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【本編完結】攫われ姫ゼシカの実記 ~攫われる姫に転生しましたがこの国はもう駄目なのでこのまま嫁いで記録官として生きますね!~  作者: 縁代まと
本編

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第12話 ルプラリンゴのカレー 【★】

 アズラニカは忙しいと食事を自室で取る。

 けれど今日は専用の食堂で食べるらしい。……ということは、やっぱりもう忙しくないけど私に会わないようにしていたってことよね。


 そんな由々しき事態の希望の光になるかもしれないルプラリンゴのカレー。

 出来栄えは上々、味や辛さや色合いもレシピを守ったから高水準で再現できているはずよ。

 ただレシピの紙に写真なんてものはなく、絵も見当たらなかったので盛り付け諸々は少し心配かもしれない。ああいった見た目も料理の大事な一部だから。


 ……レシピに限らず他の記録にも絵は一切添えられてなかったから、先代記録官のオトには絵心がなかった可能性が出てきたわね。


 私が纏める時はある程度組み込んでみましょう。

 学校のノートを取る時も絵が付いていたほうが理解しやすかったし。


(さあ、それはさておき――まずはアズラニカがこれを一口でも食べてくれるかが問題ね。好みが変わっていないことを祈るわ……!)


 そこへ食堂にアズラニカが入ってくる。


 物陰からその様子を窺い、カレーに対する反応を見てから自分が作ったと名乗り出る、そんな段取りも考えはしたけれど――ここは真っ向勝負!

 あっちから来ないならこっちから行く作戦も同時進行!

 食堂に入ってきたアズラニカに直接伝えることにしたわ!


「アズラニカ、お仕事お疲れさま!」

「……!? ゼ、ゼシカ!? なぜここに」

「今日の夕食は私が作ったんです」


 私の言葉にアズラニカは目をぱちくりと瞬かせた。

 あまりにも予想外だったのか、戸惑っている間に手を引いてイスに座らせるのも容易だった。私は彼の気が変わる前にさっさとカレーを運んできてもらう。


 ――本当は配膳も自分でやりたかったのだけれど、メルーテアに「それはさすがに仕事を奪いすぎになってしまいます」と止められたため諦めた。

 調理はベレクの許可が出たけれど、魔王に食事を運ぶというのも名誉ある大きな仕事のひとつであることに変わりはないようだ。


 無事にテーブルの上に置かれたカレーにアズラニカはもう一度瞬き、そしてこちらを見上げる。


「これはもしや……ルプラリンゴのカレー、か?」

「はい、じつは書庫でレシピを見つけまして」

「書庫で……」


 もしかしたら食べてもらえないかも。

 覚悟はしてきたけれど、ついに結果が出る時がきた。


 万一駄目だったとしてもメルーテアやベレクに言った通り、これで諦めたりはしない。けれど平静を装いつつも心臓は早鐘のように鳴っていた。

 アズラニカはカレーと私の顔を交互に見ると「あそこはなんでもあるのだな」と小さく呟いた。そしてスプーンを手に取る。


「では冷める前に頂こう。ゼシカは、……」


 そう一瞬迷った後、


「……ゼシカも座ってくれ。夕食は?」


 そう問い掛けた。

 もしかして退室させるか迷ったのかしら。

 ……どんな理由でも同席できるならそれに越したことはないわ。


「まだですが、味見でそれなりに食べました!」

「一体どれだけ食べたんだ……!?」

「あはは、かなり試行錯誤したので……」


 メルーテアやベレクにも食べてもらったけれど、味見というより試食という域に達していたと思う。でもそのぶん自信作が出来たから結果オーライよ。

 そして、正式な完成品を最初に食べるのはアズラニカ。

 これは譲れないわ。


 期待と自信を混ぜた視線を送っていると、アズラニカは「あとで小腹が空いたら言うといい」と笑い、そしてスプーンですくったカレーを口に含んだ。


 さあ、感想は。


 そう前のめりになりつつ様子を見守る。

 どんな言葉でも今ならすべて受け止めてみせるわ。ドンと来いよ。

 ……た、多少き手加減してくれるとありがたいけれど。


 ――が。


「……ア、アズラニカ?」


 もぐもぐと咀嚼していたアズラニカはそのまま二口目を口に運び、それもまだ噛んでいる真っ最中なのに三口目を突っ込んだ。

 途中で飲み込んではいるものの、それも追いついていなくてハムスターみたいに頬が真ん丸になっている。


 ちょっと可愛――いやいや、そんな遊び回ってお腹を極限まで空かせた子供みたいな食べ方をされるのは予想外なのだけれど!?


「アズラニカ、お水も挟みましょう! ね! 大食い選手みたいになってますよ!」

「……」

「というか手元が見えないほど早いんですが!? もしかして魔王の食べ方ってこれがデフォルトなんです!? そういう作法!?」

「……うむ、大変美味だった。ごちそうさま」

「もう!?」


 皿ごと丸呑みしないかと心配になる勢いだった。

 も、もしかして口に合わなかったけれど私に気を遣って完食を目指した……とか?

 そう不安になったものの、紙ナプキンで口元を拭うアズラニカの表情を見ると非常に満足げに見えた。この表情が嘘とは思えない。


 ようやく水を口にしたアズラニカは私の顔を見る。


「本当に美味しかった。手が止まらなかったほどだ」

「あ、ありがとう。止まらないどころか見えなくなってましたね」

「しかしなぜ突然ルプラリンゴのカレーを作ってくれたのだ? その、料理には明るくないが作る手間がとてもかかるものだろう」


 純粋に疑問に思っているらしい。

 私はどこまで話すか少しの間言い淀み、そして言葉を整理してから口を開いた。


「ここしばらく会えない日が続いていましたよね?」

「……ああ」

「そんな時、あなたが私を避けているような話を聞きまして」

「っ!? 一体誰にだ!?」

「いえ、廊下で喋っているアズラニカ本人から」


 アズラニカはしばらく記憶を探った後、心当たりがあったのか衝撃を受けた顔をしてイスから立ち上がる。


「聞いていたのか! いや、あれには理由があるのだ」

「理由があっても嫌われている可能性があると思ったら、その、居ても立ってもいられず……でも直接問い詰めるのもおかしいので、せめて今の自分が出来ることからしてみようと思いまして」

「――つまりあのカレーはゼシカが私に好かれるために作ったもの、ということか」


 そういうことになるわよね。

 私が頷くとアズラニカは頭を抱えた。


「美味いからと即完食せず、三日ほどかけて食べればよかった……!」

「な、鍋にはまだあると思いますが」

「よし、三日ほどかけて食べる」

「お腹壊しそうなのでせめて明日までにしてください……!」


 こくこくと頷いていたアズラニカはハッと我に返ると咳払いし、イスに座った私の隣まで歩いてきた。そしてこちらの片手を握って言う。

 避けていた理由を言う前に伝えておくべきことがある、と前置きをして。


「ルプラリンゴのカレー。あのレシピは母が考案したものだ。……そんな母は、流れる血の半分が人間だった」








挿絵(By みてみん)

アズラニカ(イラスト:縁代まと)


※イラストがリンクのみの場合は左上の「表示調整」から挿絵を表示するにチェックを入れると見えるようになります(みてみんメンテ時を除く)

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