未来に希望は?
とある日、少年は自らの存在を疑問に思った。
誰かに何かを言われた、自らの不幸を呪った。そのような事が原因で自分の存在に疑問を持った訳ではない。ごく普通にいつも通り生活し、ごく普通に他の人と同じ生活を送っている。そんな中で突然疑問が浮かんできたのである。
「ねぇ、お母さん」
少年はふと浮かんだ疑問について、母親に聞こうとした。
「どうしたの?」
「うーん……やっぱり何でもない」
母親は返事をしたが、少年は質問をするのをやめた。その疑問を抱くことはおかしいのではないかと思ったからである。
「ふふっ、変な子ねぇ。ご飯を食べちゃおっか」
母親は微笑みながら手を空中で横に一度振った。すると、手が滑った位置に四角で囲われた何かが浮かび上がった。
少しするとその四角の中を高速で文字が流れ出し、数秒の後文字は止まった。
浮かび上がったのは世間では一般的な制御端末の画面であり、この画面を通じてほとんどの機材の操作ができる。
「志乃様、ご用件は何でしょうか?」
突然男性とも女性とも取れない声が浮かび上がった画面の周辺から聞こえてきた。
「朝食の準備を。メニューは、そうねぇ……トーストでお願い。
「かしこまりました。ストックからでよろしいですか?」
「構わないわよ。後で食事のストックがどれだけあるかリストを出してちょうだい」
「かしこまりました」
母親の志乃から命令を受け終えると画面は消え、それから間もなくテーブルの上に粒子状の光が集まってきた。一粒一粒の小さな光は、淡く青白く輝いている。
集まってきた光は、次第に円盤の上に薄い箱を置いたような形になっていく。
空中に浮いていた光の粒がすべてくっつくと、光は少しずつ治まっていった。すると、こんがりと焼けたトーストの香りが鼻孔を擽り、光のシルエットはトーストに変わっていた。
光化粒子置換システム。あらゆる物を光信号へと変換し、保存及び転送を可能にしたシステムである。
このシステムが完成したのは百年程前である。資材運搬や食料の長期保存、遠隔地への移動、道具の持ち運び等、どうしても人類を必要とする労力がシステムのおかげで激減していたのである。
「それじゃ、いただきましょうか」
「いただきます」
トーストは焼き立てだった。光化粒子の信号は数十年もの間、光化した時の状態保存を可能としているからストックでも焼き立てだった。
「今日は何をしようかな」
少年は何気なく呟いた。すると、志乃はその言葉に少し驚いたような顔をしてから穏やかな表情に戻った。
「あらあら、純は何もしなくても良いのよ?」
『何もしなくても良い』
それは、現在の人の有り方だった。世界は科学の発達によって大きく変わった。
太古の昔、人は自らの手で全てをやらなくてはなかった。人の力はあまりに非力で、できることはほとんどなかった。
それから、人は道具を作った。自らの力の不足を補うために道具を作り、人ができる事はとても多くなった。それでもできない事の方が多かった。
次に人は、他の生き物の力を借りた。人よりも優れた力を借りることで、人の世界はより発展した。それでも生き物の力だけでは限界があった。
それから、人は科学を知った。目に見えない物を使い始めた。結果、人類の栄華は極まる事になった。
人の発展は機械により不可能がどんどん失われていった。
その結果、人は何もしなくても生きていけるようになった。
「うん……そうだね」
現在の世界では食べ物の生産も機械が行う事が出来る。機械の生産も機械が行うことができる。あらゆる必要な事はシステムが組まれ、自動で行われるようになっている。
選ばれた極僅かな人々だけがシステムを管理することで、世界は平等に何もしなくても生きていけるようになっている。
人はやりたい事だけをやれば良くなっている。
「これで……いいんだよね」
純は思っていた。
人は生きるために何もしなくても良い。何でも機械に命令することで実行される。座っているだけで移動すらもできてしまう。
この世界ではほぼ全ての人が何もせずに生きている。
子孫を残そうと考える必要すらもない。機械が勝手に子孫を作ってくれる。
発達しきったこの世界では、人は置物であっても構わない。
「でも……これでボク達は本当に生きているって言うのかな?」
純から零れ落ちた疑問に答える人はいない。
私は科学が発達し続ければいつかはこうなってもおかしくない世界ではないかと思って書きました。
生きるってどういう事なんでしょうね?




