れられたならば知名度はウナギのぼりらしいが、もう興味を失くして外に興味を示した自身は人間の枠を超えたような気分である。

そうこう改めてこの学園の特徴を振り返りながら長い廊下を抜けてグラウンドの手前まで辿り着く。


「カナリアさん。カナリア・シェリーさん?」

「………」


何となく先の展開を予期しながらも呼ばれた方へと振り向く。

そこには見るからに高貴な貴族の娘です的な雰囲気に身を包んだ容姿端麗で嫌味っぽい笑みを浮かべた金髪の女子生徒とその取り巻きの情け無い男子生徒のちょっとした集団が居た。

誰よコイツら? と此方は全然身に覚えがないが、どうやら向こうは覚えしかないような勢いで絡んで来る。


「ちょっと私達について来て下さい」

「私………暇じゃないんだけど」

「お黙りなさい。平民の癖に生意気ですわ。つべこべ言わずに来なさい」


拒否権無しなの? と言うかあんた達も次の授業あるのによく暇な時間を使えるわね?

そう言えばこのお上品ではあるが見下した言い方をする同級生は確か数日前に見たのを思い出した。

テレス・ミレイ。高等部一年生の中では成績上位で、有名な貴族であるテレス家の公女。生まれと育ちによる英才教育に男子なら思わず認める美貌から高等部一年の中の大きな勢力を持つ一人である。

何故そんな人が私に詰め寄るかと言うとそれは数日前の実技授業で私がプライドを傷つけたからだろう。

確か単純な魔力を使った押し合いーー押し相撲的なもので自身の放つ魔力でテレス・ミレイを吹っ飛ばしてしまったからだ。一応結構手加減したんだけど、それでも歴然とした差は結果として出てしまった。

お嬢様で周りからチヤホヤされ、実力も折り紙付きである彼女の憐れまれる姿を披露させたのに怒り心頭して今日はその報復みたいなものと考える。

非常に面倒くさい展開だ。


「ここらへんで良いでしょう」


一同に強制連行されたそこは校舎隅の人気の少ない場所で特殊な魔法道具やその他の物置とされた建物の裏であった。授業の合間であるタイミングでは生徒はおろか教師すら来ない所まで連れて来たのは、恐らく校則を破るような真似をするつもりなのだろう。

多勢で一人の少女を囲んで寄ってたかって何をするつもりなのやら。

これも私が天才である事を嫌う要因。妬まれる故と自分が多少人を見透かした面があるからか、醜い人間を見てしまう事。高貴な公女であるのにこんな数で圧倒しようとする腐った性根。勿論取り巻きも同類かそれ以下だ。普通誰かが間違った行いだと気付かないのか?

本当に情けない。

ただ、私にも不備はあるだろう。私に誰一人歩み寄って仲良くなろうとしないのはこの天性の才だけでなく、住んでいる世界が違う雰囲気を周りに出しているからである。別に見てくれも自分で言うのもなんだけど悪くはない。しかし誰も近寄らせない空気を放ってしまうから、必然的に妬みや疎まれる結果を招くのだろう。簡単にまとめたら態度が悪いらしい。

でも今更無理した笑顔や出来ないフリして周りに合わせた人間にはなれない。気付いた頃にはもう私は誰しもが認める天才になっていたし、人間的にも随分と大人に近付いてしまった。

もし唯一私に足りないとすれば協調性みたいな周りに合わせた水準になって輪に入ろうとする要領だ。

だからこうなってしまうのも仕方がないと思う。彼女達が普通で私が普通ではないから生じた現象なのである。

まあ黙ってヤラレるつもりは流石にないけど。


「で、私はどうしたら解放されるの?」

「フン。そんな態度を出来るなんて自分の置かれた状況を理解出来てないようですわね」


これだ。喋れば喋る程相手を逆撫でしてしまう不器用さ。自分では早く要件を済ませて解決したいから聞いているのに感情論で絡む非合理的なテレス・ミレイには火に油を注ぐ真似になってしまう。

どうしたら良いのよ?


「よくもこの前は私に恥を掻かせてくれましたわね? 天才だかなんだか知りませんが、私に歯向かったらどうなるか身を持って教えてあげますわ」

「………」


いつの時代の悪者よ? と口に出すのは我慢したが、心中で突っ込む。しかも歯向かってもいないし、恥を掻かせたと言うよりかは自分で恥を掻いたのが真実なんだけどね。

あの時、魔力による押し相撲が始まる前に高らかに自分で勝利を宣言したりするから割増で恥を掻いたのだ。もう少し謙虚な態度で居れば相手が悪かっで済んでいたかもしれないのに。

それもこれも後の祭りでどうしようもないからこんな風になってしまっているのだけど。おかげで引っ込みが効かない感じだから貴族も大変だ。


「!」


と、いよいよ空気が変わる。後ろに控えた取り巻きがジリジリと近寄ってきた。黙っていたら何をされるか判ったものじゃない。

こう言うのは不本意ではあるけど、止むを得ない正当防衛をするしかないだろう。彼方はこの数を前にしては太刀打ち出来ないだろうと踏んでか薄気味悪く、下品な笑みを浮かべている。

だけどお生憎様。私には全く持って関係ない。もしこれが2倍の人数だろうが3倍の人数だろうが変わりはしない。所詮束になっても無意味なのだ。

数の差で埋まる天才ではない。私はそれだけの力を有してしまっている。残念ながら向こうには伝わりはしないけど。


「やっておしまい!」


やはり理解も及ばずに愚行に走る彼等だった。

私は内なる魔力を魔法に変換させてそんな有象無象を蹴散らす態勢に入る。

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[一言] これは無双の予感
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