5話 知識としては
たかしは帰宅した。
アーシャが新しいPCを用意しているはずだ――
そう思うと、自然と足取りが軽くなる。
人類を遥かに超えた存在が作るPCだ。
もしかしたら、とんでもない代物になっているかもしれない。
……とはいえ、本人は「人類の技術水準に合わせる」と言っていた。
期待と現実の間を行き来しながら、たかしは家の扉を開けた。
そして、目にした。
「……これが?」
『はい。PCです。たかし様が使いやすいよう、セットアップは完了しております。操作方法は既にご存知かと思われますが、ご説明いたしましょうか』
「いや、いい」
たかしは即答したが、すぐに違和感に気づく。
「……いや待て。出かける前、“人類水準で作る”って言ってたよな?」
視線の先にあるのは――
どう見ても、ヘッドホンだった。
いや、正確には「ヘッドホンサイズの何か」だ。
言われなければPCだとは絶対に分からない。
「明らかに水準超えてない?」
『使いやすさを最優先に設計いたしました』
間髪入れず、アーシャは答える。
『確かに人類水準に合わせると申し上げましたが、最も優先すべきはたかし様の快適性です』
「……なるほど」
『ゆえに、この形状を採用しております』
「ありがとう」
納得したのかしていないのか分からないまま、たかしはそれを手に取る。
理解はしている。
中身がどういうものかも、完璧に分かっている。
だが――
実際に“それ”が目の前に存在していると、話は別だった。
「これが」
小さく呟きながら、首に装着する。
――起動。
その瞬間、視界の前にディスプレイが展開された。
「……おお」
思わず声が漏れる。
「ラノベとかアニメでよく見るやつ」
空中に浮かぶUI。
遅延も違和感も一切ない操作感。
たかしは、即座に理解した。
――当たりだ。
「いい、これ、いい」
素直な感想だった。
『何をなさいますか』
「んー……ゲームかな」
少し考えてから、付け加える。
「友達とやりたいけど、仕事してるから」
時間を確認し、肩をすくめる。
「帰ってきて落ち着くまで、それから かな」
軽く息を吐く。
「それまでゲームで時間 埋めるわ」
そして、思い出したように言う。
「その間、トラブル対応よろしく」
『了解しました。ごゆっくりお過ごしください』
淡々とした返答。
それを聞きながら、たかしはゲームを起動した。




