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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ネズミの王子様

***BL***エミリオ王子は森の魔女にネズミにされてしまいました。魔法を解くには、真実の愛と本当のキスが必要です。ハッピーエンド。


 昔々、ある森に美しい魔女が住んでいました。

 魔女は、この国の王子様の美しさを知り王子様に恋をしました。

 しかし、王子様には好きな人がいました。

 

 魔女は美しい王子様を手に入れたいと思いました。自分より美しい王子様。いつも自分以外の誰かを見つめる王子様。

 いつまでも振り向いてくれない王子様を魔女は恨み、魔法をかけました。


 王子様をネズミに変えたのです。


「何故僕をネズミに変えたのですか?」

「王子様は、私を愛さない。だからネズミに変えたのです。王子様が元の姿に戻るには真実の愛と本当のキスだけ、、、。でも今の貴方には無理でしょう」


 王子様は悲しみました。


 ネズミになった王子様はお城の庭で、庭師の少年に会いました。王子は嬉しくて、少年に声を掛けました。

「あの!」



*****

*****



「え!君!エミリオ王子なの?可愛い、、、」

「可愛い?僕はネズミになってしまったのに?」

「可愛いです!白くて小さくて、手の平に乗っちゃう」

ふふふ。リオンは微笑む。

「でも、このまま、この庭で過ごすと危険ですね。蛇や鳥に襲われちゃうと困ります。僕の部屋に行きましょう」

 エミリオ王子は、リオンの肩に乗りリオンの部屋に行く。


「エミリオ王子は、何を食べるんですか?やっぱりネズミの食べ物ですか?」

「ネズミって、何を食べるのかな、、、」

「虫とか、、、かな?」 

「虫、、、それは、イヤだよ、、、」

「う〜ん、何が食べたいですか?」

「肉とか、フルーツ、パンとか?」

「じゃあ、僕と同じ物で大丈夫かな、、、。ただ、エミリオ王子が食べていた物より、美味しく無いかもしれません」

リオンは戸棚から、お昼用のパンを一つ出して、スープを温める。スープが温まる前に皿に装り、パンと一緒に並べる。スープをスプーンで掬い、パンを小さく千切って小皿に乗せる。

「あの、、、こんなものしか無いんです、、、」

と王子に差し出す。

「わぁ!こんなに沢山、食べられるかな?」

エミリオ王子がびっくりすると、リオンは少し安心した。

 小さなネズミは、ほんの少しパンを食べただけで、お腹がいっぱいになった。


 リオンは使っていない、一番深くて大きなお皿に水を貼った。もしエミリオが必要なら使って貰おうと考えた。

 エミリオは早々に水に入り泳いだ。

「はぁ〜、生き返る」

「エミリオ王子は、何故ネズミになってしまったんですか?」

「森の魔女に魔法を掛けれたんだ。真実の愛と本当のキスで元の姿に戻れるって」

「真実の愛!本当のキス?それなら婚約者殿にお願いしたらどうですか?」

「そうか、、、!そうだね!彼女ならきっと!」


 その晩、王子はリオンの枕元で眠った。夜中、リオンが目を覚ますと、狭いベッドにエミリオ王子が一緒に寝ていた。リオンはびっくりしながらも王子を起こさない様に静かに寝返りを打った。

 エミリオ王子の綺麗な顔が目の前にある。リオンは嬉しくて微笑んだ。



*****



 リオンはエミリオ王子を肩に乗せ、婚約者殿の部屋の一番近い所まで行く。

「エミリオ王子、僕が行ける所はここまでです。ごめんなさい」

「リオン、ありがとう。ここからは頑張って一人で行くよ」

リオンは心配で心配で仕方が無かった。



*****



「メリッサ姫!メリッサ姫!」

エミリオ王子はメリッサ姫の部屋の前で叫んだ。侍女が気が付き扉を開ける。

「まあ!姫様、ネズミが、、、」

「メリッサ姫、エミリオです!どうか話を聞いて下さい」 

侍女は困った顔をした。

「エミリオ王子?」

侍女は、ハンカチを広げてネズミを運ぶ。

「森の魔女に魔法を掛けられてしまいました。メリッサ姫の真実の愛と本当のキスで元の姿に戻りたいのです」

メリッサ姫はネズミを見るなり

「ごめんなさい。本当にエミリオ王子かわからないし、ネズミとキスは出来ないわ」

そう言って、侍女にネズミを外に出す様に言った。

 エミリオ王子を扉の外に置くと、侍女は重たい扉をしっかり閉めた。



*****



 リオンは結局その場を動く事が出来ず、エミリオ王子が戻って来るのを待ち続けた。

 ネズミの姿をした王子を見つけると、魔法を解く事が出来なかったんだとわかった。

 リオンはそっと手の平を差し出し、エミリオ王子を迎えた。

「エミリオ王子、疲れたでしょう。僕の小屋に帰ったら、昨日のパンとスープを食べましょう、、、」



*****



「エミリオ王子、妹姫様はどうですか?いつも兄様、兄様とお慕いしていました!」

「アメリア、そうだね。アメリアなら僕だとわかってくれるかも!」

「それでは、明日は妹姫様の元へ参りましょう」

エミリオ王子は、疲れたのか早々に寝息を立てた。

 リオンは、そっと枕の上にエミリオ王子を移した。夜中、窓の外から月明かりが差し込み、ネズミになったエミリオ王子を照らす。するとエミリオ王子がキラキラ光り、元の人間の姿に戻って行く。

