間話:サクラ
いきなり間話とか><
私はあの日の出来事を長い人生の中で生涯忘れないだろう……。
私の名前はサクラ。今年で多分、17才になる。
エルフで、棄児で、黒髪の忌み子だ。
このラウセス大陸で、縁起の悪いと言われる黒い色の髪のせいなのか、捨てられて泣いていた私を、当時旅をしていたお母様が拾ってくれたらしい。
エルフは精霊と関わりが深く、縁起深いので捨てられたのかもしれない。
私を拾ってくれたお母様も黒髪で、自分と同じ髪の色の娘を育てるのに何かしら思うところがあったのかな?
お母様が付けてくれた私の名前のサクラと言う意味は、お母様の故郷に咲く花の名前らしい。春の季節に一斉に花が咲くとお母様が教えてくれた。
エルフは成人するまでは村人に多いヒューマンと同じように成長する。そして成人を迎えると成長が止まる。
エルフの私はヒューマンよりもかなり長命なので、自分の名前の由来となった花をいつか見に行く事ができるかもしれない。
私を拾って育ててくれたお母様の名前はコクヨウ。光沢のある黒い石の事らしい。凄く遠い場所、東方の生まれで、私が物心付いた時から見た目は全然変わらなく、いつ見ても若々しい美人だ。
時々旅に出るけど、昔から私達の住んでいるドール村で産婆をしていて、年齢は分からない。
本当かどうか分からないけれど、ドール村で一番高齢の村長さんも、お隣の48才のデルンさんもお母様が取り上げたらしい。
村の皆から、相談役とか、ご隠居とか、呼ばれていて、村の代表の村長さんもお母様には頭が上がらない。
ドール村は、海に近い田舎だ。私は行った事がないけれど、辺境と言われているドール村から、首都のルーアンまでは馬車や竜車で三ヶ月以上かかるらしい。隣の町まで馬車で十日はかかる。
変化のあまり無い田舎だけれど、村の皆の仲は良くて、私達黒髪の親子を別に差別する事も無い。
私はこの村で、漠然といずれは誰かと結婚して、このまま村の一員として生活していくと思っていた……。
あの日。
村の皆総出でライ麦を刈り取った日。
村の広場で刈り取りのお祝いをした日。
村の雑貨屋の娘のティーナが猟師のエリルからプロポーズをされた日。
村の飲み比べでお母様が一番になった日。
村の皆が笑顔で炊き出しを食べた日。
……そして、四つの月が満月の日。
その日は、村での宴会の片付けをして、寝入ったと思ったら、人声のざわめきで目が覚めた。
刈り入れのお祝いの後、何か緊急の件なのか、玄関の方にお母様の声がする。
私はベットから起き上がると、光の精霊を召喚して明かりを灯し、部屋の椅子に掛けてあった上着を羽織ると、光の精霊に付いて来る様に頼み、部屋のドアを開いた。
居間の方に向かうと、お隣のデルンさんとお母様が玄関から入ってくる所で、デルンさんは、ぐったりして意識の無い誰かを担いでいる。
私が事情を聞こうとすると、見た事の無い鞄を持ったお母様が、先に来客用のベットの用意を私に言いつけた。
私はもう一つ光の精霊を召喚し、居間に居る様に頼む。
私は羽織った上着のポケットに入っていた括りひもを取り出すと、寝る前に解いていた髪をまとめて、ほとんど使われたことの無い客間に急いで向かった……。
私は小さくて古い家の客間のベットを大急ぎで用意をし、居間に戻る。
運び込まれた人はソファーで横になっていた。
最初に目が行ったのは私と同じ黒い髪だった。
男の人のようで、見た事も無い服を着ている。
お母様にベットの準備が出来た事を報告すると、デルンさんは男の人を抱えなおし、お母様が先導して、準備の出来た客間の方に向かう。
すれ違った時に、男の人から嗅いだことの無い匂いがする。一瞬、いつも村に税を徴収しに来る役人が付けていた香水を思い出したけど、もっとさわやかな感じだった。
私もデルンさんに続いて客間の方に向かう。
デルンさんがベットの上に男の人を寝かせても、男の人はまだ意識が戻らない。
