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第13話 理由

深夜四時。

私は兄の尊と共にコンビニに向かった。

この時間帯にコンビニを訪ねたのは落ち着いて東雲さんと話せることを知っていたからだ。


「ここでいい。あとは一人で行くから」

「さっさと挨拶してこいよ。あんま迷惑にならないような」


「分かってるって。うるさいな、もう」

「付き合ってやってんだからこんぐらい言わせろ」


兄を残して店内に入ると、レジのところに立っていた東雲さんがこちらを向いてパッと表情を明るくした。


「さーや!」

「お久しぶりです」


「元気な顔見れて良かった。最近配信してなかったから心配してたんだ。体調は大丈夫なの? しばらく配信お休みするってポストしてたけど」

「体調は問題ないです。ちょっと家庭の事情で色々あって休んでただけなので……」


私は少し逡巡した後に、口を開いた。


「今日は客としてじゃなくて、東雲さんに会いに来たんです」

「私に?」


「実は、今度引っ越すことになって。最後に東雲さんにだけは挨拶しておきたいなって」

「引っ越し……」


「以前コンビニの前で話した時、東雲さんが不登校だったって言ってましたよね。実は私も同じなんです。私も虐められてて、学校に行けてなくて。それで、親が遠方の通信制の高校に通ったらどうかって言ってくれたんです」


先日、両親から話されたのは、新しい土地に移り住むという提案だった。

わざわざ私のために転職までして、この機会を設けてくれたらしい。

新しい学校は私のように事情がある生徒への理解があり、そこなら私でも進学できるのではないかという話だった。


恵まれてるなと思う。

その恵まれた環境に自分がいるということすら、今まで気づけていなかった。

それに気づくことができたのは、東雲さんと出会ったからだ。


誰かが支えてくれていることを、この人は教えてくれた。


「そうだったんだ。……寂しくなっちゃうね」


私の言葉を聞いた東雲さんは、少し悲しそうに笑みを浮かべた。


「ねぇ、さーや」

「はい」


「さーやはね、自分の配信活動をどう思ってるか分からないけど……私にとってさーやの配信は、毎日頑張れる理由だったんだよ」

「理由?」


首を傾げる私に、東雲さんは頷く。


「このお仕事が終わったらさーやの配信見よう、今日もさーやが配信頑張ってるから私も頑張ろうって。ちょっとしたことかもしれないけど、さーやがいてくれたから私の日常は彩られた。さーやの配信は、私や、きっと他のリスナーにとっての、支えになってるんだと思う」


どうしてだろう。

彼女の言葉は、いつも私の胸に沁みこむ。

私が欲しい言葉を、彼女はいつもくれる。

泣きそうになるのを堪えて、私は顔を上げた。


「私、ずっとリスナーがAIか何かだと思ってたんです。画面の向こう側に人がいるなんて思いもしなかったし、その人に人生があるだなんて考えもしなかった。でも、東雲さんと会って、私が配信で接してるのは生きている人なんだなって気づけました」


私はスマホに東雲さんのイラストを表示し、彼女に示す。


「東雲さんのイラスト、とても素敵でした。励まされました。今まで家族に負担かけて周囲に心配ばかりかけてたけど、この絵を見た時、こんな私でも生きていていいんだって……肯定された気がしたんです」


私はまっすぐ彼女の瞳を見つめる。

自信がなさそうなその瞳は、どこか揺れ動いていたけれど、私のことをまっすぐ受け止めてくれた。

そんな彼女に、私は言葉を届けたい。


「私が頑張れる理由だったって東雲さんは言ってくれたけど、配信者だってリスナーに支えてもらってるんです。中には嫌なリスナーもいるけれど……それでもあなたたちがいたから、私は肯定されました」


ギュッと、手を握りしめる。


「まだすぐに学校行ったりとかは無理かもしれないですけど、私も新しい場所で頑張ろうと思います。東雲さんが頑張れる理由を消さないように、配信も続けようと思います。だから東雲さんも、自分がやりたいことをやって、挑戦してみてください。それで疲れたら、私の配信に遊びにきてください。私、東雲さんのイラスト好きです」


「さーや……」


東雲さんは一瞬目を潤ませたあと、手で涙を拭った。


「うん、ありがとう。勇気出してさーやにイラスト送って良かった」

「私も、送ってくれてよかったです」


あのイラストがなければ、私はもしかしたら今頃この世にいなかったかもしれない。

この人が私に救われたように、私もこの人に救われたんだ。


私はこの人の推しかもしれないけれど。

今となっては、彼女だって私の推しの絵師だ。


私が手を差し出すと、東雲さんはその手を取ってくれた。

レジ越しに、私たちは握手する。

彼女の手は緊張しているのか少し汗ばんでいた。

だけど、心地よい温もりだと感じた。


「そうだ、それからもう一つ伝えたいことがあって」

「何?」


東雲さんは首を傾げる。

どう言葉にしようか少しだけ迷ったあと、私は彼女に伝えた。


「いつか私がもう少し大きな配信者になった時、もし、東雲さんが良かったら連絡させてもらってもいいですか? 少しだけお願いしたことがあるんです」

「お願いしたいこと?」


私は頷く。


「実は――」


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