 リオンはその不思議な光景をずっと眺めていた。

「エミリオ王子、早く元の姿に戻れると良いですね」

リオンはそっと布団に潜り込んだ。エミリオ王子が眠ったままリオンを抱く。リオンは静かにエミリオの顔を眺める。

 ずっとこの時間が続けば良いのに、、、。



 朝、目が覚めるとエミリオ王子はネズミに戻っていた。



*****



 リオンはエミリオ王子を肩に乗せ、アメリア姫の部屋に一番近い場所を目指す。

 途中で、アメリア姫が侍女を連れて散歩をしていた。リオンはエミリオ王子を肩から降ろす。エミリオ王子は、ネズミらしく素早く走りアメリア姫に近付いた。

「キャァーッ!」

アメリア姫と侍女が悲鳴を上げる。

侍女が叫んで、リオンを呼んだ。

「早くっ!早く、このネズミを何とかしなさい!」 侍女に命令されて、リオンは走ってエミリオ王子の元に行く。

 エミリオ王子はショックを受けたらしく、身動き一つしない。

 リオンは、エミリオ王子を傷つけない様に優しく包み込む様に手の中に隠す。

「失礼致します」

お辞儀をして、急いでその場を離れた。 



「エミリオ王子、大丈夫ですか?」

「あぁ、少しびっくりしたけど、大丈夫だよ」

とても大丈夫だと思えなかった。

「小屋へ戻りましょう」

リオンはエミリオ王子を肩に乗せ、ゆっくり歩いた。


「エミリオ王子、僕は午後から仕事に行きますが、王子はどうしますか?」

「ありがとう、僕はもう少し休むよ。それから、魔法を解く方法を考える」


 僕は、庭師の仕事に向かう。



 庭師は沢山いる。お城の広い広い庭には仕事が沢山あった。仕事が終わり、今日支給される食べ物を頂く。パンとスープ、ベーコーンとチーズ、林檎が一つ。そんなに多い量では無いけど、1日分の食べる量には充分だった。



 「エミリオ王子、今日はりんごがありますよ」

僕は、一番最初に林檎を手に取った。いつもなら最後に取っておくけど、エミリオ王子に食べて貰いたかったから。僕は林檎を小さく切った。

 エミリオ王子は林檎を見ると嬉しそうだった。

 それから、チーズも小さく切った。僕はエミリオ王子が食事をする姿を眺めるのが好きだ。



「母上の所に行こうと思う」

「王妃様の所ですか?」

王妃様は城の奥にいる。僕がエミリオ王子を連れて行ける場所からは大分遠い。心配だな、、、。

「明日、朝、お連れすればよろしいですか?」

「ごめんね。お願いするよ」

「親子の愛なら、元の姿に戻れますよ。きっと大丈夫です」

エミリオ王子は心配そうに笑った。



*****



「母上にも信じて貰えなかったよ」

エミリオ王子は淋しそうに言った。

「殺されないだけマシだった、、、」

エミリオ王子は疲れている様だった。

「エミリオ王子、ベーコーンを焼きましょう!チーズも乗せて、パンも一緒に!」

ネズミのエミリオ王子の表情は分かり辛いけれど、元気になって欲しかった。

 僕は小さな台所でベーコンを焼き、パンの上にチーズと一緒に乗せた。豪華なご飯が出来た。

 それをナイフで小さく切る。上手く出来なくて崩れてしまったけど、エミリオ王子は食べてくれた。


 お皿の水は毎日変えていた。エミリオ王子は毎日お皿の水で泳ぐ。泳ぐ姿も可愛くて、僕はついつい眺めてしまう。



*****



 エミリオ王子がウトウトしている。僕はそっと手の平で包んで、枕に乗せる。そして、その横で僕も一緒に眠る。

 夜中になると、やっぱりエミリオ王子は人間の姿に戻った。僕はそっとエミリオ王子を抱き締める。

「早く、元の姿に戻れると良いですね」

エミリオ王子が眠りながら、僕にしがみ付く。年上なのに何だか可愛くて、そっと髪に口付けをした。

 僕はエミリオ王子の温もりと、香りで幸せだった。そのまま、エミリオ王子を抱いて朝まで眠った。



*****


 

 朝、目を覚ますとエミリオ王子が、僕を抱き締めながら見つめていた。

 何だか夢みたいで幸せだった。

「エミリオ王子、お早ようございます」

僕はエミリオ王子の胸に頭を擦り付ける。思いっきりエミリオ王子の香りを嗅ぎ、幸せ一杯になる。

「リオン?」

「はい」

「昨日の夜、僕に何かした?」

優しく笑う。

「一緒に寝ました」

「それ以外には?」

「何も」

「僕の事をちゃんと見て」

エミリオ王子は僕の頬を包み込む様に触る。

 僕は

(何かしたかな?) 

