チャイムと叫び
オルガは、学校の放送室に忍び込んでいた。
彼女は、光学迷彩の力でその姿を完全に消し去り、誰一人として気づかれることなく、放送室の複雑な機材に手を伸ばし始めた。普段であれば、生徒会が厳しく管理するはずの、学校全体に響き渡るチャイムシステム。その精密な回路に、オルガは、あくまでも自然体を装いつつ、しかし極めて巧妙に、細やかな細工を施していった。
(フフフ…ワタシが仕込んだこの特殊な電子回路が、チャイムの音声信号に絶妙なノイズを混ぜ込み、まるで、地獄の業火が轟々と燃え盛るような、深淵で荘厳な響きを奏でてみせマス…)
オルガは、唇の端を妖しく吊り上げ、満足げにニヤリと笑みを浮かべた。
(コレで、この学校の退屈で単調な日常に、ほんのちょっぴりの刺激的なスパイスを振りかけてアゲマショウカ。…あぁ、早くみんなの驚きと混乱のリアクションが見たくて、胸がざわめくデスね…)
オルガは、自分の悪戯が引き起こすであろう生徒たちの反応を、鮮やかに想像するだけで、心臓が激しく高鳴るのを感じた。彼女は、モニターに表示された時刻を、息を潜めてじっと凝視し、その決定的な瞬間を待ちわびた。
昼休みの終わりが訪れ、午後の授業開始を告げるチャイムが、校舎中に鳴り響いた。
キーンコーンカーンコーン……ブツッ…
しかし、その馴染みの音は、唐突に途切れ、次の瞬間、地の底から這い上がってくるかのような、不気味で重厚な響きが、校舎全体を震わせて広がった。
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…
その音は、まるで、巨大で恐ろしい何かが、地響きを立てて這いずり回り、すべてを無慈悲に破壊しながら迫ってくるかのような、圧倒的で威圧的な存在感を放っていた。生徒たちは、一斉に顔を見合わせ、何が起こっているのか全く理解できずに、戸惑いの表情を浮かべていた。
満里奈は、その異常なチャイムを耳にした瞬間、全身に冷たい鳥肌が立つような、ぞわぞわとした感覚に襲われた。彼女の脳裏に、あの荒唐無稽で予測不能な宇宙人…オルガの姿が、鮮やかで不気味に蘇ってきた。
(…なんでだろう、オルガの顔がぱっと浮かぶわ…。まさか、そんなわけないわよね…)
満里奈は、ふと、勢いよく立ち上がった。その目は、何かを鋭く訝しむように輝きながらも、どこか好奇心と楽しげな光を宿していた。
満里奈は、握りしめた拳を微かに震わせながら、まるで別人のような、荒々しく変貌した様子で、低くドスの効いた声で呟いた。彼女の顔立ちが、まるで劇画のような力強い線で描かれたかのように、険しく変わっていた。
満里奈「…なんだよ、こんなふざけたチャイムは? 耳障り極まりねぇ…俺の拳をぶち込んで、黙らせてやるぜ!」
満里奈はそう吐き捨てるように言うと、片手をポケットに突っ込み、上半身を大胆にのけぞらせ、もう一方の腕を斜めに突き出して指を差し示す。まるでどこかの不良高校生が繰り出すような、特徴的で威勢のいいポーズをとった。
その様子を隣の席から静かに見守っていた澪奈が、小さくため息をつきながら、ぼそりとつぶやいた。
澪奈「満里奈…ノリが良すぎるのも、ほどほどに考えた方がいいんじゃないか…」
澪奈の冷静な言葉に、満里奈はハッと我に返り、照れくさそうに姿勢を正した。
ふと、心の奥底で、オルガの存在が徐々に彼女の日常を変え始めていることを実感する。地球外生命体との邂逅が深い影響を及ぼしている——そんな予感が、満里奈の胸をざわつかせた。
*
ひのきヶ丘中学校のグラウンドは、柔らかな陽光に包まれ、爽やかな風が芝生を優しく撫でていた。
体育の授業は100メートル走。生徒たちはトラックに並び、興奮と緊張が入り混じった空気が漂う。
陸上部のエース、後藤君は、女子たちの視線を一身に浴びて、得意げに胸を張っていた。彼はいつも通り、クールな表情を崩さず、女子の前でカッコいいところを見せようと意気込んでいた。
体育教諭の声がグラウンドに響く。
教諭「よし、みんな! 今日は100メートル走だ。まずは手本として、後藤に走ってもらうぞ。陸上部のエースだ、参考にしろよ!」
後藤君は、女子たちの視線を感じて、ニヤリと笑みを浮かべる。快諾してスタートラインにスタンバイ。後藤君は肩を回し、深呼吸をし、完璧なフォームで構える。女子たちは息を潜めて見守る——彼の颯爽とした走りに期待が高まる。
教諭「位置について……用意……スタート!」
ピストルの音が鋭く響く。その瞬間、後藤君が弾けるように動き出した。だが、それは誰もが想像したような美しいスプリントではなかった…。
突然、四つん這いになり、地面を這うようなダッシュ——。手足を高速で交互に動かし、まるで四足歩行のような低姿勢でトラックを疾走する。
ズバババババババババ!!
