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【本編完結】攫われ姫ゼシカの実記 ~攫われる姫に転生しましたがこの国はもう駄目なのでこのまま嫁いで記録官として生きますね!~  作者: 縁代まと
番外編章

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【番外編】ゼシカ、推しの軌跡を辿る聖地巡礼に出る 後編

 最後に訪れたのは巨大な滝が流れ落ちる山だった。


 ギザギザとした山頂部のシルエットだけ見るなら如何にも魔王の国にありそうな山だけれど、白い雪に覆われた姿は美しく朝日を反射している。むしろ神々しい。

 ドラゴンにのったまま近寄ると突風が吹いて髪が舞った。


 思わず硬直する私の肩を抱いてアズラニカが微笑む。


「案ずるな、ドラゴンはこの程度の風では落ちぬ」

「わ、私のほうが落ちそうだわ……!」

「それもありえん。私が支えているからな」


 ――それもそうね。

 安心する理由としてはとんでもないものだったけれど納得してしまった。

 こうしてアズラニカがしっかりと支えてくれてるんだもの、早々危ないことにはならないわ。


 体の力を抜いてもう一度山の景色をしっかりと眺める。

 ここにはガイドはいないけれど、代わりにアズラニカがスッと指をさして説明してくれた。


「山の名はルミナルビル。父から聞いた話では霊水主れいすいしゅミストラードが鎮めた水龍の名前から取られているそうだ」

「ミストラード……あっ!」

「ゼシカの望む偉人三人組の名で間違いはないか?」


 風にも負けない勢いで頷く。

 水色の髪をポニーテールにした男性。その名前はたしかにミストラードだった。

 ついに偉人三人――いいえ、三燈導さんとうどうの名前が揃ったわ!


 嬉しくてうきうきしていたけれど、アズラニカもミストラードの名は知っていても三燈導のひとりだということは把握していなかったらしい。

 そして私から特徴を聞いた時に真っ先に思い浮かんだのがここだ、という話もしてくれた。


「思い当る節はすべて正解だったわけだが……ゼシカ、なぜ私が一番可能性の高いここを最後に持ってきたかわかるか?」

「最後に持ってきた理由? えっと……もしかして出発前にあなたが話してた『行きたいところ』ってここだったりする?」


 勘がいいな、とアズラニカは笑う。


 彼は出発前に「私が行きたいところも混じっているからな」と言っていた。

 けれどこれまで訪れた二ヵ所でそれっぽいことは言ってなかったのよね。

 私と普通に満喫するのが目的なら、なにも言わずに楽しんでてもおかしくはないけれど、ここにきて問われて気になったのがその部分だった。


 でもアズラニカはこの山になんの用があったのかしら。

 もしかしてミストラードの話を聞いたのが父のラジェカリオからだったから、その話の舞台に行ってみたかったとか……?

 そう口にすると「今度はハズレだ」と肩を竦められた。


「まあ行ってみたいと思ったことはあるが、それはすでに叶っているのだ」

「叶ってるの? ――えっ、あ、もしかして」


 魔王であるアズラニカが赴いたことがある山。

 そして今このタイミングで彼が行きたがっているという情報。

 そんな仄かなヒントから頭の中に浮かんできた場所と理由があった。


 もちろんその程度じゃ正解かどうかはまったくわからなかったけれど、なにかに思い当った私の顔を見たアズラニカが柔らかく笑ったのを見て確信する。


「アスターが修行に行ってる霊峰って、ルミナルビル……!?」

「うむ、正解だ」

「霊峰としか呼ばれてなかったから気づかなかったわ! そっか、なるほど、アスターの様子を見に行きたかったからああ言ったのね!」


 アズラニカ曰く、霊峰ルミナルビルは修行の地に選ばれるほど崇められているため、日常会話ではあまり名前を口にしない風習があるらしい。

 ただし山の敷地内ではその制約はなく、ここに来てようやく話せたのだと少しスッキリした顔をしていた。


「ここでアスターが……」


 雪深い山に五歳児がいる。

 それを目の当たりにして心配する気持ちがふつふつと湧いてきたけれど、アズラニカが冷静ってことはやっぱり危険ではないのね、きっと。


 それに修行もひとりぼっちじゃないわ。

 数名の護衛や従者の他、先生としてサヤツミが同行していた。

 彼がいれば大抵のことは大丈夫なはず。逆に甘やかして修行にならなくなってないか気掛かりなくらいね。


 すると山のほうから天高く昇っていく金色の光が見えた。

 金色の光は花火のように輝きながら散っていく。


「ふむ、アスターたちは休憩時間のようだ」

「わかるの?」

「事前に鳩を飛ばして連絡しておいた。この日のこの時間に向かうから、休憩時間に入ったら合図をしてほしいとな」


 準備万端だわ!