と思いながら考える。特に何もしていない。

「リオン、僕の姿を見て、何か思わない?」

「今日も綺麗です」

「あ、、、あのね、とっても嬉しいけどそうじゃ無いんだ」

僕は首を傾げる。

 エミリオ王子が僕の額にキスをした。

僕はエミリオ王子の顔を見る。エミリオ王子は僕をキュッと抱き締めながら

「まだ、わからない?」

「、、、はい、、、ごめんなさい」

「リオン、僕、人間に戻ったよ」

僕はびっくりしながら、エミリオ王子をよく見た。

「誰が僕にキスしてくれたのかな?」

にっこり笑う。僕の顔が赤くなるのがわかる。

「ごめんなさい。あの、、、多分僕です、、、」

「多分なの?」

エミリオ王子が、僕の瞼にキスをする。

「あの、、、僕、王子様にキスした罪で罰を受けるんですか?」

「そんな事無いよ。リオンは僕を救ってくれたんだから」

「でも、、、」

「大丈夫だよ。僕が必ずリオンを守るからね」

エミリオ王子はベッドから降りた。僕はエミリオ王子が人間に戻って凄く嬉しいのに、何だか少し淋しかった。



*****



 エミリオ王子が人間に戻ったと言う事は、エミリオ王子がお城に戻ってしまうと言う事だ。

 きっともう一緒にはいられない。



 朝は二人でゆっくりした。人間に戻ったエミリオ王子に、僕は昨日貰ったスープしか出せなかった。

「ごめんなさい。朝ごはん、これしかありません」

ネズミの時は、ほんの少しでお腹がいっぱいになっただろうけど、人間に戻ったエミリオ王子には、何だか申し訳なかった。

「リオン、これは君が食べて。今日も仕事があるでしょ?」

「、、、はい。仕事をして、食べ物を貰わないと、、、」

「うん、、、。あのね、僕はお城に行って来るよ」

僕はエミリオ王子を見ながら、きっともう戻って来ないんだなと思った。

 たった数日の大切な思い出だ、、、。せめて、チーズとベーコンは取っておけば良かった、、、。そんな事を考えた。



*****



 エミリオ王子はもう、僕の小屋には来ない。

 二人で過ごした4日間は幸せだった。僕はいつも一人だったから。

 エミリオ王子がお城に戻ってから、また一人になってしまった。

 それまでは一人でも淋しく無かった。自分のペースで生活が出来たし、のんびりのんびり生きていた。

 でも今は淋しくて淋しくて仕方が無かった。

 エミリオ王子が水浴びしたお皿の水は毎日変えていた。たまに、花を浮かべたりして自分を慰める。

 仕事は毎日、朝から夕方まで行く。仕事は探せば沢山あるし、庭師仲間にも会えた。

 そして、何より淋しい気持ちを誤魔化せた。



*****



 あれから半年程経っただろうか。僕は毎日仕事に励んだ。最近では、庭師仲間からも褒められる事が多い。

 多分、僕はずっと、お城の庭師の仕事を続けるだろう。いつか、僕が綺麗にした庭をエミリオ王子が見てくれたら嬉しい。



*****



 僕が仕事から戻って来るとエミリオ王子がいた。

「リオン!」

「あの、、、エミリオ王子様、、、。どうなさったんですか?」

僕は久しぶり過ぎて緊張する。エミリオ王子に近付きたいのに近付けない。

「リオン、迎えに来たよ。一緒にお城に行こう」

エミリオ王子が僕の手を握る。額をコツンと当てて

「やっと迎えに来れた」

と微笑む。

「???」

「君は僕を助けてくれたんだ、一緒に暮らすのは当然だろ?」

頬に一つキスをくれる。

「でも、僕は庭師で、しかも一番下っ端です。やっぱり身分が違い過ぎると思います」

エミリオ王子は僕の頬を両手で包み

「身分なんて関係無いんだ。僕を人間に戻してくれたのはリオンなんだから!僕が君を選んだんだ」


 僕はエミリオ王子と一緒にお城に向かった。



*****



 お城の中は美しかった。人も煌びやかで、僕一人場違いだった。エミリオ王子の世界はこんなに素敵な所だったんだ、、、。

 そう思うと同時に、僕の土だらけの洋服が恥ずかしくなった。

 周囲の人の目が怖い。僕はエミリオ王子の横には相応しく無いと言われているみたいだ。

 エミリオ王子は、僕を侍女に預けた。侍女は僕を湯殿に連れて行き、綺麗に洗う。

 ゴシゴシ、ゴシゴシ、力任せに洗われて身体中が痛い。一度だけでは綺麗にならないと、何度も何度も洗われた。頭もそうだった。泡を立てて洗い、すすぐ。目に泡が入ってもそのままで、何度も続けてお湯を頭から掛けられるから息が出来ない。

 最後に身体を拭かれ、衣服を着る時、僕を洗っていた侍女達が

「どうしてこんな子がエミリオ王子の、、、」

とブツブツ言っているのが聞こえた。

 身体中が痛くて、衣服が擦れる度に声を我慢した。服は上等な物だった。僕に服を着せてくれた侍女にお礼を言うと

「お洋服は美しいのに、中身がねぇ、、、」

とガッカリしながら口元に笑みを浮かべていた。

「ダメよ。メリッサ様と比べてはいけないわ。生まれも育ちも違うのだから」

クスクスと笑う。


 

