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【本編完結】攫われ姫ゼシカの実記 ~攫われる姫に転生しましたがこの国はもう駄目なのでこのまま嫁いで記録官として生きますね!~  作者: 縁代まと
本編

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第31話 次なる方針とトレントの異変

 家系図は保管庫の決まった場所に纏めて保管されていた。

 百年に一度写し直す風習があるそうで保存状態はとても良く、手帳の持ち主の家系図も難なく見つけることができたわ。


 もちろんすべての村でこんなに情報管理がしっかりしているわけではない。

 この森のオークは血筋を大切にしているそうなのだ。


 繁殖力の強い種族とされているけれど、他種族と交流して定住しているオークは食料や居住地の問題で大家族となることを避けている節がある。

 そのため限られた家族を殊のほか大切にすることから生じた特徴らしい。


 手帳の持ち主の『ひいひいひいじいさん』が生きていた時代は四桁到達をとうの昔に達成しているほど昔だった。

 石板に古代米の記述があった頃より後の時代だけれど、手帳に記されていた昔ながらの米って言葉を信じるなら多少後にズレていても違和感はない。


 これだけ前なのに今の村長から十代くらい遡るだけでいいんだ……とベレクと共に魔族の寿命の長さを再確認することになった。

 名前の並ぶ家系図の紙がいつもより重く感じるわね!


「さて、これで米の特徴と時期まで特定できたわけだけれど――」

「古い産地にそれだけ条件を満たす米があったなら、これはもう古代米で確定してもいいと思うんですが……どうですか?」

「近似種という可能性や、長い時の間に他の米と混ざって交雑種になっている可能性はあるわ。ただ他の土地で探し回る時間が残されているか怪しいから……」


 ベレクの問いにしばらく考え、そして私はひとつの着地点を示した。


「この米を確保して帰還、ひとまずこれを古代米として扱って対策を進める。それとは別に古代米らしき米の捜索は専用隊を作って続行、特定の条件を満たしていたら報告してもらって私が最終確認をするわ」


 特定の条件については古代米の特徴や栽培方法、その土地で扱い始めた時期などを書き出して配布しましょう。

 情報の質は直接確認するより落ちてしまうから取りこぼしもあるかもしれないけれど、悠長にしてられない以上こうするしかない。


 そう方針が決まった時、サヤツミが服に付いた煤をはたきながら戻ってきた。


「サヤツミ! 早かったわね!?」

「いや~、完全に普通の木に擬態されてたらもっと時間がかかったと思うんだけど、あいつら隠れる気ゼロなのか? って疑うほど右往左往しててさ」

「……村の襲撃が失敗したから?」


 それが原因じゃないと思う、とサヤツミはイスにどっかりと座りながら言う。


「急いだほうがいいかもね。トレントは木の性質を持つが故に長い時間――古代から存在しているモンスターだ。そのせいで古代の神の影響を受けやすいのかもしれない。凶暴化して異常繁殖なんてそれっぽいだろう?」

「まさか、もう復活しちゃったんじゃ……」

「いや。でも封印って解ける前にさ、決壊寸前の川みたいに少しずつ漏れ出すタイミングがあるんだ」


 そう言いながらサヤツミは肩を竦めた。


「実際に封印されてた俺の見立てだと……封印が解けて意識が戻るほどじゃないが、力の一端が漏れ出るところまではいってるんじゃないかな」


 生贄には聖神の血を色濃く引いているクレイスがうってつけだったけれど、彼がいなくても人間はすべて聖神の末裔。大量に捧げれば古代の神は聖神の力を取り込み、強化されて封印を破れるようになる。

 つまり力が漏れ出るほど封印が解けつつあるなら、ファルマでそれだけ犠牲者が出たということだ。


 ナクロヴィアに迫る危機だけでなく、腐敗した国に仕方なく住むしかなかった国民たちに被害が及んでいることが心を曇らせる。


「――わかったわ。早くアズラニカたちのもとへ戻りましょう。村長さん、村の米を売って頂くことはできますか?」


 トレントによる被害は討伐後もすぐに回復するわけではない。

 米をお金で買い取る話の他、モンスター被害の補償制度を利用して冬を越せる食料の支給について説明すると、村長はそれすら知らなかったのか「そういうことでしたら是非!」と頭を下げた。


 この地域の管理者は面倒な制度はとことん住民に伏せてたみたいね。

 余罪が多そうだわ。


 兎にも角にも古代米の問題は一旦決着した。

 次はこれを城に持ち帰って、再封印に必要な『豪勢な料理』の試作と儀式に必要な舞の調査よ!


     ***


 ドラゴンに急いでもらって城に帰ると、城内にアズラニカの姿はなかった。


 なんでもナクロヴィアに一番近い人間の村近辺でファルマの軍による不審な動きが見られたため、警戒のためにそちらへ赴いているのだという。

 もちろんファルマの領土に足を踏み入れればそれを理由に攻めてくるかもしれないので、アズラニカが出向けるのはナクロヴィア側から一番近い村だ。


 その村というのが例の人狼がいる森に面した村だった。


「ということはアズラニカはレプラコーンの村へ向かったの?」

「はい、森に分け入って少し様子を見るって言ってました」

「つ、強いからとはいえ、よく前線に出る王様ね……」


 留守番をしていたクレイスが説明しながら眉をハの字にして頷く。


 まだ満月の日ではないし、結界もあるから大丈夫だとは思うけれど……ファルマの軍は満月の日に突入するために準備を進めている可能性はあるわよね。

 それに結界もゲームの時のように破壊は可能だ。

 勇者がいなくても国が犠牲を厭わずに総力を上げて挑めばなんとかなるだろう。


「ただ……満月の日に森を突破できる話を父が知っていたのが不思議ね。吟遊詩人はお金さえ払えば聞かせくれたでしょうけど、父はあの手の商売が嫌いだったから」

「音楽が嫌いだったんですか?」

「うーん、というよりも物語を聞くなら余計な音楽はいらないってタイプかしら。けど人づてに耳にして吟遊詩人が出どころだと知らなかった、って可能性もあるわ」


 兄のゼナキスが主導して怪しい動きをしているのかもしれないと思ったけれど、軍を動かすのは国王にしかできないから、あいだに父の判断が挟まったのは確実よ。

 もしかして父もゼナキスの企みに加担しているのかしら?


(けどゼナキスの目的は『自分が実権を握って強い国にすること』よね。父はまだまだ息子に譲位する気は無さそうだったけど……ゼナキスは父を騙してる?)


 兄の行動を予想するのって意外と難しいことなのね。

 古代の神を蘇らせようと考えた時点で私からすれば予想外の行動だったし、いくら血が繋がっていても碌に交流してこなかった人間の思考を読むのは大変だわ。


 むしろ、アズラニカのほうが今なにを考えているか想像できるくらいよ。


「……とりあえず警戒するのは必須だし、魔王自ら偵察に行くのも仕方のないことね。みんな、戻ってすぐで疲れてるかもしれないけれど、私たちは私たちで料理作りと舞の調査を進めましょう!」


 はい! とこちらまで元気づけられるはっきりとした声が返ってきた。

 最後にかける封印魔法についてはアズラニカ側で調べてくれていたけれど、それについては彼が戻ってから聞くことになりそうね。


(よし、その時までに私たちは残りふたつの課題を片付けることにしましょう)


 アズラニカの話も気になるけれど、私も彼に吉報を聞かせたいもの。

 そうして、私は懐かしさすら感じるほど見慣れた書庫へと繋がる廊下を歩き始めた。

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