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【本編完結】攫われ姫ゼシカの実記 ~攫われる姫に転生しましたがこの国はもう駄目なのでこのまま嫁いで記録官として生きますね!~  作者: 縁代まと
本編

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第38話 勇者の決意

 アズラニカの指示により、ファルマの王都へと向けられる目が増えた。


 敵国への諜報活動はリスクを伴うため今までは人数を絞っていたけれど、今は緊急事態及び諜報と騎士団を兼任している魔族の手が空いたため可能になったという。


 影魔法を使える者や影に由来した種族が適任で、攻撃に関しては人間程度の肉体能力しかないことが多いので期待できないけれど、姿を隠すことや長距離移動に長けている彼らほど向いている者はいない、とアズラニカは言っていた。


 彼らは影の中を移動し、ドラゴンでの移動よりも素早く且つ目立たずに動ける。

 前線の様子を報告をしてくれていた騎士団員もそのひとりらしい。


 そんな騎士団員が私たちのもとに現れたのは満月の翌々日の朝だった。


 人間たちは森から出た後は馬を使う。

 この馬は便宜上はただの馬ということになっているけれど、馬系のモンスターと掛け合わせた上で何世代もかけて家畜化された品種だ。


 ゲーム中でも序盤から中盤までの移動手段のひとつとして重宝していた品種で、普通の馬より何倍も早く駆ける。

 軍ならこの馬を使っている可能性が高い。

 そこから計算すると今現在は王都に到着する少し前といったところかしら。


 そして――予想通り、ゼナキスは国一番の戦力が戻る前に行動を起こしていた。


「重大発表を装って人を集めて……その人たちを生贄にした?」

「はい、見たこともない特殊な魔法陣が足元に浮かび上がり、その範囲内にいた人間が衣服だけ残してすべて姿を消しました」


 跪いて報告する騎士団員が冷や汗を流して言う。


 魔法陣の範囲は中央広場を丸々飲み込むほど。

 中央広場を知らないメルーテアたちは上手くイメージができない様子だったけれど、私は城からよく見下ろしていたからすぐに頭の中に浮かんできた。


 広場といっても子供がボール遊びするような広場じゃないわ。

 大雑把に測って東西南北それぞれ三百メートルはある。

 母はよくそこで貴族専用の派手な祭りを開催していた。もちろん国民の血税で。


 そこに集められた国民が何名いたかは考えたくない。

 苦しい気持ちになりながら報告の続きを聞くと、国民たちが姿を消した直後、次は地ではなく天に魔法陣が浮かび上がったという。


 それは先ほどまで見えていた魔法陣とはまた違った種類で、空中に張り巡らせられた血管で形作られていた。

 その脈打つ鼓動が影に潜む諜報たちにも届いたらしい。


 ……きっと、古代の神がもう少しで復活する。

 そう感じたのは知識に裏打ちされた感覚ではなく、本能的なものだった。


 すでに凶行に及んだ兄の姿が脳裏に浮かび、吐き気が湧くのを堪えながら「アズラニカには?」と問う。アズラニカは仮眠の後、宣言通りにファルマ軍の残党探しのために再び森へと足を踏み入れていた。