 侍女に連れられ、廊下を歩いていると美しくも可憐な女性がいた。白い華やかなドレスを着ていた。

 僕が目の前を通ろうとすると、呼び止められた。

「お前がリオン?」

僕は震えながら

「はい」

と返事をした。

「お前の嘘の所為で、エミリオ王子との婚約が無くなったの。どうしてくれるの?」

僕は何も言えなかった。

「どうしてくれるのか聞いてるのよっ!返事をなさいっ!」

彼女は持っていた扇子を僕の顔目掛けて投げ付けた。扇子は僕の額に当たった。

 僕は深々と頭を下げて、謝るしか無かった。

「申し訳ございません、、、」

彼女が何か言うか、何処かに行くまでこのままがいいんだろうか、、、。誰も教えてくれない。

「本当に見苦しい子」

吐き捨てる様に言うと、彼女はゆっくり去って行った。

「リオン様、先を急ぎますので」

侍女が急かす。

「申し訳ございません」

僕はお城で上手くやっていく自信が無い。



「リオン!可愛い!」 

エミリオ王子がそう言いながら、僕に触れた。僕は、皮膚が痛くて顔をしかめた。

「リオン?どうしたの?」

僕は頭をペコリと下げた。

「ごめんなさい」

僕は謝る事しか出来ない。

「額から、、、」

さっき扇子が当たった所が切れていた。エミリオ王子は僕の前髪をそっと分けて傷を見つけた。

「リオン、何があったの?」

僕は頭をフルフルと振った。何だか、言ってはいけない様な気がしたから。エミリオ王子はポケットからハンカチを出して、優しく傷を押さえてくれた。



*****



 あの小さな小屋に帰りたい。

僕はそう思いながら晩餐会に参加する。作法もわからない、エミリオ王子の席は遠い。僕は何を食べているか全然わからなかった。

 僕の後ろには老齢のいかめしい男性が立っている。僕がお作法を間違える度に

「違います」

「そうではありません」

「こちらをお使い下さい」

と声を掛けられる。その度に周りの人からクスクス笑われて恥ずかしかった。



*****



「ごめんね、リオン。今日は辛かったね」

夜、エミリオ王子が抱き締めてくれた。でも、僕は身体中の傷が痛くて眉を寄せた。

 エミリオ王子は、静かに僕の服を脱がせた。こすり過ぎた皮膚から少し血が滲み、衣服に所々小さな赤いシミを作っていた。エミリオ王子はそれを見ると、唇を噛んだ。

 エミリオ王子は新しい服を着せてくれた。そして、ベッドの中で優しく抱いてくれる。

「、、、小屋に帰りたいです、、、」

僕は疲れ果てていた。涙が自然にこぼれる。

 こんなに悪意を向けられた事は無かった。

「リオン、もう少しだけ我慢して欲しいんだ、、、」

エミリオ王子は僕の頭を撫でてくれる。エミリオ王子の体温が気持ちよくて、少しだけ安心した。



*****



 ある日の晩餐会で、妹姫様が言った。

「そう言えば、兄様のネズミの話、面白かったわ」

メリッサ様も嬉々として返事をする。

「森の魔女にネズミにされた話ですか?」

「そうです。兄様が森の魔女にネズミに変えられて、真実の愛と本当のキスで人間に戻られたお話し。リオンも知っているのでしょう?」

僕はなんて返事をしたら良いのかわからなかった。

「リオンの真実の愛と本当のキスで兄様は人間に戻ったのよね?」 

「それでは、リオン様は、ネズミとキスをされたんですか?勇気がお有りだ事」

二人はクスクスと馬鹿にしたように笑う。


 エミリオ王子がポツリと話し出した。

「僕は一番最初にメリッサ様の元に行きました。小さい頃からの婚約者でしたし、真実の愛と本当のキスが必要ならば、相手は貴女だと考えました。しかし、貴女は、、、「ごめんなさい。本当にエミリオ王子かわからないし、ネズミとキスは出来ないわ」そう言って、侍女に僕を外に出す様に言いました」

メリッサ様は目を見開き驚いた様だった。

「次にアメリアの元にも行きました。アメリアと侍女は悲鳴を上げ、侍女が叫んでリオンを呼びました。「早く、このネズミを何とかしなさい!」と侍女に命令されて、リオンは走って僕の元に来ました」

メリッサもアメリアも気まずそうに黙った。

「僕は、最後に母上の元にも行きました。母上は僕の話しを信じる事無く、危うく殺されそうになりました」

食事をしていた王妃の動きが止まった。

「ネズミになった僕の話しを信じたのは、リオンだけです。だから、僕はリオンを選びました。僕はリオンと結婚します」

王様がワインを一口飲んで

「リオンを選ぶのは構わない、側室でも寵妃にでもすれば良かろう。しかし、正妃はメリッサだ、、、」

と静かに言った。

「もし、僕がネズミに戻ればどうなりますか?ネズミにこの国は任せられないでしょう?」

エミリオ王子が小さく笑った。

「ネズミならな。しかし、お前は人間だ」

「森の魔女の魔法がちゃんと解けている事を願いましょう」

エミリオ王子は席を立ち、僕の席まで移動して、僕を椅子から立たせると一緒に部屋へ戻った。



*****



 部屋へ戻ると、エミリオ王子は僕にこっそり囁いた。

「明日、城を出る。残念ながらリオンの小屋には帰れない」

「そうですか、、、」

僕は淋しかった。あの小屋には小さな頃から住んでいたから。

「リオンは字が書けるかい?」

「名前くらいなら」

「僕が一度書くから見ながら書いて」

エミリオ王子はサラサラと何かを書いた。

「王子様の事は諦めます。さようならって書いてある。これをリオンの字で書いて欲しい」

僕は、読めない文字を見た。読めないのに、意味がわかると何だか悲しくなって、涙がこぼれた。

「この手紙を置いて、部屋にネズミを離す」

そこには、真っ白いネズミがいた。エミリオ王子がネズミになった時の姿にそっくりだった。

「この子を見つけるのに時間が掛かったんだ。明日、この子を逃せばきっと僕がネズミに戻ってしまったと思うだろう」

「あの、、、城を出てどうするのですか?」

「森に行く。森の魔女に会いに行こう。二人を結び付けてくれたお礼を言わないと」

エミリオ王子が悪戯っぽく笑う。



*****



 森の魔女は美しい人だった。魔女と言うから恐ろしい人なのかと想像していたのに、普通の人だった。

「もう、魔法が解けちゃったんですか?面白く無い。もっともっと困れば良かったのに、、、。大体ね、真実の愛とか本当のキスなんてそうそうありませんよ?それを半年チョイで魔法を解いちゃうなんて」

