02.子供は案外、親に似る
「いやはや、最近の調子はどうですかな?
あまりいい噂はお聞きしませんがねェ、イオス伯?」
「まぁまぁ、ご心配には及びませんよ。ガーネット伯こそ、近頃あまり景気が宜しくないらしいですが?」
食卓を挟みながら、大人たちのどす黒い煽り合いが飛ぶ。
せっかくの好物の肉料理というのに、これでは味わうところではない。
兄によれば、この2人は犬猿の仲らしい。
なんでも騎士団長になる時に揉めたとかで、今でも何かにつけて突っかかってくるのだそう。
その因縁は子の代にまで続き、長子であるルベラ・ガーネットも兄のことを何かと敵視しているのだとか。
なんだかめんどくさいが、関わらないのが吉だろう。
ぱっぱと食事を終わらせて、早めに退散するとしよう…
「ところで…、お卓の次男坊、アルマ・イオスくんだったか?
確か…今年で6歳になりますよねェ?
丁度、“才覚の儀”の歳だ。一体、どんな《スキル》が目覚めましたのかなァ?まさか、“能無し”なんてことは…」
「ふん…ご心配せずとも、しっかり《スキル》が目覚めましたよ。しっかりとね?」
「いやはや!これは失礼…して、一体なんて《スキル》で?」
「…『欲迷宮』。」
「ブフゥッ…!!」
「「??」」
「し、失礼しました…」
大人の真面目なトーンからの『欲迷宮』発言に、思わず飲もうとしていた水を吹き出してしまう。
幸い、2人とも意味はわかっていないようなのだが、これでは…あまりに羞恥プレイすぎる…!
「ふむ、初めて聞く《スキル》だが…評価は?」
「…“E”だ。」
「何、“E”??
はっ!最低評価か!
道理で、聞いた事ないわけだ。
“E”に分類されるのは“日常生活に難あり”とされるもの、もしくは“正体不明”のいずれか。
その『欲迷宮』とかゆうのも、おおかた“正体不明”と評されたんじゃないのか?」
「…」
「どうやら図星みたいだなァ?
ハッハッハ!!あの“蒼炎のデルーラ”と呼ばれた男の息子が、まさか“呪い”持ちとは!
どうやら才能の方は遺伝しなかったみたいだなァ!!」
高笑いするガーネット伯爵に対して、父が少し苦そうに目を逸らす。
この世界の《スキル》は、いくつかの段階によって評価される。
これはその《スキル》がどの程度優秀かを表したものであり、大まかな区分けとしてよく判断の基準となっている。
最高評価は“A”。
世界でもほんのひと握りしかいない、高い有用性と希少性、そして実用性を持つと認められたもののみに付けられる評価。
“A”と判断されるのには厳しい審査基準があり、認定されるのは国内でも年に1、2個程度だという。
兄のミーラ・イオスの『反鏡』も、この区分に当てはまる。
それに次いで“B”。
“A”には劣るものの、それに準ずる実用性と希少性を認められ、軍事的利用価値があると判断されたものに対する評価。
その実用性から《スキル》保有者は兵器や戦艦などと同等に扱われ、国内でもかなりの高待遇を受けることが出来る。
父デルーラ・イオスの『蒼獄炎』も、この区分となっている。
その下が“C”。
“軍事的利用価値こそないものの、多少の実用性を認められる”もしくは、“局所的だが利用価値がある”と認められる評価。
貴族では、古くから“C”以上を《スキル》持ちと判断する文化があり、貴族の身分でありながら“C”以下の《スキル》だと冷笑されることも。
しかしこれは古い文化なので、最近ではあまり宛にされていないのだとか。
その更に下が“D”。
“生活において役に立つこともないが、かと言って《スキル》があることでマイナスになることもない”という評価。
社会的に1番人口が多い評価区分であり、“能無し”と呼ばれる《スキル》を持っていない人間もここに当て嵌る。
そして、最低評価が“E”。
一般的に“日常生活に支障をきたす物”や、“正体不明”などがこの評価となる。
基本的に障害者や先天性の疾患と同等に扱われ、周囲から差別されることも多い。
古くは“呪い”と呼ばれていたらしく、口減らしとして捨てられていた時代もあったとか。
今はそれほどではないにせよ、あまり良い目で見られることはない。
俺はその“E”評価。
はっきり言って“雑魚”だ。
…これ以上居ても、会話の邪魔になるだけだろうし、何よりとても居心地が悪い。
ここはさっさと食べ終えて、すっと逃げるのが得策…
「…そこまで仰るのなら、試してみてはいかがでしょう?」
「ハッハッハ…はァ?」
高笑いする声に挟むように、兄ミーラ・イオスが口を開く。
「…試す?何を??」
「いえいえ…ただの“余興”ですよ。
確かに弟の《スキル》の評価は“E”。取るに足らない…むしろ、“雑魚”と読んでも差し支えない《スキル》です。
ですが、それはあくまで現評価での話」
ガーネット伯爵の視線に怯むことなく、兄は言葉を繋げる。
「現に私の《スキル》、『反鏡』は当初“E”と評価されていました。
しかし、現在の評価は“A”。
年に1、2人しか選ばれないという最高評価となった訳です」
「…何が言いたい」
「要は、“呪い”と断ずるには少々早計過ぎるかと思いまして。
あの“朱雷のメキド”と名を馳せたお方なら、弟に正しい評価を下せるのではと…」
「…」
テーブルを挟み、バチバチと視線が飛び交う。
その視線に挟まれながら、俺は額から脂汗を滲ませる。
突然、何を言い出しているんだ…!?
なんでそんな挑発するような真似を…!?
張り詰めた空気に、緊張が手足をしびれさせる。
い、胃が痛い…。
「…フン、くだらん…」
「…」
ガーネット伯爵が、吐き捨てるように呟く。
ふう…それもそうだ。
所詮は、子供の戯言。
9歳程度の子供にムキになる方が、よっぽど大人げない。
「なんで私が、ガキの余興なんぞに付き合わねばならん。
そもそも、私とそのガキでは、実力差があり過ぎるだろう」
「えぇ、それは承知の上です。
ですから相手するのはガーネット伯爵様ではなく、そのご子息であらせられるルベラ・ガーネット様ならいかがでしょうか?」
「「「!!?」」」
場にいる視線が、ルベラ・ガーネットの1点に向かう。
端麗な顔立ちは不機嫌そうに歪み、赤色の瞳はじっとミーラ・イオスの元へ向けられている。
「…もしや、僕の事を舐めているのかい?」
「いえいえ、そんなつもりはないですよ?」
向けられる怒りの視線に、兄はにっこりと微笑み返す。
その笑顔には魅力と共に、計算高い知的なオーラを放つ。
「ふぅん…ま、いいや。
その勝負乗ってあげるよ。
いいよね、お父様?」
「…フン。
やるからには、徹底的にやれよ?」
「勿論!
…それじゃ、お手並み拝見と行こうか?」
ルベラが俺を睨む。
その目にはほとばしる闘志と、舐めるなという無言の圧がまじまじと感じられる。
「…へ…?」
何とか捻り出た、か細い悲鳴。
どうやら俺に、拒否権は無いらしい。




