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【本編完結】攫われ姫ゼシカの実記 ~攫われる姫に転生しましたがこの国はもう駄目なのでこのまま嫁いで記録官として生きますね!~  作者: 縁代まと
番外編章

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【番外編】魔神様は溺愛デートに行くらしい 中編

 ドワーフ向けの料理は味が濃いめで、製鉄などで汗をかくので塩分補給のためにそうなった――と言われているものの、実際にはお酒のアテに丁度いいからだと店長が豆知識を披露してくれた。


 たしかにタルタルソースがどっさりかかったフライは衣にまで味が付いてて、数口食べてすぐに喉が渇くほどだったわ。

 それでも美味しくて平らげられたんだから凄い。


 ちなみにフライにされていたのはタタントンという品種の黒豚で、パークゲルテの隣町にある牧場で飼育されているらしい。

 臭みが少なく柔らかい肉質でとても美味しい豚だった。

 地域ごとの畜産についても纏めたいから、いつかそっちも視察したいわね。


 食事が終わった後は、いざ文具店へ……っと思ったものの、今度はサヤツミに誘われて特産品の甘酸っぱい果実を使って作られたスムージーを飲んだり、ドワーフの作った針やミシンを使った刺繍商品のお店に立ち寄ったりと色々な寄り道が発生した。


「目的地は逃げないし、こういう時こそ寄り道を楽しまなきゃね!」

「それもそうね……最近は時間に追われることが多かったし……」


 もちろん休憩は適度に取っていたけれど、ファルマの復興のために国が主導して新たな事業を立ち上げたり、それにより出た影響がどんなものか調べたり、悪い影響があれば対策したりと頭を使うことが多かった。

 優秀な人材に任せたりもしているけれど、大きなプロジェクトの最終的な確認は私がしていたから。


 そして記録官としての仕事もちゃんとこなしていた。

 最近はやっと落ち着いてきたから今日みたいに時間を取れたけれど、安定して休めるものでもないから不安定なのよね。

 そのせいか休日なのに休みモードになれない日もあった。


 今日は最短ルートや上手い時間の使い方なんて考えず、気の向くままに楽しむのが正解かもしれない。そう、目の前のサヤツミのように。

 そう思って刺繍された品々をもう一度よく見る。


 刺繍商品は例えば綺麗な花の刺繍されたハンカチやカーテンなどだ。

 店員さん曰く「観光客には花や動物の柄が人気で、現地の人にはハンマー柄のタオルが贈り物として人気ですよ」とのことだった。

 ドワーフ的にはそちらのほうが魅力的に見えるのかしら……?


「あっ、この黒い花の刺繍も素敵ね。アズラニカの髪みたい」

「高い山に咲くノワールアムルって花だよ。結婚式でパートナーのためにこの花を採ってくる文化がどこかにあったな……アズラニカのお土産に買ってったらどうだい」

「ナイスアイデア! 他にも色々見繕うつもりだけど、まずはこれがいいわ」


 ワクワクしながらハンカチを手に取るとサヤツミが満面の笑みで私の頭を撫でた。

 毎秒愛でられている気がするわ。本当にお姉さんのことが大好きなのね。


「サヤツミは、その……お姉さんになにか買っていく? 目覚めた時に贈り物があったら喜ぶんじゃないかしら」

「光と闇のバランスが戻っていれば受け取ってくれるだろうけど、その条件を満たす頃にはここにあるものはすべて朽ちてるだろうなぁ」


 ――魔神サヤツミの姉である聖神せいじんは光と闇のバランスが崩れて感情が引っ張られ、弟を憎んで呪いまでかけてしまった。

 それを憂いて残った理性で自分を封じたため、現在この世にはいない。

 いつかまたバランスが整えば戻って来られるそうだけれど、まさかそんなに時間のかかることだったなんて……。


 彼が嫌な気持ちになる質問をしてしまったかも、と肩を落としていると「まぁ俺にとってはそんなに長い時間でもないさ」とサヤツミは私の背をぽんと叩いた。


「でもなんで急に姉の話を?」

「私を……人間をすっごく愛でてくれるから、お姉さんのことが大好きなんだな~って改めて思ったのよ」


 ああ、そういうことか、とサヤツミは納得したように頷く。


 聖神は人間たちの祖で、魔神は魔族の祖。

 サヤツミが人間を愛でるのはそれが理由だ。大好きな姉の血を引く人間が甥や姪に見えて可愛いみたいなのよね。老若男女、善人悪人問わず。

 可愛がり方は孫大好きパワフルおじいちゃんって感じだけれど。


 するとサヤツミは肩を揺らして笑った。


「人間は無条件に愛でるけど、ゼシカはゼシカとして大好きだよ? べつに人間じゃなきゃ愛でられないってわけじゃないしね!」

「それは……まあ……たしかに城の人たちにもちゃんと好意を向けてるわね」


 純血の魔族ともサヤツミは仲良くしていた。

 自分の血を引いているからというのもあるだろうけれど、恐らく神様に友達がいたら同じような接し方をしていたと思うくらいには自然体だ。

 私や人間の血が流れている人には『人間大好き!』という気持ちが上乗せされている形らしい。


「ありえないことだけど、今ならゼシカが人間でなくったってこれくらい愛でるとも。それくらい君は俺にとって大切な存在だし、恩人だよ」

「ふふ、ありがとう。サヤツミがいなかったら古代の神の件以外でもなかなか上手くいかなかっただろうし……私にとってもあなたは恩人だし、大好きよ」


 笑みを返してお礼を伝えると、サヤツミは胸を押さえて「可愛いゼシカが更に可愛い!」と言ったかと思えばなにもない空間を四方八方からわしゃわしゃと撫でた。

 本当は私を撫でたいけど出先だから我慢してくれたのね。

 あれって髪の毛が結構すごいことになるから。


 和んでいると店員さんがニコニコしながら近寄ってきた。


「もしよかったらこちらのペア刺繍キーホルダーは如何ですか? ご夫婦の仲が末永く続くことを願って、丈夫なアラクネの糸で作られたものなんですよ」

「ああ、俺とこの子は――」

「わあ! 素敵だわ、それもハンカチと一緒にひとつください!」


 由来も見た目もアズラニカのお土産その二にピッタリだわ。


 わくわくしながらお願いすると店員さんは更に笑顔になって「ではお包みします。少々お待ちください」と作業に向かった。

 その背を見送りながらサヤツミが頬を掻く。


「まぁ、害になる誤解じゃないか」

「どうかした? あっ、もっと色々見たかったんじゃ……」

「あはは、ゼシカが満足したなら俺の目的は完遂されたも同然さ! この後はどうしようか、そろそろ文具店に向かう? それとも――」


 サヤツミは答えがわかっている顔をしていた。

 私はそれに応えるべくグッと親指を立ててみせる。


「――ええ、もうちょっと寄り道しましょう!」

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