「4日間」

「え?」

「4日目にリオンが魔法を解いた」

「えぇ〜、もっと苦しんで欲しかったぁ〜」

「大変だったよ。移動距離は人の何倍にもなるし、その他色々とね。魔法を解いた後の方が時間が掛かったよ」

「で、この子が王子の真実の愛なんですね。私も真実の愛が欲しいです」

「アリス、君の魔法の所為で大変な目にあったんだ。僕達に協力してもらうよ」



*****



 アリスさんは、魔女としても凄いけど、どちらかと言えば薬を作る方が好きみたいで、エミリオ王子はアリスさんの作った薬を使って、商売をする気だった。

 町で薬を売って、お金に変えて生活に必要な物を買う。最初は大変かも知れないけど、きっと大丈夫だって、自信があるみたいだ。



 エミリオ王子が町に薬草や薬を売りに行くのは、週に1回位。毎日は行けないし、あんまり間を開けるのも良く無いらしい。

 最初はエミリオ王子が一人で行っていたけど、このごろは僕も一緒に連れて行ってくれる。僕は少しずつ慣れて薬草や薬をお客さんに手渡したり、お金を受け取ったり出来る様になった。

 エミリオ王子がお金の事を教えてくれて、お釣りの計算も出来る様になると、「薬屋さん」と呼んでくれる人も出て来た。お金がない人とは物々交換する時もあって、エミリオ王子は商売上手なんだ。



 ある日の夜。僕はベッドの中で聞いた。

「エミリオ王子はお城に帰らなくて良いんですか?」

「リオン、王子って言わないでって、何度も言ってるよ?」

僕は、王子と一緒にいられて幸せだけど、いつもいつも気になっていた。

「でも、、、」

「お城には白いネズミの王子様がいるから大丈夫。それに、僕は王様には向かないよ。一つの国を守るのは大変な事だもの。僕には自信が無い、、、」

エミリオ王子は悲しそうに笑った。

「きっと、僕がいなくても僕の代わりはいるさ。僕は今の生活が気に入ってるんだ。リオンと一緒にいたい。リオンは僕と一緒にいたくないの?」

「エミリオ王子と一緒にいられるのは嬉しいです。でも、王様や王妃様は大丈夫なのかな、、、」

「もし、僕が城に戻ったら、君にはもう会えなくなってしまうよ?」

「それは、、、」

それは悲しい事だけど、、、。

 僕は答えを見つけられないままでいた。



 ここしばらく、僕はエミリオ王子と町に行っていない。エミリオ王子はいつも一人で薬草や薬を売りに行く。

 僕はアリスさんと一緒に森を歩き、薬草を集める。集めた薬草で薬を作る手伝いをして毎日を過ごしていた。

 僕達は裕福では無いけど、毎日ちゃんとご飯が食べられて、温かい布団で眠る事が出来る。それはとても幸せな事だった。

 一年程すると、僕は一人で薬草を取りに行ける様になり、一人で薬を作れる様になった。アリスさんは新しい薬を作るのに夢中で、町に売りに行く薬は僕一人で作る様になっていた。



*****



「リオン、君はまだ、僕が城に戻った方が良いと思う?」

「、、、僕にはよくわからないけど、やっぱり王様も王妃様も、妹姫様もエミリオに戻って来て欲しいと思います、、、」

「リオンも城に行ってくれるなら、、、城に帰っても良いけど、、、」

「僕は、、、」

お城で侍女達に言われた言葉や、メリッサ様、妹姫様に言われた言葉達が蘇る。僕は尻込みをしてしまう。

「リオンが着いて来てくれるなら、城に帰るよ」

「僕は、お城に行くのが怖いです、、、」

「リオン、僕にはリオンが必要なんだ。リオンが行かないなら、僕もここにいる。リオンと一緒にいたいから城を出たんだ」

「でも、王様に何かあったら、エミリオが王様になるんですよね?エミリオは、お城に帰らないといけないと思います」

「リオンが一緒なら戻っても良い、、、」

「エミリオ、、、。僕はただの庭師です。今は、庭師でもありません。エミリオと一緒には行けません、、、」

「もしも、王様が君を必要としているなら、一緒に来てくれる?」 

「王様が?」

「そう、王様が、、、」

「王様が僕を必要とする事なんてありません、、、」

「リオン、君とアリスを城に呼ぶよ。城でアリスと薬を作るのはどうかな?」

「アリスさんも一緒ですか?」

「心強いかな?」

「はい。アリスさんがいるなら」

エミリオ王子は、少し淋しそうな顔をした。

「庭に、薬草をたくさん植えよう。わざわざ遠くに取りに行かなくても良い様に。色んな種類を植えて、新しい薬も作ろう。リオンは、薬草を育てて、薬を作る事を仕事にするんだ」

