表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

6話 この男 動じない

日本政府は動いていた。


発端は――例の“影”だ。


ローブを纏った、あの存在。

世界中に向けて放たれた言葉。


「小野たかし。この者に、世界のすべてを渡した」


その一言。


あまりにも突飛で、現実味がない。

だが同時に、無視するには危険すぎた。


ゆえに、調査が始まった。


---


小野たかし。


戸籍あり。

経歴、平凡。

特筆すべき点は、何もない。


「同姓同名は複数確認されていますが……」


資料がめくられる。


「条件に最も一致するのは、この人物です」


モニターに映し出される一人の男。


「根拠は?」


「決定的なものはありません」


一拍。


「ただし――」


視線が資料に落ちる。


「ここ数日で、生活にわずかな変化が見られます」


「変化?」


「はい。金銭的な余裕を感じさせる行動。消費傾向の変化。

一般人としては小さな差異ですが、タイミングが一致しています」


沈黙。


「……それだけか」


「はい」


「弱いな」


否定はされない。

だが、切り捨てられもしない。


「しかし、消去法としては最も近い存在です」


再び沈黙。


やがて――


「……接触してみるか」


決定だった。


---


数時間後。


たかしの自宅前。


インターホンが鳴る。


---


部屋の中では。


「うわ、このボスめんどくさ」


たかしがゲームをしていた。


---


玄関。


ドアが開く。


そこに立っていたのは、スーツ姿の男だった。


「突然失礼いたします。内閣府の者です」


丁寧な口調。

穏やかな表情。


「小野たかしさんで、お間違いないでしょうか?」


「はい、そうですが」


アーシャが、たかしの姿で答える。


自然な声。

自然な間。


違和感は、一切ない。


「少し、お時間よろしいでしょうか」


「はい、大丈夫ですよ」


柔らかく返す。


「ありがとうございます」


一呼吸。


「実は、いくつかお伺いしたいことがありまして」


探るような言い方ではない。

あくまで“確認”の姿勢。


「最近のニュースは、ご覧になっていますか?」


「ニュース、ですか」


少し考える素振り。


「いえ、あまり。何かありましたか?」


「ええ……少し、特殊な内容でして」


男は言葉を選ぶ。


「世界的に、ある“存在”が観測されています」


「存在?」


「はい。ローブを纏った人物で――」


一瞬、間を置く。


「“小野たかし”という名前を口にしていまして」


---


「そうなんですね」


アーシャは自然に頷く。


軽く笑う。


「でも、それって僕と同じ名前ですよね」


「ええ、その通りです」


男も同じ温度で返す。


「ですので、確認のためにお伺いしております」


---


「なるほど、なるほど」


納得したように頷く。


「ちなみに、その影って……なんで僕と同じ名前出したんですか?」


柔らかいまま、逆に問いを返す。


---


男は一瞬だけ言葉を選んだ。


「……正直に申し上げると、我々としても信じ難い内容ではあるのですが」


前置き。


「その存在は、“小野たかしという人物に世界のすべてを渡した”――そう発言しています」


---


「へえ」


短い相槌。


「いや、ちょっと信じられないですね」


軽く肩をすくめる。


---


「我々も同じ認識です」


男は頷く。


「ただ、その存在が実際に世界へ与えた影響を考えると、無視することはできません」


---


「ああ、なるほど」


理解を示す。


「そういうことですか」


---


「はい」


一拍置いて、男は本題に入る。


「そのため、“小野たかし”という人物を調査した結果――」


視線を向ける。


「あなたにたどり着きました」


---


一瞬の間。


---


「あー、それ多分僕で合ってますよ」


あまりにもあっさりと。


---


空気が、止まる。


---


「……確認ですが」


男は慎重に言葉を選ぶ。


「今の発言は――」


---


「いや、たぶんですけどね」


軽く手を振る。


「その影が言ってる内容的に、たぶん僕だと思います」


まるで、他人事のように言う。


---


「……そう、ですか」


男は頷いた。


だが、その内側では。


評価が、一段階引き上げられていた。


---


(この男――)


(動じない)


---


その頃、部屋の奥では。


「次なにやろっかな」


たかしが、普通にゲームをしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