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【本編完結】攫われ姫ゼシカの実記 ~攫われる姫に転生しましたがこの国はもう駄目なのでこのまま嫁いで記録官として生きますね!~  作者: 縁代まと
本編

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第27話 黒い米の手がかりを求めて

 バスクオール地方は城のある王都より南に向かった場所にあり、主要となるふたつの街の周りに小中規模の村や集落が点在している。

 その他は沼地や森が広がっており、数少ない畑も土の下に固い粘土層が潜んでいる場所ばかりで農作に不向きな土地のようだった。


 そのためふたつの大きな街は農作ではなく行商人や旅人に対する商売に重きを置いた発展を遂げており、王都に向かう際に利用する拠点のひとつとなっている。

 観光地っぽい場所はないけれど強かなものね。


「それにしても……こんな土地でお米が作れるのかしら?」


 古代米は原種に近くて強い可能性はある。

 けれどお米作りに向いている土地には思えなかった。


 ただ、そんなイメージだけで調査を打ち切る気はまったくない。

 私は乗ってきたドラゴンを預けに行っていたリツェが戻ったのを確認し、まずはふたつの街のアルーテルとケルテルで売っている米をチェックすることにした。


 米は袋に入れて量り売りされていた……のだけれど、日本のように脱穀されておらず、すべて殻に包まれたままだった。

 まあ異世界でそこまで求めるのもおかしいのだけれどウッカリしてたわ……!

 でも目視は難しくても扱っている店の人なら把握済みのはず。

 米のプロである店主にひとりひとり話を聞き、黒い米はないかと訊ねていく。


 ――が、やっぱりそんなに甘くはなかった。


「黒い米? 傷んだやつかい?」

「いえ、初めから黒い色をしたお米なんです」

「変わってるなぁ。見たことないよ」


 代わりに他の米屋の位置を訊いて足を運んだものの、どの店でも黒い米は扱っていない。


 そろそろ足が疲れてきたところでケルテルで最後の米屋が見えてきた。

 もう何度目になるかわからない質問をした後、店主のおじさんも今までと同じような反応を返す。

 しかし奥から店番の交代に現れたおばさんには心当たりがあるようだった。


「あんた、ほら、少し前に話したろ? オークの子供が米の買い取りをしてほしいってウチに来たって」

「そうだっけ?」

「聞き流してたね……」


 おじさんの返答に半眼になったおばさんはこちらに向き直る。


「そのオークの子供が持ってきたのが黒い米だったんだよ。ウチの商品にそんな米は無いから帰ってもらったんだが、もしかしてそれを探してるのかい?」

「……! さ、探しているお米の可能性があります」


 ただの傷んだ米だった可能性もあるものの、これは有力な手掛かりだ。

 オークの子供がどこの誰だったのか訊ねたが、買い取り不可だと知るとその子供はそそくさと帰っていったらしく、名前すら知らないという。


 けど、とおばさんは言葉を継いだ。


「ケルテルから一番近いオークの村なら教えられるよ。ちょっと待ってな、地図を描いてやろう」

「おい、店番の交代――」

「少しくらい待ちな!」


 どうやらおじさんは尻に敷かれているらしい。

 程なくしておばさんは意外と高い画力を駆使して描かれた地図を手渡してくれた。

 直線で表現されたシンプルなものを想像していたので驚いたわ、情報を纏める際の挿絵を手伝ってほしいくらいね……!


 お礼というにはおかしいけど、私たちはその店で何種類かの米を購入してから一旦宿屋へと戻った。

 宿屋は事前にアズラニカが使いを送って確保してくれていたものよ。

 おかげで普通の人は早々乗らないドラゴンに混乱が起こることもなく裏で休ませることができている。


 まあなにも知らない住民は驚いていたけれど、街道が立派だからオールドミネルバの時みたいに人の立ち入らない野山で自由にさせる形で待機ってわけにもいかなかったのよね。丸見えだもの。


 今も裏で寝てるのかしら、と思っているとリツェが感心した様子で言った。


「しかしゼシカ様、凄いですね。街の者とあんな自然に話せるなんて……」

「身分隠せてた?」

「隠せてました隠せてました」


 ドラゴンの件はさておき、無駄な混乱を起こすのはなるべく控えたかったので聞き込みの際は身分を伏せておいた。

 ここは王都から遠いから魔王が人間の姫と結婚したって話はまだ軽くしか伝わっていない。それも行商人の口から伝わったものなので大分ふんわりとしていた。

 だからそんなに必死になって隠さなくても良かったのだけれど、念には念を入れておかないとね。


 ……ただ、いくら私が身分を隠せていてもリツェたちは育ちが良さそうだし、サヤツミはなぜかどんな服を着ても似合ってキラキラしてるし、否応なく護衛は付いているし、それなりのお金持ちか貴族には見えたかも。

 不可抗力とはいえ、もう少し準備期間があったら演技指導をしても良かったかもしれない。


 そんなことを考えつつテーブルの上に地図を広げる。


 ここは宿屋の中でも一番の大部屋で、その中央にテーブルを置いてもらい臨時の会議室にしていた。

 宿屋を貸し切りにしたからこその贅沢且つ自由な使い方だ。


「オークの村はこの森の中にあるみたいね。ここからだと片道が……」

「一時間半ってところかな。俺だけなら十分くらいで着くけど、ゼシカがいなきゃ意味がない」

「でも近いほうね。明日にでも行ってみようと思うけどいい?」


 私の問いに全員が頷く。

 ケルテルの米屋はすべて回り、アルーテルの米屋はまだ行っていない場所があるものの、有力な情報は早く確認したほうがいい。みんなもそう思ってくれたようだ。

 そうして持っていく物の相談などをしていると、宿屋のキッチンを借りていたベレクが夕食を運んできた。今日買った米をふんだんに使った料理だ。


 一旦休憩タイムに入り、みんなで米料理に舌鼓を打つ。


 パエリアに似た料理は海鮮の代わりにナッツ等が使われており、少し物珍しい味わいだったけれど美味しかった。

 これはファルマでも味わったことがなかったので異国料理感が強い。

 そんな料理に使われた艶やかな米を見つめながら思う。


 先ほど確認した通り、オークの村があるのは森の中。

 ……森の中で米は育つものなのかしら?

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