「それなら、お城に行きたいです」

「場所は、君の住んでいた小屋の辺りがいいね」

リオンの顔が嬉しそうになった。エミリオ王子は少し複雑な気持ちになった。



*****



 一年前、エミリオとリオンが城を出た時、部屋に一匹の白いネズミを残して行った。

 侍女が朝、エミリオを起こす為にドアを開けた。部屋に入ると枕元に小さな白いネズミだけがいた。侍女は大きな声を上げ、ドアを閉めた。

 城中は大騒ぎになり、さらにリオンの部屋のテーブルの上から

「王子様の事は諦めます。さようなら」

と書かれた手紙が発見されて、エミリオ王子は真実の愛を失ったから、ネズミに戻ってしまったと噂された。


 白いネズミは、エミリオの部屋で飼われた。侍女が毎日新しい水と餌を運ぶ。

 ある日、侍女がいつも通り部屋を開けると、小さな白いネズミはいなかった。広い城の中、ネズミは探されたが見つかる事も無く、いつしかネズミのエミリオ王子は、リオンを求めて城を出たと噂された。



*****



 エミリオ王子がリオンとアリスを連れて帰って来ると、城の中は歓迎の空気でいっぱいになった。

 王様も王妃様も涙を流して喜んだ。

 しかし、アメリアはエミリオがいつネズミに戻るか不安だった。



*****



 エミリオとリオン、アリスの三人はリオンの小屋にいた。

 小さな小さな小屋で、1年間誰も住まなかった為に埃だらけだった。

 窓を開けて、埃を払い、掃除をした。

 


「想定外の事が起きているんだ、、、」

エミリオは呟いた。

「王様がリオンを正妃にして良いと言い出した、、、」

「え?」

「真実の愛を求めていなくなるよりは、リオンと一緒になった方が良いって、、、」

「あの、婚約者のメリッサ様や妹姫様は?」

「メリッサとの結婚は、僕がいつネズミに戻るかわからないから、取り消しになった。アメリアも、僕が怖いらしく、婚約期間を縮めて早く嫁ぎたいそうだ、、、」

「エミリオ、アリスさんと僕はどうなるのですか?」

「当初の予定通り、この小屋の周りに薬草を植えて、リオンには薬草を育てて薬を作って貰う。アリスには新しい薬を考えて欲しい。最初は城の騎士に使う物がいいね。それから、城下に売り出したい。、、、でも、リオンは僕の妃になるから、、、今までと生活がガラリと変わってしまいそうだよ、、、」

エミリオはため息をく。

「あの、、、王妃様みたいに立派にならないといけないのですか?」

リオンが不安そうにエミリオを見る。

「今は王様も王妃様もいらっしゃるからそんな事は無いけど、、、いずれは、、、」

「僕に出来るでしょうか、、、自信がありません 

エミリオは、リオンの手をそっと取った。

「でも、あの、、、エミリオがいつも隣にいてくれるなら、、、」

エミリオの淋しそうな顔を見ると、リオンは何とかしたくなる。不安ばかりだけど。

「それなら大丈夫。僕はいつも君と一緒にいるよ」

「前回は、エミリオ王子と離れてしまったから、、、。あの、お作法とか教えてくれますか?文字も読めないし、、、。ダンスも踊れませんよ?」

「いつもリオンの隣にいて、教えて上げる」

「本当にいつも一緒にいてくれますか?」

「約束するよ」

「それなら、僕も頑張ってみます」

「リオン、ごめんね。この小屋に住んで貰おうと思っていたのに、城に住む事になってしまった」

「エミリオ王子と同じ部屋ですか?」

「そうだよ」

「それなら大丈夫です」

僕は、エミリオの手をギュッと握った。


 エミリオはいつもリオンを横に置いた。朝食の時は隣に座らせ、マナーを教えた。決して焦らず、ゆっくりゆっくり教えた。

 リオンは朝食の後、薬草の様子を見に行き、薬を作りに行く。エミリオがリオンと親しかった庭師を数名連れて来て、薬草の栽培と管理、薬の作り方をリオンから習う様にさせた。

 リオンは昼食をエミリオと一緒に取り、色々な事を学びながら食事をした。

 午後はずっとエミリオと行動を共にした。エミリオに来客がある時は、リオンに何もしなくても良いが、エミリオがどんな話しをしていたか注意深く聞く様に伝えた。



*****



 夜になるとやっと、リオンはゆっくり出来る。夕食を摂り、エミリオと一緒に湯殿に向かう。この時間から二人は自由になる。

 リオンの身体は侍女に触らせない。初めて城に来た時、リオンは湯殿で傷だらけにされた。必ず二人で湯船に入る。

 広い広い湯船なのに、エミリオはリオンを後ろから抱き締める様にして湯に浸かる。1日のご褒美の様に二人はゆっくり話しをする。

「アリスは、もう少しで新しい薬が出来そうだよ」

「どんな薬ですか?」

エミリオの身体が背中に密着する。恥ずかしいのに、リオンは安心する。

「今は、怪我をした時の痛みを抑える薬を作っている様だよ」

エミリオはお湯を手の平で波立たせ、リオンの肩に掛ける。

「アリスさんはお城に来て、すごく楽しいって言ってましたよ。騎士様達が怪我をして来ると嬉々としています」

「アリスは、魔女のクセに新しい薬を発見するのが好きだからな」

湯殿に響くエミリオの声が耳に気持ち良い。

「どうしてアリスさんは、エミリオに魔法を掛けたんですか?」

「僕とアリスは元々幼馴染だったんだけど、アイツ、少女趣味で真実の愛とか本当のキスとか好き過ぎて、喧嘩になったんだ。僕がそんなモノは無いって言ったら、めちゃくちゃキレて僕に魔法を掛けた、、、」

