妹は世界一ですが何か?
「ノルリアン嬢、昼食を一緒にどうだろう?」
「いやぜひ僕と」
「男爵風情がノルリアン嬢となんて図々しい。引っ込んでろよ」
「そうやって身分ふりかざすの、みっともないと思わないか」
「そうだ、そうだ。ノルリアン嬢にそんな傲慢な奴、合わないよ」
あらあら。また妹に虫がたかってるわ。お昼休みに入った途端のこれは、恒例というより、見飽きた光景である。まあ、わたくしの妹は、才色兼備な淑女なのだから、当然だけれども。
困った顔をしている妹を誰一人気遣うことなく、ただ妹を巡って口汚く争っている。
そんな男性に大切な妹を渡す気はなくてよ。
身分は関係ない。妹を大切にできるかどうかだ。
ノルリアン家の利益? 家より妹の方が大事に決まっている。
「アルヴィナ」
「ディアナお姉様!」
ちなみに、先約があるので残念でした。もちろん、わたくしのことよ。
わたくしの声に気付いた妹がぱっと目を輝かせて寄ってくる。はー、いつ見てもわたくしの妹は可愛いわ~。
緩く巻いた金の髪、桃色の瞳、細身なのに女性らしい体つき、愛嬌のある笑顔。冷血女と陰口を叩かれる、わたくしと血の繋がりがあるとは思えないほどの可愛さ。男女ともに人望のある、人格と品格を備えている素晴らしい妹。
え、嫉妬しないのかって?
妹は地上に降りた天使よ? 土台、地を這う人間と同じ目線で語ることが間違ってるの。
きっと、地上の穢れを浄化するために生まれ落ちたのよ。
ああ、お父様、お母様、いつも感謝しております。お母様が身籠っている際に、可愛い妹だったらいいな、可愛い妹が欲しいなというわたくしの願いを聞き届けていただき、ありがとうございます。
学園が5年間という、他国にはない長さにも感謝しております。そうでなければ、3つ違いの妹と共に学園に通うことなどできませんでしたから。
我が家に来てくれて、誰にはばかることなく可愛がれる栄誉をいただき、我が国の信仰する女神さまに毎日感謝を捧げているわたくしです。
アルヴィナという宝をこの世に生み出してくれた奇跡に。
日々、可愛いが更新されていく妹の輝かしさに、お姉様はたまに目が、目が…!(この間3秒)
「ごめんなさい、皆さん。今日はお姉様と約束があるの。また今度誘っていただけたら嬉しいわ」
今日は、というか、今日も、だけれどね。
ふふん、と周囲の男どもに優越感たっぷりに笑みを浮かべるわたくし。
苦々しく、睨むこともできない男ども。
ふっ、勝ったわ(嘲笑)。
妹の美しい声が聴けただけでも、感謝なさい。
どうしても妹と昼食を共にしたいのなら、わたくしの屍を乗り越えることね!!
「今日は中庭で食べましょうか」
「はい、お姉様」
貴族の通う、この学園の食堂は無料だ。だが、ディアナたちは自宅から昼食を持参していた。
以前は食堂で摂っていたのだが、周囲があまりにも騒がしいものだから、他の生徒の迷惑になると、断念せざるを得なかったのだ。食堂のメニューも結構好きだったのだけれど。
「ふふ、今日は何かしら?」
「昨日のクロワッサンサンドも美味しかったですよね」
大体、手軽に食べられるサンドイッチ系が多いのだが、飽きないように料理人が毎日工夫してくれている。
昼食も楽しみだが、何より、学園で妹と一緒にいられる貴重な昼休み、堪能しなくては!
学年が違うが故の、別離。仕方ないことと分かっていても、授業の時間が長く感じてしまう。授業の合間の休み時間など、校舎の行き来で終わってしまうので、涙を呑んで諦めるほかないのだ。
今! この時は! 妹は、わたくしだけのもの!!
「──今日はここで昼食かい? ディアナ嬢、アルヴィナ嬢」
……出たな、邪魔者。今日は一段と早い。
令嬢らしからぬ舌打ちが出そうになるが、堪えた。
「ノルリアン嬢とお呼びください、王太子殿下」
妹を狙う、邪魔者め。不敬罪になるから、口に出して言えないが。
いつもいつもいつもいつもいつもいつも!!!
妹との貴重な語らいの時間を邪魔しに来て!!!!!