足幅を狭く保ち、超高速稼働する手と足の動きが効率的で、身体の動きと重心移動を最大限に活用することで後藤君は世界でただ一人、四つん這い走法を会得した「四つん這い走法マイスター」になったのである。
生徒たちは唖然。女子たちは目を丸くし、男子たちは口をあんぐり開ける。教諭もピストルを握ったまま固まる。
後藤君「(心の中で)え、何やってんだ俺!? 止まれ、止まれよ体!」
だが、体は止まらない。オルガのイタズラ——彼女の微弱なエネルギー波が、後藤君の脳に干渉し、走法を強制的に「四足歩行モード」に切り替えていたのだ。光学迷彩で隠れたオルガは、グラウンドの隅からクスクス笑いを堪えながら見守る。
(フフフ…センセーの学校で、もっと面白い文化学習を。コレでみんなの反応が見たいデスネ♫)
後藤君は四つん這いのまま猛スピードでゴールへ。地面を蹴る音がパタパタと軽快に響き、芝生の粒子が飛び散る。タイムは驚異の14.5秒——ギネス記録の15.71秒を上回る、非公式世界記録。 生徒たちはまだ唖然としたまま、拍手すら起きない。後藤君はゴールラインでようやく体を起こし、顔を真っ赤にして立ち上がる。
後藤「な、なんでこんなことに……!」
女子たち「後藤君……あれ、何だったの?」
教諭「後藤、お前……天才か? いや、ふざけんな!」
グラウンドに笑いと混乱の渦が広がる中、オルガは満足げに光学迷彩を深め、姿を消した。
後藤「このまま…終わりたくない!!」
教諭「もう終わりだぞ後藤。一人で走るのはもういいから下がれ…」
*
時間は少し遡り、午後の柔らかな陽光が、教室の窓ガラスを優しく淡く染め上げていた。
中学二年、ひのきヶ丘中学校の三階教室。この空間は、どこか甘酸っぱく、懐かしい学校独特の匂いが漂い、心地よい静けさを湛えていた。机を挟んで向かい合って座る二人の少女、古井座一見と弥勒央美。
彼女たちは、この時間帯の常連客のように、毎日のようにここで、他愛のないおしゃべりを繰り広げ、青春のひと時を楽しんでいた。
一見は、肩まで伸ばした艶やかな黒髪をポニーテールにまとめ、好奇心に満ちた輝く瞳をキラキラとさせている。彼女の名前——古い座席の一見、という少し変わった響きが、クラスメートから時折からかわれることもあったが、本人はそれを全く気に留めず、むしろ自らネタにして笑い飛ばすほど明るい性格だった。
対する央美は、ふんわりとしたウェーブのかかった柔らかな茶髪を耳にかけて、頰に可愛らしい小さな小さなえくぼを浮かべる。弥勒央美——仏のような穏やかな名前とは裏腹に、彼女の笑顔はいつも少し悪戯っぽく、いたずら心を覗かせていた。
二人は机の上にノートや教科書を広げ、まるで真剣に勉強に取り組んでいる振りをしながら、今日も恋の話題に花を咲かせ、熱く語り合っていた。きっかけは、昨日のテレビドラマだった。一見が興奮を抑えきれない様子で、華やかに切り出した。
一見「あら、央美。あのドラマのヒロイン、超カッコいい彼氏をゲットしたんですのね! 私たちにも、そんな運命的な出会いが訪れるのかしら? 想像するだけで、心がときめいてしまいますわ!」
央美はくすくすと可愛らしく笑いながら、ペンを指先でくるくる回し、楽しげに応じた。
央美「一見はいつもそんな夢見がちでロマンチックだよね。でもさ、クラスメートのあいつ、最近彼女できたらしいよ。どうやって告白したんだろう? 手紙かな? それとも、勇気を出して直接言葉で?」
