12話 最初の1人
薄暗い部屋。
カーテンは閉じたまま。
時間も、よく分からない。
スマホの画面だけが、かすかに光っている。
何件かの通知。
どれも、もう開く気はなかった。
――仕事は、辞めた。
――家も、もうすぐ出る。
――行く場所は、ない。
体を起こす気力もない。
ただ、床に横になっている。
「……はは」
乾いた笑いが、少しだけ出た。
もういいか、と思う。
そのまま目を閉じる。
「……誰か」
声が、漏れる。
「助けて」
視界が揺れる。
立っていられなかった。
そのまま、床に崩れ落ちる。
――もう、いいか。
意識が沈む。
―――――
目を開ける。
知らない天井。
柔らかい光が差し込んでいる。
「……誰」
「小野タカシと申します」
聞いたことのある名前。
「……ニュースで、やってる……?」
「ええ、まあ」
男は軽く頷く。
そして、静かに頭を下げた。
「お疲れさまでした」
「……」
「辛かったのでしょう」
言葉は、静かだった。
押し付けるでもなく、ただ置かれる。
「あなたの声は、届いています」
「……」
「もう、倒れても大丈夫です」
「ここは、そのために用意しました」
部屋を見渡す。
見覚えのある荷物が、隅に置かれている。
「……なんで」
「助けて、と言っていたので」
それだけだった。
「ここは、好きに使ってください」
「寝てもいいし、帰ってもいい」
「何もしなくてもいいです」
「必要なものがあれば、言ってください」
「全て、用意できます」
一拍。
「……それだけです」
男はそれ以上何も言わず、
静かに部屋を出ていった。




