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【本編完結】攫われ姫ゼシカの実記 ~攫われる姫に転生しましたがこの国はもう駄目なのでこのまま嫁いで記録官として生きますね!~  作者: 縁代まと
本編

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第36話 サヤツミの憂鬱

 ファルマ軍が森の前に集まっていると知ってもアズラニカたちが先手を打たなかったのは、そうするとその場で戦闘になり近隣の村を巻き込むからだ。

 加えてナクロヴィア側から戦を仕掛けたという汚名を被せられる可能性がある。


 しかしナクロヴィアの領土である森の中に入ったとなれば話は別。


 普段はモンスターがはびこっているとはいえ内部は調査済みで、地の利はナクロヴィア側にある。

 加えて人間よりも上空の移動に優れているため、木々に邪魔されて攻撃はしづらくても人間への威嚇や誘導に上手く活かしていた。


 そんなアズラニカたちの活躍を耳にできたのは前線から戻ってきた騎士団員の報告のおかげだ。

 アズラニカは全戦力を前線に投じたわけではなく、後方に位置する拠点――つまり私たちのいる村にも騎士団員を待機させている。

 これは私の護衛というわけではなく、万一のことがあった際にスムーズに城へと伝令を飛ばし、この場で敵を食い止めるための対処だ。

 定期的な前線の報告もその一環だった。


 ……とはいえ、前線のこんな間近に私を待機させることをとても心配していたから、じつは護衛でしたと言われても違和感はないのだけれど。


 ちなみにその報告ではファルマ軍も戦力を分散させ、半分を結界の要の破壊に向かわせていたらしい。

 それを終えた軍と合流すれば劣勢になる可能性もあった。


 つい不安になっていると遠くから僅かに地響きが聞こえ、遅れて足元にびりびりとした衝撃が伝わってくる。

 待機用に作られた大きなテントの中、その地響きを感じながら体を強張らせているとメルーテアがそっと手を握ってくれた。


「ゼシカ様、大丈夫です。アズラニカ様が魔法を使われたのでしょう」

「こ、こんなに響いてくるものなのね」

「アズラニカ様は落雷魔法が得意だとお聞きしています。魔法による雷は火事が起きないようにコントロールが可能なので、攻撃というより目眩ましや威圧に使用したのかもしれませんね」


 そういえばゲーム中でも雷系の範囲攻撃を使っていたわ。

 威力は極悪なダメージを叩き出す炎系の最上位魔法よりは低かったけれど、麻痺のバッドステータスが付くのが地味に辛かった記憶が蘇る。


 あれは耐雷装備で固めていくことで対処できたけれど、入手が大変な品だったしファルマ軍全員がそれを装備しているとは思えない。

 きっとあの一撃でアズラニカが更に有利になっているはず、と祈るように考えているとテントの端で長い足を放り出してぐったりしているサヤツミの姿が目に入った。


 突然こうなったわけではない。

 アズラニカたちとファルマ軍がぶつかり始めてからずっとこの調子だ。

 理由もわかっている。


 それでも放置し続けるにはあんまりな様子だし、少なくともこの場で一番適している人物は自分だという自覚があったので、私は蜂蜜入りのホットミルクを作るとサヤツミのもとへと持っていった。


「大丈夫? 夕飯も食べてなかったでしょ、もし飲めそうならどうぞ」

「気遣ってくれるなんてゼシカは優しいね……さすが可愛い人間の子!」


 予備動作もなく上半身を起こしたサヤツミは嬉しそうにカップを受け取ったものの、普段の彼を知っている者からすれば元気がないように見える。

 ――アズラニカと戦っているのは人間だ。

 人間を愛でているサヤツミには私たち以上に堪えるものがあるのかもしれない。


 ホットミルクを一口飲んだサヤツミはハイヒールを履いた足を揺らして呟いた。


「悪さをする人間の子はいっそのこと閉じ込めてしまいたいんだけどね、百や二百なら可能だけれど今回はさすがに多すぎる」


 そう、サヤツミは命を失う人間を憂いていた。


 アズラニカは可能な限り捕虜にすると言っていたけれど、こんなにも真っ向からぶつかっているなら全員を捕虜にするなんて至難の業だわ。

 サヤツミもそれはわかっているから前線に出ずに私の護衛を買って出ていた。

 さすがに人間の命を自分の手で奪うのは嫌だよ、と。


「無益な争いだ。犠牲を厭わず俺が本気を出せば喧嘩両成敗できるけど、その後に古代の神が出てきたら最悪だしね。俺が食われちゃう」

「……私の故郷のせいで悩ませてごめんなさい、サヤツミ」

「ん!? なーにを言う、ゼシカが謝ることじゃないだろ? それにゼナキスだったか、君の兄は道を誤った哀れな人間だ。俺はそんな人間すら愛おしい。胸は痛いけどね」


 だから謝られるのはちょっと変な感じだな、とサヤツミは肩を竦めた。


 サヤツミの人間好きは本当に、その、殿堂入りレベルね。

 でもそのおかげで少し救われた気持ちになるのも事実だわ。


「……サヤツミ、古代の神ってどんな性格なの?」

「前に言った通り魔族好きだ。ただ俺みたいな理由じゃないな、たしか……初めてこの世界に生じた時、優しくしてくれたのが魔族で、辛く当たったのが人間だったんだったか。又聞きの古い記憶だから自信はないけれど……」

「さ、差別されたり攻撃されたのかしら」

「古代の神は俺みたいに魔族や人間……人類に似通った姿をしてなかったからね」


 魔神と聖神せいじんとは生まれた要因が異なり、初めのうちは不定形のよくわからないものだったとサヤツミは語る。

 だからゲーム中の姿もドロドロとした醜悪なものだったのね。


「でも魔族と暮らす間に古代の神はその姿を真似ようとしたのかな、たまに魔族に化けてたみたいだ」

「変身能力があるの!?」

「俺にもあるよ? けど元の姿のほうが楽だし、変身中は常に面倒な計算を暗算でやらされてるような状態だから、復活してすぐの古代の神が誰かに化けて大混乱! なんてことにはならないから安心するといい」


 さすが神様。けど魔族ですら呆然とするようなことを簡単にやってのける存在なんだから当たり前といえば当たり前かもしれない。

 サヤツミは「親しげに言葉を交わす相手じゃなかったから他のことはわからない」と言ってホットミルクを飲み干した。


「神と呼ばれる者同士だけれど成り立ちが違うからさ、例えるなら生息域の近いドラゴンと北国デスワームがお互いチラチラ見ながら『変な生き物がいるな……』って観察し合ってた感じだね」

「あー……北国デスワームのせいで上手くイメージできなかったけれど、なんとなくはわかったわ」

「ヨーシヨシ、ゼシカは偉い! 理解力があって素晴らしい!」


 サヤツミはわしわしと私の頭を撫でる。

 いつもより過度な褒められ方だけれど、きっとサヤツミも元気を出そうとしているのね。


「サヤツミも褒め上手だし、元気を出そうと頑張ってて偉いわ」


 たまには私からも褒めたい。

 そう思い丁度いい位置にある頭をぽんぽんと撫でる。髪質が良いわね……。


 許可なく撫でるのは失礼だと思うけれど、親しい相手だしサヤツミは普段から容赦なく可愛がってくるので少しくらいはいいだろう。

 サヤツミはしばらく物珍しいものでも見るように目をぱちくりさせた後、赤い目を細めて笑う。


「いやあ――誰かに撫でられたのは初めてだ。落ち着くものだね、これは」


 そして、今度は祖父のように優しく私の頭を撫でた。

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