「先行してご報告しました。程なくしてこちらに到着されるかと」

「わかったわ。私たちはもう最悪の事態に備えてすぐに動けるようにしてあるから、あなたも仕事の続きをしてちょうだい」


 立場的に私が最後の報告対象というわけではないはず。

 森に散る他の仲間たちにも報告が必要だろう。

 そう促すと騎士団員は頭を下げ、そのまま自分の影の中に吸い込まれるようにして消える。


 振り返るとメルーテアやリツェたちが固い表情をしていた。


「その、改めてごめんなさい、みんな。――私の兄はやっぱり酷い過ちを犯してしまったみたい。それも想像以上の。本当に大馬鹿者だわ」

「ゼシカ様……私は最後までお供します。古代の神の再封印という歴史の分岐点をこの目で見せてください」

「こっこここ怖いものは怖いですけど、に、逃げる気はありませんよ」


 震えるリツェの隣からベレクが顔を覗かせる。

 その表情はどこか複雑げで、けれど覚悟の決まったものだった。


「戦では役に立てませんが、料理で役立てるなら全力を出しきります。……腐っても母国、どうか封印の一助としてお連れください」

「みんな……」

「さぁさ、これ以上可愛い人間が消えてしまわないよう早く古代の神をどうにかしちゃおう! ゼシカとこの子と、あとこの子の故郷だしね!」


 突然真後ろからサヤツミに肩を抱かれたベレクが「ぎゃあ!」と本気の叫び声を上げる。サヤツミにとっては成人男性でもしっかりと愛でる対象らしい。

 たくさんの人間が生贄にされてまた落ち込んでいるんじゃ、と少し心配していたのだけれど、意外と元気というか……むしろにこにこしてるわね?


 そんなサヤツミの反対側の腕には――目を回しているクレイスが抱えられていた。


「クレイス!? 城にいるはずじゃ……」


 クレイスは私たちに保護されている状態だ。

 加えてゼナキスにトラウマを持っていることから同行者から外し、新たな後見人のもとで療養してもらっていた。


 それに勇者といってもゲームで言うなら初期レベルのままこんなところまで来たようなものだし、森を抜けられたのも運があってのことだった。

 そんな彼を計画に巻き込むのはあんまりだと思っていたのだけれど……。


 サヤツミはクレイスを床に降ろす。


「今回の件には人間、人間の国の両方が深く関わっている。……俺はそれが気になってたんだよ。この子にとっても故郷なのになって。だから直接訊きに行った」

「い、いつ?」

「さっき!」


 落ち込み、ぐったりとしていたサヤツミのことはあの後もそっとしておいたのだけれど、その間に城まで往復してきたということらしい。

 彼が素晴らしい機動力を持っていることは知っていたけれど、多分そんなサヤツミでも「急いだ」ってレベルだったんでしょうね。

 そのスピードに付き合わされたクレイスが目を回しているのも納得だわ……。


 クレイスは枯れた植物のようにへにゃへにゃと横になる。

 そんな彼の傍らで軽く肩を叩くと、クレイスはハッとした様子で起き上がった。


「ススススカイフィッシュドラゴンより早かったんですが!?」

「なにそのドラゴン!? と、とりあえず大丈夫そうでよかったわ。……クレイスも自分の意思でこの作戦に参加したい、ってことで合ってる?」


 問われたクレイスは真剣な表情に改めると腰に下げていた剣を床に立てて跪く。

 その姿はとてもさまになっていた。


「ぼ、僕、陛下たちに助けて頂いてから、ずっと流されるままに守られていました。けれど、そんな自分が段々と恥ずかしくなってきたんです」

「その立場は当たり前の権利よ?」

「それでもそう思いました。……この気持ちは貴方たちに報いたいと思っているからだ、と気がついてからずっと団長に指導を受けて剣の腕を磨いていたんです」


 ――しばらく見ない間に騎士っぽくなったと思ったけれど、私たちが古代米を探したりご馳走や舞の試行錯誤をしている間もクレイスは後見人である騎士団長に鍛えてもらっていたのね。

 なのに簡単に「まだ弱いんだから」と精神や腕前にレッテルを貼って、本人の意見を聞かなかったのは私の落ち度だわ。


 そう謝るとクレイスは首をぶんぶんと横に振った。


「ご配慮感謝します。……ゼシカ様、僕はたしかにまだ怖いんです。また生贄になるかもしれない、そう思っただけで体が震えます。けれどそんな恐怖も過去も捨て、完全にナクロヴィアの国民になりたいと思いました。……だから」


 クレイスは剣の柄を握る手に力を込める。

 そして、私をまっすぐ見上げて言った。


「――ナクロヴィアの国民として、新たな名前を頂けませんか」

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