「え、、、」

「最終的には、アリスがすぐ魔法を解く予定だったみたいだけど、先にリオンが解いてくれたから、、、」

「そうだったんですね、、、」

エミリオがリオンの肩にそっと口付ける。

「リオンはアリスが好きなの?」

「僕が好きなのはエミリオです」

「でも、僕とは城に戻りたく無いみたいだった、、、。アリスと一緒なら良いって言ったよね?」

エミリオは湯船の中で、リオンを抱き締める。

「僕、前回は一人で怖かったから、、、。エミリオとは一緒にいたいけど、、前みたいに一緒にいられないなら、お城に行きたく無かったんです」

「今は?」

お湯の表面が波打ち、それを眺めながら考える。

「今は、エミリオがいつも一緒にいてくれるし、わからない事も教えてくれます。周りの人達も前回の時より、ちょっとだけ優しいし、、、。うん、頑張れます。えっと、、、つまり、エミリオが側にいないと淋しいから、アリスさんがいれば良いなって気持ちで、、、。アリスさんがいれば、仕事もあるし、、、。アレ?何の話ししてましたっけ?」

エミリオがフフッと笑う。そして、そっと襟足に口付けをくれる。

「もういいよ。リオンがアリスを特別に好きじゃ無いってわかったから」

「アリスさんの魔法、凄いですよね」

エミリオがリオンの肩に頭を寄せる。

「アイツの魔法は凄い。だからこそ、魔法に頼らない様にしたいらしい。魔法にばかり頼ってしまうと何でも魔法で解決しようとするからね。薬の件が良い例でしょ?魔法で怪我を治せば、アリス一人いれば良い。でも、アリス一人の負担は大きい。薬が出来れば、薬草を育てる人、薬を作る人、それを運ぶ人、売る人、たくさんの人が必要になって、仕事が出来る。買う人がいて、お金が回って行く。少しずつでもみんなが豊かになる。アリスはそうなって欲しいんだって」

リオンの耳にキスをする。

「エミリオのネズミ、可愛かったです」

リオンは、身体を動かしてエミリオの瞳を見る。

「可愛いなんて言ってくれたのは、リオンだけだったよ」

「エミリオが僕の所に来てくれて良かった。僕、エミリオの事がずっと好きでした。僕はまだ子供で、庭師の仕事も上手じゃ無かったけど、エミリオが庭を散歩しながら、花を触ったり、花壇を眺めたりしてくれると嬉しかった。エミリオはみんなに優しいし、穏やかで大好きです」

エミリオの手が僕の頬を触り、そっとキスしてくれる。

「ありがとう。僕もずっとリオンの事が好きだった。でもね、みんなに優しくて穏やかなだけでは、一国の王には向かないよ。、、、だから、僕は城から逃げ出してリオンと一緒にいたかったんだ、、、。リオン、一緒に城に戻ってくれてありがとう」

のぼせるといけないからと、エミリオがそろそろ部屋に戻ろうと言った。

 僕達は、手を繋ぎながら部屋へと戻った。



*****


 リオンは王妃様の様に、立派にならないといけないと考えて、ずっと自信が無くて不安だった。二人の赤ちゃんの事も頭の片隅にあった、、。本当なら、庭師としてゆっくり生きて行けた筈なのに、目まぐるしく生活が変わり、かなりストレスが溜まっていたんだろう。

 そんな不安定な時だった

「エミリオは赤ちゃん欲しく無いの?」

エミリオはギクリとした。

 リオンは何の話しだろうとつぶらな瞳でコチラを見ている。

「アリス、、、」

「だって大切な事じゃない?」

「でも、僕もリオンも男だから」

「ねぇ、、、私を誰だと思ってるの?」

「アリス、、、」

「はい、その通り。別名は?」

「森の魔女」

「魔女と言えば?」

「魔法、、、まさか、、、」

「リオンを女の子にしちゃうってどぉ?」

「僕、女の子になるの?、、、いやだよ、、、」

「え?」

「あ、、、」

「だって、僕が女の子になったら僕じゃ無いでしょ?」

リオンがちょっと強張っている。最近のリオンは少しおかしかった。たまに考え込んでいるし、何か悩んでいる様にも見えた。

「リオン、違うよ。アリスの冗談だから」

エミリオは優しく言う。

「エミリオは、僕が女の子の方が良いの?僕じゃダメなの?赤ちゃんが産めないから、僕を女の子にしたいの?」

「そんな事無いよ。リオンのままで良いんだよ。リオンじゃ無いとダメなんだ」

「でも、、、男の子の僕は役に立たないって事でしょ?」

リオンが俯く。

「リオン、僕は君を愛してる。君も僕を愛してくれているでしょ?真実の愛も、本当のキスも、片方だけではダメなんだよ。二人共、お互いに愛していないと、、、僕はずっと白いネズミのままだったんだ」

「ごめんなさい。リオン、私の言い方が悪かったわ。リオンはリオンのままでいいの!でも!もしも、これから先、リオンが赤ちゃんを産みたくなったら相談して!森の魔女の魔法で、あなたを助けて上げる事が出来るかも知れないわ!」

