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【本編完結】攫われ姫ゼシカの実記 ~攫われる姫に転生しましたがこの国はもう駄目なのでこのまま嫁いで記録官として生きますね!~  作者: 縁代まと
本編

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第25話 旧産地調査のメンバー選抜

 食べ物は日々品種改良されている。

 それはこの世界でも同じようで、古代の神が好んでいた米――今では『古代米』と呼ばれている米は現代ではすでに栽培されていないものだった。


 その事実が判明し、急遽開かれた作戦会議には身分に関係なく様々な人が集められていた。

 食べ物の話なら似たり寄ったりな面々だけでなく、食生活の異なる面々の話も聞いたほうがいいと私から進言した結果だ。


 それでも重鎮が揃い踏みなせいか会議室は物々しい雰囲気になっている。

 そんな室内に図書室の管理人、リツェの震え声が響いた。


「へ、陛下、質問をしても宜しいでしょうか」

「もちろん良い。それと会議中は畏まらず自由に発言するように」

「は、はい! その、これは似た米じゃ駄目なんでしょうか?」


 リツェの質問にアズラニカはこくりと頷く。


「ゼシカの調べでは当時も近似種がいくつか栽培されていたようだ。しかし敢えて名指しだったところを見るに、似た味でも他のものは受け付けなかったのだろう」

「しかも当時から他の近似種のほうが一般的だったのよね」


 その時代の資料を書庫から探して調べに調べた結果だ。


 もちろん古代の神を再度封じた際の様子が書いてあるわけではないから、もしかすると近似種でも妥協してもらえるかもしれないけれど――そう何度も封印できるチャンスが巡って来るとは思えない。

