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【本編完結】攫われ姫ゼシカの実記 ~攫われる姫に転生しましたがこの国はもう駄目なのでこのまま嫁いで記録官として生きますね!~  作者: 縁代まと
本編

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第29話 黒い米はいつからここに?

 まず最初に見せてもらったのは精米された米そのもの。


 ちなみにすでに収穫は終わっており、今は苗を屋内で育てているところだという。

 トンタクルの米は一年に二度収穫できるそうで、その特徴も探している古代米と同じだった。期待を高めながら袋から皿の上へと出された米を見る。


 真っ黒な米だ。

 小さく細長い黒豆に空目してしまいそうなほどで、皿が白いせいか余計に黒々として見える。


「古代米の可能性は高そうね……でも近似種でさえリスキーなんだからしっかりと調べないと」

「この後すぐに地下室に向かいますか?」

「一度入ると籠りきりになりそうだから、その前に田んぼを見せてもらいましょう」


 ベレクの問いにそう答え、村長に案内をお願いして田んぼへと向かう。

 トンタクルの田んぼは村の裏手側にあり、その周りにも柵が設置されていた。

 ――害獣対策なのか、こっちは昔から使ってましたって雰囲気の古びた柵だわ。


 そして広い田んぼだった。

 オークは土属性の魔法が得意なので耕すのは比較的楽で、一年に二度も収穫しても土の栄養が枯渇しないのは魔法の応用で上手く調整しているのだと村長が説明する。

 逆に土属性の魔法の使い手が少ない地域だと土が痩せやすいので向いていないそうだ。限られた地域にしか残っていない理由のひとつかもしれないわね。


 田んぼはすでに水が抜かれていたものの、どうやら水路の先に貯水池となっている湖があるようだった。


「湖には水の精霊が住んでおりまして、その精霊と『冬を除いた季節の決まった日に作物を納める』という契約をして水を分けてもらっているんです」


 村長は「ありがたいことです」と続ける。

 精霊は数が少なく、ファルマでも話に聞いたことがある程度だった。

 ゲームでは主人公の持つ魔石に宿って攻撃やサポートをしていたけれど、現実では相当稀少な存在ね。


 長くこの土地にいるなら精霊の話を聞くのもいいかも。

 そう思ったものの、村長に訊ねると彼は首を横に振った。


「大抵は作物を納める日にしか出てこないのです。それでもたまに村の子供たちと遊ぶことはありますが、今は――」

「今は?」

「……い、いえ、なんでもありません。苗もご覧になりますか?」


 村長はグッとなにかを我慢したような顔をしてそう言うと、田んぼの脇にある小屋を示す。あの中で苗を育てているらしい。


 う、うーん、完全に訳アリっぽいんだけど、私たちには知られたくないのかしら。

 ただ、下手に問うと身分差的に言うのを強制することになりかねないわ。

 もう少しだけ様子見したほうが良さそうね。


 そう判断し、私は米の苗を見せてもらうことにした。


     ***


 苗の特徴も古代米のものと一致していたものの、まだ小さかったため決定打に欠けていた。

 その後に村長の家の地下にある記録の保管庫へお邪魔し、総出でせっせと調べものをしている。


 保管庫は城の書庫や魔王の物置きほどではなかったものの、一室分程度には広い。

 ただしカビ対策がしっかりとされていて読む分には楽だ。

 そんな理由から私にとっては苦ではなかったけれど、慣れていないベレクやメルーテア、護衛のみんなにはなかなかの苦行のようだった。


「うう、この年代の記録、癖字で読みにくい……」

「メルーテア、多分同じ人が最初の頃に記録したものがこっちにあるわ。比較的字も綺麗だから解読するのに活かしてちょうだい」

「この人の記録、計算間違いばっかりしてるせいで計算以外の記録の信頼性も低いですね……」

「ベレク、大丈夫よ。さっきいくつか照らし合わせてみたけど、他の情報でミスしている部分はなかったから。その人が苦手なのは数字だけね」


