【短編】私はいつも月を見ている
月を見ていた。
窓の外から見えるのは空に広がる暗幕とスポットライトが一つ。
今日も綺麗な、丸い満月だった。
手を伸ばせば今にも届きそうな、そんな感じがする。
けど伸ばしたことはない。私ではやっぱり届かないと思うから。
私は今日もこの景色を見て目を閉じる。
起きた。
この部屋には時計を置いていない。
外から元気のいい子供の声が聞こえる。
「ああ、今日は日曜日だったっけ」
学校が休みだから朝から遊んでいるのだろう。
そうなると時間はおよそ十時くらい。
早く寝たつもりだったのだが思っている以上に私は寝坊助のようだ。
陽射しも強くて快晴。もっと早く起きればよかった。
棚に置いてある読みかけの文庫本に手を伸ばす。
私は人より読む速度が遅いが、今から読めば今日で読み終わるだろう。
読み終えた本を閉じた。
内容はよくある学園もので主人公が高嶺の華のヒロインに恋をする話。ヒロインの先輩に振り向いてもらうために必死に駆けずり回る主人公の姿が自分には凄く格好良く思えた。
全三巻。読みごたえもあって私のお気に入りにまたひとつ作品が追加された。
日が暮れて、この日も月が薄暗い部屋に光を指す。
今日は三日月だった。
昨日よりも月の明かりは少ないが、それでも私を見ていてくれている。
風が気持ちよかった。
その姿を瞳に収め、私はそっと瞳を閉じ、床についた。
今日も私は本を読んでいた。
少し長くはなったがキリの良いこの辺りで閉じる。
部屋の灯りを消す。
丁度、いつものように私に会いに来てくれた。
今日も丸かった。
目が覚めた。
周りは暗く、妙に寒い。
視線を棚の方へと向けると読み終わった本が置いてあった。
表紙に付いた埃を掃い、何かが引っかかった――が、考えるのはやめた。
ふと今が何時なのか気になったから。
今私に時間を教えてくれそうなものは外にしかないと思った。
どうしてだろうか、月はさっきも見たはずなのに
私は視線を窓の方へと向ける。
いつも開けたままのはずの窓が何故か閉まっていた。
白く曇っていて外がよく見えない。
霜が降りてきているのか。
窓へとその手を伸ばし、開けた。
窓はとんでもなく冷たくて、やっぱり曇っていただけだった。
ちゃんと見えたから。
今も変わらず、私を見てくれている、私が見ている。
――綺麗な満月だった。
見えるのは白く輝く丸い月と白く痩せ干せた手の甲。
私の視界から見えたのは、窓へとやった手が月に手を伸ばしたような姿。
「嗚呼――」
やっぱり私には手が届かなかった。
特に何も考えずにぼーっとしながら書きました。
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