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【本編完結】攫われ姫ゼシカの実記 ~攫われる姫に転生しましたがこの国はもう駄目なのでこのまま嫁いで記録官として生きますね!~  作者: 縁代まと
番外編章

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【番外編】ゼシカ、推しの軌跡を辿る聖地巡礼に出る 中編

 ガイアクロードでまず初めに入ったのは筋肉痛や関節痛に効く青いお湯。


 ドラゴンでの移動に慣れたといはいえ、しっかりと跨ると体が緊張するから辿り着いた時には内腿を中心に全身が疲れていたのよね。

 効果は抜群! アズラニカから大きな戦闘後はここへ養生にくる兵もいると聞いて納得した。これだけ効くなら多少遠出してでも足を伸ばすわ。


 次は美容に良いという透明なお湯に入った。


 飲んでも効果を期待できるとのことで、店先で飲料用の温泉水が売られていたのが印象的だったわ。成分が気になるところね……。

 これは効いたかどうか自分ではよくわからなかったけれど、アズラニカが「ゼシカはいつも美しいが、この湯が更に磨きをかけたようだな」と褒めてくれたので嬉しかった。

 あなたもいつもより肌つやが良くなった気がするわよ。


 それから髪に良いというお湯、免疫向上のお湯、体の芯から温まるお湯、精神が安定するお湯など色々な場所を三日ほどかけてゆっくりと回る。中には足湯もあった。

 角に良い湯は打たせ湯だったからちょっと修行僧みたいになってたわね、結構な勢いで頭に直撃してたけど首を傷めたりしないのかしら……。


 宿でもふかふかのベッドでぐっすりと眠れたわ。

 記録官の仕事で体の疲れが溜まったら年一くらいでガイアクロードに行ってリフレッシュするのもアリね、とっても。


「あっ、この看板……」


 今日もアズラニカと一緒に温泉巡りをしようと歩いていた時、道の向こうにガイアクロードに伝わる逸話について書かれた看板が現れた。

 どうやら観光客向けみたい。


 昔、この地を天変地異が襲った時、火山の噴火を抑えてハリケーンを切り伏せた男がいたらしい。

 その後、噴火しかけていた火山は不思議とただの山となり、代わりとばかりに火と地の魔力に満ちた大地からは温泉が湧くようになった――とのこと。

 表向きは非火山性温泉地だけれど、住人たちは今でも足の下にはマグマが流れていると信じているそうだ。


 そんな救世主とも言える男の名は剣豪鬼けんごうきビルク。

 オーガの若い青年だったという。


「剣豪鬼……ビルク……そうよ! ビルクだわ!」

「ふむ? なにかの調べ物の一助になったか?」


 とても、すごく、いっぱい、っと何度も頷いてみせるとアズラニカは自分のことのように微笑んだ。本当に良い夫ね!

 ただ、ビルクのことを思い出してテンションは上がったものの、他のふたりについて芋づる式に思い出すということはなかった。

 記憶が古すぎるのが恨めしい。


 でも偉人三人組はたしかに存在したし、名前を見れば思い出すこともできた。

 これは大きな一歩だわ。

 さあ、名前も思い出せたことだし改めて推しの聖地巡礼を強く意識しながら楽しみましょう。もちろん後で宿に戻ったらしっかりと逸話の記録もするわよ!