 そしてこんな山にまで手紙を届けてくれる鳩って凄いわね、ムキムキしてそう。


 そんなことを考えているとドラゴンが着陸できる場所を探し、雪を巻き上げながら地上に両足をつける。

 ドラゴンの巨体が見えたのか雪道の先からアスターが手を振りながら走ってきた。


「ママ! パパ! 来てくれたの!?」

「ああ、様子を見にきた。ちゃんと修行はできているか?」


 アズラニカが抱き上げるとアスターはキラキラした瞳で「できてる!」と報告する。その向こうからサヤツミが「アスターはよくやってるよ!」とにこやかに歩いてくるのが見えた。

 そんなサヤツミの髪や服がなぜか汚れている。


「ああ、これ? アスターの魔法が暴発したのを食らってさ、いやぁ親譲りの良い雷魔法だ」

「だ、大丈夫なの? ……って問う必要はなさそうね」


 汚れているだけで怪我ひとつないわ。

 サヤツミは「それでも心配されたいなぁ」と笑った。


「そっちは息抜きできたかい?」

「ええ、アズラニカに色んな場所へ連れていってもらったわ。お土産もあるから帰ってからのお楽しみね」

「おお、それはいい! 俺たちも……というかアスターも土産があるんだ。ここで貰って帰ったらどうかな?」


 アスターからのお土産?


 そう不思議そうにしているとアズラニカに降ろしてもらったアスターが私に向かって握り込んだ手を突き出した。

 私が手の平を向けるとその上に丸い玉をころりと転がしてくれる。

 薄い水色をしたビー玉みたいだけれど、気泡ひとつないそれは不思議な輝きを放っていた。


「夢の中で大きな龍にもらったやつ! きれいだからママにあげる」

「水龍ルミナルビルに気に入られたみたいでさ、これ水龍の宝玉って呼ばれる清めの効果がある魔石だよ」

「そんな凄いものを!? ありがとうアスター、大切にするわね?」


 サヤツミの説明に驚きつつ頭を撫でてあげると、アスターは水色の目を細めて嬉しそうな顔をする。


 水龍の宝玉は持っているだけで体が汚れにくくなったり、悪い病を追い払ってくれるらしい。

 小さな息子が私の体を大事にしてくれているようでとても嬉しいわ。

 ――あと、その、見ようによってはこの宝玉ってミストラード関連のものだから、いわゆる推しグッズみたいなものなのよね。ここにきて聖地巡礼をできただけでなく推しグッズまで手に入れられたのは嬉しすぎるわ。


 この後、私たちは全員でご飯を食べ、そしてアスターは修行へと戻っていった。

 アスターが城に戻るまであと二週間ほどあるらしい。

 帰ってきた時にアスターの好物であるカレーを作るためにも、今からとっておきの材料を集めておきましょうか。


 帰りのドラゴンの背の上で、段々と小さくなっていく霊峰を見つめながらアズラニカに話しかける。


「アズラニカ、今回は改めてありがとう。良い旅行になったわ」

「人生に息抜きは必要不可欠だ。これからも時間を見つけて行こう、私にとっても良い息抜きになる」

「ふふ、そうね。それに……その息抜きのおかげで、帰ったら精力的に仕事ができそうだわ」


 アズラニカを振り返りながら、私は今回の旅行の中でできた『やりたいこと』を口にする。


「今後、三人のことを洗い直して正しい情報を記録して広めるわよ!」

「三人……ビルク、ヨアヒム、ミストラードか?」

「ええ、三燈導は彼ら三人だってしっかりと記して遺さないと。そうすればきっと」


 ――いつか推し活仲間ができるはず!


 そう言うとアズラニカは目を瞬かせ、すぐに叶いそうだなと肩を揺らして笑った。

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