男の人を良く見ると、怪我はしてないみたい。
そして、やっぱり短めの黒い髪で、身長はやや低い。履いていた白い靴も革靴では無く、紐で複雑に編んであり、今まで見た事が無い。
私が男の人を見ていると、デルンさんが見張りをどうするかお母様と相談していた。
一応、女二人の家で無用心だと思い、デルンさんは気にしてくれているみたい。
どうも男の人はお母様が村の近くの砂浜で見つけてきたらしい。暫くは意識が戻らないはずだとお母様は私とデルンさんに言った。
そして、デルンさんに見張りを断ると、デルンさんと一緒に玄関の方に向かった。
デルンさんにお礼に葡萄酒を一瓶渡して玄関を閉めると、私に部屋に鍵をかけて休むように言い、自分は客間に向かう。
私はいつも陽気なお母様が緊張しているのが気になったけど、言いつけ通り自分の部屋に戻り、部屋に鍵をかけて客間を準備する時にまとめた髪をほどくとベットに入る。
用心のために光の精霊はそのままにし、目を閉じて黒髪の男の人の事と、お母様の奇行は今に始まったわけじゃ無いけど、どうしてあんな時間にお母様が海岸まで行っていたのか、そういった事を考えていると、その日はそのまま眠ってしまった……。
次の日、私はいつもと同じぐらいに目を覚ますと、着替えて部屋から出た。
気になっていたので客間を覗くと、一晩中見張っていたのか、お母様が男の人の眠っているベットの横で椅子に座って居る。
お母様に朝の挨拶をすると、普段から徹夜が平気なお母様だけど、気を張っていたのか、あくびをしている。
男の人はまだ意識が戻っていないみたい。あれからお母様が脱がせたのか、あの珍しい服と靴が揃えて置いてあった。
私はお母様にお茶を淹れるのと朝食の準備をするために、火の精霊でかまどに火を熾すと、大急ぎで水汲みに向かった……。
朝食が終わると、お母様は昨夜の事を相談するためか、村長さんの所に出かけて行った。
私は片付けを終わらせて、客間に向かう。
いつもの違う部屋の匂い。
私はベットの横の椅子に腰掛けて男の人を観察する。
定期的に呼吸はしてて顔色も悪くは無いみたい。
昨日見たときより穏やかな顔をしている。
私とそんなに年は変わらないかな?
今は閉じている目の色も黒なのでしょうか?
声はどんな声なのでしょうか?
そんま事を考えていると、私は男の人にこんなに接近した事が無かった事に気が付いてしまった。
考えてみると、村の祭りでも男の人と踊った事も無いし、そもそもあまり男の人と二人きりで会話した事も無かった。
私はドキドキしながら一目見たときから気になっていた男の人の黒髪に手を伸ばした……。
その時?!
「……ブブブブブ……ジリリリリリリリリリリリリリッ!」
いきなり聞いた事も無い大きな音が鳴り響いた!
細かく震えているのか、何かが振動している音も聞こえる!
「っえ?!」
私はびっくりして、男の人に伸ばしていた手をあわてて引っ込める!
「……ブブブブブ……ジリリリリリリリリリリリリリッ!!」
聞いた事もない音と振動は、どうも男の人が着ていた服から聞こえてくる!
「あっ!えっえぇ!」
耳が痛くなるような音にびっくりする。
何か虫がいるのか生き物のように振動している。
「……ブブブブブ……ジリリリリリリリリリリリリリッ!!!」
何か起こってるのか私は怖くなって泣きそうになり、とっさに部屋の中で沈黙の精霊魔法を使ったのでした……。
黒髪の男の人はそれから暫くして目を覚ましました。
それが私、サクラとトール様の出会いであり、私はあの日の出来事を長い人生の中で生涯忘れないだろう……。
後日、トール様にこの事をお話すると「けいたい、たいまー」とかトール様の故郷の言葉で説明していただきました……。
後日、編集するかもしれません。
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