第23話 木簡石板石板石板!
辿り着いた『魔王の物置き』は横穴の更に奥にあるそうで、暗い穴の中を三人で進むことになった。
ただし暗いと言ってもサヤツミの手の平でごうごうと燃える金色の炎が光源になってくれているし、地面や壁も平らにされていて歩きやすい。
酸素は少し薄く感じるものの、雪を含んだ風が吹きつけてきた時よりはマシだ。
だから転ぶ心配はないのにアズラニカは「念のためだ」と私の手を握っていた。
(心配性に拍車がかかってる気がするけど、丈夫な魔族だからこそ加減がわからないのかもしれないわね)
これから「ゼシカなら大丈夫だ」って自然と思ってもらえるくらい強いところを見せないといけないわね。
……でないとそのうちお城でも手を繋いで歩くことになりそうだわ。
なんとなく気恥しくて視線を彷徨わせていると、壁に様々な絵が描かれていることに気がついた。
「わあ、生の壁画なんて初めて見た。これは……炎の鳥?」
「うん? あぁ、さっき話してた不死鳥だ」
「オールドミネルバを根城にしてたっていう?」
不死鳥というだけあって、それだけ昔からここにいるってことなのかしら。
そう思っているとサヤツミがにやりと笑った。
「不死鳥は魔王の物置きのガーディアンだったのさ。とはいえ守れても修繕できるわけじゃないから、目眩ましが壊れた状態で休眠に入るのは不安だったろうね」
「なら目覚めた時に綺麗に直ってたら喜ぶかもしれないわね! ねぇ、アズ――」
「古代の神の件が片付き次第すぐに取り掛かろう」
「――早い!」
元々人避けと隠れ蓑の魔法を修繕予定だったとはいえ、食い気味の即答を披露したアズラニカは咳払いをすると「長く守ってきたというのに存在を忘れていたことも詫びねばなるまい」と言う。
まさか最優先事項の次に持ってくるとは思わなかったけれど、不死鳥がいつ目覚めるかわからないし、早めにやっておくに越したことはないわよね。
その時アズラニカがちらりとこちらを見た。
「しかし、あの魔法は軽い知識はあるが実際に使ったことはないものだ。しかもここに採用されているのは随分と古い型らしい」
「型とかあるのね……?」
「うむ。だが下手に新しいものにしては不具合が出る可能性もある。……そこで、ゼシカ。修繕する際はこの魔法に関する文献を探してもらってもいいだろうか?」
これは記録官としての仕事依頼だ。
そう感じ取り、他でもない彼から頼られていることが嬉しくて今度は私が食い気味に「もちろん!」と答える番になった。
アズラニカがしっかりと予習をできるように頑張るわ。
そこでサヤツミが「目的地に着いたよ」と足を止める。
目の前に現れたのは分厚い鉄の扉だ。
中央には円状の模様が彫り込まれており、それはもう見事な装飾だった。クラシックな雰囲気の魔法陣に見える。
それなのに円の中央はつるりとしていて、なんの飾り気もない。
不思議な気持ちでそれを見ているとサヤツミがアズラニカの背中をぽんと叩いた。
「中央に手をつけて魔力を流すんだ。魔王にしかできないことだよ、鍵代わりだね」
「……開けるのを見たことが?」
「いや、そういう魔法が組み込まれてるのがわかる」
言ってることは魔神らしいけど、表情は早く早くと急かす子供みたいだ。
アズラニカは頷くと円の中央に手の平を押し当てた。
――直後、薄闇の中でもわかる黒いオーラが腕を包み込み、そのまま円の中へスルスルと吸い込まれていく。
鍵代わりどころか魔王の手が物理的に鍵になったかのようだわ。
数秒経ったところで鉄の扉が重い音をさせながら勝手に開き始めた。
いよいよ魔王の物置き内部へ踏み込む時が来たわね!
***
心配していたものの内部の状態は良く、こんな場所に作っただけあって気温室温の管理がしっかりとしていた。
これも魔法によるものなので、サヤツミ曰く「あと数年遅かったらこっちも期限切れで酷いことになってたかもしれないなぁ」とのことだった。
きっかけがなんであれ、今回訪れることができて本当に良かった。
そう思いながら棚を見ていく。
「これは……も、木簡?」
「紙の質が安定する前に使われていたものだ。これは他国からの連絡のようだな」
アズラニカが木簡の納められた棚を指す。
棚には古い年が刻まれていた。城の書庫と同じく手前に行くほど新しいらしい。
そこでサヤツミが壁に取り付けられている魔法式松明を発見し、そのすべてに一気に点火した。明るくなった室内に思わず目を細めたものの――膨大な棚の量に細めた目をすぐ見開くことになる。
「す、すごい量! 城の書庫より多いわ! あ、でも……」
木簡の奥には石板が見えた。
本当より嵩張り、しかし情報量が少ない代物だ。
見た目ほど沢山の情報が眠っているわけではないのかもしれない。
それでも何事かと思うほどの量だけれど!
「石板なんて古いものを実際に使ってたのは奥の奥にある年代くらいだろうけどね。これは万一魔法が切れても長く保管できるようにわざわざ刻んだんだよ、きっと」
「多分そうでしょうね、でないと違和感あるし……よし! 力仕事になりそうだけど、古代の神について調べていきましょう!」
サヤツミの言葉に頷きつつ、膨大な量の石板と木簡を前に拳を握り締める。
驚きはしたけど予想の範疇内よ。
これくらいのことで怖気づいたりはしないわ!
――この後、奥にも更に部屋があって二倍ほどの量の石板を発見することになり、その時ばかりは腰を抜かしたのには目を瞑ってほしいところだけれど。
兎にも角にも、こうして私たちの情報発掘作業が始まったのだった。




