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放課後の竜機士  作者: 榊出
第一章:初めの一歩
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第一話

「……これはしまった」


 俺、水無瀬徹は放課後、通院している病院の帰りに久しぶりに乗ったバスの車内で後悔していた。

 いつもは歩く距離なのだが、小雨が降り出し、傘を持ってなかった俺は家の近所の停留所を通る路線のバスに乗り込んだ。

 雨が降っていたのと、携帯で音楽を聴きながらバスに乗り込んだので、乗るまで気が付かなかったが、後方の乗車口から乗り込むと、ほぼ満員の車内は女の子であふれかえっていた……。

 駅からの路線なのだが、夕方の通学時間なので、車内を見回すと普通の客は居なくて、一部違う制服も見えるが、ほとんどの乗客は二駅向こうの幼稚園から大学までの一貫教育をしている私立の女子校生だらけだった。

 携帯から流れている音楽から意識を外すと、姦しい会話が車内にあふれている……。

 小学校からほとんど野球一筋の俺としては、普通の県立の共学高校に通っていても今まで彼女も居た事が無い。人並みに彼女も欲しいと思うし、女の子にも興味はあるのだがこういった状況を「ラッキー!」と思うより恥ずかしさが先に出る。

 俺が乗り込んだことで、車内が一瞬静かになったが、再び喧騒が戻ってきた。

 「女性専用車両とかじゃないよな……」と、考えたが、あまりジロジロ見てこっちが注目されるのも恥ずかしいので、降車口に近い前方に移動する。


「あれ?おにいちゃん?」


 なるべく周りの人に接触しないように前方に移動していると、前から二番目の一人用席から姦しい車内にも負けない良く通る声に呼ばれる。


「……晴香か?」


 妹の晴香は俺と少し年の離れた妹で、周りと同じ一貫教育の女子校の小学校6年だ。ウチは普通の家庭だが、娘に対して親馬鹿の親父ががんばって通学させていた。

 年が離れてるからか、まだ小学生だからなのか、兄妹仲は結構良い。たまに親父が嫉妬している。

 本人は気にしているが、ちょっと太めの眉と広めの額が、わが妹ながら中々の美少女である。性格はややおとなしいが、学校でも人気があるらしい。

 今は学校の帰りらしく、ひざ上にランドゼルを乗せ、白地に水色のラインが入ったセーラー服ぽい制服と水兵がかぶっているような学校指定の帽子をかぶっている。

 俺は携帯に繋がっていたインナーホンを抜くと、掛けていたバッグに仕舞い、晴香の座っている席の肩口についているグリップを握った。


「おにいちゃんがバスに乗るのは珍しいね。……あ!そうか病院の帰り?」


 野球部で高校二年の俺は、二ヶ月ほど前に夏の大会の予選の準々決勝で怪我をした。

 二年ながらレギュラーで、試合中にポジションのサードで激しいクロスプレイをし、左腕を骨折してしまった。担架と救急車で病院に運ばれ、治療が終わったら相手選手が泣きながら謝っていたのを思い出す。

 結局その試合でウチの高校は負けてしまい、夏休み中は部活にも出れず、ギブスを巻いていた。

 幸い単純骨折だったので経過も良く、ギブスは取れたが、まだ違和感があるのと落ちた筋力のためリハビリで通院している。


「お、おぉ。雨降ってきたからなー」


 晴香は最近、友達が事件に巻き込まれている事があり、落ち込み気味だったが、偶然に俺に会ったのが嬉しいのか笑顔を見せた。


「晴香は部活帰りか?」


 コーラス部の副部長をしている晴香に聞く。


「うん……真菜ちゃんの件で、そろそろ伴奏のピアノをどうしよう?って相談してた……」


 一ヶ月ほど前、晴香と同じ学校の平井真菜ちゃんが行方不明になった。二人は家が近い事もあって幼稚園ぐらいから仲が良く、家にもよく遊びに来ていた。

 たしか楽器演奏の天才で、コーラス部のピアノ担当をしていたのを思い出す。

 はきはきとした元気の良い子で「おにーさん、おにーさん」と俺にも屈託なく話しかけていた。

 学校の帰りに行方不明になり、夜になって心配した親から捜索願いが出され、警察も大規模に捜索して入るが、まだ事件、事故共に手がかりは無いらしい……。


「……あー……」


 今は多少落ち着いているが、行方不明になった当日、たまたま一緒に居なかった晴香はかなり落ち込んでいた。

 俺は何と言うか考えながら、何気なく車内を見回した。

 ちょっとした時間だったが。車内は幾つかの停留所を経て、かなり空いてきてるのが確認出来る。乗ってくる乗客は居なかったのか、いまだに女の子ばっかりだったが……。

 うつむいてちょっとしょげている晴香に、声を掛けようとした瞬間。


「……えっ!ちょっと、何これ?!」


 っと、誰かが声を上げた。

 声の方から真っ白なまぶしい光を感じ、そちらを見ると、バスの通路の中ほどの空中から光が出ている……。

 真っ白な光の向こう側が見えないほどの光量に目を細めながら、一瞬爆発かと思い、手の平を向ける。

 光量は凄いのだが、全然熱を感じない。

 最初はバスケットボールほどの大きさだったが、じょじょに光が大きくなる。

 あまりにもまぶしいので、バスの外に目線を向けると、隣に走っていた車の運転手がびっくりした顔でこちらを見ているのが見えた。


「……なんだこりゃ?」


 かすれた声で言う。

 見える範囲の車内の他の乗客も状況が理解できないのか「ポカーン」と口を開けていた。


「おにいちゃんっ!」


 晴香の俺を呼ぶの悲鳴で意識を戻した俺は、とっさに晴香をかばおうと座席のグリップから手を放した瞬間「……キキー!!」とバスが急ブレーキをかけた。


「……キャー!」


 急ブレーキの音と乗客の誰かの悲鳴。

 俺はバランスが崩れて踏ん張ろうとしたが、雨のせいで濡れていた床に足を取られる。


「おにいちゃんっ?!」


 もう一度晴香の悲鳴が聞こえる。

 俺は「大丈夫」と言おうとして光に飲み込まれた……。







 ……ざざー……ざざー……


 ……ざざー……ざざー……ざざー……


 ……さくり、さくり

 おだやかな波の音に混ざって砂浜を歩く音がする。


「・・・やはりな」


 妙齢の女性の声が砂浜の上にあった目的の物を確認した。

 夜も深けているが、今日は4つの月が満月で十分な月光がある。

 気を失っているのか、死んでいるのか、身じろぎしない砂の上に倒れている者を観察すると、呼吸が安定しているのを確認し、周囲に危険な気配が無いか探る……。


 ……ざざー……ざざー……


「ようこそ、若者よ。竜が律する厳しくも儚い世界、レオリースへ……。そなたの今後に幸あらんことを……」


 女性は倒れている者の顔を覗き込むと、慈愛を込めた表情で頬を一撫でした。


「……さて、このまま置く事もできんし、村の者を呼んでくるか……」


 そう独り言を言うと、来た方向に歩き出した……。

 さくり、さくり……


 ……ざざー……ざざー……ざざー……


 ……ざざー……ざざー……


 暫くすると、夜の波の音だけ聞こえていた・・・。



 急ぎで投稿したので、誤字脱字が怖い・・・。


 気になった所を修正しました。


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