…いやお前、家で好きなだけ会えるし顔見れるし、何ならお触りだってできるだろ、という声が聞こえる気がするけれど、あーあーあー聞こえなーい聞こえなーい。
「それでは、どちらを呼んでいるか分からないじゃないか」
「未だ婚約者のおられない殿下に名前を呼ばれるなどと、周囲から誤解されてしまいますわ」
「私はいいけどね、それでも」
にこやかにとんでもないことを言い放つ王太子に、こっちはちっともよくないわぁ!!と声を大にして言ってやりたい。言えないけど。
早く婚約者作れば?という皮肉を、一番嫌がる形で返しおって、この腹黒が!
誰が、苦労しかない王族なんぞに嫁ぎたいと思うのよ!
…いやそれは言い過ぎたわ。結構いたわ。知らんけど。外見だけは王子様な王太子だし、時期最高権力者だしね。
だとしても!
妹は、ぜっっっっっっっっっっっったいに、王家なんかに嫁がせない!!!! わたくしの命と引き換えにしても!!!!!!!!
そりゃ、うちは侯爵家で、家格的には問題ないですし?
能力的にも不足があるわけがありませんし、容姿など言うまでもないですけれど?
誰よりも王妃に相応しい品格があったとしても。
常に死と隣り合わせ。苛烈な王太子妃教育、のち王妃教育。外交での腹の探り合い、イコール精神を削る攻防。言語も今以上に覚える必要があるし、高位貴族とて、マナーひとつとっても、いち貴族と王族の間には、乗り越えられないほどの高い壁があるのよ。
なので、どんなに望まれようが、お断り一択です!!!
「ふふ、ご冗談はおやめくださいませ。時に殿下、わたくしたちに何かご用でも?」
「特に用事はないが、昼食を一緒にどうかと思って」
「まあ、ご遠慮申し上げますわ。このベンチは2人掛けですし」
「もう少し、広いところでどうだろう?」
「いえいえ、わたくしたちなどより、先ほどから後方辺りにいらっしゃるご令嬢などはいかがです?」
たぶん、王太子を追ってきたのだろう、令嬢たち。
目が合ったので、にっこり笑いかける。
どうぞどうぞ。連れて行ってくださいなという思いを込めて。
「…相変わらず、手強いな」
「何のことでしょう?」
だから、妹は渡さないって言ってるでしょう(言ってない)。
「あまりしつこくして、嫌われても本末転倒か。今日は諦めるとするよ」
これ見よがしに溜息をついた王太子が側近たちと去った後、令嬢に群がられているのが見えた。
贅沢を言うなら、こちらに来る前に足止めしていてほしかったなあなどと思ったり。
ああ、貴重な(3度目)お昼休みがあの邪魔者のせいで、8分45秒(体感)も無駄にしてしまったわ。何たること…!
ああ、明日はまた違う場所を検討しなければならないわ。王太子の来なさそうなところ…いっそ令嬢たちを事前にけしかけておこうかしら?
◇ ◇ ◇
ふう、と溜息をつく。
今日もお姉様に纏わりつく視線が鬱陶しかった。
本人は自分に対する周囲の目など気にも留めていないが、男女問わずお姉様の美貌に見惚れる者は多い。真っ直ぐな白金の髪、菫色の瞳の美しさ、整った容貌は、”月の女神”そのもの。
純粋で綺麗で、完璧且つ清らかなお姉様はどこか抜けている。
寄ってくる害虫は全てわたくし狙いと勘違いしているが、大体6:4くらいの割合だと思っている。わたくしに橋渡しを依頼する輩も少なくない。
あの王太子も、お姉様を狙っている害虫の1人。
お姉様は、わたくしを狙っていると勘違いしているようだが、あの腹黒が狙っているのは、間違いなくお姉様の方。
わたくしには牽制と探りを入れてくるくらいで、まったくそんな感情は見当たらないのに、お姉様を見る目は違う。
同じ人種だからだろうか、尚更分かるのだ。
しかし、お姉様を王族に嫁がせる気は微塵もない。わたくしのすべてで以て、阻止する所存。
ふふふ、王太子殿下。──お姉様は渡さなくてよ。
了
気が向いたら続編を書いてみるかもな短編。
こう、真面目な話書いてると、たまにこういうのが書きたくなるんだよなと。