「リオン、リオン。君は僕がネズミでも、僕の事好きだったでしょ?僕もそうだよ。リオンが好きなんだ。どんなリオンでもリオンが好きだよ?」 


 僕はリオンを抱き締める。リオンが不安に思えば思う程、強く強く抱き締める。


「こめんなさい。軽率だったわ、、、。でも、二人の将来を楽しみにしている。何か困ったら私を頼って欲しいわ」



「エミリオごめんなさい。僕、最近ちょっと変なんだ」

抱き締めた腕の中で、リオンは少し泣いた。



*****



 リオンは自分の中の不安に気付いていない。だから、アリスに「魔法で女の子にしちゃうってどお?」と言われた時、自分を全否定されたと感じたみたいだった。


 エミリオはアリスに

「ごめん、また今度、ゆっくり話そう」

と言って、リオンを連れて帰る。



*****



「エミリオ、、、僕が何も出来ないから、僕を変えるの?」

リオンは充分頑張っていた。エミリオはリオンにゆっくり王妃の仕事を覚えて貰えば良いと考えていたし、常に一緒にいる事で何かあってもエミリオが動けば大丈夫だと、心配する事は無かった。

 しかし、リオンはなかなか自分が成長していないと感じて焦っていた。

「リオン、違うよ?アリスはね、もし、僕達に子供が欲しかったら、リオンが赤ちゃんを産める様に魔法を使うよって言いたかったんだと思うよ」

「エミリオは、赤ちゃん欲しいですか?」

エミリオはリオンを抱き締めた。



「おいで」

エミリオはリオンの手を引く。

「子供が欲しいかと聞かれたら、やっぱり欲しいと思う。自分の子供なら尚更だよ。でもね、僕も君も子供を産める身体では無いよね。リオンが僕の子供を産めない様に、僕もリオンの子供を産めない」

そう言いながら、ベッドに誘う。

「僕達は愛し合っているけど、どんなに頑張っても二人の子供は出来ない。アリスは魔法でそれを可能に出来るって、教えてくれただけだよ。でもね、世の中には子供が欲しくても出来ない人もいるし、僕達みたいに同性同士で愛し合う人もいる。みんながみんな子供が欲しいからと言って、魔法で身体を変えてしまって良いのかはわからない、見えない所で悪い事が起きるかも知れないでしょ?」

「見えない所で悪い事?」

「うーん、例えば、子供を産める身体にしたら、心臓に負担が掛かって寿命が短くなるとか、、、」

「早く死んじゃうって事?」

「実際には何が起こるかわからないけど、リスクは大きいと思う」

「エミリオはネズミになったけど、平気なの?」

「今の所ね」

「エミリオがネズミになっていた時、夜だけ人間に戻ってた、、、。もし、僕が女の子になって、お腹に赤ちゃんが出来た時、夜に僕が男の子に戻ったら赤ちゃんはどうなるの?」

「、、、リオン、それ本当?」

リオンは頷いた。

「、、、アリスは知ってるのかな、、、」



*****



「夜になると魔法が解ける?」

「リオンがそう言っていた」

「リオン、詳しく教えてくれる?」

「エミリオがネズミだった時、毎晩人間に戻っていました。月明かりがエミリオに当たって、キラキラ光ってとても綺麗だった。でも、朝になるとネズミに戻るんです。もし、僕の身体が女の子になって、赤ちゃんが出来た時、赤ちゃんはどうなるの?」

リオンはお腹をさすりながらアリスに聞いた。

「多分育たない、、、。夜になると魔法が解けるなんて知らなかったわ。リオン教えてくれてありがとう。やっぱり魔法は魔法ね、、、。使わない方が良いわ」

アリスは苦笑いをした。

「ごめんなさい。エミリオ、変な期待をさせちゃった」

「いや、大丈夫。大事な事だったから、今わかって良かったよ」

「やっぱり、命が関係する事に魔法は使わない方が良いわね。何か恐ろしい事が起こりそうで怖いわ」



 アリスは、今までも滅多に魔法を使わなかったけど、更に魔法を使わなくなった。



**********



「リオン様、リオン様!ネズミの王子様のお話、聞かせて下さい」

リオンの膝に、小さな女の子が座る

「ふふ、ネズミの王子様のお話だね。いいよ。では、、、。 昔々、ある森に美しい魔女が住んでいました。魔女は、この国の王子様の美しさを知り王子様に恋をしました。」

「あ!ネズミの王子様?私も聞きたーい!」

「ふふふ。おいでおいで。、、、しかし、王子様には好きな人がいました。魔女は美しい王子様を手に入れたいと思いました。自分より美しい王子様。いつも自分以外の誰かを見つめる王子様。いつまでも振り向いてくれない王子様を魔女は恨み、魔法をかけました。王子様をネズミに変えたのです。「何故僕をネズミに変えたのですか?」「王子様は、私を愛さない。だからネズミに変えたのです。王子様が元の姿に戻るには真実の愛と本当のキスだけ、、、。でも今の貴方には無理でしょう。王子様は悲しみました、、、」

リオンの周りに子供達が数人座り込む。リオンのお話に夢中になって、瞳をキラキラさせる子供達はとても可愛かった。



 リオンの薬草畑は大きく広くなった。町の人が薬草摘みの仕事をする様になり、小さな子供達もついて来る。リオンは小さな子供達に、ネズミの王子様の話しを聞かせる。嘘を半分、本当の話しを半分。

 最後はいつも同じ言葉。



 ネズミの王子様と庭師の少年は幸せに暮らしました。



めでたし、めでたし。

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