話題は次々と広がり、まずは学校内の噂話。隣のクラスの男子が、誰かにラブレターを渡したという話で、二人は大いに盛り上がった。一見は目を細めて、夢見心地に想像を膨らませる。
一見「きっと、夕暮れの校庭で、優しい風に髪をなびかせて『好きです』って言うんですのよ! ロマンチックすぎて、胸がキュンキュンしてしまいますわ〜」
央美は頰杖をついて、からかうように目を細め、楽しそうに返す。
央美「でも、現実は違うかもよ。『あの、えっと、好きかも』って、モジモジしながら言うんじゃない? 私だったら、思わず笑っちゃうかも。コメディ映画みたいにさ、転んでラブレターが風に飛ばされちゃうとか!」
二人は声を抑えながら、くすくすと笑い合い、幸せな空気を共有した。青春のこの時期、恋はまだ遠い夢のような存在。でも、心のどこかでそれをそれを切実に求めている。次に話題は、理想のタイプに移った。一見は頰をほんのり赤らめて、照れながら告白する。
一見「私は、スポーツマンタイプがよろしいですわ。サッカー部のキャプテンみたいな、汗を輝かせて全力で走る姿がカッコいいんですの! でも、央美は? いつもクールぶっていらっしゃるけど、本当は甘えん坊の男子がお好きですの? ふふ、想像するだけで可愛いですわ。」
央美は目を細めて、指で一見の鼻を軽く突き、からかいながら答える。
央美「ばか! 私は、優しくて、面白い人がいいよ。毎日笑わせてくれるような人。だって、恋って、楽しくて心が弾まないと意味ないじゃん。でもさ、一見みたいに、毎日妄想ばっかりしてたら、いつまで経っても現実の恋が来ないよ? もっと積極的にいかないと!」
そんな軽快なやり取りが続き、話題は過去の思い出へ移った。央美が小学校の時に、友達の兄に密かに憧れていた話。一見が、家族旅行で出会った年上の男の子にドキドキしたエピソード。笑いあり、ため息ありの会話は、まるで小さな花火のように、ぱちぱちと弾け、輝きを放っていた。外の喧騒が遠くに聞こえる中、二人の世界は穏やかで、温かく、優しい光に満ちていた。
しかし、話が深まるにつれ、央美の表情に微かな影が差す。一見はそれに敏感に気づき、優しく心配げに尋ねる。
一見「央美、どうなさったの? なんだか、元気がないようですわよ? 何かお悩み事でも?」
央美は少し微笑んで、首を軽く振る。
央美「ううん、なんでもない。ただ、みんなの話聞いてると、私も本当の恋がしたくなるだけ。ドラマみたいに、運命を感じるような、心が震える出会い……」
会話の終わりが近づいていた。央美はゆっくりと椅子から立ち上がった。彼女の足音が、教室に軽く優しく響く。一見は机に肘をついたまま、彼女の背中を温かく見送る。
央美は窓辺に歩み寄り、カーテンを少し開け、外の景色をじっと眺める。そこに広がるのは、ひのきヶ丘市の美しい港湾都市の風景だった。
青く広がる海が、夕陽に染まって黄金色にきらめき、優しい輝きを放っている。港には白い帆船が優雅に停泊し、遠くの橋が優美なアーチを描いて空に架かっている。街並みは、緑豊かな丘陵に沿って広がり、赤い屋根の家々が点在し、絵画のような調和を成す。海風が運ぶ潮の香りが、窓の隙間からかすかに漂ってくるようだ。空には、淡い白い雲が浮かび、鳥たちが自由に舞い、優雅に空を駆け巡っている。この街は、まるで絵葉書のような美しさを持ち、青春の心を優しく包み込み、夢を与える。
