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【本編完結】攫われ姫ゼシカの実記 ~攫われる姫に転生しましたがこの国はもう駄目なのでこのまま嫁いで記録官として生きますね!~  作者: 縁代まと
本編

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第44話 人間がすべきこと

 古代の神はどろどろの目を大きく見開き、次に見せた表情の変化はありありと浮かんだ嫌悪によるものだった。

 けれどアズラニカもそんな感情を向けられるのは予想していたのか、一歩も引くことなく言葉を重ねていく。


「魔族と人間は共に生きられる。だからこそこの国を滅ぼされるのは看過できない」

『こんなにも腐り果てた国なのにか』

「頭は駄目だろう。しかし民まで一括りにする気はない」


 生贄にされて逃げてきたクラン。

 そしてナクロヴィアに亡命をしたベレクは元はファルマの人間だ。

 ナクロヴィアには他にも同じような境遇の人間たちが暮らしている。


 クランに森について教えた吟遊詩人も悪い人ではないだろうし、プレイヤー目線から見ても勇者一行の仲間たちは善人だった。

 ゲームをしていた時に行く先々で出会った人の中には悪人――悪意を持って犯罪を犯す人も多くいたけれど、全員じゃない。


 そんな人たちごと「嫌だから」という気持ちひとつで国を潰すのはやめてほしい。

 それは私も同じ思いだった。

 古代の神は憎々しげな声を漏らし、背骨から何対もの触手を生やしてアズラニカに襲い掛かる。


『なぜ過ちを忘れた人間のために我が矛を収めねばならない!』


 古代の神からすれば嫌悪する生き物に勝手に引っ張り出されて利用され、しかも相手はそれを忘れて同じことを二度もされた形になる。

 そして力ある者だからこそ仕返しの規模も大きくなる、だから我慢しろ、と情に訴えて説得するだけじゃ……きっと足りない。


『我は人間と魔族の共存など興味がない! 勝手にすればよい! しかしこの人間への嫌悪をそのままにしておけるものか、目障りなものには消えてもらう! たとえ魔族でも邪魔するならば同じだ!』

「……!」


 暴れ回る触手が地面を叩き地割れを引き起こす。

 土埃の舞う中、アズラニカはゼナキスを小脇に抱えると触手の攻撃を回避した。

 ドラゴンも自ら飛び回り、古代の神の視界を遮ってサポートしている。


「……ゼシカ様、ここまで古代の神が荒ぶっていては……」


 隣で準備を進めていたメルーテアが不安げな声を漏らした。

 儀式だけでなんとかなるのか、それは私も同じ不安を抱いている。


 前回は一度目の過ち、そして今回は二度目の過ち。

 古代の神は人間が愚かなことを繰り返した事実に一番怒っている。

 そうなると前回通用した手段が今回も通るとは限らないわ。


 人間が過ちを認め、それを正し、古代の神の希望を聞き、償いとしてそれを叶えるくらいはしなくちゃならない。

 けれどゼナキスがそれをするとは思えない。

 アズラニカは人間の血が混じっていても代表にはなれない。きっと古代の神が認めないから。


 それなら。


「――サヤツミ」


 名前を呼ぶと身を隠していたサヤツミがヒールの音をさせて現れた。

 そして少し身を屈めて私の目を覗き込む。


「愚かなことを考えているね?」

「過去の人間と兄たちのほうがよほど愚かだわ」

「アズラニカはゼシカに危険が及ぶことを嫌がるんじゃないかな」

「このまま続けても結局血を見ることになるってサヤツミもわかってるでしょう?」


 まあね、と言ってサヤツミは背筋を伸ばした。

 そのまま私をひょいと抱き上げる。

 メルーテアがぎょっとしていたが、私はその手に魔族の角を模した飾り――己を魔族だと偽るための飾りを渡して微笑む。


「私も行ってくるわ」

「ですが危険です!」

「サヤツミに護衛を任せる。それでも危険だろうけれど……この状況で人間が安全な場所でただ見ているだけじゃ、古代の神は納得してくれない」


 だから行ってくる。

 そう言うとメルーテアはまだ不安の拭えない顔をしていたものの、アズラニカや騎士団たちが触手に絡め取られたのを見てついに頷いてくれた。


「でしたら接近のお手伝いをさせてください」

「お手伝い?」


 メルーテアは氷の槍を作り出す。

 それは普通の槍より一回り大きなもので、なぜ華奢なメルーテアが平然と持てているのか不思議なくらいの代物だった。


「そ、それは?」

「私、ナクロヴィア槍投げ大会の優勝者なんです」


 初耳なんだけど!?


 どうやらメルーテアは戦える侍女だったらしい。

 聞けば優勝も一度や二度ではなく、今は普通の選手としてではなくゲスト枠として主催から呼ばれる立場になっているという。


 前線に出なかったのは戦闘向けの魔法を使えても魔力量そのものは少ないため。

 そして私の護衛のためでもあった。


「あー、そういえばオトも投げ槍の名手だったな」


 サヤツミが懐かしそうに言う。

 メルーテアの投げ槍の腕は祖父譲りらしい。


「この儀式も必要になる可能性があります。貴女と儀式の場はしっかりとお守りしますので、ゼシカ様はゼシカ様のやりたいことをなさってください」

「……わかったわ。よろしくお願いするわね、メルーテア」

「はい、お任せください!」


 メルーテアが頷くなりサヤツミが走り出し、周囲の景色が高速で後ろへと流れていった。

 儀式用の衣装が激しくはためく。

 布の暴れるバタバタという音を聞いていると粘度のある音が混ざり始めた。


 接近する敵に気がついて伸ばされた触手だ。

 その先端が私たちにずるりと近づいた瞬間、氷の槍が凄まじい速さで飛んできて触手を貫い――たどころじゃないわ! 弾け飛んでる!


 振り向くと遠くでメルーテアが親指を立て、すぐに二本目を準備した。

 これは頼もしい。


 近寄る触手を追い払いながら前へ前へと進み、遠かったアズラニカたちの姿が間近に迫る。

 サヤツミは強く地面を蹴ると、砕けて跳ね上がった岩や土の塊を走る勢いのまま蹴り飛ばした。丁度サッカーをしているような姿だったけれど規模が違う。


 蹴り飛ばしたそれはアズラニカを殴りつけようと迫っていた触手に命中し、数十メートル先でバウンドしながら着地すると粉々に砕けた。


『……? 新手か?』

「ゼシカ! なぜこっちに――」


 それぞれ異なる反応を見せながらこちらを向く。


 さあ、人間として説得の続きをしましょう!

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