ドレス・ド・オムライス
今日はせっかくの休日なので、趣味の骨董品探しに来ている。もちろん、チェーン店ではなく個人営業のリサイクルショップやアンティークショップなどがないか商店街を探し歩いていると、にわか雨が降ってきてしまった。あいにく商店街の路地裏を探し歩いている時だったのでアーケードがなく、急いで店の軒下に身を寄せた。しかし最近は[ゲリラ豪雨]という、にわか雨が頻発しているらしく、雨は強くなる一方なのでどうしようかと天気予報アプリの雨雲レーダーを見ながら思案していた。
すると、店内から人が出てきてお店の庇を拡張しながら
「雨はしばらく止まない予報のようなのでよければ店内へお入りください。」
と、若く黒縁の眼鏡をかけた店員は話しかけた後、店内に戻って行った。
…入る理由もないけど、逆に断る理由もないから入ってみようかな。
とりあえず入店した。店に入ると個人経営の小さなカフェである事が分かった。『店の看板にランチメニューやドリンクメニューが書いてあったので飲食店とは知っていたが…。客が一人もいないなぁ。こんなに良い雰囲気のお店なのに…。』
そんな事を考えながら店内を見渡していると再び、さっきの店員が話しかけてきた。
「こちらがメニューになります。本来のランチタイムは少しだけ、過ぎていますが今日は天気がよくなく、あまりお客様がいらっしゃいませんでしたので、ランチメニューからでもお選びいただけます。お決まりになりましたら、お呼びください。」
店の入り口の会計の席に座ると読書を始めた。すると、何を思い出したのか、いきなりこちらに振り向き
「先程伝えてそびれましたが、本日はこの様な悪天候の中でご来店いただきましたので料金は多少割引させていただきます。また、料理は私が作りますのでアレルギー等がありましたら直接私にお申し付けください。」と伝えてきた。
そして、再び本を読み始めた。どうやら彼は日頃から本を読んでいるようで、会計の後ろの本棚には読んだであろう本がぎっしりと並べられていた。料理の本よりも文学か小説のような本が多かった。その後、ドリンク付きのオムライスランチセットとミニパフェを頼むと、彼がキッチンに向かい、ひとりで調理を始めた。
その間、暇だったのか、それとも他に客が入っていないからか、いくつか彼の身の上話をしてくれた。どうやら彼は勉強があまり好きではなく大学に入ったものの中退し、料理人を目指したが腕に自信が付かず辞めてしまい、色々と手を出した資格の勉強は上手くいかず、なんとなく継続していたFP資格の勉強期間中に見つけ、常連となっていたこのカフェで働いているらしい。
『狭いお店って訳でも無さそうなのに、他に店員らしき人いないなぁ…』
と店内を見渡していると、まるで私の心を読んだように
「最近、店長は僕に店番を任せたまま、競合店の偵察と称して旅行に行ってしまうのであまり店番をしません。……。…なんですか?ハハッ…、僕が店長みたいって何を言っているんですか。」
『この人、こんな風に笑うんだ〜。エヘヘッ。物静かな人だけど可愛いなぁ〜。』
と思っていると表情に表れてしまっていたのか
「?。どうかなさいました?」と訊かれてしまった。
その後、手際よく黙々と調理し、盛り付けも丁寧に行っている彼を見ている間に料理が完成して、私が作るより何倍も美味しそうなランチセットが湯気を立てて私の目の前に運ばれてきた。よく見れば、綺麗なドレス・ド・オムライスだった。
…メニューでは普通のオムライスの写真に見えたけど、私の勘違いかな?
「熱いのでお気を付けください。それと、ミニパフェと紅茶は食後でよろしいですか?」
「あっ、はい、それでお願いします。」
「伝票、こちらに置いておきますね。」
そう言って伝票を置くと、彼は再び読書に戻った。伝票を確認すると、本来なら900円だったはずの値段が500円になっていた。元から手頃な価格で提供されているようなので、値引くと言っても100円程度かと思っていたので少し驚いてしまった。
彼は自身の事を料理の才能がないと言っていたが、実際のところはかなりの実力者ではないかと思ってしまう…、いや本当にそうだろう。食べると、味も口当たりも良く、本当に美味しかった。
オムライスを食べ終えると、さっきまで読書に勤しんでいたはずの彼が、紅茶とミニパフェを運んで来ていた。
「お飲み物とミニパフェになります。お待たせしました。」
「ありがとうござい…あれ?私が頼んだミニパフェのメニューの写真にクッキーとチョコソース付いてましたっけ?」
「お・ま・けです。トッピングを加えちゃいました。あ、もちろん、先程の伝票の料金の変更はございませんので。」
本来のランチセットより値引きして貰った上にトッピングを付けて貰ってしまった。
食べ終わったが、まだ雨は降っていた。店内の客は私だけなので、少し本を読む事にした。ふと気が付けば雨は止んでいた。
会計を済ませて、帰ろうとすると呼び止められた。先程まで読んでいた本を机に置き忘れていたのを持ってきてくれたようだ。
「お忘れ物ですっ!」
「あ、わざわざすいません。」
「その本、面白いですから、置き忘れていってしまっては惜しいですよ。では、お気をつけてお帰りください。」
…そんなに有名な著者の本でも無ければ、ベストセラーでもない。やはりあの店員さんは、かなりの本好きだ。もし、そうなら聞けば何かオススメの本とか教えてくれるかもしれない。
気が付けば、あのお店で次はどんな風に過ごそうかを考えている私がいた。
ここ最近、様々なシリーズの1話を創作してきましたが、そろそろ一部に絞って創作をしていこうと思います!反響が良いものを優先的に創作を進めようと思いますので、いいね等よろしくお願いします!(尚、必ずしも人気作品だけを創作するとは限りません。白の気が向いたシリーズも創作して参ります。)