央美の心に、さまざまな想いが去来する。十四歳の彼女にとって、恋はまだぼんやりとした憧れの対象。友達の笑顔、家族の温もり、学校の日常——それらはすべて大切だが、心の奥底でそれをそれを渇望している。海の向こうに広がる未知の世界のように、恋は冒険であり、喜びであり、少しの不安を伴うもの。彼女の瞳に映る風景は、自身の内面を映す鏡のようだ。
波が穏やかに打ち寄せる港のように、心は静かに揺れ、優しく波打っている。彼女は窓辺で、海の波を眺めながら、過去の小さな恋心を思い出す。
小学校の時、隣の席の男の子にノートを貸しただけでドキドキしたこと。あの時の胸の高鳴りが、今の憧れの源だ。街の風景が、そんな甘い記憶を呼び起こす。港の船が旅立つように、自分も新しい世界へ踏み出したいと、強く願う。
穏やかな波が寄せては返す様子が、彼女の心の揺らぎを象徴しているようだった。遠くの帆船がゆっくりと動き出す姿は、自身の未来を予感させ、希望を与える。央美は深く息を吸い込み、海風の想像された香りに、心を委ね、穏やかに浸る。
一見が優しい声で掛ける。
一見「央美、きれいですわね。あの海、いつ見てもワクワクしますわ。心が洗われるようですの。」
央美は振り返らず、静かに頷く。そして、独り言のように、しかしはっきりと、想いを込めて口にする。
央美「私も、素敵な恋がしたいな……本物の、心が溶けるような恋を。」
その言葉は、教室に優しく溶け込み、温かな余韻を残す。風がカーテンを軽く揺らし、太陽の光が彼女の髪を優しく照らす。一見は微笑み、立ち上がってそばに寄る。二人は肩を並べて窓辺に立つ。ひのきヶ丘市の風景は、二人の未来を優しく見守っているようだった。
この瞬間、青春の甘酸っぱさが、胸いっぱいに広がる。恋はまだ来ないかもしれない。でも、この友情、この景色が、きっとそれをを開く鍵になる。央美の心は、港の船のように、ゆっくりと出航の準備を始めていた。
話題が尽きかけた頃、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
キーンコーンカーンコーン……ブツッ…
…ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ…
突如として響き渡る、耳慣れぬ不気味な音に、一見は素早く体を捻り、教室の天井に設置されたスピーカーへと視線を鋭く向けた。その音は、ただのチャイムとはかけ離れた、深淵から這い上がるような低く轟く響きで、校舎全体を震わせ、まるで古代の巨獣が目覚め、ゆっくりと地を踏みしだくかのような威圧感を放っていた。
一見「…どういうことですの、このチャイムは!? まるで地獄の門が開いたような音ですわ! ねぇ、央美……」
そう言いかけた一見の視線が、隣に立つ央美の顔に留まり、そこでぴたりと固まった。彼女の瞳が徐々に広がり、信じがたい光景に直面したかのように、息を飲む様子が明らかだった。
央美「なにこれ!? なんかウケるんだけど、変な音…あれ、一見どうしたの? 顔が青ざめてるよ?」
央美は無邪気に首を傾げながら、友達の異変に気づき、好奇心混じりの表情で尋ねた。しかし、一見の反応は予想外だった。一見は必死に唇を噛みしめ、頰を膨らませ、笑いを堪える形相を浮かべていた。額に汗が浮かび、肩が微かに震え、まるで内側から爆発しそうな圧力が溜まっているかのようだった。だが、それも限界だった。ついに、ダムが決壊するかのごとく、一見は大口を開け、抑えきれない大笑いを爆発させた。