「ふふ、次の場所へ向かうのも楽しみだわ。でもその前に――ほら、アズラニカ、あの温泉にも入ってみましょう! 薄桃色でとっても可愛いわね!」

「ああ、どこでも好きな湯に入……」


 言葉を途中で止めたアズラニカはこほんと咳払いをし、なぜか頬と耳を赤くしながら「頑張るとしよう」と頷いた。

 クエスチョンマークを頭の中に浮かべていた私はもう一度自分が指さしていたお湯を、正確にはそのお湯の効能が書かれた看板を見る。


 そして――『子宝・子授けの湯』という文字を発見し、アズラニカと同じく真っ赤になったのは言うまでもない。


     ***


 次に訪れたのはナクロヴィアの南にあるトナッティア鍾乳洞。


 ここは周辺に大きな街が三つもあり、鍾乳洞の中にある大空洞に発光する鉱石生物がいることから美しい観光スポットとしても人気の場所だった。

 この鉱石生物、よく見るとちっちゃなゴーレムに属するものらしく、魔力の高い者ならある程度自由に指示を出して操れるらしい。


 それを利用して光を利用した催しもやっていると聞いたわ。前世でいうドローンを使った光のショーみたいね。

 残念なことに今はその季節じゃないようで、それを知らせるポスターを鍾乳洞の出入り口前で見てついつい残念そうな顔をしてしまった。


 そんな私の頭をアズラニカが撫でる。


「そんな顔をするな。開催する時期になったらまた来よう」

「ええ……うん、そうね! 今度はアスターも連れてきましょう、きっと喜ぶわ」


 一回で楽しみきるより、何度かに分けて楽しんだほうが良い場所もあるわよね。

 ここはきっと後者だわ。次の楽しみが増えたと思うとワクワクする。


「しかし私の魔力なら自力で動かせそうだが……いや、しかし催しは周辺の魔力が弱まったタイミングに限るのか。ならば今は難しい」

「魔力が?」

「この土地は魔力が潤沢なのだ。ガイアクロードもそうだったが、トナッティア鍾乳洞周辺は水と植物の魔力が強いな。だがそれが邪魔をして操りにくくなるらしい」


 遠隔操作しようとしてもジャミングされちゃう感じなのかしら?

 だから開催時期が決められているのね。


 ちなみに自分が起点となった魔法や自力で呼び出した召喚獣などは普段通り使えるとアズラニカが説明してくれた。あくまですでにこの世に存在しているものに干渉しようとすると影響があるみたいね。

 私は魔法を使えないものの興味深く聞いていると「そんなに詳しいならガイドは必要ないかな?」と気さくな声がかかった。


 トナッティア鍾乳洞のガイドをしているお兄さんらしい。

 服には三つの街からお墨付きをもらった公認ガイドであることを示す腕章が付いている。私たちは鍾乳洞の中のことまでは詳しく知らないので、彼に案内を頼むことにした。

 ここはプロに頼るべきよね。


 トナッティア鍾乳洞の内部はほとんど一本道だった。

 ただ時折とても細い道が分岐するように伸びていて、小型の魔族だと迷い込む危険があるので注意が必要なんですって。

 どんなお客さんでも満足してほしいという気概が感じられるわ。


 そうして到着した大空洞は――催しの真っ最中でなくても光が星空のようでびっくりするほど美しかった。瞬きをするのがもったいないくらい。


「この空洞には昔、見ただけで腰が抜けるほど巨大な魔石があったんですよ」

「……!」

「それが暴走して爆発を起こしかけた。あわや大惨事……というところに現れたのが我らの『鎮めのヨアヒム』です!」


 ガイドのお兄さんは自慢をするように言い放つ。


「ドライアドであるヨアヒムは魔石の魔力を鎮め、鍾乳洞を起点にして周囲の土地に宿らせました。道中も緑が多かったでしょう? それに良質な魔石も採れますし、魔力を含んだ薬草も特産品になっているんですよ」


 お帰りの際は是非お買い求めください、とウィンクされた。商売上手だわ……!

 どうやら魔力持ちでなくても使える魔道具なんかも沢山売っているそうだから、お土産を選ぶのも楽しそうね。

 ……そんなドキドキとはまた別の理由で私の心は弾んでいた。


 ヨアヒム。

 偉人三人組のひとりだわ。やっと思い出せた。

 もっと他の情報もあったりするのかしら。そわそわするのを抑えながら「ヨアヒムについてもっと教えてくれない?」と訊ねてみる。


「それがあまり他の逸話が残ってないんですよ。あっ、ただ――かつて三燈導さんとうどうと呼ばれた偉人のひとりだってことは伝わってますね。けど他のふたりが誰だったかは不明だそうです」

「ふ、不明?」


 ポニーテールの人についてはまだわからないけれど、ビルクはあんなにもはっきりと名前が残っていたのに?

 不思議だったけれど遠い昔のことならこういうこともあるのかもしれない。

 ……古代の神について忘れ去られていたように。


 記して遺すことの重要性を再確認しながら、私たちは美しく瞬く鍾乳洞の『空』を見上げる。

 ヨアヒムが守ったその光景もまた、後世に遺していきたいと思えるものだった。

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