 なら限られた時間、限られたチャンスの中で成功させられるよう、早くに妥協して不確定な方法を選ぶべきじゃないわ。


「ただ、もし古代米が見つからなかったら近似種を探す方向にシフトしましょう。当時ポピュラーだったなら、近似種はまだどこかで現存してる可能性が高いと思うの」

「ゼシカ様、古代米の特徴はわかりますか?」


 コック長、ベレクが質問する。

 古代米は前に私がカレーライスで使用した米より一回り小さなもので、少し水分の少ないタイプらしい。見た目は異なるけれど食感はファルマの米のほうが似てそう。


 あと、古代米には一番目立つ特徴がある。


「その米は黒い色をしてるらしいの」

「く、黒?」


 前世の世界でも古代米と呼ばれていた米は黒かったけれど、こちらの世界では一般的ではないのかベレクが目を瞬かせていた。

 彼に限らず年かさのいった魔族の面々も似たような表情をしているので、わりと長いあいだ黒い米は出回っていなかったようだ。


「ファルマにもそういうお米はありませんでしたね……」

「やっぱり? 城でも食卓に上がることはなかったんだけれど、貴族間で使われないからってわけじゃないみたいね。クレイスも黒い米は見かけたことはない?」

「はひっ! な、ないですね、虫や病気にやられて黒くなったやつはありましたけど、そういうんじゃないでしょうし」


 未だに不意打ちだとビクビクしているものの、クレイスも素直に答えてくれた。

 交易品の記録を見るにファルマ以外の近隣国にも無さそうだし、これは八方塞がりね……でも情報を得たなら一度はやっておくべきことが残っているわ。


「アズラニカ、当時この古代米の産地があった場所に行きたいのだけれど……また出掛けてもいい?」

「もちろんだ。ならば私も――」

「アズラニカ陛下」


 補佐官のひとり、メイグが眉をハの字にしてアズラニカを見る。


 どうやら魔王の物置きに行ってすぐに再び城を空けるのは問題があるらしい。

 それでもアズラニカは私に同行したいのか「予測を立てて指示書を置いていく」と言いながら早速指示書を作ろうとしていた。


 その気持ちは嬉しいけれど、私は記録官としての仕事を全うしたいと考えている。

 そしてアズラニカにも王としての仕事を全うしてほしい。


「……アズラニカ、王なら王の仕事を後回しにし続けてはいけないわ。それは民を後回しにすることに繋がるもの」

「ゼシカ……」

「その性格に助けられた私が言うのはおかしいかもしれないけれど、国を蔑ろにする王はもう見たくないの。今回はここで帰りを待って、そして出迎えてくれない?」


 正確に言うなら――理由は違えど、私の父たちのような振る舞いをアズラニカがするのは見たくない。

 けれど私を大切にしてくれる気持ちはとてもとても嬉しい。

 そのふたつの感情を視線を込め、真っ直ぐに見つめるとアズラニカはしばらく黙り込んでからゆっくりと頷いた。


「たしかにゼシカの言う通りだ。視野が狭まっていたな、すまぬ」

「私こそ心配ばかりかけてごめんなさい」

「いや、古代米の調査に適した知識を持っているのはゼシカに違いない。それは記録官として立派に成長しているという証拠でもある。心配はするが、しかし……誇らしい気持ちものほうが上回るのだ」


 アズラニカは咳払いをすると私の手を握る。


「調査に必要なものがあれば遠慮なく言え。すぐに手配する」

「ええ、お願いするわ」

「あと現地の宿は早々に押さえよう、可能なら首や腰を傷めぬ寝具を持ち込もうか。調査の際に目が疲れることを想定し、よく効く目薬を注文して、あとは――」

「本当に心配な気持ちより上回ってる!?」


 この一瞬で逆転した気がするわ!

 アズラニカはいても立ってもいられない様子を見せた後、素早くサヤツミを見た。


「ゼシカに同行するのなら、調査中の安全確保を頼みたい」

「あっはは! 頼まれなくても大丈夫さ、けどここは承ったと頷いておこう」


 魔神が同行するなら安心よね。

 サヤツミは破天荒だから他の不安があるけれど、何度か出掛けたことで行動の予想はつくようになったからパニックになることはないはずよ。

 ……多分。


 アズラニカは会議室を見回して口を開く。


「旧産地調査にはゼシカと魔神の他、ベレク、リツェを同行させる。今回は侍女も同行し、護衛は後ほど選抜するように」


 その指示にぎょっとしたのはベレクとリツェのふたりだった。


 コック長と図書室の管理人だ。

 城からは早々出ることのない面子である。

 今回は規制のある土地ではないので侍女のメルーテアが同行するのは理解できるものの、なぜ自分たちが、という顔をしていた。額に考えていることが書いてあるレベルだ。


「食物に関することだ、コック長を付けて損はない。そして日数を要した場合でもゼシカの栄養管理ができるだろう。疲れの取れる目に優しいものを用意してくれ」

「そ、その心得はありますが……いえ、わかりました。お任せください」


 自分の能力を信じて託されたのだと理解したベレクは姿勢を正すと頷いた。


 一方リツェは可哀想なくらいオドオドとしている。

 アズラニカに視線を向けられただけで肩が跳ねていた。こういうところは怯えるクレイスに似ているかもしれない。


「先日の調査で私も『なにかを調べること』の大変さを知った。ならば情報の取り扱いに慣れた者を補佐に付けたほうがよい。ゼシカのサポートを頼む」

「いいいいえ、しかし陛下、自分は娯楽に関する本ばかりを扱ってまして、お役に立てる気がしないのですが」


 初めて私が書庫を訪れた日もリツェがサポートを頼まれていたのを思い出す。

 しかし今回はあまりにも大役すぎると考えたのか、緊張で顔面の血の気は引き、三白眼は潤んでいた。青系の髪も相俟って余計に顔色が悪く見える。


 アズラニカはそんなリツェから目を離さなかった。


「娯楽に関する本とはいえ、管理技術は必要だ。お前が何十年も図書室を守ってきたことを私は知っている。その技術と知識にもっと自信を持て、リツェッカ・アールバニシー・サワロフ・リ・アルベンターニュ」

「……!」


 リツェは目をぱちくりさせ、ほんの一瞬黙る。

 しかし先ほどまで感じ続けていたであろう困惑や気まずさによる沈黙ではない。


「……わ、わかり、ました。精一杯サポートさせて頂きます!」

「ありがとう、ベレク、リツェ。調査では宜しくね」


 なんとしてでも古代米についての情報を得て、この状況を打開しましょう。

 そう声をかけると、ふたりはさっきまで遠慮していたとは思えないほどしっかりと頷いてくれた。

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