一見「…ぶわっはははははははは!! いーっひひひひひひひ!! あはははははははは!! もう、だめですわ…お腹が痛い…!」
その笑い声は、教室中に響き渡り、まるで連鎖反応のように周囲の空気を震わせた。一見の突然の大爆笑に、央美はわけのわからない反応をしながら、戸惑いつつも一見の顔に近づいた。彼女の目には、純粋な困惑と心配が混じり合っていた。しかし、一見は央美の顔を直視することができず、慌てて視線を逸らし、腹を抱えてその場にしゃがみ込み、笑い転げ続けた。涙が目尻に浮かび、息も絶え絶えに。
一見「だめ…顔を近付けないでくださいませ…あははははははははは!! 見ちゃいけないんですの…でも、面白すぎて…!」
央美「どうしたっていうの一見!? なにがそんなにおかしいの!? 私、何か変なこと言った!?」
一見「顔が…顔…あははははは!! 央美のその顔が…信じられないんですの…!」
央美「顔!? 私の顔がどうしたって言うのよ!?」
央美の声が少し尖り、苛立ちを帯び始めた頃、その騒ぎに気が付いた他のクラスメート達が、次々と近寄ってきた。最初は数人だったが、好奇心から集まり、央美の顔を見るなり、一瞬の沈黙の後、大爆笑の嵐が巻き起こった。教室にいた全員が、まるで感染症のように笑いに取り憑かれ、机を叩き、床に転げ、息もつかせぬ笑い声が連鎖的に広がった。空気が震え、窓ガラスが微かに振動するほどだった。
「央美、なにその顔!? まるで…ぎゃははははは!」
「ちょっと、お前何考えてんだよ!? そんなメイクで学校来るなんて、勇者すぎるだろ!」
「いつの間にそんなメイクしたの!? 朝は普通だったのに、昼休みに何があったんだよ!」
「ぎゃははははは! 目が…目が白黒で強調されすぎ!」
「あははははは! 頰の赤い線、完璧すぎてプロ級だわ!」
爆笑の海に沈む教室。笑い声が波のように打ち寄せ、誰もが腹を抱え、涙を流しながら転げ回っていた。央美はそんな中、ただ一人呆然と立ち尽くし、周囲の反応に全く理解ができず、混乱の極みにあった。彼女の心臓が早鐘のように鳴り、顔が熱くなり、何が起こっているのか掴めないまま、視線を彷徨わせた。すると、一人の女子生徒が、笑いを必死にこらえながら、震える手で小さな手鏡を差し出してきた。央美はそれを反射的に受け取り、恐る恐る自分の顔を映した瞬間——。
央美「……………何じゃあこりゃあーーーーーッ!?!?!?」
その叫びは、ただの悲鳴ではなかった。
遥か古代中国の戦場で、某国の猛将が敵陣を切り裂く咆哮のように、魂の底から迸るような、荒々しく力強い声だった。まるで前世の記憶が呼び覚まされ、素の性格——いや、隠された戦士の血統が一瞬で表に出たかのごとく、彼女の目は鋭く輝き、拳が自然と握りしめられ、姿勢が堂々と構えられた。
眠っていた記憶が、こんなドッキリの一瞬に顔を覗かせ、普段の穏やかな少女の仮面を剥ぎ取ったかのようだった。叫び声は教室の壁を震わせ、笑いの渦を一瞬止めたほどにインパクトがあり、央美自身もその声に驚き、すぐに我に返って顔を赤らめた。
央美「……えっと……みんな面白かった? きゅるるんだね♡」
ぶりっ子ポーズを決める央美。
ひのきヶ丘中学二年弥勒央美14歳。パニックになると、“きゅるるんだね♡”と謎語尾をつける習性があった……。
(…フフフ…ドッキリ歌舞伎メイク作戦大成功。皆サン、そんなに大笑いして楽しんでいただけただけで、ワタシの心も満たされマスヨ♡ 予想以上の収穫デスネ♫)