 ちょくちょくサポートしながら古代米の情報を過去へ過去へと辿っていく。


 会議で娯楽の本ばかりを扱っているからと自信なさげだったリツェは『文字を目で追うこと』に慣れているおかげか、特に引っ掛かることなく確認を続けていた。

 時折有用な情報を見つけては私に共有してくれるので捗っている。

 帰ってもこのまま記録官補佐として欲しいくらいだったけど、さすがに図書室の管理人と掛け持ちはリツェが過労死しそうなので我慢しておこう。


 そう考えていると、顔を上げたリツェが私と目が合ったのかびくりとした。


「な、なんでしょう?」

「良い手腕だなぁと思ったの。ありがとう、助かってるわ」

「滅相もない! ここにあるのが古代語の石板とかだったらお手上げでしたよ」


 私も古代米の記録を遡るなら魔王の物置きの時と同じことをするはめになるかも、と覚悟していたものの、べつに当時の記録そのものを掘り当てなくてもいいのよね。

 種族によるものの魔族は長生きだから、いつからあの黒い米を村で扱っているか知っている人が書いたものが見つかればそれでいい。


 それに魔王の物置きの資料は長く保存するために石板を選んでいた節があるので、年代によってはすでに紙が主流だった可能性もあるわ。

 ――だから紙媒体しかない保管庫を見た時も、まだ探す価値があると思ったの。


「ふふ、そうね。でも今後必要になることもあるかもしれないから……リツェ、帰ったら古代語も学んでみる? 法則さえ理解すれば意外と簡単よ」

「お、お休みの日で良ければ……」


 あら、冗談のつもりだったのだけれど意外と前向きね!

 これは記録官補佐も夢じゃないのかも、と思っているとメルーテアが「ゼシカ様、これを」と糸で綴じられた冊子を差し出した。


「帳簿の間に村長の手帳が挟まっていました。かなり昔のものみたいです」

「……! それは有力な手掛かりね!」


 ただプライベートなものだし、うっかり挟まっただけなら今の村長に許可を取っておいたほうが良いかも。

 そう考えて訊ねると村長の答えはOKだった。

 さあ、ではいざ開いてみよう、と表紙に手をかけると――ベレクとサヤツミを除く全員に妙な緊張感が走る。


 ……ああ、そうか!


 最近慣れてきて失念してたけど、魔族にとって歴史書は学生時代の黒歴史ノートのような感覚なのよね。手帳ともなれば更にそう感じるのかも。

 当人が亡くなった後に黒歴史ノートを見られようとしている様子を止めるに止められないまま眺めている第三者――みたいな心境なのかもしれない。


 でもごめんなさい。

 手がかりがあるかもしれないなら、そして許可を得た上なら、私は遠慮なく開かせてもらうわ!


 勢いよく表紙を捲るとリツェは僅かに首を竦め、メルーテアは目を逸らした。

 手帳は今の村長から五代遡った人のもので、初めは当たり障りないことしか綴られていない。お買い物メモなんかもある。

 途中から愚痴っぽい日記も混ざり始め、趣味なのかポエムがちらほら見え始めた。

 ああこれはちょっとリツェたちの気持ちがわかったかも、と思っていると、ある日記の一文に目が留まる。


『久しぶりに街で他の米を食べてみたが、パサついたものも妙に柔らかいものもやっぱり口に合わなかった。みんなどういう舌をしてるんだ。その点うちの米はうまい』


 ――村の米に関する話だ。

 日記はまだ続いている。


『そういえば、うちの米はひいひいひいじいさんが保護したものらしい。オーク以外の種族が新しい米に夢中になり始めた頃、率先して昔ながらの米を守る活動を起したそうだ。感謝感謝だな』


 手帳の持ち主はわかっている。

 その人の家系図や記録を辿れば年代が特定できるかもしれない。


「みんな、次は……、っ!?」


 次はそれを探そうと指示しかけた瞬間、地下室の外から大きな音がした。

 音以外の振動もびりびりと伝わってくる。

 何事かと固まっているとサヤツミが音のする方角を見上げながら「野暮だなぁ」と口先を尖らせた。


 そして言う。

 なにか変なものが村を襲ってるよ、と。

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